本誌一覧

2016年12月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2016年12月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2016年12月号 目次

トランプ主義のルーツとアジェンダ

  • 民主主義の危機にどう対処するか
    ―― ポピュリズムかファシズムか

    シェリ・バーマン

    雑誌掲載論文

    ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

  • 見捨てられた白人貧困層とポピュリズム

    ジェファーソン・カーウィー

    雑誌掲載論文

    テクノロジーと金融経済の進化は、東海岸や西海岸における都市の経済的・社会的バイタリティーを高めたが、製造業に支えられてきた南部と中西部にはみるべき恩恵はなかった。南部と中西部の経済が衰退して市民生活の空洞化が進んでいるのに、政治的関心がこの問題に向けられなかったために、これらの地域の「成長から取り残された」多くの人々がドラッグで憂さを晴らすようになり、なかには白人ナショナリズムに傾倒する者もいた。トランプはまさにこの空白に切り込み、支持を集めた。トランプは、政治舞台から姿を消すかもしれないが、彼が言うように、「実質的な賃金上昇がなく、怒れる人々のための政党」が出現する可能性はある。民主党か共和党のどちらか(または両方)が、貧しい白人労働者階級が直面する問題に対処する方法を見つけるまで、トランプ現象は続くだろう。

  • トランプ大統領の課題
    ―― 問われる問題への対応能力

    フランシス・フクヤマ

    雑誌掲載論文

    アメリカの政治システムの衰退を覆せるとすれば、現在の均衡を揺るがし、本当の改革を実現できるような環境を作り出す、パワフルな外からのショックが必要だ。トランプの勝利はそうしたショックに違いないが、残念なことに、彼が示す解決策は伝統的なポピュリストの権威主義者のそれでしかない。「私がうまくやるから、カリスマ指導者である私を信じて欲しい」。イタリアの政治を揺るがしたシルビオ・ベルルスコーニのケースからも明らかなように、本当の悲劇は、真の改革の機会が無為に費やされてしまうことだ。

  • トランプ主義のグローバルなルーツ
    ―― ネオリベラリズムからネオナショナリズムへ

    マーク・ブリス

    雑誌掲載論文

    約30年前に欧米ではネオリベラリズム政策が導入され、経済政策の目標はそれまでの完全雇用から物価の安定へと見直された。生産性は上昇したが、収益はすべて資本側へと流れ込むようになった。労働組合は粉砕され、労働者が賃金引き上げを求める力も、それを抑え込む法律と生産のグローバル化によって抑えこまれた。だが、かつて完全雇用をターゲットにしてインフレが起きたように、物価の安定を政策ターゲットに据えたことで、今度はデフレがニューノーマルになってしまった。低金利の融資が提供された結果、危機を経たアメリカの家計債務は12兆2500億ドルにも達した。反インフレの秩序を設計した伝統的な中道左派と右派の政党は政治的に糾弾され、反債権者・親債務者連合が組織された。これを反乱的な左派・右派の政党が取り込んだ。これが現実に起きたことだ。・・・

  • トランプ政権と世界の民主主義
    ―― アメリカの原則とトランプ外交

    ラリー・ダイアモンド

    雑誌掲載論文

    2017年1月20日、ドナルド・トランプが大統領として直面するのは、この数十年でもっとも権威主義が勢いをもち、民主主義が不安定化している世界だ。1970年代半ばに始まり、1990年代にピークを迎えたグローバルな民主化の第3の波も、2005年までには勢いを失っていた。いまやロシアや中国だけでなく、トルコ、フィリピン、さらにはヨーロッパでも権威主義政権が誕生している。だが、トランプが、経済停滞、所得格差、移民などの中核問題に対処する超党派合意の形成に成功すれば、世界はアメリカの民主主義は依然として機能しているとみなすかもしれない。レーガン大統領は、民主主義というアメリカの原則を国際的に擁護し、促進していかなければ、「アメリカを再び偉大な国にはできないこと」を理解していた。トランプがこれを理解しているかどうかが、彼の外交政策を左右することになるだろう。

  • エリートを拒絶した英米の有権者たち
    ―― ブレグジットからトランプの勝利まで

    ダグラス・マレー

    雑誌掲載論文

    キャメロンとクリントンは、これまでの経済政策が多くを犠牲にして一部の人に有利な状況を作りだしていることに対して満足のいく解決策を示せなかった。仮にクリントンが大統領に選ばれていても、大衆の不満が聞き入れられただろうか。そうはならなかったはずだ。大衆の懸念に軽く同意することはあっても、大統領になれば、この問題への対応を試みることは、ほとんど、あるいは全くなかっただろう。「エリートが自分たちの懸念に耳を傾けることはない」と考えられている環境で、緊急ボタンを押すのは正当な行動だし、おそらくは有権者として唯一の責任ある行動だったかもしれない。イギリスの大衆にとってのエリート主義のシンボルは欧州委員会だったが、アメリカの大衆が選挙でターゲットにしたエリートはヒラリー・クリントンだった。

  • 自由貿易は安全保障と平和を強化する
    ―― TPPを捉え直し、実現するには

    ヘザー・ハールバート

    雑誌掲載論文

    アメリカは歴史的に自由貿易と平和を結びつけ、貿易障壁と戦争を結びつけてきた。大恐慌(とその後の長期不況)そしてヨーロッパにおけるファシズムの成功は、1930年代の関税引き上げと保護主義が大きな要因だったと考えられてきたし、冷戦終結後も、貿易は相手国の社会を変貌させ(市場経済と民主主義を定着させるので)国際的平和の基盤を提供すると考えられてきた。しかし、いまや中国を中心とする貿易枠組みが、欧米の貿易枠組みに取って代わっていくとみなされているというのに、アメリカ人は、貿易のことを、国内の雇用保障、民主的な統治、そして世界の労働者の権利、公衆衛生や環境の保全を脅かす脅威と考えている。経済安全保障と国家安全保障が不可分の形で結びついているというコンセンサスを再構築する必要があるし、安全保障面からも貿易を促進する必要があるという議論を、現在の懸念に配慮したものへと刷新する必要がある。

  • リベラルな民主主義の奇妙な勝利そして停滞

    シュロモ・アヴィネリ

    Subscribers Only 公開論文

    なぜ20世紀に民主主義が生き残り、ファシズムも共産主義も淘汰されてしまったのか。1930年代から21世紀初頭にいたるまで、ヨーロッパ全域が民主化すると考えるのは現実離れしていたし、リベラルな民主主義が勝利を収める必然性はどこにもなかった。なぜ、社会に提示できるものをもち、圧倒的な力をもっていたマルクス主義がリベラルな民主主義に敗れ去ったのか。そしていまや、多くの人が(民主主義を支える経済制度である)資本主義が経済利益を広く社会に行き渡らせる永続的な流れをもっているかどうか、疑問に感じ始めている。ヨーロッパとアメリカの昨今の現実をみると、民主的政府は危機に適切に対応できず、大衆の要望を満たす行動がとれなくなっている。現在、世界が直面する危機によって、市場原理主義、急激な民営化、新自由主義では、「近代的でグローバル化した経済秩序をどうすれば持続できるか」という問いの完全な答えにはなり得ないことがすでに明らかになりつつある。・・・

  • The Clash of Ideas ヒトラーのドイツ(1933年)

    ハミルトン・F・アームストロング

    Subscribers Only 公開論文

  • 「機会の平等」なきアメリカ

    レーン・ケンウォーシー

    Subscribers Only 公開論文

    民主・共和両党の大統領候補がともに機会の平等をキャンペーンで重視したのは偶然ではない。機会の平等はアメリカン・スピリットの中核概念だからだ。実際アメリカ社会のこの半世紀における成功とは、性別や人種にかかわらず、誰でも同じ機会を得られるように社会を進化させてきたことだ。だが一方で、新たな不平等が生じている。性別と人種が社会生活の大きな障害になることはなくなったが、家庭環境が機会の平等を左右する障害として再浮上してきている。貧困家庭に生まれた人々は、そうでない人に比べて機会に恵まれない。この数十年でアメリカ人が人生で得る機会に、富裕層か貧困層かで大きなギャップが生じるようになった。このまま放置すれば、アメリカがこれまで実現してきた性別や人種を問わない機会の平等の進展が覆されるだけでなく、深刻な階級間格差が固定化される危険がある。

  • 平等と格差の社会思想史
    ―― 労働運動からドラッカー、そしてシュンペーターへ

    ピエール・ロザンヴァロン

    Subscribers Only 公開論文

    多くの人は貧困関連の社会統計や極端な貧困のケースを前に驚愕し、格差の現状を嘆きつつも、「ダイナミックな経済システムのなかで所得格差が生じるのは避けられない」と考えている。要するに、目に余る格差に対して道義的な反感を示しつつも、格差是正に向けた理論的基盤への確固たるコンセンサスは存在しない。だが、20世紀初頭から中盤にかけては、そうしたコンセンサスがなかったにも関わらず、一連の社会保障政策が導入され、格差は大きく縮小した。これは、政治指導者たちが、共産主義革命に象徴される社会革命運動を警戒したからだった。だが、冷戦が終わり、平和の時代が続くと、市民の国家コミュニティへの帰属意識も薄れ、福祉国家は深刻な危機の時代を迎えた。財政的理由からだけでなく、個人の責任が社会生活を規定する要因として復活し、ドラッカーから再びシュンペーターの時代へと移行するなかで、社会的危機という概念そのものが形骸化している。・・・

  • 2016年の政治的意味合い
    ―― アメリカの政治的衰退か刷新か

    フランシス・フクヤマ

    Subscribers Only 公開論文

    2016年の米大統領選挙の本当のストーリーとは、経済格差が拡大し、多くの人が経済停滞の余波にさらされるなか、アメリカの民主主義がついに問題の是正へと動き出したことに他ならない。有権者の多くは、彼らが「堕落し、自分の利益しか考えない」とみなすエスタブリッシュメントに反発し、政治を純化して欲しいという願いから急進派のアウトサイダーを支持している。社会階級がいまやアメリカ政治の中枢に復活し、人種、民族、ジェンダー、性的志向、地域差をめぐる亀裂以上に大きな問題として取り上げられている。とはいえ、ポピュリストの政策を実施すれば、成長を抑え込み、政治の機能不全をさらに深刻にし、事態を悪化させるだけだ。・・・必要なのは、大衆の怒りをすぐれた政治家と政策に結びつけることだ。

  • 歴史の未来
    ―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

    フランシス・フクヤマ

    Subscribers Only 公開論文

    社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

  • 近代化と格差を考える
    ―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

    ロナルド・イングルハート

    Subscribers Only 公開論文

    19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

  • Review Essay 富める者はますます豊かに
    ―― アメリカにおける政治・経済の忌まわしい現実

    ロバート・C・リーバーマン

    Subscribers Only 公開論文

    富裕層の一部に驚くほど富が集中しているのは、市場経済とグローバル化の結果であるとこれまで考えられてきた。だが、実際には、格差の拡大には政治が大きな役割を果たしている。富裕層を優遇する政策だけでなく、アメリカの多元主義的政治システムにおいて、資金力にものをいわせる保守派が大きな影響力と権限をもつようになり、中産階級の利益代弁機能を抑え込んでしまっている。この流れの起源は、意外にも、アメリカのリベラリズムがピークを迎えた時期とされる1960年代にある。この時期に、自分たちの社会的影響力が地に落ちたことを痛感した企業エリートたちは、保守の立場からイデオロギー、政治、組織の領域でカウンターレボリューションを進めていった。・・・

  • 逆風にさらされる民主主義
    ―― 内向きのアメリカと衰退する世界の民主主義

    ラリー・ダイアモンド

    Subscribers Only 公開論文

    「人権を重視する民主国家が自国の市民に暴力的な行動をとるリスクは低く、しかも、民主国家同士は戦争をしない」。当然、アメリカが世界で民主化促進策をとる価値は十分にあるが、「国際問題よりも、むしろ国内問題に専念すべきだ」と考える内向きの社会圧力という逆風にワシントンはさらされている。しかも、アメリカの民主主義が世界であこがれや模倣の対象とされることもなくなった。米大統領選挙からも明らかなように、アメリカ市民は大きな疎外感を抱き、現状に怒りを募らせ、一方ワシントンは現状にうまく対処できずにいる。法案はなかなか成立せず、超党派外交など望みようもなく、議会で予算案が紛糾し、定期的に政府機関が閉鎖の危機に追い込まれている。だがこの環境でもアメリカの民主主義への信頼を回復し、民主化促進策をとる余地は残されている。・・・

  • 漂流する先進民主国家
    ―― なぜ日米欧は危機と問題に対応できなくなったか

    チャールズ・クプチャン

    Subscribers Only 公開論文

    グローバル化が「有権者が政府に対して望むもの」と「政府が提供できるもの」の間のギャップをますます広げ、政府は人々の要望に応えられなくなっている。これこそ、アメリカ、日本、ヨーロッパという先進民主世界が現在直面しているもっとも深刻な問題だ。先進民主諸国が統治危機に直面する一方で、台頭する「その他」の諸国が新たな政治力を発揮しているのは偶然ではない。グローバル化した世界への統合を進めていくにつれて、先進民主国家が問題への対応・管理手段の喪失という事態に直面しているのに対して、中国のような非自由主義国家の政府は、一元化された中央の政策決定、メディアに対する検閲、国家管理型の経済を通じて、社会の掌握度を高めている。必要とされているのは、民主主義、資本主義、グローバル化の相互作用が作り出している大きな緊張をいかに解決するかという設問に対する21世紀型の力強い答えを示すことだ。政府の行動を、グローバル市場の現実、恩恵をより公平に分配することを求める大衆社会の要望に適合させるとともに、痛みと犠牲を分かち合えるものへと変化させていく必要がある。

  • The Classic Selection 1932 大恐慌

    エドウィン・F・ゲイ

    Subscribers Only 公開論文

    「今現在の生産力と生活水準を即座に引き上げるために、将来を担保に自由に信用に頼るという戦時の慣習が戦後も続いた。途方もない大量の信用が使われ、乱用されることもしばしばだった。乱用自体は目新しくないが、創造される信用の規模はかつてないものとなった。紙の上での利益を人々が現実にお金に換えだすと、肥大化した信用が収縮しだし、多くの投資家が浮かれた夢から目を覚まし、我を取り戻した。そしてパニックが起きた」

  • 政治的正統性の危機

    イアン・ブレマー

    Subscribers Only 公開論文

    政治エリートたちは大きな課題に直面している。市民たちが新しいツールを用いて新たな要求をし、抗議行動を組織化し、集団としてのパワーを培いつつあるからだ。各国政府が次の景気のサイクル、次の選挙、次の政治的移行期までの短期的な問題にばかり目を向けているために、グローバル規模での政府の正統性の危機という事態にわれわれは直面している。アメリカ政治は党派対立に縛られて身動きできず、ヨーロッパでは反EU感情が高まっている。新興国政府も経済成長率が鈍化する一方で、市民の要求が高まり、政府は追い込まれている。政府の指導者たちが適切と考える以上の情報公開を求める市民の圧力が、政府の正統性をさらに脅かしている。しかも、情報を共有するのがきわめて簡単になり、一方で情報漏洩を阻止するのが難しくなっている。・・・

  • イタリアの政治的混迷と欧州民主主義の危機

    ジョナサン・ホプキン

    Subscribers Only 公開論文

    イタリアの政治エリートと彼らによる政治を全面的に拒絶したベッペ・グリッロが勝利を収めた数日後には、EUからの脱退を求めるイギリス独立党が選挙で躍進を遂げた。海賊党がスウェーデンで、ヘルト・ウィルダース率いる反イスラム政党がオランダで政治的成功を収め、フランスでも国民戦線のようなポピュリスト政党が支持を伸ばしている。イタリアでの政治現象が例外的なわけではない。イタリアの選挙結果は、既成政党に対する拒絶という欧州民主国家に共通する社会トレンズを映し出している。イタリアの政治階級が今後淘汰されていけば、「自分たちにも同じ運命が待ち受けているかもしれない」とヨーロッパの政治家たちも危機感を募らせるはずだ。欧州各国の政党は経済危機に対処するだけでなく、有権者とのつながりを再生し、民主政治における政党の中核的な役割を再活性化しなければならない。そうしない限り、イタリアで起きたことがヨーロッパ各地で再現されることになるかもしれない。

  • 貿易の戦略的ロジック
    ―― 貿易協定の政治・安全保障的意味合い

    マイケル・フロマン

    Subscribers Only 公開論文

    いまや各国の指導者たちは、貿易を通じて得られる経済的影響力が軍事力を支えるための財布以上のものであること、つまり、貿易政策が国家安全保障政策、財政政策、金融政策的な機能さえ持つようになっていることを理解している。貿易を通じて長期的な協力を続ければ、国家間の誤解は減少し、信頼が高まり、安全保障を含む幅広い分野での協力に道が開かれる。さらに、財政政策や金融政策の経済刺激効果に限界がある現状では、貿易政策は優れた成長のエンジンとしても機能する。しかも、アジアとヨーロッパの周辺で緊張が高まっていることを考えると、環太平洋パートナーシップ(TPP)と環大西洋貿易・投資パートナーシップ(TTIP)の戦略的・安全保障上のメリットはますます際立ってくる。・・・

  • 貿易叩きという歴史的な間違い
    ―― なぜ真実が見えなくなって
    しまったか

    ダグラス・アーウィン

    Subscribers Only 公開論文

    ドナルド・トランプは、「愚かな」交渉人がまとめたひどい貿易合意のせいで、中国、日本、メキシコがアメリカを貿易面で追い込んでいると訴えている。ヒラリー・クリントンでさえ、反対派に歩調を合わせざるを得なくなり、いまやTPPに反対であると明言している。現実には、貿易はアメリカに大きな利益をもたらしている。雇用喪失の85%以上はオートメーション化による生産性の向上が原因で、貿易が原因による雇用喪失は13%にすぎない。それでも、大統領候補たちは貿易を激しく批判し、それが歴史的な間違いであるにも関わらず、議会によるTPP批准まで危険にさらされている。現実にはアメリカは貿易上の問題には直面していない。問題は、かつて非熟練労働者が中間層の仲間入りを果たすことに道を開いた経済的なはしごが壊れてしまったことだ。

ヨーロッパの衰退は避けられない?

  • ヨーロッパを待ち受ける忌まわしい未来
    ―― もはや衰退は回避できない

    アンドリュー・モラフチーク

    雑誌掲載論文

    現在の政治状況からみれば、ユーロゾーンからの離脱も起きず、ユーロゾーンを機能させるための大がかりな改革も行われず、おそらくは、泥縄式に生きながらえていくための措置が小出しにされていくだけだろう。長期的に考えると、このやり方は最悪の結果をもたらすかもしれないが、それでもこの路線がとられる可能性がもっとも高い。壊滅的な経済危機が起こらない限り、ヨーロッパは自ら招き入れた緊縮財政のなかで泥縄式に生きていくしかなく、この選択ゆえに将来の見込みも、世界における地位も損なわれていく。「政治同盟やヨーロッパの深化(more Europe)についてのあらゆる議論は、民主的なヨーロッパ連邦への一歩ではなく、むしろ長期的な危機という鉄格子に入り、純然たるヨーロッパの民主的連邦への道を閉ざすことにつながっていく」

  • 現実的なブレグジット戦略とは
    ―― 単一市場へのアクセスを維持し、国内経済改革を進めよ

    スワティ・ディングラ

    雑誌掲載論文

    ロンドンは、イギリスが単一市場に残れるような暫定取り決めを先ずまとめる必要がある。そうすれば、イギリスにとって最大の貿易・投資相手であるEUとの今後の関係を危ぶむ企業の懸念をとり除き、時間をかけて最終的な離脱の形を模索できるようになる。EUにとってもこの方が受け入れやすいはずだ。同時にブレグジットを招き入れた英市民の不満に対処していかなければならない。格差の是正と今後の経済成長の道筋を見据えて、大胆な措置を直ちに実施すべきだ。国内の教育、医療保険、インフラ整備、イノベーションに投資すれば、当面のダメージを抑え、忘れ去られた地域に繁栄と希望をもたらせるだろう。政策決定者が人々の経済的不安の根底にあるこれらの問題に対処して始めて、EU離脱をめぐって分裂した国家の傷を癒やせるようになる。

  • 危機後のヨーロッパ
    ―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か

    アンドリュー・モラフチーク

    Subscribers Only 公開論文

    単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。

  • ドイツ経済モデルの成功
    ―― 他の先進国が見習うべき強さの秘密とは

    スティーブン・ラトナー

    Subscribers Only 公開論文

    ドイツ経済の成功は、中国、インド、その他の新たな経済的巨人が台頭する環境でも、先進国が競争力を維持できることを示している。ドイツモデルを他の先進国が取り入れるには、各国の政治家が2005年にシュレーダー独首相が示したような決意あるリーダーシップを示す必要があるし、国の比較優位をうまく生かす方法を見極めなければならない。付加価値連鎖のなかのもっとも高い部門を重視するのが、先進国経済が状況を先に進める上で、もっとも間違いのないやり方だ。実際、ドイツの工業的成功の多くは、製造業の二つの高付加価値部門が牽引してきた。第1は、ミッテルスタンド(中小企業)がひしめき合う工作機械部門、第2は、ドイツ経済のスターである、BMW、ダイムラー、ポルシェ、アウディといったブランド企業が牽引する自動車産業だ。ドイツは雇用と高付加価値の製造業を大切にすることを決断し、この決定が経済的成功に大きな貢献をしている。

  • テリーザ・メイのブレグジット戦略
    ―― 交渉パートナーとの妥協点をいかに見出すか

    ティム・キュレン

    Subscribers Only 公開論文

    テリーザ・メイはすでに、イギリスの全般的離脱アプローチをまとめるまでは、リスボン条約の50条を発動して離脱をEUに通知することはないと明言し、今後の交渉を踏まえて、イギリスにいるヨーロッパ人が離脱後もイギリスで暮らせるかどうかについても確約を与えるのを避けている。一方、当初は強硬だったメルケルやオランドを始めとするヨーロッパの指導者たちも、自国の政治状況に配慮して、交渉時期の先送り容認に向けて態度を軟化させている。しかし、困難なタスクが待ち受けていることに変わりはない。交渉を担当できる人材が不足しているだけでなく、スコットランドなどの分離独立問題も抱えている。重要なポイントは交渉相手となる諸国が、「ヨーロッパ・プロジェクト」へのコミットメントよりも、自国の政治利益を重視していることだ。そこから交渉の見取り図を描かなければならない。

  • EUの衰退と欧州における
    国民国家の復活

    ヤコブ・グリジェル

    Subscribers Only 公開論文

    いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの移譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

中東アップデート

  • サウジの歴史的選択
    ―― 王国は社会・経済改革という嵐に

    ニコラス・クローリー、ルーク・ベンシー

    雑誌掲載論文

    リヤドを経済・社会変革に駆り立てているのは、原油安ではなく、むしろ、ユースバルジに象徴される人口増大問題だ。たとえ原油価格が上昇しても、今後の人口増を考慮すれば、家計収入の80%が公的部門の給与とさまざまな補助金に依存している現在の経済モデルは維持できなくなる。だからこそ、リヤドは行動計画「ビジョン2030」を実行しようと試みている。これは、改革が引き起こす政治・経済・社会的大混乱のなかで、かつてない規模の若者たちが成人していくことを意味する。経済改革の設計者(政府)と社会的安定の擁護者(治安当局)は、緊密に連携しながら、この国の文化的アイデンティティの中核部分を慎重に再調整していかなければならない。激しい抵抗に直面するのは避けられないが、改革に失敗すれば、サウジは、現在のいかなる脅威よりもはるかに危険な、国内の全面的な不安定化という事態に直面することになる。

  • 「イスラム国」後のイラク
    ―― 解放後になぜ混乱が待ち受けているか

    ベラ・ミロノバ、モハンマド・フセイン

    雑誌掲載論文

    イスラム国の台頭によって、水面下に抑え込まれてきたイラクの民族・宗派対立が表面化し、再燃しつつある。モスルをイスラム国(ISIS)の支配から解放する作戦が進められるなか、この武装集団を打倒した後のイラクがどのような状態に陥るかが問われ始めているのはこのためだ。スンニ派対シーア派の対立だけではない。アラブ人とクルド人の対立が先鋭化する一方で、クルド人勢力、シーア派、スンニ派など、同じ民族・宗派集団の内部対立も再燃している。しかも、シーア派とスンニ派の対立がトルクメン人コミュニティに、クルド人勢力内の対立がヤジディ教徒コミュニティに飛び火している。こう考えると、イラクからイスラム国を締め出しても、おそらくイラクにおける武装集団の数が減ることも、社会暴力のリスクが低下することもないだろう。イラクの混乱は収束へ向かうどころか、これまでイスラム国が支配してきた地域で新たに暴力的な抗争が起きることになる。・・・

  • 漂流する米・サウジ関係

    F・グレゴリー・ゴース

    Subscribers Only 公開論文

    戦後のアメリカとサウジの関係を支えてきた複数の支柱に亀裂が入り始めている。両国を「反ソ」で結束させた冷戦はとうの昔に終わっている。イラクのサダム・フセインが打倒されたことでペルシャ湾岸諸国への軍事的脅威も消失した。しかも、米国内のシェールオイルの増産によって、(中東石油への関心は相対的に薄れ) エネルギー自給という夢が再び取りざたされている。一方サウジは中東全域からイランの影響力を排除することを最優先課題に据え、中東政治で起きることすべてを、イランの勢力拡大というレンズで捉えている。当然、アメリカが重視するイスラム国対策にも力を入れようとしない。すでに「サウジとの同盟関係に価値はあるのか」という声もワシントンでは聞かれる。しかし中東が近い将来、安定化する見込みがない以上、リヤドとの緊密な関係を維持することで得られる恩恵を無視するのは愚かというしかない。・・・

  • サウジとイランの終わりなき抗争
    ―― 対立が終わらない四つの理由

    アーロン・デビッド・ミラー、ジェイソン・ブロッドスキー

    Subscribers Only 公開論文

    スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

  • 革命国家の歴史とイスラム国
    ―― さらなる拡大と膨張はあり得ない

    スティーブン・ウォルト

    Subscribers Only 公開論文

    極端な暴力路線をとり、性奴隷を正当化しているとはいえ、革命運動としてみればイスラム国(ISIS)に目新しい要素はほとんどない。宗教的側面をもっているとはいえ、イスラム国は多くの側面においてフランス、ロシア、中国、キューバ、カンボジア、イランで革命期に出現した体制、国家建設を目指した革命運動に驚くほどよく似ている。そして、歴史が示すところによれば、革命国家を外から倒そうとする試みは、逆に強硬派を勢いづけ、さらなる拡大の機会を与え、逆効果となることが多い。よりすぐれた政策は、イスラム国に対する辛抱強い「封じ込め戦略」を地域アクターに委ね、アメリカは遠くから見守ることだ。無謀な行動はコストを伴い、逆効果であることを誰かが教えるまで、革命国家がその行動を穏健化させることはない。その革命的な目的を穏健化させるか、完全に放棄するまで、イスラム国を辛抱強く封じ込める必要がある。

  • イスラム国の黄昏
    ―― 離脱したシリア人元戦闘員たちへのインタビュー

    マラ・レブキン 、アハマド・ムヒディ

    Subscribers Only 公開論文

    イスラム国を後にするシリア人戦闘員が増えている。2016年3月だけでも、数百人のイスラム国戦闘員がラッカやアレッポを離れて、戦線離脱したと考えられており、その多くがシリア人だ。離脱後、穏健派の自由シリア軍(FSA)に参加する者もいれば、紛争から離れようと、国境を越えてトルコやヨルダンに向かう者もいる。シリアのイスラム国は、現地社会や地勢などをめぐるインサイダー情報をめぐってシリア人メンバーに多くを依存してきた。逆に言えば、シリア人戦士の戦線離脱の増大は、シリアにおけるイスラム国の統治と軍事活動を大きく脅かすことになるだろう。現在トルコにいる8人の元イスラム国戦闘員たちへのインタビューから浮かび上がるのは、もはや勢いを失い、自暴自棄となったイスラム国の姿だ。

  • 新「トルコ国家の父」を目指したエルドアン
    ―― なぜ権威主義的ナショナリズムへ回帰したのか

    ハリル・カラベリ

    雑誌掲載論文

    これまで経済・政治の自由化を約束してきたエルドアンが、なぜ非自由主義的な権威主義路線の道を歩んでいるのだろうか。いまや彼は伝統的な中東の強権者となり、自分の権力基盤を固め、ライバルを追放し、反体制派を抑圧している。エルドアンの本来の目的は、保守的な社会秩序を維持する一方で、クルド人などの国内の少数派民族・文化集団との関係を修復していくことにあった。クルド人を含む、トルコ市民の多くが信奉する「スンニ派イスラム」を国の統合原理にしたいと考えてきた。しかし、クルドとの和平に失敗したことからも明らかなように、「スンニ派イスラム」だけでは、21世紀に向けた持続的な政治秩序を育んでいくトルコのアイデンティティを形作れなかった。こうしてエルドアンは、伝統的な権威主義的ナショナリズムへと立ち返らざるを得なくなった。・・・

  • ギュレン派とエルドアンとトルコ軍
    ―― 軍事クーデターとその後

    ジョン・バトラー、ドブ・フリードマン

    Subscribers Only 公開論文

    依然としてトルコでのクーデター計画の全貌、そして誰が計画に関与したのか、首謀者が誰だったのかについての詳細ははっきりしない。但し、AKPとギュレン運動が(クーデター前から)権力抗争を続けていたことは明らかだ。(2013年に)ギュレン派はAKPの指導層を標的に政治腐敗の調査に着手し、エルドアンはギュレン派を官僚、メディア、ビジネスからパージすることでこれに報復した。クーデターが起きた7月15日の時点でも、パージは続いていた。そして、ギュレン派の動機と能力を警戒した軍高官たちは、ギュレン派のシンパとみられる将校たちのリストを作成していた。重要なのは、このリストが、ギュレン派が今回のクーデターを企てたとする主張を支える証拠とされていることだ。このリストには、ムハレム・コセだけでなく、クーデターの首謀者とみられる人物の名前、そしてクーデターを支援した部隊駐屯地を指揮した人物、さらには、アカル参謀長の誘拐を助けた人物、同僚の高官を逮捕した人物、トルコの都市に戒厳令を出した人物の名前があった。・・・

  • エルドアンの予言
    ―― 軍事クーデターの政治的意味合い

    マイケル・J・コプロー

    Subscribers Only 公開論文

    エルドアンが軍の影響力から逃れられると考えたことはなく、軍事クーデターが起きる危険を常に意識してきた。こうして彼はトルコ軍、ギュレン運動、ゲジパークにおける市民の抗議行動と、それが何であれ、あらゆる政府に対する挑戦を策略・陰謀とみなすようになった。もちろん、軍のクーデターが成功していても、この国の民主主義を支えたはずはない。最善のシナリオをたどったとしても、現在とは違う、権威主義体制を出現させていただけだろうし、悪くすると、内戦に陥っていた危険もある。だからといって、クーデターの失敗を民主主義の勝利とみなすのも無理がある。エルドアンは今回のクーデター未遂事件を根拠に自分の見方の正しさを強調し、大統領権限の強化と反エルドアン派の弾圧を含む、望むものを手に入れるために最大限利用していくだろう。

  • 軍事ドローン革命のイメージと現実
    ―― その軍事的価値には限界がある

    ローレンス・フリードマン

    雑誌掲載論文

    軍事ドローンを手に入れた政府は敵の政治指導者や活動家を比較的簡単に殺害できる。今後、事前のプログラミングさえ行えば、その後は誰を監視し、殺害するかを自律的に判断するドローンシステムさえ登場するかもしれない。とはいえ、少なくとも現段階では、ドローンは新たな兵器の一つに過ぎない。ドローンの最大の軍事的価値は、偵察というもっと一般的な側面にある。重要なポイントの上空から画像情報を送信し、疑わしい人間や車両の動きを追跡することだ。近いうちに、小型化によってカメラを搭載した昆虫より小さなドローンが、敵のすぐそばを飛びかうようになるかもしれない。それでも、戦争で勝利を収めるには、領域のコントロール・支配が必要になる。そして領域のコントロールは、ドローン、ヘリコプター、ジェット機を問わず、空からの攻撃だけでは達成できない。ドローンは重要なイノベーションだが、革命的なイノベーションではない。

  • ドローン兵器と実体なき戦争

    ピーター・ベルゲン、キャサリン・タイデマン

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    ワシントンの政治・軍事指導者たちは、ドローン(無人飛行機による)攻撃プログラムは対ゲリラ戦略において大きな成功を収めていると考えており、攻撃の巻き添えになって死亡した民間人も2008年5月からの2年間で30人程度だと主張している。だが、パキスタン人の多くは、ドローン攻撃によって多くの民間人が犠牲になっていると考えている。パキスタンの部族地域で暮らす人々の75%が「アメリカの軍事ターゲットに対する自爆テロは正当化される」と考えているのも、こうした現地での認識と無関係ではないだろう。一方、パキスタン政府は、ドローン攻撃によって自分たちの敵であるパキスタン・タリバーンの指導者も殺害されているために、アメリカによる攻撃を黙認している。この複雑な現状の透明性を高める必要がある。部族地域の武装勢力に対するドローン攻撃がアメリカとパキスタン双方の利益であることをアピールし、ドローン攻撃をめぐるパキスタン軍の役割を増大させるべきだ。パキスタンの空で戦争を始めたのはワシントンだったかもしれないが、イスラマバードの協力なしでは、この作戦を完了することはできないのだから。

  • 中国はドローンを何に用いるつもりなのか

    アンドリュー・エリクソン、オースチン・ストレンジ

    Subscribers Only 公開論文

    「中国や他の独裁国家がドローンを入手したらどうなるか」と気を揉む段階はすでに終わっている。すでに中国はドローンを保有している。問題は、いつ、どのようにこれを使用するかだ。専門家は、中国空軍だけでも280機以上の戦闘用ドローンを保有しているとみている。これは、アメリカを例外とすれば、中国が世界最大の規模のドローンと洗練された関連技術基盤を持っていることを意味する。引退した彭光謙(ポン・グワンチエン)元少将が2013年に認めたように、中国は、日本との領有権論争を抱える尖閣諸島(中国名―釣魚島)の写真を撮るためにすでにドローンを利用し、北朝鮮との国境地帯の動きを監視するのにもドローンを用いている。たしかに、内政不干渉の原則と主権を重視する中国は、外国に対するドローン攻撃には慎重な立場を崩していないが、偵察・監視を超えて、敵のシステムのジャミングなどの電子戦争支援、ミサイルなどによるピンポイント攻撃のターゲット特定など、中国がドローンを兵器としてではなくとも、軍事行動の支援ツールとして利用する可能性は十分にある。

  • 日本の「長時間労働」と生産性

    エドアルド・カンパネッラ

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    経済協力開発機構(OECD)によると、週の労働時間が50時間以上に達する日本の勤労者は全体の13%。イタリア人やドイツ人でこれほど長時間働いているのは労働力人口の約4%にすぎない。こうしたワーカホリック(仕事中毒)ぶりが、日本人の健康と生産性を損なっている。過労死の問題だけではない、経営側は、長時間労働が生産性を低下させるリスクを伴うことを認識すべきだ。少ない人材をできるだけ働かせようとするよりも、社員がもっと効率的に働けるようにし、仕事へのやる気の持たせ方を変化させるべきだ。「社員がもっと効果的に働けるようにし、与えられた目標を、できるだけ少ない残業時間、あるいは残業なしで達成した人に報い、部下に残業させた管理職にはペナルティを課す」。そうした慣習が当たり前になるようにすべきだろう。ワークスタイルを見直せば、女性の労働参加を促し、出生率も上昇し労働力も増大する。この方が金融緩和を何度も繰り返す以上に、国内総生産(GDP)を押し上げる効果は高いはずだ。

  • 凋落する日本の大学教育
    ―― 負の連鎖を断ち切るには

    デビン・スチュワート

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    日本企業の採用担当者からみれば、大学は人材を供給してくれる存在にすぎない。彼らは学生が大学で何をしたかよりも、大学名に注目する。成績さえ無意味とみなされる。だから学生は勉強しようという気にならないし、教員は教えようという気にならない。その結果、大学は学生にとって「レジャーランド」になっている。だが、大学3年になると、恐ろしい就職活動が始まる。これが「心に一生の傷を残す」と学生たちは言う。日本の教育は、就職活動を軸に構成されていると言ってもいい。だが、教育システムは、(経済や社会の)ダイナミズムを強化する大きなポテンシャルを秘めているし、世界における日本の役割を擁護し、国内経済の躍動性を高めるうえでも、質の高い教育が不可欠だ。日本の大学は学生たちのクリティカル・シンキング(批判的思考)、イノベーション、グローバル志向をもっと育んでいく必要がある。

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