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サウジとイランの終わりなき抗争
―― 対立が終わらない四つの理由

アーロン・デビッド・ミラー ウッドロー・ウィルソンセンター 副会長 (ニュー・イニシアティブ担当)、ジェイソン・ブロッドスキー  ウッドロー・ウィルソンセンター (リサーチアソシエーツ)

Saudi Arabia and Iran's Forever Fight

Aaron David Miller アメリカの中東分析者で、現在は、ウッドロー・ウィルソンセンター副会長(ニュー・イニシアティブ担当)。国務省勤務を経て現職。国務省では広報局ヒストリアン、情報調査局分析官、政策企画部に勤務した。
Jason Brodskyウッドロー・ウィルソンセンター リサーチアソシエーツ。上院議員の顧問、ホワイトハウスの政策フェローなどを経て現職。専門は国家安全保障、中東と北アフリカなど。

2016年2月号掲載論文

スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

  • (1)もはや1990年代のイランやサウジではない <部分公開>
  • (2)両国の強硬派がライバル関係を固定化する
  • (3)イスラム国と中東のメルトダウン
  • (4)アメリカの影響力には限界がある

サウジとイランの現在の対立状況は一時的なもので、いずれ一息つけば、穏やかな環境を取り戻せると考える人もいるかもしれない。だが、現在の危機がサウジとイランの直接的な軍事対立へとエスカレートすることはないにせよ、当面、両国のライバル関係が激化していくのは避けられない。実際、サウジとイランの冷戦は、新しい中東を特徴付ける要因になっていくだろう。次にその理由を指摘しよう。

 

(1)もはや1990年代のイランやサウジではない

 

1970年代末のイラン革命によって、宗教指導者が政治的に台頭して以降、リヤドとテヘランのライバル関係が固定化されるのは避けようがなくなった。とはいえ、最近の緊張は、国内政治だけでなく、両国における自己イメージと担うべき役割への認識が変化したことにより直接的に関連している。要するに、もはや1990年代のイランとサウジではないということだ。

リヤドは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する攻撃コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。

リヤドは、アメリカがイランと交渉し、シリア内戦を終わらせるためにアサド政権に十分な圧力をかけていないことに憤慨し、イエメンでかつてなく大胆な行動をとっている。

サウジは、アサド政権と敵対するスンニ派武装勢力を支援し、これには(ヌスラ戦線など)アルカイダに近い組織も含まれている。最近では、サウジ内の反政府シーア派勢力、そしてサウジ王国に挑戦しようとする外部勢力に警告を発するために、国内シーア派の有力者であるニムル師を含む、47名を処刑している。

一方、経済制裁が解除された結果、今後イランは数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。当然、勢いづいている。テヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。それだけではない。イエメンのフーシ派を支援し、弾道ミサイルの実験を続けることで、核合意の限界を試そうとさえしている。

核合意の履行に向けたワシントンの熱意からみて、イランはさらなる制裁措置が発動されるのを阻止できると考えている。サウジが数多くの湾岸諸国をイランとの外交関係の遮断や制限へとまとめあげたことに懸念を募らせるイランの保守派は、スンニ派の連帯を切り崩そうとする意志をさらに固めている。

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