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2021年7月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2021年7月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2021年7月号 目次

永続化するコロナ危機?

  • 新型コロナの不都合な真実
    ―― 永続化するウイルスとの闘い

    ラリー・ブリリアント、リサ・ダンジグ 、カレン・オッペンハイマー、リック・ブライト、W・イアン・リプキン

    雑誌掲載論文

    すでに10数種の動物種に感染を広げている以上、新型コロナウイルスは根絶できない。世界規模の集団免疫も期待できない。十分なワクチンを生産・供給するには長い時間がかかるし、反ワクチンムーブメントの存在も集団免疫を達成させる見込みを遠ざけている。一方では、新種の変異株が次々と登場している。より高度な耐性をもつか、より感染力の強い新型の変異株については、追加のブースターショット、あるいは全く新しいワクチンが必要になるかもしれず、この場合、ほぼ200カ国の数十億人にワクチンを接種するというロジスティック上の大きな課題に世界は直面する。現在の検査キットをすり抜ける変異株が出てくる恐れもある。要するに、パンデミックが最終局面にあるわけではない。多くの人が短期間で終わることを願った危機は終わらず、現実には、驚くほどレジリアントなウイルスに対する長くゆっくりとした闘いが続く。

  • インド変異株の悪夢
    ―― 変異株と政治災害が引き起こしたインドの悲劇

    マンダキニ・ガーロット

    Subscribers Only 公開論文

    世界における新規コロナ感染の三つに一つがいまやインドで起きている。だが、こうなる必然性はなかった。狼狽、間違い、奢りを通じて黙示録的世界を招き入れたのはモディ政権に他ならない。「国内のコロナを抑え込み、いまや世界のパンデミックを終わらせるのを助ける立場にある」と対外的に表明した彼の強気が裏目に出た。人々はマスクを外し、ソーシャルディスタンスのガイドラインを無視し始めた。保健担当大臣が偽医療を公的に紹介しただけでなく、ヒンドゥー教の大規模な宗教的祝祭(クンブメーラ)のために(ウッタラカンド州にある聖地ハリドワールへの)巡礼を認めたことでも政府は感染を拡大させてしまった。しかも、二つの変異株の特徴を有するB・1・617変異株が定着しつつあることを認識しつつも、この新しい敵を理解しようと政府が力を入れることはなかった。・・・

  • 変貌するグローバルヘルスの統治構造
    ―― 分散化、ビッグデータの共有、研究パートナーシップ

    アシシュ・ジャー

    Subscribers Only 公開論文

    感染症を含むグローバルヘルス対策をめぐって、これまでワシントンは国際機関や途上国を中心とする各国政府に援助を提供することで、対策を主導してきたが、このアメリカ主導型のモデルに大きな変化が生じている。いまや、慈善団体、地域機構、民間企業などの、新しいネットワークと組織がグローバルヘルス領域で大きな役割を果たしているだけでなく、途上国の科学者や組織も研究やベストプラクティスをめぐって大きな影響力をもつようになった。しかも、技術革新によって民間企業に新タイプのデータがもたらされており、今後、政府と保健機関の仕事は大きく変化していくだろう。グローバルヘルスを守る努力の中枢に、各国政府、地域機関、民間部門とのパートナーシップを据える必要がある。


  • 変異株とグローバルな集団免疫
    ―― 終わらないパンデミック

    マイケル・T・オスタホルム、マーク・オルシェイカー

    Subscribers Only 公開論文

    ワクチンの接種がすすみ、パンデミックが収束へ向かうことが期待されるなか、コロナウイルス変異株の出現で、逆にパンデミックが長期化するリスクが生じている。危険な変異株の出現を抑え込む最善の方法は、できるだけ多くの人々を感染から守ることだが、多くの低所得国や中所得国の民衆はまだ1回のワクチン接種も受けていない。変異株は人から人への感染力が高いかもしれない。すでに追い込まれている病院や医療施設へさらに大きな圧力をかける恐れもある。もっとも厄介なのは、ワクチン接種またはCOVID19への感染から得た免疫が、変異株への感染を防げないかもしれないことだ。・・・

  • なぜ世界はパンデミックに敗れたのか
    ―― 国際協調を阻んだナショナリズムと保護主義

    ヤンゾン・ファン

    Subscribers Only 公開論文

    「協調性のない、混沌とした国中心の反応」。これが、世界のCOVID19パンデミック対策の特徴だった。必要とされる「グローバルな危機へのグローバルな対応」からはかけ離れていた。国際協調体制がうまく築かれなかったことについて、世界保健機関(WHO)を非難する分析者もいる。しかし、最大の理由は、米中対立によって対応が政治化され、ナショナリスティックで保護主義的な対応がとられたことにある。米中間の緊張は、アウトブレイクに関する調査だけでなく、ウイルスの拡散を封じ込めるための協調行動をまとめるWHOの能力も抑え込んでしまった。必要なのは、パンデミックコントロールを、あらゆる国が貢献すべき「グローバルな公共財」として位置づけることだろう。

  • パンデミック対策を左右する政府への信頼
    ―― 誰がどのように情報を伝えるか

    トマス・J・ボリキー、ソーヤー・クロスビー ワシントン、サマンサ・キーナン

    Subscribers Only 公開論文

    パンデミックに相対的にうまく対応できた国とそれに失敗した国の違いはどこにあるのか。リスクコミュニケーションにおいて重要なのは「何が問われているか」だけでなく、「誰が」情報や懸念を「どのように」伝えるかだ。要するに、情報を伝える側が信頼されていなければ、市民が耳を傾けることもない。実際、事実に反する説明をした政治家もいる。米大統領は2月の時点で、「それはインフルエンザのようなもので、制御できるし、いずれいなくなる」とさえ表明した。効果的な治療法がなく、人々が既存の免疫をもたない新型ウイルスに直面して、市民が互いに自らを守れるようにするために、政府ができる唯一のことは「自分を守るために何が必要かについて市民を納得させること」だ。特に自由な社会においては、そうした試みの成功は政府と市民の間に信頼があるかどうかに左右される。

  • コロナウイルスと陰謀論
    ―― 感染症危機と米中対立

    ヤンゾン・ファン

    Subscribers Only 公開論文

    恐れと不確実性のなかでは噂が飛び交うものだ。新型コロナウイルスが確認されて数週間もすると、ソーシャルメディアではウイルスは生物兵器だと示唆するコメントが目立つようになった。武漢のウイルス研究所から持ち出された中国の生物兵器(が使用された)、いやアメリカの兵器が武漢で使用されたという噂が飛び交うようになった。実際、ウイルスがどこからやってきたかを特定できれば、専門家と政府が、拡散を防ぐ最善の策を特定し、将来におけるアウトブレイクを阻止する助けになる。これまでのところ、ウイルスは生物兵器として開発されたとする説、あるいは偶発的に実験室から外部環境へ漏出してしまったとする説は、野生動物取引市場で動物由来のウイルスがヒトに伝播したという考え同様に、一定の信憑性をもっている。問題は陰謀論が米中間の不信に根ざし、それが一人歩きを始めていることだ。・・・

中国と台湾

  • 中国の台湾侵攻は近い
    ―― 現実味を帯びてきた武力行使リスク

    オリアナ・スカイラー・マストロ

    雑誌掲載論文

    この数カ月、北京が平和的な台湾アプローチを見直し、武力による統一を考えていることを示唆する不穏な動きがある。「アメリカが台湾有事に介入してきても、状況を制することができる」と考えられている。かつては台湾への軍事作戦など現実的オプションではないと考えていた中国政府も、いまや、それを現実の可能性として捉えている。習近平は台湾問題を解決するという野心を明らかにし、武力統一というオプションへの中国市民と軍指導層の支持も強化されている。この30年で初めて、ほぼ1世紀にわたる内戦を決着させるために中国が軍事力を行使する可能性を真剣に憂慮すべき環境にある。

  • 対中戦争に備えるには<
    ―― アジアシフトに向けた軍事ミッションの合理化を

    マイケル・ベックリー

    雑誌掲載論文

    もし中国が台湾を攻略すると決めたら、米軍がいかにそれを阻止しようと試みても、中国軍に行く手を阻まれると多くの専門家はみている。だが、これは真実ではない。中国の周辺海域や同盟国にミサイルランチャー、軍事ドローン、センサーを事前配備すれば、(容易に近づけぬ)ハイテク「地雷原」を形作れる。これらの兵器ネットワークは、中国にとって無力化するのが難しいだけでなく、大規模な基地や立派な軍事プラットフォームを必要としない。問題は、アメリカの国防エスタブリッシュメントがこの戦略への迅速なシフトを怠り、時代遅れの装備と重要ではないミッションに資源を投入して浪費を続けていることだ。幸い、中国に厳格に対処すること、そしてアジアへの戦力リバランシングについては超党派の政治的支持がある。適正な戦略にシフトしていく上で欠けているのは、トップレベルのリーダーシップだけだ。

  • 米台自由貿易協定の締結を
    ―― その地政経済学的意味合い

    デビッド・サックス、ジェニファー・ヒルマン

    雑誌掲載論文

    中国は2010年に経済協力枠組み協定(ECFA)を台湾と締結し、関税と貿易障壁を大幅に引き下げることに合意している。この状況で、北京によって台北が他国との自由貿易協定を結ぶ道が閉ざされれば、必然的に台湾経済は追い込まれ、中国の台湾に対する影響力は大きくなっていく。一方、米台自由貿易協定を結べば、中国を牽制し、他の諸国が台北との貿易交渉を開始するための(北京に対する)政治的盾を提供できる。中国が軍事力を強化し、自信を高めているだけに、ワシントンは、中国の冒険主義を抑止する追加措置を特定する必要がある。台湾との自由貿易協定は経済的恩恵をもたらすだけでなく、アメリカが台湾との関係を重視していることを示す強いシグナルを中国に送り、台湾の自信を高め、台北は強い立場から北京にアプローチできるようになる。いまや野心的な米台自由貿易を模索すべきタイミングだろう。

  • 米台湾戦略の明確化を
    ―― 有事介入策の表明で対中抑止力を

    リチャード・ハース 、デビッド・サックス

    Subscribers Only 公開論文

    台湾有事にアメリカの介入があるかないか。これを曖昧にするこれまでの戦略では抑止力は形作れない。むしろ、「台湾に対する中国のいかなる武力行使に対しても、ワシントンは対抗措置をとる」と明言すべきだ。「一つの中国政策」から逸脱せず、米中関係へのリスクを最小限に抑えつつ、この戦略見直しを遂行できる。むしろ、有事介入策の表明は、抑止力を高め、米中衝突の危険がもっとも高い台湾海峡での戦争リスクを低下させることで、長期的には米中関係を強化することになる。アメリカが台湾の防衛に駆けつける必要がないようにする最善の方法は、中国にそうする準備ができていると伝えることだ。

  • 「台湾と中国」というアメリカ問題
    ―― 台頭する新興国と衰退する超大国

    チャールズ・L・グレーザー

    Subscribers Only 公開論文

    ワシントンは慎重なアジア政策をとっていると考えられているが、実際には、環境が変化していることを考慮せずに、既存のコミットメントを維持している。かつてのようなパワーをもっていない大国が、現状を無理に維持しようと試みれば、非常に危険な賭けに打って出る恐れがある。もちろん、東アジアの同盟関係へのコミットメントは維持すべきだが、台湾を含む南シナ海地域への関与路線は見直すべきだろう。アメリカのパワーが低下しているのなら、最善の選択肢はコミットメントを減らすことかもしれない。これは、南シナ海において中国がより多くの影響力をもつことを認め、台湾を手放し、もはや東アジア地域における支配的なパワーではないことをワシントンが受け入れることを意味する。・・・

  • アジアにおける戦争を防ぐには
    ―― 米抑止力の形骸化と中国の誤算リスク

    ミシェル・A・フロノイ

    Subscribers Only 公開論文

    中国の積極性の高まりと軍備増強、一方での米抑止力の後退が重なり合うことで、米中戦争がアジアで起きるリスクはこの数十年で最大限に高まっており、しかもそのリスクは拡大し続けている。アメリカを衰退途上の国家だと確信し、すでに抑止力は空洞化しているとみなせば、北京は状況を見誤って台湾を封鎖あるいは攻撃する恐れがある。早い段階で台湾に侵攻して既成事実を作り、ワシントンがそれを受け入れざるを得ない状況を作るべきだと北京は考えているかもしれない。要するに、北京はワシントンの決意と能力を疑っている。こうして誤算が起きるリスク、つまり、抑止状況が崩れ、2つの核保有国間で紛争が起きる危険が高まっている。

  • 米中衝突を制御するには
    ―― 対立のエスカレーションと戦争リスク

    ケビン・ラッド

    Subscribers Only 公開論文

    ワシントンが経済のディカップリング(切り離し)と全面的な対中対決路線を選べば、世界のあらゆる国はどちらかにつかざるを得なくなり、エスカレーションリスクは高まる一方となる。ワシントンと北京がそのような結末を回避できるかについて、専門家が懐疑的な見方をしているのは無理もない状況にある。必要なのは米中間の「管理された戦略競争」枠組みだろう。双方の安全保障政策と行動に一定の厳格な制約を設けつつも、外交、経済、イデオロギーの分野ではオープンで全面的な競争を展開する。一方で、二国間アレンジメントや多国間フォーラムを通じて、特定の分野では協力する。このような枠組みを構築するのは難しいとしても、不可能ではないだろう。そうしない限り、壊滅的な結末に直面する恐れがある。

Inside China

  • 中国を引き裂く大潮流
    ―― そこにある二つの中国

    エリザベス・エコノミー

    雑誌掲載論文

    中国政府の勝利主義的レトリックの背後には、不都合な真実が隠されている。それは、社会がやっかいな形で複雑に分裂しつつあることだ。ジェンダーと民族を基盤とする差別が横行し、オンライン空間での憎悪に満ちた、ナショナリスティックな発言がこれに追い打ちをかけている。起業家や研究者を含む「クリエーティブな社会階級」は官僚と衝突している。ジャック・マーのように、政府の介入を公然と批判し、厳格な処分対象とされた者もいる。都市部と農村部の深刻な格差もなくなっていない。これらの分断ゆえに、重要な社会集団が中国の思想・政治的生活に完全に参加できずにいる。この状況が放置されれば、習近平が言う「中華民族の偉大なる復興」は夢のままで終わる。

  • アイデンティティと中国の政治・外交
    ―― 共産党の自画像と北京のアジェンダ

    オッド・アルネ・ウェスタッド

    雑誌掲載論文

    中国を支配しようとする者にとって、アイデンティティ、領土、文化に関する問いにどう答えるかは極めて重要だ。大清帝国の瓦礫の上に現代中国を構築した共産党にとって「中国とは何か、そして中国人とは誰か」を定義することは、「中国的特質を持つ社会主義」を育むのと同じくらい重要だった。それだけに、広東省南部の人々のほとんどが「自分を中国人だ」と自覚しているのに、チベットや新疆にルーツがある人々がそうではないと考えていることは大きな問題だ。共産党は国内で生活する人すべてを中国人と定義している。そして、共産党が、国の領土主権にこだわっているのは、帝国から引き継いだ領土の一部で、その支配に挑戦する動きが生まれることを警戒しているからに他ならない。台湾ほど中国の出方を警戒すべき場所はない。北京は、いつでも好きなときに力によって乗っ取る権利があると考えている。

  • 新疆における文化弾圧のルーツ
    ―― 帝国の過去とウイグル人

    シーン・R・ロバーツ

    Subscribers Only 公開論文

    新疆における北京の残忍な行動は、習近平体制の権威主義化や中国共産党(CCP)のイデオロギーを映し出しているだけではない。むしろ、ウイグル人に対する抑圧は、「征服したものの、現代の中国に完全に組み込めず、一方で、実態のある自治も与えていない領土」と北京との「植民地的な関係」に起因している。北京はウイグル人の文化とアイデンティティを抹殺することを決意している。「彼らの血統・ルーツを壊し、つながりと起源を破壊すること」を目的にしている。欧米はこれを人権侵害として攻撃しているが、変化は起きそうにない。現実には、2020年に国連人権理事会で45カ国が新疆での中国の行動を擁護する書簡に署名している。「ウイグル人に対する扱いが中国の経済と名声にダメージを与える」と北京が納得しない限り、大きな変化は期待できない。

  • 中国における大家族時代の終焉
    ―― 中国の野望と人口動態トレンド

    ニコラス・エバースタット 、アシュトン・バーデリ

    Subscribers Only 公開論文

    大家族の衰退という中国で進行するトレンドがいまや大きな流れを作り出している。この現象が引き起こす衝撃を北京が十分に認識していないだけに、家族構造の変化は、今後長期にわたって、中国の大国化願望を脅かし続けるだろう。1世代後の中国は、この人口動態上の逆風ゆえに、当局が想定するほど豊かでも生産的でもないはずだ。伝統的にライフボートの役目を果たしてきた大家族主義や血縁的つながりが衰退し、大規模な社会保障国家をあと1世代で構築しなければならないとすれば、経済外交と国防政策を通じて外国に影響力を与える北京の手段は大きく制約される。いずれ中国は経済パワーが低下し、国防政策を下方修正せざるを得ない状況に直面する。

  • 日中戦争をいかに記憶するか
    ―― なぜ共産党は国民党の役割を認めたか

    ジェシカ・チェン・ワイス

    Subscribers Only 公開論文

    「国連の創設メンバー、国連憲章に署名した最初の国として中国は国際システムをしっかりと支えていく」と習近平は発言している。もちろん、そうした役割を担ったのは共産党ではなく、国民党だった。昨今の「強硬でとかく軋轢を引き起こす路線」が国際的リーダーシップを確立したい北京の目的からみれば逆効果であるために、戦後国際システムとのかかわりを強調することで、北京は緊張を緩和したいのかもしれない。台湾との関係を育んでいくことへの関心、未解決の戦争の過去を日本に思い出させるという思惑もあるのだろう。だがリスクもある。中国が戦後秩序の擁護者として自らを描けば描くほど、中国民衆は国際社会でより中心的な役割を果たす権利があるという感覚を強く持つようになるかもしれないからだ。・・・

  • 新エリート階級と中国の格差
    ―― オリガークか独裁か

    2021年3月号 ブランコ・ミラノビッチ

    Subscribers Only 公開論文

    民間経済部門が力強く成長すれば、新しい社会経済階級が誕生する。この集団を取り込もうと、北京は共産党メンバーになるように彼らに働きかけて、取り込みを図るが、結局、彼らは社会の他の部分からも共産党メンバーの大半からも浮いた政治・経済的な上流階級となる。このようなエリートの力をどのように管理できるだろうか。一見すると、中国の不平等は、急速な成長と都市化から予測できた副産物のようにも思える。しかし、格差に対処するには、この新エリート層の高まるパワーを抑制するかどうか、そうするとしてどのように抑えるかという難しい選択に直面する。下手をすると、中国に残される選択肢はオリガーキーか独裁ということになる。

失われた米国のクレディビリティ

  • 「帰ってきたアメリカ」は本物か
    ―― クレディビリティを粉砕した政治分裂

    レイチェル・マイリック

    雑誌掲載論文

    「本当にアメリカは帰ってきたのか」。トランプだけではない。同盟国はアメリカの国内政治、特に今後の外交政策に大きな不確実性をもたらしかねない党派対立を気にしている。これまでは、外交が政治的二極化の余波にさらされることは多くなかったが、もはやそうではなくなっている。議会での政治対立ゆえに条約の批准が期待できないため、米大統領は議会の承認を必要としない行政協定の締結を多用している。だがこのやり方は、次の政権に合意を簡単に覆されるリスクとコストを伴う。国内の政治的二極化が続き、ワシントンが複雑な交渉に見切りをつけ、新政権が誕生するたびに既存のコミットメントが放棄されるようなら、「敵にとっては侮れない大国、友人にとっては信頼できる同盟相手としてのワシントンの評判」は深刻な危機にさらされることになる。

  • 米同盟国が核武装するとき
    ―― クレディビリティの失墜と核拡散の脅威

    チャック・ヘーゲル、マルコム・リフキンド、ケビン・ラッド、 アイボ・ダールダー

    雑誌掲載論文

    中国とロシアが核戦力を近代化し、強硬路線に転じるにつれて、アジアとヨーロッパ双方の米同盟諸国は軍事的脅威の高まりにさらされている。一方で「アメリカは長年の軍備管理合意から距離を置き、米市民も、もはやグローバルなエンゲージメントに前向きではない」と同盟諸国はみている。このために「自国の防衛と安全保障をワシントンに頼れるのか、それとも、核武装を考える時期がきたのか」と考え始めている。脅かされているのは、アメリカへの信頼そして地球上で最大の破壊力をもつ兵器の拡散を阻止してきた数十年にわたる成功にほかならない。うまく対処しない限り、アメリカの同盟諸国は核武装を選択することになるかもしれない。

  • 米外交再創造のとき
    ―― 路線修復では新環境に対応できない

    ジェシカ・T・マシューズ

    Subscribers Only 公開論文

    世界もアメリカもあまりにも大きく変わってしまった以上、トランプ前の時代に戻るのはもはや不可能だ。長年の同盟関係に疑問を投げかけ、権威主義的な支配者にエンゲージし、国際組織や条約から離脱するに及び、アメリカ外交の基盤は大きく切り裂かれてしまった。しかも、社会が二極化し、上下院ともほぼ政治的に二分されている。ほとんどの政策変更が政治論争化するのは避けられない。そして、グローバル世界のパワーは分散し、アメリカの国際的名声は失墜している。バイデンが直面するのはとかく慎重で、ときにはアメリカに懐疑的な姿勢を示す外国のパートナーたちだ。ワシントンが自らの目標を達成したければ、米社会の傷を癒すとともに、世界を説得する力を取り戻さなければならない。

  • トライバリズムを克服するには
    ―― 寸断されたアメリカのパワー

    ルーベン・E・ブリガティー

    Subscribers Only 公開論文

    先の米大統領選は、アメリカ社会の深い亀裂を露わにし、警戒すべきレベルのトライバリズム(政治とアイデンティティをベースとする集団主義)政治が存在することを明らかにした。それは、まるで異なる集団間の抗争のようだった。有権者は政策への関心ではなく、アイデンティティに基づく党派主義の立場をとった。民族的・イデオロギー的アイデンティティが政党を蝕んでいる。アメリカの外交官や専門家たちが、現在のアメリカのような現象を外国に見出した場合、問題を解決するための外交的介入を訴えるかもしれない。重要なのは、違いを取り除くことではない。違いを管理する方法を学ぶことだ。

  • カルト集団とポスト真実の政治
    ―― アメリカの政治的衰退

    フランシス・フクヤマ

    Subscribers Only 公開論文

    ソーシャルメディアは民主的議論の前提となる共通の事実認識さえ消滅させてしまった。実際、共和党員の77%が2020年の米大統領選挙で大きな不正があったと考え、4分の1近くが、Qアノンが主張する異様な陰謀論を信じている。しかも、民主党、共和党の政策の違いをめぐる対立が、文化的アイデンティティをめぐる分断線として硬直化している。そして、共和党はもはやアイデアや政策に基づく政党ではなく、カルト集団のような存在と化してしまった。大きな不確実性は、今後、共和党内で何が起きるかにある。共和党の主流派が権限を再確立するのか、それともトランプが基盤を維持するのか。

  • 分裂と相互不信をいかに修復するか
    ―― 寸断されたアメリカの政治と社会

    イザベル・ソーヒル

    Subscribers Only 公開論文

    「すべてのアメリカ人の大統領になる」。現状からみて、これほど難しい課題もない。支持政党を分ける大きな要因はもはや政策ではなく、心の奥底にある価値観やアイデンティティだ。このために(自分の支持政党ではない)「もう一つの政党」は反対政党であるだけでなく、敵とみなされている。そして政治とは、共通の問題に対処していくための妥協点をみつけることではなく、自分の側が相手に勝利を収めるための闘いとみなされている。バイデンはブルーカラーの労働者、高齢の文化的伝統主義者、急進的な変化を恐れる女性たちに寄り添っていくつもりだ。警察の予算を打ち切ることはなく、中産階級の増税もしない。彼は社会を統一したいと考えている。取り残された人々に手を差し伸べ、すべてのアメリカ人が意見の違う人々をより尊重するように求めることから始めるべきだろう。それが、アメリカの魂を取り戻すことになる。

Current Issues

  • 米経済とインフレ論争
    ―― インフレは本格化するか、収束するか

    ロジャー・W・ファーガソンJr

    雑誌掲載論文

    連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定者が、2021年の平均インフレ率を約2・5%と予測し、その後、低下していくと考えているのに対して、他のエコノミストは、インフレ率は4%にまで上昇し、今後数年でさらに上昇するとみている。FRBの意思決定者は、「金利の引き上げに踏み切る段階になるまで、今後も忍耐強く状況を見守る」とコメントしており、受け入れ可能な範囲を超えた、突出した物価上昇があっても、それは、パンデミックによる経済シャットダウン後の経済再開に派生する一時的なボトルネック現象だとみている。だが、現在のインフレ率の上昇は一時的なものだとみなす、FRBの分析が間違っていれば、そして、FRBは認識面で後れをとっているという批判派の見方が正しければ、アメリカ経済だけでなく、世界の他の地域の経済も無傷では済まなくなる。

  • ワクチン革命への課題
    ―― そのポテンシャルを開花させるには

    ニコル・ルリエ、ヤコブ・P・クレイマー、リチャード・J・ハチェット

    雑誌掲載論文

    ウイルスの遺伝子配列の特定からmRNAを利用したワクチンが臨床試験に入るまでに要した期間は3カ月足らず。この技術があれば、致命的なパンデミックを引き起こすかもしれない未知の病原体「疾病X」に備えることもできる。だが課題も多い。「免疫がどの程度持続するのか」が分かっていない。生産能力が依然として限られ、保管の問題があるために、大規模な接種キャンペーンを実施するにはロジスティック面での問題を伴う。さらに、感染力が強い変異株が世界で急速に拡散しており、それが従来の株よりも致死的なのか、ワクチンの効果が弱まるかが依然としてはっきりしない。より基本的には、迅速かつ適切に機能するアウトブレイクの監視システムと国際的なデータ共有が必要になる。・・・。

  • パンデミックによる「学校閉鎖」と格差拡大
    ―― 途上国の学校再開への投資を

    エミリアナ・ベガス

    雑誌掲載論文

    富裕国に比べて低所得国や中所得国でより長期にわたって学校が閉鎖され、そもそも恵まれない生活環境にあるか、クラスについていけずにいた子供たちがリモートによる学習でさらに取り残されている。こうした学習機会の損失が世界の貧困国で集中的に起きている。質の高い学校教育を受けた子供たちは、そうできなかった子供よりも将来多くの所得を得るようになり、国レベルでみても質の高い教育を与える国は、より高い経済成長率を達成する傾向がある。このトレンドからみれば、現状は今後問題がさらに深刻化していくことを示唆している。低所得国と中所得国の学校をこのままの状態で放置すれば、貧困と格差はますます深刻になる。コミュニティ、政府、国際機関は公立学校、特に貧しく、疎外された地域で暮らす子供たちが通う学校の再開と改善に投資する必要がある。

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