本誌一覧

2015年7月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年7月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年7月号 目次

ロボットと人間は共生できるのか

  • ロボットが雇用を揺るがす
    ―― デジタル経済と新社会保障政策

    ニコラ・コリンブルーノ・パリアー

    雑誌掲載論文

    ロボットの台頭に象徴されるデジタル経済のなかで、「すてきな仕事」をしている人は今後もうまくやっていく。だが、製造、小売り、輸送などの部門で「うんざりする仕事」をしている人、決まり切ったオフィスワークをしている人は、賃金の引き下げ、短期契約、不安定な雇用、そして失業という事態に直面し、経済格差が拡大する。ルーティン化された雇用はいずれ消滅し、むしろ、一時的なプロジェクトへの人間とロボットのフォーマル、インフォーマルな協力が規範になっていく。技術的進化が経済を作り替えていく以上、福祉国家システムも新しい現実に即したものへと見直していかなければならない。最大の課題は、多くの人が仕事を頻繁に変えなければならなくなり、次の仕事を見つけるまで失業してしまう事態、つまり、「とぎれとぎれの雇用」しか得られないという状況にどう対処していくかだ。

  • ロボットが人の日常を変える
    ―― パソコンからパーソナルロボットへ

    ダニエラ・ラス

    雑誌掲載論文

    ロボットが日常化した世界では、人は目を覚ますと、自分専用のお使いロボットにスーパーマーケットで朝食用のフルーツとミルクを買ってくるように命令するかもしれない。ロボットはスーパーマーケットで、自分で買い物をしている人間に出会うかもしれないが、彼らもスーパーまで自律走行車を利用し、店内でも欲しいモノがある場所に連れて行き、商品の新鮮さ、生産地、栄養価値の情報を提供してくれる自動カートを利用している。・・・ロボット工学の目的は、ロボットが人間を助け、人間と協力する方法を見つけることにある。ロボットが人間の生活の一部となり、現在のコンピュータやスマートフォンのように一般的、日常的なものになればどうなるだろうか。現在の研究課題はロボットがモノをどのように扱うか、いかに推定するか、環境をどのように知覚するか、そしてロボット同士で、そして人間といかに協力するかを進化させていくことにある。

  • デジタル経済が経済・社会構造を変える
    ―― オートメーション化が導く「べき乗則の世界」

    エリック・ブラインジョルフソン

    Subscribers Only 公開論文

    グローバル化は大きな低賃金労働力を擁し、安価な資本へのアクセスをもつ国にこれまで大きな恩恵をもたらしてきたが、すでに流れは変化している。人工知能、ロボット、3Dプリンターその他を駆使したオートメーション化というグローバル化以上に大きな潮流が生じているからだ。工場のようなシステム化された労働環境、そして単純な作業を繰り返すような仕事はロボットに代替されていく。労働者も資本家も追い込まれ、大きな追い風を背にするのは、技術革新を実現し、新しい製品、サービス、ビジネスモデルを創造する一握りの人々だろう。ネットワーク外部性も、勝者がすべてを手に入れる経済を作り出す。こうして格差はますます広がっていく。所得に格差があれば機会にも格差が生まれ、社会契約も損なわれ、・・・民主主義も損なわれていく。これまでのやり方では状況に対処できない。現実がいかに急速に奥深く進化しているかを、まず理解する必要がある。

  • 殺人ロボットを禁止せよ
    ―― 人間を殺すロボットの脅威

    デニス・ガルシア

    Subscribers Only 公開論文

    殺人ロボットによる戦争はもはやフィクションの世界の話ではない。近い将来、映画の世界から抜け出して現実になる可能性は十分にある。中国、イスラエル、ロシア、イギリス、アメリカを別にしても世界の50カ国が、殺人ロボットを含むロボット兵器の開発計画をもっている。この領域でもっとも早い進化を遂げているのが中国だ。韓国も赤外線センサーで標的を感知できる安全監視ロボットを北朝鮮との非武装地帯に配備している。各国の軍部は、殺人ロボットがあれば、兵士を危険にさらすことなく、任務を遂行できると考えている。しかしそこにはソフトウエアの欠陥、あるいはサイバー攻撃による誤作動という、これまではなかった新しい問題がつきまとうし、道義的、法的問題も伴う。殺人ロボットが受け入れがたい現実を作り出す危険に今備えない限り、手遅れになる。

  • グーグルのXマン
    ―― セバスチャン・スランの思想

    セバスチャン・スラン

    Subscribers Only 公開論文

    セバスチャン・スランはロボット工学と人工知能に関する世界有数の研究者だ。1967年にドイツのゾーリンゲンで生まれたスランは、ヒルデスハイム大学、ボン大学の大学院で学び、1995年からはカーネギーメロン大学(コンピュータ・サイエンス)で研究生活を送り、2003年にスタンフォード大学へと移った。スラン率いるスタンフォードのチームは、2005年に米国防総省の研究機関・DARPA(国防高等研究計画局)が主催した自動運転技術のコンペで優勝を果たしている。2007年にグーグルにスタッフとして入社した彼は、その後、未来志向の研究所であるグーグルXラボを任される。2012年には、オンライン教育プログラムを手がけるスタートアップ企業ユダシティも共同設立している。聞き手はギデオン・ローズ(フォーリン・アフェアーズ誌編集長)

  • ドライバーレスカーの未来

    スティーブン・J・マルコビッチ

    雑誌掲載論文

    ドライバーを必要としない自律走行車は、サイエンスフィクションの世界から実証段階へと急速に進化しているが、正確には今後何が起きるのだろうか。すでに一部の自動車メーカーは、2020年までに、高速道路での走行や交通渋滞といった、一定のシナリオの下で車を完全に操作する自動運転モード付きの車を本格的に売り出す計画を発表している。時とともに、自動運転モードはわずかな人間の関与でより多くの状況に対処できるようになり、コストが低下するとともに、自動運転技術は、高級車から普通車へと広がりをみせていくだろう。アメリカだけでなく、ヨーロッパ、アジアの主要国も、研究資金を提供し、実証コンペを主催し、大規模な路上試験を実施することで、技術革新の先頭に立とうと競い合っている。だが、自動運転モードの限定的な導入でさえも、大きな恩恵とともに、一方では厄介な法律問題と業界再編を引き起こすはずだ。・・・

中国の大戦略を検証する

  • 遠大な対外経済構想の真意は何か
    ―― 中国が新秩序を模索する理由

    ロバート・ホーマッツ他

    雑誌掲載論文

    「グローバルなルールは中国にとって好ましいものであるべきだし、少なくとも中国の利益やモデルにとって敵対的なものであってはならない」と北京は考えている。こうして、北京は、もっと自国の利益に合致するものへとシステムを変化させることに同意してくれる同盟国作りを(一連の構想を通じて)試みるようになった。もちろん、中国のモデルが、市場重視型のアメリカモデルとは違って、国を中心に据えたものであることを忘れてはならない。(R・ホーマッツ)

    アジアの経済領域におけるアメリカの力は、その融資能力よりも、われわれの統治モデルとその価値に根ざしている。「良き統治」に向けた改革をめぐってわれわれは大きな役割を果たすべきで、これに大きな予算は必要ない。(法の支配を含む)相手国の統治能力が強化されれば、長期的な投資をする民間資本が流れ込むようになる。統治環境、政治・規制環境を整備しない限り、(いくら資金を注ぎ込んでも)中国のやり方はうまく機能しないだろう。(O・ウェシングトン)

  • 中国対外構想を支える広報戦略の実体

    デビッド・シャンボー

    雑誌掲載論文

    中国は、欧米秩序への代替秩序を壮大なスケールで築きつつあり、この試みをソフトパワーで補強しようと、「世界における中国のイメージ改善」を目的とする大規模な広報戦略を展開している。北京は国内だけでなく、外国での情報も管理し始めている。メディアや大使館、文化イベントを通じた対外広報だけでなく、孔子学院その他を通じて教育部門においてもその影響力を強化し、さまざまな国際会議を主催する「ホスト国外交」を展開し、有望な世界の政治家や研究者とのラインを作り上げている。だが、これらの活動に莫大な資金を注ぎ込んでいるにも関わらず、世界における中国のイメージはほとんど改善していない。問題は、言葉より行動が物を言うこと、つまり、その穏やかなレトリックと中国の行動が明らかに矛盾していることにある。

  • ポスト鄧小平改革が促す中国の新対外戦略
    ―― 中国は新たな国際ルールの確立を目指す

    エリザベス・エコノミー

    Subscribers Only 公開論文

    経済成長と政治的安定を重視するという点では、中国政府はこの30年にわたって驚くほど一貫した立場を貫いてきた。変化したのは、その目的を実現するために何が必要かという認識のほうだ。この観点から、今や中国は自国に有利なように、グローバルな規範を作り替えたいと考えている。鄧小平の改革路線を経た次なる改革に向けた国内の必要性を満たしてくには、外部環境を作り替えるための対外路線が不可欠だと判断している。責任ある利害共有者という概念はもう忘れたほうがよい。国際社会のゲームルールそのものを書き換えたいと望む中国は、国際機関でのより大きな影響力を確保することを模索し、軍事力を増強し、国内での技術革新を排他的に試みている。この目的からグローバルな広報戦略も開始している。世界各国は、ポスト鄧小平革命がどのようなものであるかを理解し、その世界的な衝撃を想定し、備える必要がある。

  • 大中国圏の形成と中国の海軍力増強
    ―― 中国は東半球での覇権を確立しつつある

    ロバート・カプラン

    Subscribers Only 公開論文

    陸上の国境線を安定化させ、画定しつつある中国は、いまや次第に外に目を向け始めている。中国を突き動かしているのは、民衆の生活レベルの持続的改善を支えていくのに必要な、エネルギー資源、金属、戦略的鉱物資源を確保することだ。だが、その結果、モンゴルや極東ロシアに始まり、東南アジア、朝鮮半島までもが中国の影響圏に組み込まれ、いまや大中国圏が形成され始めている。そして、影響圏形成の鍵を握っているのが中国の海軍力だ。北京は、米海軍が東シナ海その他の中国沿海に入るのを阻止するための非対称戦略を遂行するための能力を整備しようとしている。北京は海軍力を用いて、国益を擁護するのに軍事力を使用する必要がないほどに、圧倒的に有利なパワーバランスを作り出したいと考えているようだ。しかし、中国の影響圏の拡大は、インドやロシアとの境界、そして米軍の活動圏と不安定な形で接触するようになる。現状に対するバランスをとっていく上で、今後、「米海軍力の拠点としてのオセアニア」がますます重要になってくるだろう。

  • 中国を対外強硬路線へ駆り立てる恐れと不安
      ―― アジアシフト戦略の誤算とは

    ロバート・ロス

    Subscribers Only 公開論文

    中国の強硬外交は新たに手に入れたパワーを基盤とする自信に派生するものではなく、むしろ、金融危機と社会騒乱に悩まされていることに派生する中国政府の不安に根ざしている。シンボリックな対外強硬路線をとることで、北京はナショナリスティックになっている大衆をなだめ、政府の政治的正統性をつなぎとめようとしている。その結果、2009―10年に中国は対外強硬路線をとるようになり、近隣国だけでなく、世界の多くの諸国が中国と距離を置くようになった。この環境で、東アジアの同盟諸国は「大恐慌以来、最悪の経済危機のなかにあるアメリカは、自信を深め、能力を高めている中国に対処していけるのか」と疑問をもつようになり、こうした懸念を払拭しようと、ワシントンはアジア地域のパワーバランスを維持できることを立証しようと試み、アジアシフト戦略へと舵を取った。だが、台頭する中国を牽制するはずのアジアシフト戦略は、逆に中国の好戦性を助長し、米中協調への双方の確信を損なってしまっている。

エネルギーアップデート

  • アジアがエネルギー市場を規定する
    ―― アジアのエネルギー消費と
    シェール資源生産のバランスを

    マイケル・レビ

    雑誌掲載論文

    今後、アジアのエネルギー消費とアメリカのシェール資源生産のバランスが世界のエネルギー価格を規定していくだろう。アジアの石油消費が増えれば、アメリカの原油生産増を相殺でき、アジアの需要が低迷すれば、バランスは大きく崩れる。そして米シェールガスのアジア市場への輸出は、現在の硬直的な天然ガス市場を解体し、取引価格を低下させる大きな機会を作り出す。アジアの安全保障、環境対策への配慮も必要だ。ワシントンは、アジアのエネルギー安全保障の生命線であるシーレーン防衛へのコミットメントを可能な限り長期にわたって維持していくべきだし、環境対策として、アジアが必要とする二酸化炭素回収分離技術のコストダウンの実現に向けた投資を続けなければならない。変化した世界におけるエネルギー戦略をうまく描きだす上で、ワシントンがアジアファクターを十分に考慮するかどうかが、世界のエネルギー価格とアメリカのエネルギー戦略の成否を左右することになるだろう。

  • 貧困と電力と経済開発
    ―― 世界の20億人が電力のない生活をしている

    モーガン・D・バジリアン

    雑誌掲載論文

    世界の約20億人が、電気がないか、ほとんどない環境で暮らしている。こうした「エネルギー貧困」のほとんどが南アジアとサハラ以南のアフリカに集中している。リベリアでは日常的に電気を使っているのは人口の2%にすぎない。一方で、近年のソーラー発電パネルの大幅な価格下落を受け、地元の金融機関と協力した南アジアの複数の企業が、農村部で暮らす貧困層でもローンを組んでパネルを設置できるプランを提供し始めた。小規模システムは、人々が電化生活に向けた第1歩を踏み出す助けとなる。だが、大規模システムなら回避できる技術的・経済的な非効率性を抱えている。エネルギー貧困を削減するには、農村部における電力の必要性を満たすミッションを、経済開発という全体像のなかに位置づけて進める必要がある。

  • 中東原子力ブームの危うさ
    ―― テロや空爆のターゲットにされかねない

    ベネット・ランバーグ

    雑誌掲載論文

    中東では原発建設がブームになっているが、中東に原子炉を建設することの安全保障リスクがブームのなかで見えなくなっているようだ。リスクは原子炉の先に核兵器生産が見え隠れすることだけではない。原子力発電所が武装勢力の攻撃ターゲット、あるいは、占拠されて恫喝の手段とされてしまう恐れがある。これがチェルノブイリやフクシマのような核のメルトダウンへとつながっていく恐れがある。すでに中東では「建設中の原子炉」が何度も攻撃されている。イラクはイランのブシェール原子炉を何度も空爆し、イスラエルは1981年にイラクのオシラク原子炉を、2007年にシリアのキバール原子炉を空爆で破壊している。イスラム国(ISIS)その他の武装集団が中東で作り出している大きな混乱、その終末思想から考えて、これらの過激派組織が稼働中の原子炉を攻撃対象にするリスクは排除できないだろう。

  • 実用化に近づいたソーラーパワー
    ―― なぜソーラーは安く実用的になったか

    ディッコン・ピンナー他

    Subscribers Only 公開論文

    いまやソーラーパワーは他の電力資源と価格的に競い合えるレベルに近づきつつあり、2050年までにソーラーエネルギーは、世界の電力の27%を生産する最大のエネルギー資源になると予測されている。ソーラーパワーの急激な台頭を説明する要因としては、政府の促進策、低価格化と効率化、そして技術革新などを指摘できる。今後も多くの市場で、ソーラーパワーの電力生産コストは8―12%低下すると考えられているし、蓄電技術の進化もソーラーパワーの台頭を支えることになるだろう。電力価格が低下すれば、電力会社は再編を余儀なくされるが、ソーラーパワーの普及によって、温室効果ガスの排出量削減という環境上の大きなメリットも期待できる。太陽光に恵まれた地域における新しい住宅のほとんどの屋根にソーラーパネルが設置されるとしても、いまや不思議はない。

  • シェール革命で変化する エネルギー市場と価格

    エドワード・L・モース

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアを抜いて世界最大の天然ガス生産国の地位を手に入れたアメリカは、2015年までには、サウジアラビアを抜いて最大の原油生産国になると考えられている。2011年に3540億ドルの赤字だったアメリカの石油貿易収支も、2020年には50億ドルの黒字へと転じる。一方、シェール資源の開発技術は外国にも移転可能であり、今後、シェール資源開発は世界的に広がっていくだろう。実際、シェール資源は世界各地で発見されており、多くの国がこの分野でアメリカに続きたいと考えている。アメリカの開発可能なシェール資源が世界全体の資源の15%程度である以上、世界的な開発が進めば、これまでになく安いコストでエネルギー資源が供給されるようになる。40年にわたって市場を支配してきたOPECが恣意的に原油価格を設定し、世界経済を苦しめてきた時代にもいずれ終止符が打たれ、世界経済は大きな成長を遂げることになるだろう。・・・・

  • 原子力産業に未来はあるか
    ―― なぜ技術革新を生かせないか

    パー・F・ピーターソン他

    Subscribers Only 公開論文

    環境的にみれば、家庭や企業のために大規模な電力を生産するもっともクリーンで信頼できる方法は依然として原子力だ。それだけに、原子力部門全般の技術革新が構造的な問題によって行く手を阻まれていることは大きな問題だろう。たしかに、受動的安全システムと小型モジュール炉の登場に象徴される技術革新によって。原発事故のリスクを抑え、プラントの建設にかかる期間も大幅に短縮できるようになった。だが、これらが有望な新テクノロジーであるにも関わらず、シェールガスブームもあって、アメリカの電力企業は新たな原子炉建設に前向きでなく、このために原子炉のサプライヤーもこの技術をうまく生かせず(規模の経済を確立できず)にいる。この状況はいずれ変化するかもしれない。しかし最終的には、核廃棄物の貯蔵・処理に関する信頼できる計画がなければ、原子力産業における有望な技術革新がもたらす機会もうまく生かせないままに終わるだろう。

  • 世界エネルギーアウトルック
    ―― 中東原油の重要性は変化しない

    ファティ・ビロル他

    Subscribers Only 公開論文

    エネルギー市場における各国の役割が変化しつつある以上、急速な変化のなかで市場の流れを読み、自国を適切な場所に位置づける必要がある。そうしない限り、敗者になる。アメリカは天然ガスの輸出国に姿を変え、中東諸国は石油消費国への道を歩みつつある。ヨーロッパ、アメリカという輸出市場を失いつつあるロシアとカナダは、天然ガス輸出のターゲットを次第に中国や日本などのアジアに向け始めている。そして、シェールガス革命が進展しても、世界の天然ガス価格の地域格差は、今後20年はなくならない。もっとも重要なのは、アメリカ国内における原油生産の増大を前に、「もはや中東に石油の増産を求める必要はない」と考えるのは、政治的にも分析上も完全に間違っていることだ。生産コストが低くて済む、中東石油へ投資しておかなければ、アメリカの石油増産トレンドが終わる2020年頃には、世界は大きな問題に直面する。中東石油の投資を止めれば、原油価格の高騰は避けられなくなる。

中央アジアで衝突する四つの対外構想

  • 中央アジアで衝突する米中のシルクロード構想

    ジェームズ・マックブライド

    Subscribers Only 公開論文

    古代シルクロードによって中央アジアは世界最古のグローバル化の中枢地域となった。西と東の市場がつながったことで膨大な富が生み出されただけでなく、文化的・宗教的な規範と伝統が双方向へ拡散した。・・・しかし、16世紀までには、アジアとヨーロッパの陸上貿易は、より安価で時間もかからない海洋貿易ルートへとほぼ移行していた。現在の中央アジアは世界的にみても地域統合の遅れている地域の一つで、それだけに中央アジア地域を経済的に統合していけば、大きなポテンシャルを開花させられる可能性がある。この地域を重視しているのは新シルクロード構想を表明した中国だけではない。アメリカも新シルクロード構想を通じて、中央アジア地域への関与を深めている。インドもロシアも独自の中央アジア構想をもっている。それぞれの構想がどのように交わり、衝突するかによって、今後の中央アジア秩序が描かれることになるだろう。

  • 中国の大戦略を見誤るな
    ―― レッドラインを定義し対中強硬策を

    ジェフ・M・スミス

    雑誌掲載論文

    中国は2008年のグローバル金融危機をアメリカ衰退のシンボルとみなし、アジアからのアメリカの戦略的撤退が始まると判断し、南シナ海、東シナ海などで対外強硬路線をとるようになった。実際、中国は国際秩序を一方的に再編する力を手に入れつつある。AIIBだけではない。インド洋沿いの港湾施設に投資する「真珠の首飾り戦略」、「一帯一路」としても知られる新シルクロード構想も北京は推進している。それぞれをみる限り、大して警戒する部分はないようにみえても、一連の構想によって中国の戦略ポジションは強化されていく。北京の高官の多くは、歴史的な朝貢システム、つまり、地域諸国が中国に依存するか、中国を恐れて服従するようなシステムを再現したいと考えているようだ。アジアの安全保障が中国の行動に派生する不確実性に満ちている以上、ワシントンは中国が越えてはならないレッドラインを示すべきだろう。

  • AIIBを恐れるな
    ―― 米日がAIIBに参加すべき理由

    フィリップ・Y・リプシー

    Subscribers Only 公開論文

    欧米は、経済的・地政学的に台頭する中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を立ち上げた意図を疑い、既存の国際的金融機関の役割を切り崩そうとしているのではないかと懸念している。たしかに、アメリカが世界銀行を通じて、日本がアジア開発銀行(ADB)を通じて優位を手にしてきたのと同様に、AIIBは中国に優位を与えることになるだろう。だが、多国間開発銀行で主導権をもつことは大国の証のようなものだ。重要なポイントは、「多国間開発銀行の設立か、あるいは空母の調達のいずれかで、中国が影響力と国際的な名声を確立しようと試みるとして、どちらの道筋が好ましい」とわれわれが考えるかにある。米日がAIIB構想に参加すればより大きな利益を確保できるし、AIIBの今後のコースに影響を与えることもできるだろう。

  • 中央・南アジアにおける中国の地政学的思惑

    エバン・フェイゲンバーム

    Subscribers Only 公開論文

    中央アジア諸国は地政学的な理由から、中国との関係を好ましく思っている。中央アジア諸国にしてみれば、この2~3世紀にわたってこの地域を支配してきた外部パワー、つまり、ロシアに対する対抗バランスとして中国を利用できるからだ。一方、中国は、新疆ウイグルの分離独立を押さえ込むために、中央アジア諸国と協調するとともに、この地域の経済交流・改革ネットワークの中枢に新疆ウイグル自治区を位置付けたいという思惑がある。南アジアはどうだろう。パキスタンの不安定化という懸念を北京がワシントンと共有しているとは思えない。中国は、パキスタンの国内動向については、それほど気にしていない。かたや、インドはその防衛計画の中枢をパキスタンから中国へと移しつつある。戦略抑止力の信頼性が議論され、核実験をもう一度行うべきか、包括的核実験禁止条約(CTBT)はこの観点からどのような意味合いをもつかが議論されている。中国のインド戦略も、インドだけでなく、新たな米印関係というファクターが持ちまれたことで、流動化している。・・・・

  • 中央アジアで衝突する米中ロの思惑

    Subscribers Only 公開論文

    7月上旬、上海協力機構が中央アジアからの米軍の撤退を事実上求める声明を発表したことで、中央アジア情勢は一気に流動化しつつある。ウクライナ、グルジア、キルギスでの民主化運動に危機感を強めるロシア。ワシントンの対中封じ込め路線を警戒し、中央アジアのエネルギー資源に大きな関心を示す中国。ロシアの覇権主義を警戒するアメリカ。そして大国のなかで、揺れ動く中央アジア諸国。台頭する中国と、衰退し、強権主義、覇権主義への回帰を強めるロシアの利益が重なり合い、一方、アメリカが中ロの動きを警戒するとすれば、中央アジアで新「グレート・ゲーム」が展開されることになる。邦訳文は英文からの抜粋・要約。全文(英文)はwww.cfr.orgからアクセスできる。

  • 「中国・パキスタン経済回廊」は砂上の楼閣か

    サイード・ファズルハイダー

    Subscribers Only 公開論文

    中国政府は、パキスタンのグワダル港経由で中東と中国を結ぶ、「中国・パキスタン経済回廊」を2030年までに完成させる計画をもっている。2014年には、456億ドルを投入して高速道路、鉄道、天然ガス・石油パイプラインを建設すると表明した。この経済回廊が完成すれば、重要な石油シーレーンがあるインド洋への影響力を強化し、海賊が出没することで知られるシーレーンの危険なチョークポイント、マラッカ海峡をバイパスできる。だが、グワダル港があるバロチスタン州の治安環境がどのようなものかを考える必要があるだろう。ここは過激派集団が活動する不安定な地域だ。州都クエッタには、指名手配されているタリバーンの指導者たちが潜伏しているし、この州の小さな都市の多くは、数十年続いている反政府・分離独立派の活動拠点だ。しかも、バロチスタンは、同様に不安定なイランのシスタン・バロチスタン州と国境を挟んで隣接している。・・・

  • なぜ法王はプーチンとの会談に応じたか
    ―― バチカンの外交戦略とロシアの思惑

    ビクター・ゲタン

    雑誌掲載論文

    欧米の人々にとっては、ローマ教皇が世界のはぐれ者と会談している様子など、イメージするだけでも不快かもしれない。だが、現実にはバチカンとプーチンは一定の協力関係にある。バチカンはウクライナ危機やシリア紛争に巻き込まれているキリスト教徒を救いたいと考えている。プーチンはこれに協力する意図を示し、すでにプーチンは法王の敬意を勝ち取っている。アメリカ外交に批判的な点でも、バチカンとプーチンは立場を共有している。さらに、バチカンは、ロシア正教会との関係修復を実現したいと考えている。・・・ローマ法王は、欧米が反対しても、紛争のなかにいるキリスト教徒を救うために、カトリック教会が西と東、南北間の対立を中立的な立場から対話を通じて仲介していくことを決意している。

  • イスラム国のサウジ攻略戦略
    ―― テロと宗派間紛争

    ビラル・Y・サーブ

    雑誌掲載論文

    アルカイダは、2003―2006年にサウド家を倒そうと、テロでサウジ国内を混乱に陥れようとした。これはサウジの近代史におけるもっともせい惨で長期化した紛争だった。そしていまやイスラム国がサウジ国内でテロ攻撃を繰り返している。イスラム国の戦略は、アルカイダのそれ以上に巧妙かつ悪魔的で危険に満ちている。バグダディはサウジのシーア派コミュニティを攻撃して挑発し、その怒りをサウジ政府へと向かわせることで、宗派間戦争の構図を作り出そうとし、すでにサウジのことをイスラム国・ナジュド州と呼んでいる。一方、サウジの新聞とツイッターはシーア派に批判的な発言で溢れかえっている。政府は(反シーア派的な)メディアの主張と宗教指導者の活動をもっと厳格に監視し、抑え込む必要がある。そうしない限り、宗派間紛争が煽られ、サウジ政府とイスラム国の戦いが長期化するのは避けられないだろう。

  • NATOの対ロシア戦略
    ―― ストルテンベルグNATO事務総長との対話

    イェンス・ストルテンベルグ

    雑誌掲載論文

    2005―2013年までノルウェーの首相を務めたイェンス・ストルテンベルグは、2014年10月に第13代NATO(北大西洋条約機構)事務総長に就任した。この時期には、ロシアがウクライナで騒乱を画策し、イスラム国(ISIS)がイラクとシリアで大きな混乱と惨事を引き起こしていた。山積する課題のなかで事務総長に就任したストルテンベルグは、モスクワは勢力圏を確立しようと試みており、これは・・・われわれのビジョンと明らかに衝突すると指摘し、「対立が長期化することへの準備はできている。ロシアが対立の道を歩み続けるのなら、それに対抗していく」と語った。(聞き手はブライアン・オコーナー(Foreign Affairs Deputy Web Editor)

ギリシャ危機の行方

  • 「ギリシャ危機」という虚構
    ―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行だった

    マーク・ブリス

    Subscribers Only 公開論文

    2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

  • ヨーロッパ危機、中国の大戦略とTPP

    イアン・ブレマー

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパは反EU感情の高まり、メンバー国間の亀裂、そしてロシアの脅威にさらされている。問題の多くは、メンバー国間の関係がうまくいっていないことに派生している。ギリシャのような小国がかくも大きな混乱を引き起こし、いまも解決されていないこと自体、メンバー国の関係がうまくいっていない証拠だろう。しかも、大きな地政学問題が生じている。中東やサハラ砂漠以南から難民がかつてない規模でヨーロッパに押し寄せ、ウクライナ危機に派生する米ロの対立もエスカレートしている。これらのすべてがヨーロッパに重くのしかかり、欧州経済に対する足かせを作りだしている。一方、現在、世界でグローバル戦略をもっている国があるとすれば、それはアメリカではない。中国だ。中国は国際貿易を拡大し、多国間金融機関を立ち上げている。中国は国家主導型の貿易・投資ルールの確立を試みており、このモデルは欧米が確立してきた既存の国際ルールを直接的に脅かすことになる。この意味でもアメリカがTPP構想から遠ざかるのは戦略的に間違っている。TPPはアメリカの長期的戦略のもっとも重要なコンポーネントであり、協定を締結することが極めて重要だ。

  • ギリシャとヨーロッパの出口無き抗争
    ―― きれいには別れられない

    デビッド・ゴードン他

    Subscribers Only 公開論文

    ユーロゾーンからギリシャが離脱するのが、急進左派連合にとっても、ヨーロッパ各国の財務相にとっても、最善の選択であるかに思える。だが、「きれいに別れる」という選択は幻想に過ぎない。地理的立地がそれを許さない。ギリシャは、ヨーロッパでもっとも不安定な南東ヨーロッパの中枢に位置している。すでにギリシャの銀行破綻の余波がブルガリアやセルビアに及ぶのではないかと懸念されている。ギリシャが不安定化すれば、南東ヨーロッパの緊張がさらに高まる。それだけに、ギリシャとヨーロッパを結びつける絆は断ち切れそうにない。この点をもっとも深く理解しているのが、アンゲラ・メルケル独首相だ。IMF、アメリカ、多くのヨーロッパ諸国は唯一の打開策が、かつてなく踏み込んだ経済改革を受け入れさせる代わりに、債務救済に応じることであることを知っている。だが、教条的なチプラスとショイブレがそこにいる限り、これが実現する可能性はあまりない。

  • 緊縮財政が民主主義を脅かす
    ―― ルビコン川を渡ったヨーロッパ

    マーク・ブリス他

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    単一通貨を共有しつつも、財政政策を共有していなければ、危機に直面した国は緊縮財政を実施せざるを得なくなる。だがその結果、GDP(国内総生産)はさらに大幅に縮小し、それに応じて債務は増えていく。これがまさに、最近のヨーロッパで起きていることだ。問題はドイツが主導するヨーロッパ当局がデフレの政治学を債務国に強要し、債権国の資産価値を守るために、債務国の有権者が貧困の永続化を支持するのを期待していることだ。どう見ても無理がある。このような環境では、本来は安定している国でも急進左派と急進右派が、われわれが考えているよりも早い段階で急速に台頭してくる。ギリシャの「チプラス現象」がヨーロッパの他の国で再現されるのは、おそらく避けられない。ルビコン川を最初に渡ったのはギリシャだったかもしれない。しかしその経済規模ゆえにゲームチェンジャーになるのは、おそらくスペインだろう。・・・

  • 危機後のヨーロッパ
    ―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か

    アンドリュー・モラフチーク

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    単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。

  • なぜユーロプロジェクトは失敗したか
    ―― ギリシャのユーロ離脱は何を引き起こすか

    マーティン・フェルドシュタイン

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    共通通貨を導入さえしなければ生じたはずのない緊張と対立をユーロはヨーロッパにもたらした。これは、経済的に多様な国家集団に単一通貨を強要したことの必然的な結末だ。調和に満ちたヨーロッパを形作るという政治目標にもユーロは貢献できず、そこには政治的対立と反発が渦巻いている。もはやギリシャにはユーロ離脱という選択しか残されていない。ユーロを離脱し、新ドラクマを導入すれば、通貨の切り下げができるようになるし、ディフォルトに陥っても、ユーロ圏にとどまった場合よりも痛みは軽くて済む。問題は、ギリシャのユーロからの離脱がどのような連鎖を引き起こすかだ。ギリシャが離脱し、通貨の切り下げに踏み切れば、グローバル資本市場は、他のユーロ加盟国はどう反応するだろうか。・・・

  • ユーロとEUを救うには
    ――「ハードな」ケインズ主義を導入せよ

    ヘンリー・ファレル

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    危機に直面したユーロ経済を前に、ドイツはユーロ参加国にさらに厳格な歳出削減を制度化するように求め、2011年3月に各国は、ドイツ同様に、歳出削減措置を国内で法制化し、これを憲法に盛り込むことに合意した。だが、厳格な歳出削減措置は、ヨーロッパ経済に短期的なダメージを与えるだけでなく、長期的にはEUの政治基盤そのものを揺るがしかねない。いかなる政治制度も、有権者に経済の調整コストを繰り返し負担させながら正統性を維持していくことなどできないからだ。金本位制下の国家はまさしくこの轍を踏んで失敗した。厳格な歳出削減策で何とか債券市場を安定させることに成功しても、すでに損なわれているEUの政治的正統性がさらに損なわれれば、EUそのものが存続のリスクにさらされる。将来の経済危機のリスクを最小化し、経済危機に陥ったときに政治的に維持できない厳格な緊縮財政をとらないで済むような長期的な制度を導入するために、ヨーロッパは再びケインズに学ぶ必要がある。

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