本誌一覧

2015年8月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年8月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年8月号 目次

  • 外交・社会科学研究の衰退
    ―― 危機にさらされるアカデミックな研究

    チャールズ・キング

    雑誌掲載論文

    アメリカは経済や軍事領域の優位だけで世界の大国になったわけではない。この国が比類なき優位を持っているのは、外国に関する細かな分析能力のおかげでもある。言語と文化、歴史と政治システム、経済と人文地理領域の情報についてアメリカは抜きん出た強さを持っている。だが、こうしたアメリカの知的資本の根幹が揺るがされている。教育機関は、世界を網羅できる人材を育成するという任務から手を引きつつある。政府機関も、研究助成全般を縮小するとともに、米国家安全保障に関連がある(と彼らが考える)領域やテーマに助成を限定しつつある。さらに悪いことに、いまやアカデミックな研究は政治的な「文化戦争」の標的にされている。この下方スパイラルに巻き込まれていくのを食い止めなければ、アメリカの危機対応能力が脅かされ、良質な国際関係教育が例外なくもたらす「自分とは異なる人、慣習、考え方への敬意」を社会的に失う恐れがある。

  • 米エリート大学の嘆かわしい現実
    ―― 失われた人間教育と格差の拡大

    ジョージ・シアラバ

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカのエリート大学は若者に教養と規律を与える場ではなくなっている。大学は学部生を教える仕事を薄給の非常勤講師に任せる一方で、学生とはほとんど接することのない著名な研究者をリクルートすることに血道をあげている。経験が豊かで献身的な教員の指導のもとで、学生たちがさまざまな概念について意見を交換し、人生の目的を考え、それまで常識と考えてきたことに疑いを抱くような経験をさせるという役割はもはや重視されていない。親にも問題がある。いまや十代あるいはそれ未満の子供時代でさえ、名門大学に入るための激しい競争のなかにいる。・・・完璧な経歴づくりは、プレスクール選びから始まり、小中学校を通じて続く。これらが社会格差を増大させ、コミュニティ意識を希薄化させている。この歪んだ構造が教育上の問題だけでなく、政治・社会問題も作り出している。

技術革新と社会的変化を考える

  • 新技術の社会・経済的弊害を管理するには
    ―― 技術が結果を導く必然性はない

    マーチン・ウォルフ

    雑誌掲載論文

    知能ロボットの出現で人間はこれまでよりも、はるかに良い生活を送れるようになると言われている。だがそうなるかは、どのように恩恵を生かし、それを分かち合っていくかに左右される。一握りの人々が巨大な成功を手に入れ、残された多くの人は敗者になる可能性もある。テクノ封建主義は必要ないし、技術が結果を導く必然性はない。それを左右するのは、政治・経済の制度だ。その制度が、われわれが望まない結果をもたらすのなら、それを変える必要がある。これまでそうだったように、近年のイノベーションも人間を豊かにするポテンシャルを秘めている。しかし、経済生産に占める「生産性が急速に伸びている産業」のシェアが低下し、生産性の伸びが頑迷に上昇しないセクターのシェアが大きくなっている。・・・しかも、実質所得の中間値が停滞し、所得格差、労働分配率と資本分配率の格差が拡大し、長期的な失業が増えている。今後に向けて必要なのは、技術を生かし、その弊害を管理していく人間の知恵だろう。

  • 知能ロボットと暗黒時代の到来
    ―― 高度に社会的なロボットの脅威

    アイラ・レザ・ノーバクシュ

    雑誌掲載論文

    現状では、すべての社会的交流は人対人によるものだが、すでにわれわれは人工知能が人の交流の相手となる時代の入り口にさしかかっている。ほぼすべての雇用が脅かされ、新しいテクノロジーから恩恵を引き出せる人はますます少なくなり、失業が増大し、経済格差がさらに深刻になる。さらに厄介なのは、伝統的に人間関係を規定してきた倫理・道徳観に相当するものが、人間とロボットの間に存在しないことだ。ロボットが、人間のプライバシーや物理的保護を心がけ、道義的な罪を犯すことを避けようとする衝動をもつことはない。知能機械はいずれ人の心をもてあそび、十分な情報をもち、どうすればわれわれの行動に影響を与えられるかを学ぶようになる。つまり、「高度に社会的なロボット」によって人間が操られる危険がある。

  • デジタル経済が経済・社会構造を変える
    ―― オートメーション化が導く「べき乗則の世界」

    エリック・ブラインジョルフソン他

    Subscribers Only 公開論文

    グローバル化は大きな低賃金労働力を擁し、安価な資本へのアクセスをもつ国にこれまで大きな恩恵をもたらしてきたが、すでに流れは変化している。人工知能、ロボット、3Dプリンターその他を駆使したオートメーション化というグローバル化以上に大きな潮流が生じているからだ。工場のようなシステム化された労働環境、そして単純な作業を繰り返すような仕事はロボットに代替されていく。労働者も資本家も追い込まれ、大きな追い風を背にするのは、技術革新を実現し、新しい製品、サービス、ビジネスモデルを創造する一握りの人々だろう。ネットワーク外部性も、勝者がすべてを手に入れる経済を作り出す。こうして格差はますます広がっていく。所得に格差があれば機会にも格差が生まれ、社会契約も損なわれ、・・・民主主義も損なわれていく。これまでのやり方では状況に対処できない。現実がいかに急速に奥深く進化しているかを、まず理解する必要がある。

  • オフショアリングが誘発する次なる産業革命

    アラン・S・ブラインダー

    Subscribers Only 公開論文

    多くの人々は、教育レベル(とスキルのレベル)が高い人々と低い人々の間の区別、つまり、医師とテレホンオペレーターの違いに象徴される労働市場における重要な雇用区分は今も存在し、今後もなくならないと考えている。だがこうした見方は間違っているかもしれない。むしろ雇用に関する今後の重要な区分は、(インターネットなど)有線や無線での電子送信によって質をほとんど低下させることなく仕事をオフショアリング(外国へアウトソース)できる仕事か、そうでない仕事かで分かれることになる。先進国にとって、オフショアリングは第三の産業革命と呼ぶにふさわしい産業構造の変化、そして社会的変革を呼び込むことになるだろう。

  • 第三の技術革命

    ウォルター・B・リストン

    Subscribers Only 公開論文

    われわれを否応なく「グローバル・ビレッジ」の住民に仕立てあげた、コンピューターとテレコミュニケーションの一体化による大いなる変化は革命と呼ぶにふさわしものだ。いまや、富とパワーを生み出す資源は領土や物的資本ではなく、情報である。かつての革命同様に今回の技術革命も、富を生み出す手法を変化させることで、社会と権力のバランスを崩し、国家主権や世界経済だけでなく、安全保障概念、軍事戦略をも変貌させつつある。情報という知的資本を経済、政治、外交領域においていかにうまく集積、処理、応用するかが、制度や国家が今後生き残れるか否かを左右することになるだろう。

  • 株式市場の混乱と今後の中国経済

    スティーブン・ローチ

    雑誌掲載論文

    中国の株式市場に火花が散ったのは2014年11月、北京が上海・香港取引所の連動を発表したときだった。二つの市場で同じ株式を投資家は購入できるようになり、このアレンジメントを通じて外国資金が中国の国内市場へと流れ込んだ。中国の株式市場はこの12カ月にわたってブームに沸き返ってきたが、株価上昇の90%は上海・香港取引所の連動以降に起きている。非常にはっきりした投機熱が生じていた。投機が過熱したことで必然的に息切れが生じて流れが変わり、信用買いの弊害が表面化した。2015年6月、中国株は30%下落した。株式市場混乱の経済への衝撃はそれほど大きくはならないだろう。問題は、これが自由化に向けた金融改革プロセスを逆行させかねないことだ。依然として中国は消費主導型経済モデルの移行にコミットしているが、中国の株式市場バブルの崩壊によって、資本市場改革の先行きは不透明になっている。・・・

ヨーロッパの終わりなき混迷

  • 変化したドイツ政治と二つのヨーロッパ
    ―― 結局、メルケルはギリシャを見捨てる?

    ヤン=ベルナー・ミューラー

    雑誌掲載論文

    EUでは、プレイヤーの全ての面目を保つような政策的取り繕いが行われるのは珍しくない。だが、チプラスは今回もそうした玉虫色の解決策がとられると確信すべきではないだろう。パートナーたちがほとんど気づいていないドイツの政治文化の大きな変化を考慮すれば、ドイツがギリシャをユーロ圏に何としても留めようとすると考えるのは問題があるだろう。かつてのようなヨーロッパ統合に向けた強い意志をドイツはもっていないし、メルケルにしても政治的統合にまで踏み込むつもりはない。メルケルは歴史の本に何と書かれるか、安定し繁栄するEUを後に残せるかを気に懸けている。これまでのところ、彼女は共通のルールを厳格化することを重視している。規律を徹底するには、ギリシャの最終的な離脱を容認することが、メルケルが望むものを手に入れるための最善の方法なのかもしれない。

  • ヨーロッパの断たれた絆
    ―― 国家とEU分裂の二重危機へ

    ハリス・ミロナス

    雑誌掲載論文

    EUの官僚、メンバー国の財務相と首脳たちは、ギリシャ危機(と支援)を「モラルハザード」という視点で捉え、心の底では「ギリシャ経済は破綻すべきだし、急進左派連合政権も倒れた方がよい」と考えている。一方、周辺国の市民たちは、実際に反ユーロ的な立場をとっているのは、ヨーロッパ中核国における主流派のエリートたちだとみている。エリートたちはEUの設計者たちが育もうとした統合、繁栄、民主主義、連帯、相互尊重の思想をもはや信じていないとギリシャでは考えられている。EUを存続させるには、ヨーロッパ・プロジェクトの正統性が平和、繁栄、人権の尊重、そして民主的統治を基盤としていることを十分に認識していると、ブリュッセルは強くアピールしなければならない。7月13日の合意が、この目的に向けた第一歩であるとは到底みなせない。

  • 「ギリシャ危機」という虚構
    ―― 危機の本当のルーツは独仏の銀行だった

    マーク・ブリス

    雑誌掲載論文

    2010年に危機が起きるまでに、フランスの銀行がユーロ周辺諸国に有する不良債権の規模は4650億ユーロ、ドイツの銀行のそれは4930億ユーロに達していた。問題は、ユーロゾーン中核地域のメガバンクが過去10年で資産規模を倍増させ、オペレーショナルレバレッジ比率が2倍に高まり、しかも、これらの銀行が「大きすぎてつぶせない」と判断されたことだった。ギリシャがディフォルトに陥り、独仏の銀行がその損失を埋めようと、各国の国債を手放せば、債券市場が大混乱に陥り、ヨーロッパ全土で銀行破綻が相次ぐ恐れがあった。要するに、EUはギリシャに融資を提供することで、ギリシャの債権者であるドイツとフランスの銀行を助けたに過ぎない。ギリシャはドイツとフランスの銀行を救済する目的のための道筋に過ぎなかった。なかには、90%の資金がギリシャを完全に素通りしているとみなす試算さえある。「怠惰なギリシャ人と規律あるドイツ人」というイメージには大きな嘘がある。

  • ギリシャとヨーロッパの出口無き抗争
    ―― きれいには別れられない

    デビッド・ゴードン他

    Subscribers Only 公開論文

    ユーロゾーンからギリシャが離脱するのが、急進左派連合にとっても、ヨーロッパ各国の財務相にとっても、最善の選択であるかに思える。だが、「きれいに別れる」という選択は幻想に過ぎない。地理的立地がそれを許さない。ギリシャは、ヨーロッパでもっとも不安定な南東ヨーロッパの中枢に位置している。すでにギリシャの銀行破綻の余波がブルガリアやセルビアに及ぶのではないかと懸念されている。ギリシャが不安定化すれば、南東ヨーロッパの緊張がさらに高まる。それだけに、ギリシャとヨーロッパを結びつける絆は断ち切れそうにない。この点をもっとも深く理解しているのが、アンゲラ・メルケル独首相だ。IMF、アメリカ、多くのヨーロッパ諸国は唯一の打開策が、かつてなく踏み込んだ経済改革を受け入れさせる代わりに、債務救済に応じることであることを知っている。だが、教条的なチプラスとショイブレがそこにいる限り、これが実現する可能性はあまりない。

  • ヨーロッパ危機、中国の大戦略とTPP

    イアン・ブレマー

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパは反EU感情の高まり、メンバー国間の亀裂、そしてロシアの脅威にさらされている。問題の多くは、メンバー国間の関係がうまくいっていないことに派生している。ギリシャのような小国がかくも大きな混乱を引き起こし、いまも解決されていないこと自体、メンバー国の関係がうまくいっていない証拠だろう。しかも、大きな地政学問題が生じている。中東やサハラ砂漠以南から難民がかつてない規模でヨーロッパに押し寄せ、ウクライナ危機に派生する米ロの対立もエスカレートしている。これらのすべてがヨーロッパに重くのしかかり、欧州経済に対する足かせを作りだしている。一方、現在、世界でグローバル戦略をもっている国があるとすれば、それはアメリカではない。中国だ。中国は国際貿易を拡大し、多国間金融機関を立ち上げている。中国は国家主導型の貿易・投資ルールの確立を試みており、このモデルは欧米が確立してきた既存の国際ルールを直接的に脅かすことになる。この意味でもアメリカがTPP構想から遠ざかるのは戦略的に間違っている。TPPはアメリカの長期的戦略のもっとも重要なコンポーネントであり、協定を締結することが極めて重要だ。

  • 危機後のヨーロッパ
    ―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か

    アンドリュー・モラフチーク

    Subscribers Only 公開論文

    単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。

  • 中国の極東ロシアへの拡大
    ―― モンゴル化する極東ロシア

    サルバトーレ・バボネス

    雑誌掲載論文

    17世紀から19世紀にかけて、ロシアは一連の条約を通じて中国から現在の極東ロシアとして知られる地域を手に入れ、主権を確立した。だが極東ロシアの人口は少なく、ロシアの他の地域と統合されているとは言い難い。今後、中国から極東ロシアへの人口流入がさらに加速し、この地域は中国の投資にますます多くを依存するようになり、結局は、中国の軌道に取り込まれていくことになるだろう。中国が人と資金で溢れかえり、極東ロシアの人口がまばらで貧困である限り、人と資金が中国からロシアへと流れ込むのは避けられない。しかも中国で愛国主義が高まるなか、中国はロシアとの歴史的な条約の見直しを政治的に求めるようになる恐れもある。・・・

  • イスラムに背を向けるイスラム系移民たち
    ―― ヨーロッパ社会の世俗化とイスラム系移民

    ダーレン・E・シャルカット

    雑誌掲載論文

    宗教から距離を置く世俗化が進行するヨーロッパに、イスラム世界から大規模な移民たちが押し寄せている。2050年までに、イスラム教がヨーロッパの宗教人口の20%を占めるようになるとする予測もある。異文化のなかでの社会的疎外感がイスラム系移民の若者たちを過激な原理主義に向かわせる傾向があるのは事実としても、ヨーロッパ社会で世俗的多文化主義が台頭するなかで、イスラム系移民の世俗化も水面下では進んでいる。ヨーロッパの世俗主義が移民たちのイスラム思想を揺るがし、一部にはイスラムの信仰を捨てた者もいる。実際、原理主義に傾倒していく移民の若者よりも、信仰を捨てる者の方が多い。たしかに、信仰を捨てれば、懲罰を受けるという恐怖がつきまとうし、家族との衝突も避けられなくなる、それでも、多くのイスラム系移民の若者たちが、宗教に背を向けている。・・・

イラン核合意後の中東秩序

  • イランとの核合意をどう評価するか
    ―― 合意を拒絶する理由はなかった

    ロバート・ジャービス

    雑誌掲載論文

    P5+1が現状からみて最善の条件をまとめたとは考え難いが、「交渉を決裂させるよりも今回の合意の方がましだったかどうか」という問いには、イエスと答える。但し、今後の多くは、核合意が履行されていくなかで、政治がどのような展開をみせるかに左右される。イランと欧米の関係が現実に改善し始めれば、イランの近隣に位置するスンニ派諸国とイスラエルはより安心できる環境を手にする。これらの諸国にとって、アメリカと協力していく以外に道はない。これらの諸国との関係を管理していくのは、イランの核開発を阻止することに比べれば、難易度は高くない。たしかに、もっとよい合意は存在したかもしれないが、現在の国際環境から考えれば、まともな合意内容だとみなせるだろう。

  • イスラエルは現実に目を向けよ
    ―― 合意拒絶ではなく、包括的な代替路線を

    ブレント・サスリー

    雑誌掲載論文

    ネタニヤフは「(欧米が)イランと合意を交わしても、核兵器開発の時期を先送りできるだけで問題の解決にはならない」と批判している。イランの地域的活動を制約するガイドラインが核協議合意に盛り込まれなかったことへの不満を示し、合意そのものが「歴史に残る大きな間違い」だと考えている。だが、批判するだけではイスラエルの安全保障は強化されない。むしろ、イランがシリア内戦その他で活動するヒズボラを支援していること、そしてイスラエル・パレスチナ和平に反対していることを問題として提起する必要がある。一方で、パレスチナ当局との交渉を速やかにかつ誠実に試み、入植地での活動を全面的に凍結すべきだ。合意はすでに成立しているのだから、イスラエルは包括的な代替路線へと舵をとる必要がある。

  • 核合意後の新中東安全保障構造を
    ―― GCCとイランとの対話を

    フレデリック・ウィーリー他

    雑誌掲載論文

    今回の核合意によってイランが核武装するリスクは少なくとも今後10年、あるいはそれ以上にわたって先送りされる。だが、長年にわたる経済制裁で干上がっていたテヘランの国庫が石油の富で満たされていくにつれて、イランは勢いを取り戻していくと警戒する専門家もいる。今後の大きな課題は、サウジを中心とするスンニ派諸国とイランとの関係をどう管理していくかだ。シーア派のイランとスンニ派のサウジの今後の関係の多くは、テヘランにおける強硬派と現実主義者のバランス、そしてサウジ政府がメディアにおけるシーア派批判や「脅威としてのイラン」という見方を抑えていけるかで左右される。関係をうまく制御していくには、中東における唯一の多国間フォーラムである湾岸協力会議(GCC)を拡大・変化させ、イランとの対話の窓口にする必要があるだろう。

  • イラン核合意と北朝鮮の教訓
    ―― 合意を政治的に進化させるには

    ジョン・デルーリー

    Subscribers Only 公開論文

    イランとの核合意にとって、北朝鮮への核外交が失敗したことの中核的教訓とは何か。それは、最善の取引を交わしたとしても、合意そのものは外交ドラマのプレリュードにすぎないということだ。テヘランが平壌と同じ道を歩むのを阻むには、今後、テヘランがこれまでとは抜本的に異なる新しいアメリカや地域諸国との関係、国際コミュニティとの関係を築いていけるようにしなければならない。アメリカは北朝鮮との核合意を結びながらも、政治的理由から合意を適切に履行せず、結局、北朝鮮は核開発の道を歩み、核保有を宣言した。米議会からリヤド、エルサレムにいたるまで、イランとの核合意に反対する勢力がすでに動きだしている。相手国との関係の正常化こそが、核開発の凍結を実現する最善の方法であることを忘れてはならない。そうできなかったことが北朝鮮外交失敗の本質であり、この教訓をイランとの外交交渉に生かしていく必要がある。

  • イランとの論争は続く
    ―― NPTとウラン濃縮の権利

    ゲリー・セイモア

    Subscribers Only 公開論文

    核開発交渉の中核テーマは、これまでも、そしてこれからも、「イランがウランを濃縮する権利をもっているかどうか」だ。イランは、「IAEAの保障措置を受け入れる限り、核不拡散条約(NPT)加盟国が平和目的(つまり、原子炉の核燃料生産や医療用アイソトープ生産)のためにウラン濃縮を行うことは認められている」と解釈している。一方、アメリカ、フランス、イギリスは、条約は原子力エネルギーの「平和的な利用」を認めているだけで、「それがどのような権利を内包するかは明示していない」と主張してきた。要するに、ウラン濃縮によって原子炉を動かす核燃料や医療用アイソトープだけでなく、兵器級ウランの生産に道が開かれることが問題なのだ。P5+1(アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスとドイツ)は、依然として「イランは核兵器開発に向けたオプションを作り出そうとしている」とみている。今後想定しておくべきシナリオは二つある。イランが合意を破棄して、唐突に核兵器生産を公言するブレイクアウトシナリオ、そして、水面下で核兵器生産を試みるスニークアウトシナリオだ。

  • なぜイランは核兵器を保有すべきか
    ―― 核の均衡と戦略環境の安定

    ケネス・N・ウォルツ

    Subscribers Only 公開論文

    現在のイラン危機の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生している。イスラエルの核保有のケースがきわめて特有なのは、核武装から長い時間が経過しているにも関わらず、依然として中東で戦略的な対抗バランスが形成されていないことだ。イスラエルは核開発を試みて戦略バランスを形成しようとするイラクやシリアを空爆し、これらの行動ゆえに、長期的には持続不可能な戦略的不均衡が維持されている。現在の緊張の高まりは、イランの核危機の初期段階というよりは、軍事バランスが回復されることによってのみ決着する、数十年におよぶ中東における核危機の最終段階とみなすことができる。現実には、イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオだ。この場合、中東の軍事バランスが回復され、戦略的均衡を実現できる見込みが最大限に高まる。

  • 人間は動物を愛し、そして殺している
    ―― 動物福祉運動のこれまでとこれから

    ウェイン・パセル

    雑誌掲載論文

    人間と動物の関係は矛盾に満ちている。人間は動物を愛し、動物に癒され、残虐な扱いを禁止する法律も作る。一方で、毎年何十億匹もの動物が食品、衣料品、研究その他の目的で殺され虐待されている。だが、いまや動物の生活は本能だけでなく、複雑な社会的・感情的側面によって規定されていることが分かっている。動物福祉運動は動物に対する人間の問題行動を他の社会的懸念に関連づけることで進化してきた。闘犬、闘鶏などには組織犯罪が絡んでいるし、工場式畜産は食品の安全性と不可分の関係にある。動物福祉運動の結果、今やアメリカの牛肉、豚肉、養鶏業界は、過密飼養を見直し始め、バーガーキングからスターバックスまで100以上の食品小売業者が、豚や鶏を小さなクレートに閉じ込めて飼養する業者から豚肉や卵を買わないことに同意している。道徳意識と技術的・社会的イノベーションを組み合わせれば、日常的に行われている動物虐待をいつかなくせるはずだ。

  • 集約的畜産の悪夢
    ―― 残虐な集約的畜産はもはや限界を超えている

    ミュン・パク他

    Subscribers Only 公開論文

    畜産動物たちはひどい目に遭わされている。世界の多くの場所で、ますます多くの動物たちが、自然環境とは似ても似つかぬ環境に押し込められ、物理的な限界を超えてもっと多くの卵、牛乳、肉を生産するよう追い立てられている。「集約的畜産」が最初に考案された欧米で残酷な飼育が問題視され、是正と段階的廃止が進んでいるまさにそのとき、それが粗野なスタイルのままで世界各地に導入され拡散している。だが、世界市場向けに飼育される動物が増えるにつれて、また、動物たちがどのように取り扱われているかを示す映像を見る機会が増えるにつれて、動物の保護に対する政策立案者や企業関係者、非政府組織(NGO)、そして一般市民の関心は高まっている。もはや各国政府が国内での動物の保護を考えるだけでは十分ではない。動物の苦痛を軽減し、畜産業が意図せぬ、そして望まぬ結果が引き起こされるのを避けるには、今こそグローバルなコミットメントを示す必要がある。

  • 科学技術外交がなぜ必要か

    ロドニー・ニコラス

    雑誌掲載論文

    科学技術外交には、科学者が外交官を、外交官が科学者を助け、あるいは科学領域の国際交流が外交を助けるという3つのタイプがある。イランの核開発疑惑に関する交渉に物理学者のアドバイスが不可欠だった。一方、科学領域での研究のために、相手国での研究の認可を受けるには、外交官の助けが必要になる。さらに、科学者の地道な交流が外交的打開をもたらすこともある。かつてソビエトとアメリカの物理学者たちが試みた「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」はその具体例だ。今後、われわれは中国やインドだけでなく、アラブ世界との科学技術交流も試みるべきだろう。科学領域での協調・交流枠組みを立ち上げておけば、長期的な開発の基盤を築いていく助けになる。

  • エルドアンの大胆なギャンブル
    ―― 二正面作戦の政治的余波を考える

    ジャシュア・ウォーカー他

    Subscribers Only 公開論文

    トルコ政府は、イスラム国の空爆に踏み切っただけでなく、イラクにいるPKK勢力を空爆する二正面作戦を展開している。さらにアメリカとの情報共有の拡大に応じ、米軍の国内基地の使用を認める一方で、シリア側国境地帯に安全地帯の設定を求めている。複雑なのは、米軍がイラクのクルド民兵組織「ペシュメルガ」、シリアのクルド民兵組織「人民防衛隊(YPG)」と協力関係にあり、しかも、YPGはトルコが空爆対象にしているPKKの関連勢力であることだ。トルコのPKK空爆によって、トルコ国内のクルド人勢力とトルコ政府との関係も微妙になる。しかも、YPGがイスラム国に対して軍事的に勝利を収め、国内ではPKK系の政党が最近の選挙で大きな躍進を遂げている。エルドアンの大胆な賭けが、国際的、そして国内政治面でどのような帰結を伴うのか、予断を許さない状況にある。

  • 動き出したクルド連邦の夢
    ―― 政治的影響力を手にしたトルコのクルド人

    マイケル・タンチューム

    Subscribers Only 公開論文

    シリアのクルド人勢力(PYD)がイスラム国との軍事的攻防で大きな勝利を手にし、一方トルコ国内でもクルド系政党(HDP)が最近の選挙で大きな躍進を遂げた。だが、この展開から最大の恩恵を引き出せるのは、HDPを立ち上げ、PYDへの影響力をもつクルド労働者党(PKK)だろう。PKKがトルコ政府との停戦を維持できれば、HDPを通じてクルド人が民主的な方法で自治を獲得できる見込みはますます大きくなる。PKKは、分離独立は求めていない。むしろ、中東における3000万のクルド人を束ねる「汎クルド連邦」の実現を夢見ている。トルコとシリアの双方で自治的なクルド地域を確立するという夢が実現するかどうかは予断を許さないが、最近の進展が、すでにトルコと中東の政治地図を変化させているのは間違いないだろう。

  • エルドアン・トルコ大統領との対話

    レジェップ・タイイップ・エルドアン

    Subscribers Only 公開論文

    テロと戦うことに、われわれはいささかの迷いもない。テロに屈するつもりもない。トルコはテロの矢面に立たされており、すでに4万人が犠牲になっている。・・・トルコはイラク及びシリアと1210キロの国境線を共有しており、この国境線を守らなければならない。われわれはアメリカその他に国に、この国境線沿いに飛行禁止空域を設定することを提案している。これが実現すれば、より効果的なテロ対策をとれるようになるだろう。・・・現状でトルコ内に6000人の外国人イスラム過激派が入り込んでいるとわれわれはみている。れわれは入国と出国のポイントでイスラム過激派の動きを厳格に監視しているが、過激派は別の国境ポイントから出入りしている。そうした過激派の名前が分かれば、トルコはより安全な場所になる。彼らが旅券をもち、銃をもっていなければ(入国を許され、再び国境線を越えて)最終目的地で銃を手にする。だが、名前が分かっていれば、トルコに入国する段階で、それを阻止できる。・・・

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