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論文データベース(最新論文順)

日はまた昇る
―― 日本のパワーは過小評価されている

2020年11月号

ミレヤ・ソリス  ブルッキングス研究所  東アジア研究所ディレクター

「日本は、経済的繁栄を中国に、安全保障をアメリカに依存しすぎている」と悲観する見方が市民の間で大きくなっている。さらに、2020年9月の安倍首相の突然の辞任によって、国内の安定した指導体制や先を見据えた外交の時代が終わるかもしれないという懸念も浮上しつつある。地政学的ライバルが大きな流れを、そしてパンデミックが混乱を作り出すなか、ワシントンは、再び、日本のポテンシャルをまともに捉えず(この国を無視する)誘惑に駆られるかもしれない。しかし、日本の戦略的選択は、日本の将来だけでなく、米中間の激しい大国間競争の行方にも影響を与える。日本の時代は終わったとみなすこれまでの見方が、時期尚早だったことはすでに明らかだ。

安倍政権の遺産
―― なぜ長期政権が実現したのか

2020年11月号

トバイアス・ハリス テネオ・インテリジェンス  副会長

安倍晋三は、2012年12月に首相に再選された後の7年8カ月にわたって政治的に生き残っただけでなく、6回にわたって選挙で党を勝利に導き、最後の数カ月まで一貫して高い支持率を維持し、日本の政治システムをこれまで誰もなしえなかった形で統治してきた。彼は有権者の多くが望んでいた安定を提供した。他の民主国家の多くがポピュリズム政治の抵抗に遭い、政治基盤が不安定化し、民主主義そのものが後退していた時期に、安定を提供してみせた。後継者に選ばれた菅義偉は、安倍政治を変化させるのではなく、踏襲していくと約束している。しかし、彼は前任者ほど幸運ではないかもしれない。・・・

米覇権の解体
―― アメリカパワーの衰退と中ロの台頭

2020年10月号

アレクサンダー・クーリー  バーナード・カレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院准教授

中国とロシアの台頭に伴い、「独裁的で非自由主義的プロジェクト」が米主導の「リベラルな国際システム」に対する代替策として浮上している。途上国、さらには多くの先進国でさえ、欧米の援助や支援に依存し続けるのではなく、別のパトロンによる支援を頼ることができる。こうして、アメリカのグローバルリーダーシップは単に後退しているだけではなく、解体しつつある。アメリカの衰退は、循環的というよりも、むしろ、永続的なものだ。軍事費をいかにつぎ込んでも、アメリカの覇権解体を促している流れを止めることはできない。考えるべきは、米覇権の解体がどこまで進むかだ。

民主世界と中国の冷戦
―― 北京との共存はあり得ない

2020年10月号

アーロン・L・フリードバーグ プリンストン大学教授(政治・国際関係)

欧米の期待に反し、政治体制の締め付けを緩め、開放的政策をとるどころか、習近平は国内で異常なまでに残忍で抑圧的な政策をとり、対外的にもより攻撃的な路線をとるようになった。アメリカに代わって世界を主導する経済・技術大国となり、アメリカの東アジアでの優位を切り崩そうとしている。北京は、民主社会の開放性につけ込んで、相手国における対中イメージと政策を特定の方向に向かわせようと画策している。だが、北京は、中国市民を恐れている。自分たちが「社会の安定」と称するものを無理矢理受け入れさせるために大きな努力をし、国内の治安部隊やハイテク監視プログラムに数十億ドルを費やしている。共産党が絶対的な権力をもつ中国が、リベラルな民主世界が強く団結している世界において快適に共存できるとは考え難いし、民主世界が団結を維持できれば、中国が変わるまで、ライバル関係が続くのは避けられないだろう。

迫りくる米中ハイテク冷戦
―― 北京による対抗戦略の全貌

2020年10月号

アダム・シーガル  米外交問題評議会シニアフェロー

ワシントンは、中国ハイテク大手のサプライチェーンからの排除にはじまり、そうした企業との取引禁止、テレコミュニケーションが依存する海底ケーブルの規制にいたるまで、近未来における対中技術戦略のアウトラインをすでに定めている。中国も対抗策を準備し、半導体その他の中核技術の国内開発に取り組んでいる。ハイテク企業を動員し、一帯一路イニシアティブに参加する国々とのつながりを強化し、サイバー空間での産業スパイ活動も続けている。「ハイテク冷戦」の輪郭はすでに明らかだが、この競争から誰が恩恵を受けるのかは、はっきりしない。ドイツ銀行の報告書は、米中ハイテク戦争のコストは今後5年間で3・5兆ドルを上回る規模に達すると試算している。それでも、両国の指導者は、ハイテクを国家安全保障問題とみなすことで、国内の技術開発を最速で進めたいと考えている。

米中対立の本質とは
―― イデオロギー対立を回避せよ

2020年10月号

エルブリッジ・コルビー  元米国防副次官補(戦略・戦力展開担当) ロバート・D・カプラン  外交政策研究所の地政学チェアー

ワシントンの中国批判は的外れではない。アメリカは中国との非常に深刻な競争を展開しており、多くの面で強硬路線をとらざるを得ない状況にある。だが、米中間の問題の根底にイデオロギー対立が存在するわけではない。経済、人口、国土の圧倒的な規模とそれがもたらすパワーゆえに、 たとえ中国が民主国家だったとしても、ワシントンはこの国のことを警戒するはずだ。逆に、これをイデオロギー競争とみなせば、対立の本質を見誤り、壊滅的な結末に直面する恐れがある。中国に対抗する連帯を構築するのさえ難しくなる。大国間競争では、イデオロギー的な一致を求めたり、完全な勝利を主張したりすることなど無意味であり、むしろ、壊滅的事態を招きいれることを理解する必要がある。

バイデン政権の課題
―― 米外交の再生には何が必要か

2020年10月号

ベン・ローズ  オバマ政権大統領副補佐官 (国家安全保障問題担当)

トランプを指導者に選んだ共和党は、力が正義を作るという信念をもっている。国防予算の規模、外国の体制変革を追求する意欲、アメリカの経済力と軍事力への強硬な主張からもこれは明らかだ。さらに、白人キリスト教文明の先駆者というアイデンティティがアメリカに固有の例外主義を授けていると彼らは考えている。一方、民主党は正義が力を生むと考えている。米国内における欠陥や問題を是正する力や、移民を歓迎する民主国家としてのアイデンティティ、法の支配の順守、そして人間の尊厳に気を配る姿勢が、アメリカに世界のリーダーシップを主張する道徳的権威を与えているとみなしている。バイデンは、これを国内外で平常な感覚を取り戻すチャンスと説明している。その努力に、新しいタイプの世界秩序形成を加えるべきだろう。それは、ルールを押し付けることなくアメリカがリーダーシップを発揮し、他国に求める基準に自らも従い、グローバルな格差と闘う世界秩序だ。

米警察による殺人と人種差別
―― 警察改革の世界的教訓

2020年10月号

ローレンス・ラルフ プリンストン大学人類学教授

非白人の容疑者を殺害したアメリカの警官の多くは「身の危険を感じたため」と弁明する。1985年に最高裁が、容疑者が警察官その他の者に脅威(身の危険)を与えたときには、警察官は殺傷能力のある武器を使用できるとする判断を示して以降、こうした弁明がスタンダードになった。アメリカの警察による最悪の権力乱用が変わらないのは、銃の蔓延や地方分権型の警察活動、あるいは連邦政府による監督の欠如だけが理由ではない。いまやブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の要求は、警察の改革から予算削減、あるいは警察の廃止へとエスカレートしている。実際、現在警察に費やされている何十億ドルもの資金を、医療、住宅、教育、雇用の提供に向けるべきだと主張する活動家もいる。・・・

ヨーロッパの地政学的覚醒
―― 危機を前に連帯を強めた欧州の自立

2020年10月号

マックス・バーグマン センター・フォー・アメリカン・プログレス シニアフェロー

パンデミックは、数十年にわたる経済的、政治的な眠りからヨーロッパ大陸を覚醒させ、わずか6カ月前には想像もつかなかった形でEU統合プロジェクトを再活性化したようだ。トランプ政権によって乱用されてきた大西洋同盟に甘んじたり、対外的リーダーシップを攻撃的に行使するようになった中国に期待したりするのではなく、ヨーロッパの指導者たちは「自分に目を向けなければならないこと」を理解し始めている。危機のなかで2兆ドル規模の「経済復興基金」を成立させたことも、この文脈で理解すべきだ。いまや「戦略的自主路線」は、欧州の指導者たちが議論すべきテーマとしてよりも、むしろ、早急に成立させるべき政策とみなされている。大きな問題を内に抱えつつも、今回の危機を経て、ヨーロッパがより強く、より統合されたグローバルプレーヤーになることはほぼ間違いない。

ラテンアメリカとパンデミックの悪夢
―― ウイルスが暴き出した社会的病巣

2020年10月号

ディアナ・エンリケ  プリンストン大学社会学部博士候補  セバスチャン・ロハス・カバル  プリンストン大学社会学部博士候補 ミゲル・A・センテノ  プリンストン大学社会学教授 公共政策・国際関係大学院副学院長

ラテンアメリカにコロナウイルスを持ち込んだのは飛行機で世界を飛び回る富裕層たちで、最大の打撃を受けたのは貧困層だった。チリの場合、最初に感染したのはヨーロッパでの休暇から戻った首都サンティアゴのエリートたちで、彼らの家で働くメイドがウイルスを人口密度が高い貧困地区に持ち帰ってしまった。こうした階級格差はウイルスが国全体にばらまかれるきっかけをつくっただけでなく、一方的に大きな負担を貧困層に負わせた。初期の感染拡大は偶然とロケーションが大きな要因だったが、その後の感染動向は社会的状況によって異なる道をたどった。格差や非正規労働者の多さそして政府の能力の低さがラテンアメリカにおけるパンデミック対応の足かせを作り出した。だが最大の問題は、各国のお粗末な政治的リーダーシップだった。

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