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2015年10月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年10月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年10月号 目次

ヨーロッパを揺るがす難民危機

  • 欧州移民危機の真実
    ―― 悲劇的選択とモラルハザード

    マイケル・テイテルバーム

    雑誌掲載論文

    人道的にも政治的にも非常に深刻な危機がヨーロッパで進行している。難民に同情する市民感情のうねりは、リセッション、高い失業率、テロ攻撃、ユーロシステムの危機に苦しむヨーロッパに、さらに深刻な課題を突きつけている。ヨーロッパのポピュリストや反EUの政党や運動にとっては、そこに、うまく追い風にできる政治環境が生じていることを意味する。しかも「悲劇的な選択」と「モラルハザード」の問題がある。限られた資源を絶望的な状況にある人々にいかに分配するかを含めて、ヨーロッパの移民対策がその社会的価値と衝突する恐れがある。一方、好ましい目的地とみなされている国が人道主義的立場から移民を受け入れるという声明を発表すれば、ますます多くの人をリスクの高い旅へと駆り立ててしまう。紛争周辺国にいる難民への支援強化など、現在の路線を見直していかない限り、平和と繁栄、そして人の自由な移動に象徴されるヨーロッパ統合プログラムの成果そのものが、揺るがされることになる。

  • 難民の対応コストを誰に負担させるか
    ―― 難民を発生させた国の責任を問う

    ガイ・S・グッドウィン=ジル他

    雑誌掲載論文

    大規模な難民が発生しても、国際社会は難民を受け入れた当時国に主な責任を負わせ、近隣諸国が難民たちを暖かく受け入れることを期待する。難民受け入れ国を他国が支援することを定めた国際法が存在しないために、現実には、その対応コストは当事国が負担せざるを得ない状況にある。こうして、難民の滞在期間が長期化するにつれて、受け入れ国の出費は膨らんでいく。基本的に、難民が外国で人間的な生活をするために必要なコストは、人々が家を後にせざるを得ない状況を作り出した国に支払わせるべきだ。国際社会が大量の難民を発生させた政策や行動に関わった特定の指導者の資産を標的とする制裁を適用することもできるだろう。危機を作り出した国の資産を凍結して、その資金を難民の人道支援に充てることは物質的な貢献になるだけでなく、紛争に対する抑止力にもなる。・・・

  • 移民問題とヨーロッパの統合
    ―― 通貨危機から難民危機へ

    セバスチャン・マラビー

    雑誌掲載論文

    現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

  • 移民と社会同化
    ―― 追い込まれたスウェーデンの壮大な実験

    イーヴァル・エクマン

    Subscribers Only 公開論文

    この数十年にわたって、ボスニア、イラク、ソマリアなどから逃れてきた人々は、ヨーロッパでもっとも寛大なスウェーデンの難民保護政策の恩恵に浴してきた。だがその結果、かつては同質的だったこの国の社会はいまや大きく姿を変えた。経済が停滞するなか、単純労働を中心とする雇用状況が改善せず、失業率は高止まりしている。しかも、社会保障政策が大きな圧力にさらされている。こうして反移民の立場をとるスウェーデン民主党が政治的支持を伸ばしている。「巨大な社会実験がスウェーデン社会に強制されてきたが、その実験が失敗しているのはすでに明らかだ。多文化社会のビジョン、理想郷そして夢は崩れ去った」 と民主党は主張している。一方で、移民の若者たちによる暴動も頻発している。移民国家スウェーデンは大きな岐路に立たされている。

  • 問われるヨーロッパの自画像
    ―― ユダヤ人とイスラム教徒

    ヤシャ・モンク

    Subscribers Only 公開論文

    「私は移民に開放的だ」と自負しているヨーロッパ人でさえ、「イスラム系移民はそのアイデンティティを捨てて、ヨーロッパの習慣を身につけるべきだ」と考えている。右派のポピュリストはこうした市民感情を利用して、「(移民に寛容な)リベラルで多様な社会という概念」とそれを支えるリベラル派をこれまで攻撃してきた。だがいまや、極右勢力は「言論の自由を否定し、シャリア(イスラム法)の導入を求め、ユダヤ人、女性、同性愛者に不寛容な国からの移民たちが、ヨーロッパの秩序そのものを脅かしている」と主張し始め、リベラルな秩序の擁護者として自らを位置づけ、これまで攻撃してきたユダヤ人を連帯に組み込むようになった。問題は、ユダヤ人とイスラム教徒を交互に攻撃して秩序を維持しようとするやり方が単なる政治戦術にすぎず、このやり方では未来を切り開けないことだ。むしろ、ヨーロッパ人が自画像を変化させ、自分たちの社会が移民社会であることを認識するかどうかが、ヨーロッパの未来を大きく左右することになる。

  • ヨーロッパの人道主義はどこへいった
    ―― ボート難民が揺るがす欧州の理念

    ファブリジオ・タッシナーリ他

    Subscribers Only 公開論文

    リビアのカダフィ政権崩壊後、2011年半ばまでに3万のリビア人がイタリアのランペドゥーザ島へと押し寄せた。フランス当局は、移民たちが(イタリアを経由して)フランスに入国するのを阻止しようと、イタリアとの国境線を一方的に閉鎖した。2014年には、地中海を経てヨーロッパへ向かう難民の数は20万を超えるようになり、その途上で犠牲になる人々も3500人に達した。だが、リビアで拠点を築きつつあるイスラム国がヨーロッパを南から脅かす危険が生じているために、ヨーロッパは、アフリカからの難民流入を「対処すべき人道危機」としてではなく、むしろ封じ込めるべきリスクとみなしている。このまま、ヨーロッパがボート難民を受け入れる方法を見出せなければ、地中海は再びヨーロッパの安定を脅かすアキレス腱になる。開放的国境線という近代ヨーロッパの中核理念が、困窮する難民たちによって変化していくとすれば、転覆したボートが、ヨーロッパの失敗を象徴することになるだろう。

  • それでも日本の平和主義は続く
    ―― 市民の平和主義へのこだわり

    フランツ=ステファン・ガディ

    雑誌掲載論文

    安倍首相の意図が何であれ、日本の軍国主義は1945年8月に葬りさられている。戦後の日本人は軍人を蔑むようになり、かつての軍の指導者たちだけでなく、350万の元兵士たちにも、冷たい視線が注がれるようになった。日本軍は戦争に敗れただけでなく、社会的蔑視の対象にされた。戦後の日本人がかつての軍部と軍人に対して抱いた不信感はいまもなくなっていない。自衛隊が社会的に評価されているとすれば、この組織が災害復興の任務を引き受けているからで、多くの人は日本の安全保障に貢献しているのは、自衛隊よりも、日米安全保障条約だと考えている。仮に日本の軍事化が一気に進むとすれば、駐留米軍の撤退や北朝鮮による核攻撃など、東アジアの安全保障構造が大きく変化した場合だけだが、これが現実になる可能性は殆どない。日本の軍国主義に関するあらゆる議論にも関わらず、「平和国家としての日本」は今後も続くだろう。

  • キッシンジャーの歴史的意味合い
    ―― なぜ彼はリアリストと誤解されたか

    ニオール・ファーガソン

    雑誌掲載論文

    キッシンジャーは広く「リアリスト」だと考えられている。だが、彼は外交キャリアの初期段階から、理想主義者として活動してきた。確かに、彼はウッドロー・ウィルソンのような理想主義者ではないが、リアリストでもない。哲学的な意味では間違いなく理想主義者だった。キッシンジャーが重視したのは、ライバルや同盟国との関係を理解する上で歴史が重要であること。外交政策決定の多くは不毛の選択肢のなかから、ましな選択をすることに他ならないこと。そして、指導者たちが、道徳的な空虚なリアリズムに陥らないように心がけなければならないことだった。1968年末同様に、深刻な戦略的混乱のなかにある現在、ワシントンはキッシンジャー流の外交アプローチを切実に必要としている。しかし、まず政策決定者そして市民は、「キッシンジャーの意味合い」を正確に理解する必要がある。

  • 解体する秩序と帝国主義の教訓
    ―― 強制力と合意の間

    ニック・ダンフォース

    雑誌掲載論文

    西洋の帝国主義が一時的であれ、大きな流れを作り出せたのは、「強制力を行使する地域」と「相手の同意を求める地域」を明確に区別していたからだ。「パワー面で見劣りする国が相手なら力で支配できるかもしれない。しかし、相手が帝国のライバルとなると、周到な外交とうまく調整された協調が欠かせない」。これが当時の考えだった。このコンセンサスを無視して、ヨーロッパで帝国の建設を目指したヒトラーの試みは、悲劇を引き起こした。プーチンが、ロシアが主導する独立国家共同体(CIS)を形作ったのは繁栄を共有することを考えたからではない。帝国主義国家が世界の多くの地域を力で統治することに道を開いた国家パワーの格差がいまや消失し、新たな枠組みを考案する必要に迫られたからだ。すでに各国間、地域間のパワーの格差は消失している。ここでかつての帝国主義の歴史からどのような教訓を引き出すか。帝国にノスタルジアを抱くのも、帝国の強制力を正当化するのも間違っている。・・・

  • アジアにおけるアメリカと中国
    ―― 相互イメージと米中関係の未来

    ヘンリー・キッシンジャー

    Subscribers Only 公開論文

    中国のアジアでの覇権確立に対するアメリカの懸念、そして、包囲網を築かれてしまうのではないかという中国の警戒感をともに緩和させることはできるだろうか。必要なのは冷静な相互理解だ。中国がその周辺地域において大きな影響力をもつようになるのは避けられないが、その影響力の限界は中国がどのような地域政策をとるかで左右される。アジア諸国はアメリカが地域的な役割を果たすことを望んでいるが、それは(中国に対する)均衡を保つためであり、十字軍としての役割や中国との対決は望んでいないことも理解しなければならない。強固な中国が経済、文化、政治、軍事領域で大きな影響力をもつのは、北京にとっては、世界秩序に対する不自然な挑戦ではなく、正常への復帰なのだ。むしろアメリカは、現状の問題を想像上の敵のせいにしてはならない。米中はともに相手の行動を、国際関係における日常として受け入れるだけの懐の深さをもつ必要がある。

  • 複雑系の崩壊は突然、急速に起きる
    ――グローバル経済とアメリカという複雑系の将来

    ニオール・ファーガソン

    Subscribers Only 公開論文

    歴史は循環的で、その流れはゆっくりとしか変化しないという考えがもし間違っていたら。周期性がなく、静的であるとともに、スポーツカーのように、急発進するとしたら。崩壊プロセスが数世紀という時間枠で進むのではなく、夜の泥棒のように、突然にやってくるとしたら。複雑系には一定の特徴がある。小さな刺激で非常に大きな、そして、しばしば予期せぬ変化が急激に起きることだ。グローバル経済はまさしく複雑系だ。格付け会社による米債券の格付けの引き下げといった、突然の悪い知らせが、緊急ニュースとしてヘッドラインを飾る日がやってくるかもしれない。今後を考える上で、非常に重要な鍵を握るのは、こうした突然の変化だ。過去の帝国や現在のグローバル経済のような複雑適応系では、それを構成する一部の有効性に対する信頼がなくなっただけでも、システム全体が非常に大きな問題に直面する。

都市と企業と持続可能な経済

  • 都市の連携が世界を変える
    ―― 都市の新しい魅力

    マイケル・ブルームバーグ

    雑誌掲載論文

    これまで都市の経済開発といえば、既存の企業を市内に引き留め、新しい企業を、インセンティブを提供して誘致するというスタイルが主流だった。しかし21世紀に入ると、より効果的な経済開発モデルが登場した。企業ではなく、市民にとって魅力的な都市環境の整備に力を入れることが、経済モデルになった。多くの都市が経験している通り、いまや資本がある場所に才能ある人々が集まるのではなく、才能ある人々がいる場所に資本が集まる。そして企業は、人が住みたい場所に投資したいと考えるようになった。・・・今後、都市は貧困、医療、生活レベルの改善、治安強化のために、より積極的な対策を講じるようになるだろうし、気候変動対策でも、都市は中央政府以上に大きな役割を果たすようになる。・・・

  • 企業活動と持続可能な社会
    ―― 環境と社会への企業の貢献を数値化せよ

    ダイアン・コイル

    雑誌掲載論文

    他の一切の指標を排除して、利益だけが商業的成功を測る唯一の基準にされ、目先のことしか考えず、持続可能性を考えない風潮が生まれたのは、現在の会計基準のせいだろう。だが、この限定的で一面的な評価モデルにも変化が起きている。営利企業ながらも、社会や環境問題の解決に貢献する「ベネフィット・コーポレーション」という分類がすでにアメリカでは登場しているし、他の国々でも似たような企業が誕生している。現代の企業を「真に公平に評価する」には、金融資産と物的資産だけでなく知的資本、人的資本、社会資本、自然資産という四つの資本を考慮する必要がある。そうすれば企業は、より持続可能な活動を心がけるようになる。必要な変革を起こすには、新しい国際会計基準を作り、企業に決算報告とともに社会・環境インパクトを報告させるべきだろう。・・・

  • 都市設計を考える
    ―― 都市と郊外の対立と融和

    サンディー・ホーニック

    Subscribers Only 公開論文

    歴史的に都市開発にはさまざまな思想があった。19世紀には都市の美化運動と田園都市運動が大きな流れを作り出した。建物のデザイン、彫刻に芸術的要素を取り入れることを求めた都市の美化運動は公共建築部門で大きな流れを作り出したが、住民が都市にいながら田園生活を送れるようにすることを目的とする田園都市運動は定着せず、結局、郊外という概念が形成された。ここに都市と郊外という複雑な関係が生じた。ときに対立しつつも、いまや、ほとんどの人々が郊外の好きな場所に住みながら、仕事をし、食事をし、買い物をする場所についてこれまでよりも豊かな選択肢を持てるようになり、都市の中枢と郊外は相互補完的な存在になりつつある。だが、ここにいたるまでには伝統的な都市を再開発する必要があると考えたフランク・ロイド・ライトを始めとする偉大な都市開発の理論家、また、都市は完璧ではないからこそ面白いと考える専門家など、都市計画はさまざまな思想的変遷を経験している。

  • 急速な都市化の光と影
    ―― スマートシティと脆弱都市

    ロバート・マッガー

    Subscribers Only 公開論文

    今後の世界人口の成長の90%は途上国の都市やスラム街に集中し、先進国の都市人口の増大は鈍化し、人口が減少する都市も出てくる。いまや先進諸国の多くの都市では、スマートシティ構想を通じて都市インフラデータのネットワーク化が進められている。だが、600の大都市だけで、世界のGDPの3分の2を担っていることからも明らかなように、大都市が繁栄する一方で、中小の都市は取り残されている。途上国の都市のなかには、地方政府と市民の社会契約が破綻し、社会的アナーキーに陥っている「脆弱都市」もある。急速な都市化、突出した若年人口、教育レベルの低さ、そして失業が脆弱都市の問題をさらに深刻にしている。・・・

  • グローバル・コーポレート・シチズンシップを考える
     ――企業は政府、市民社会といかに協調すべきか

    クラウス・シュワブ

    Subscribers Only 公開論文

    「うまく経営されている企業が利害を有し、その本質を理解しているアジェンダに莫大な資源、専門知識、技能、マネジメントのスキルを投入すれば、他の組織や慈善団体よりもはるかに大きな社会的利益を導き出すことができる」。気候変動や水不足、感染症その他の地球の将来に大きな影響を与える問題に対処するうえで企業が応分の役割を果たすこと。これがグローバル・コーポレート・シチズンシップと呼ばれる概念の本質だ。たしかにグローバルアジェンダに対処するおもな責任は今も政府や国際機関にある。だが企業は、政府や市民社会グループと適切なバランスのパートナーシップを組んで、問題解決に大いに貢献できるはずだ。…グローバル・コーポレート・シチズンシップは社会における企業の前向きな役割を強化し、長期的な利益を高める企業の社会的関与の一形態であり、いずれ、企業をおもなステークホルダーに組み込んだ、新しいグローバル統治のモデルを示すこともできるようになる可能性を秘めている。

  • ノーベル平和賞を受賞した
    ムハマド・ユヌスが語る市場経済と貧困撲滅

    ムハマド・ユヌス

    Subscribers Only 公開論文

    これまでビジネスは非常に狭義に定義されてきた。金を儲けることがビジネスと考えられてきた。だが、この解釈は間違っている。 もちろん、金儲けは悪いことではないが、金儲けと関連づけなくても、ビジネスが人々に恩恵をもたらすことができる点に目を向けるべきだろう。 この意味でのビジネスの場合、人々のためになることをしたくて、このビジネスを行っていると言うこともできる。それはそれで立派なビジネスだ。 人間は金儲けの機械ではなく、さらに大きな価値を持っている。金儲けも素晴らしいが、他にも素晴らしいものはある。ビジネスを通じて世界が直面する問題を解決し、 後世に足跡を残せるとすれば、それは素晴らしいことだ。私はこの手のビジネスを、ソーシャルビジネス社会派ビジネスと呼んでいる。

中国経済の異変と世界経済

  • 中国市場の異変とグローバル経済
          ―― 中国経済はリセッションに陥りつつある

    シブ・チェン他

    雑誌掲載論文

    GDPの50%に相当する投資をして、それでも中国経済の成長率は7%だ。本当の成長率は4・5%かそれ未満だと考えられる。要するに、中国経済はリセッションに陥りつつある。 (W・ブイター)
    今後、さらに人民元が切り下げられる可能性は十分にある。他の諸国が中国の通貨切り下げに追随すれば、これらの影響は総体的にかなり大きなものになる。(R・カーン)

    危機に直面すると中国政府はマネーサプライを増大させる。だがいまや優れた投資機会は限られている。こうして流動性を増やしても、多くの資金は中国から外へ向かい、アメリカがその恩恵を多く受けるようになるだろう。中国の株式市場や不動産市場、そして経済が問題に直面すればするほど、資金が中国から(アメリカを含む)外国へと向かうようになる。(シブ・チェン)

  • 中国の市場自由化が引き起こす混乱
    ―― 政府による管理から市場メカニズムへの段階的移行

    ウィリアム・アダムス

    雑誌掲載論文

    2015年夏の中国の株式市場、為替市場の混乱は、北京が市場の自由化を進めていることが引き起こした変動だった。株式市場の自由化を目指して、「上海・香港株式市場の相互乗り入れ」を認めたものの、主要なグローバル株式指数であるMSCIが上海で取引される中国株式の指標への組み入れを見送ったことをきっかけに、混乱が作り出された。同様に、人民元の唐突な切り下げも、北京が人民元のグローバルな役割を拡大しようとしたことが原因だ。今後も、自由化を進めれば、北京は経済と金融システムに対するトップダウンの管理手法を維持できなくなり、市場による調整と金融市場の変動と余波はこれまで以上に大きくなる。新たな経済モデルを目指した自由化プロセスが維持される限り、世界は、新しい金融アイデンティティを模索する中国の試みが引き起こすグローバルな混乱への対応を今後も余儀なくされるだろう。

  • 株式市場の混乱と今後の中国経済

    スティーブン・ローチ

    Subscribers Only 公開論文

    中国の株式市場に火花が散ったのは2014年11月、北京が上海・香港取引所の連動を発表したときだった。二つの市場で同じ株式を投資家は購入できるようになり、このアレンジメントを通じて外国資金が中国の国内市場へと流れ込んだ。中国の株式市場はこの12カ月にわたってブームに沸き返ってきたが、株価上昇の90%は上海・香港取引所の連動以降に起きている。非常にはっきりした投機熱が生じていた。投機が過熱したことで必然的に息切れが生じて流れが変わり、信用買いの弊害が表面化した。2015年6月、中国株は30%下落した。株式市場混乱の経済への衝撃はそれほど大きくはならないだろう。問題は、これが自由化に向けた金融改革プロセスを逆行させかねないことだ。依然として中国は消費主導型経済モデルの移行にコミットしているが、中国の株式市場バブルの崩壊によって、資本市場改革の先行きは不透明になっている。・・・

  • 世界経済を左右する
    中国における成長と改革の行方

    ロバート・カーン

    Subscribers Only 公開論文

    市場プレイヤーの多くは、中国経済の成長率は今後急激に減速していくと考えている。2013年と2014年の成長率は6%台へと落ち込み、悪くすると5%を割り込む可能性もあると予測している。だが、こうした経済成長の減速は、中国が経済構造のリバランスを試み、現在の輸出・投資主導型経済から、消費主導型経済に移行するための改革を実施することを織り込んでいる。これを別にしても、IMF(国際通貨基金)が指摘する通り、労働力人口の減少が労働市場ダイナミクスを根本的に変化させる。つまり、中国は、労働力の過剰供給の時代が終わり、相対的な賃金が上昇する「ルイスの転換点」にさしかかりつつある。だが一方でIMFは、経済成長の停滞を理由に中国は改革(経済構造のリバランシング)を先送りするのではないかと懸念している。中国が野心的な改革を実行し、経済のリバランシングを実現して短期的な低成長のリスクを受け入れるか、あるいは、経済成長を維持しようと改革プロセスを先送りするかで、グローバルな経済成長の見通しは大きく変わってくる。

  • 中国経済はなぜ失速したか
    ―― 新常態を説明する二つの要因

    サルバトーレ・バボネス

    Subscribers Only 公開論文

    中国経済の成長率鈍化を説明する要因は二つある。一つは出生率の低下、もう一つは都市への移住ペースの鈍化だ。たしかに、1970年代の出生率の低下は経済成長の追い風を作り出した。一人っ子政策で、扶養すべき子供が1人しかいない親たちはより多くの時間を労働に充てることができた。だが40年後の現在、いまや年老いた親たちは引退の年を迎えつつあり、しかも子供が親を支えていくのは不可能な状態にある。都市への移住ペースの鈍化も中国の経済成長率を抑え込んでいる。1980年当時は、総人口の5分の1を下回っていた中国の都市人口も、いまや全体の過半数を超え、しかも主要都市の空室率が上昇していることからみても、都市化はいまや上限に達している。要するに、中国の経済ブーム・高度成長の時代は終わったのだ。今後成長率はますます鈍化し、2020年代には中国の成長率は横ばいを辿るようになるだろう。

  • バラク・オバマと米中東政策の分水嶺
    ―― なぜアラブの春を支持し、中東不介入策を貫いたか

    マーク・リンチ

    雑誌掲載論文

    ブッシュ政権期には、アラブの独裁者たちはテロ戦略・イラン戦略をめぐってアメリカと足並みさえ合わせれば、ワシントンの民主化要求をかわせると読んでいた。自分たちの利益に合致する地域秩序をあえて覆したいと望む中東の指導者はほとんどいなかった。だが、アラブの春に直面したオバマは独裁政権の指導者ではなく、街頭デモに繰り出した民衆を明確に支持し、ムスリム同胞団の政治参加を認めた。さらに、米軍の過大な地域関与を控え、基本的に不介入路線をとった。オバマはシリア紛争への踏み込んだ関与を避け、イラクから部隊を撤退させ、イランとの核合意をまとめ、アラブの春を支持した。おそらく、次期大統領はオバマの路線から距離を置こうとするだろう。しかし、結局は、容易ならざる中東の現実とオバマの選択の正しさを思い知ることになるだろう。

  • ロシアはなぜシリアに介入したか
    ―― プーチンに譲歩を求めよ

    ミッチェル・オレンスタイン

    Subscribers Only 公開論文

    なぜプーチンはシリア紛争に介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すためだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に制裁も緩和されると期待している。第2の目的は、シリアに関与することで、プーチンは、欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を確立できると考えたようだ。だが、安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではく、欧米はこの「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだ。ウクライナが東部国境を守る権利を認め、ロシアの部隊と兵器を撤収させ、恩赦と権力分有を条件に、ドンバスの指導者たちにキエフへ権限を返還させる必要がある。

  • ウクライナ「紛争凍結」という幻想
    ―― ロシアが再び武力行使に出る理由

    サミュエル・キャラップ

    雑誌掲載論文

    ロシアの目的は、ウクライナの新たな憲法構造のなかで親ロシア派地域の権限と自治権を強化し、キエフに対する影響力を(間接的に)制度化することにある。この意味で、ドンバスをウクライナの他の地域から切り離すのは、ロシアにとって敗北を受け入れるに等しい。これまでのところ、ミンスク2の政治プロセスは、モスクワが考えていたようには進展していない。つまり、ウクライナによる合意の履行に明らかな不満をもっている以上、モスクワは現状を覆すために実力行使に出る可能性が高い。いまや唯一の疑問は、行動を起こすかどうかではなく、どのような行動をみせるかだ。いずれにせよ、ロシアの実力行使によってウクライナはかなりの経済的・人的なコストを強いられる。ヤヌコビッチ政権が倒れてわずか数日後にロシアがクリミアに侵攻したように、モスクワは危機の当初から拙速で無謀な行動をとってきたことを忘れてはならない。

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