1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

ヨーロッパの自立と新米欧関係
―― 依存と支配からの独立

2019年8月号

アリーナ・ポリャコバ ブルッキングズ研究所フェロー ベンジャミン・ハダッド アトランティック・カウンシル ヨーロッパの未来イニシアティブ ディレクター

ヨーロッパはアメリカの防衛の傘に入れてもらう代わりに、従順な立場をとり、一方、歴代の米指導者たちも、ヨーロッパが大混乱に陥るよりも、防衛にただ乗りされる方がましだと考えてきた。だが、その後の国際環境の変化を前に安全保障の優先順位を見直したアメリカは、ヨーロッパを危険な環境に放置するようになった。対米協調を国際関係におけるパワーバランスに置き換えがちだったヨーロッパにとって、「パワー」という概念を受け入れることが不可欠だ。一方、アメリカは、ヨーロッパが軍事力を強化しても、アメリカのリードに従うと期待するのは幻想であることを理解しなければならない。防衛支出を増やしたヨーロッパが、政治的に受身であり続けると期待するのは間違っている。いまや大西洋関係は大きな分岐点にさしかかっている。

「ジョージ・ワシントンは適度なアルコールを与えてからでなければ、兵士たちを戦場に向かわせることはなかった」。イギリス軍の要塞に突入し、独立戦争の流れを変えたイーサン・アレンも、「いつもながら、リンゴ酒とラムのカクテルを燃料にしていた」。メイフラワー号の航海から独立戦争そして南北戦争にいたるまで、建国期のアメリカの歴史の節目には必ずアルコールが登場する。しかし、労働の節目で軽く一杯やることが農村コミュニティで受け入れられていた時代から、物理的な間違いが大きなコストを伴う工場労働の時代に移ると、飲酒に対する態度は一変する。1840年代までには禁酒運動が起きるようになり、1920年からの13年間にわたって現実に禁酒法が施行された。多くの意味で、飲酒容認派と禁酒派間の緊張、酒場の生活を支持する人々と家庭の生活を支持する人々の緊張は、アメリカ国家を形作る要因の一つだった。

社会に貢献できる金融システムを
―― 金融危機の本質的教訓を生かすには

2019年8月号

ジリアン・テット フィナンシャル・タイムズ 米国版総合編集者兼編集委員会委員長

「経済を支配するのではなく、経済に奉仕する金融システムを構築する方法をアメリカは本当に知っているのだろうか」。悲しいことに、答えはおそらくノーだ。アメリカのバンカーが、規制当局、政治家、株主たちともに、金融危機とポピュリストの反動が再来するリスクを小さくすることを望むのなら、「ファイナンス」、「バンク」、「クレジット」の本来の意味を彼らのコンピュータスクリーン上に映し出しておくべきだ。これらの本来の意味に即して、銀行業を「目的達成のための手段で、信頼を基盤に社会グループによって遂行される活動」と捉えると、アメリカの金融の何が間違っていたか、将来に向けてそれをいかに是正していくべきかを考える助けになる。かつて同様に現在も、投資家は自身が理解していないことを過度に信用する傾向がある。信用市場を支えている信用の基礎を常に疑うしかない。

人工知能への備えはできているか
―― うまく利用できるか、支配されるか

2019年8月号

ケネス・クキエル  エコノミスト誌 シニアエディター

AIは良くもあり、悪くもある。賢いが、鈍い部分もある。文明の救世主であるとともに、世界の破壊者でもある。実際、どのようにして決断を導き出しているか分からないし、それを人間が解明することもできない。特に、汎用人工知能(AGI)については、「独自に進化し、人間が管理できなくなるのではないか」と懸念され、特定型AIについても「デザイナー(である人間)がその意図を完全に伝えられず、壊滅的な結果が引き起こされるのではないか」と心配されている。一方で、AGIのことを心配するのは、火星が人口過剰になることを心配するようなもので、先ず、(AGIに関して)想定されていることが実現する必要があると主張する専門家もいる。イノベーションの進化ペースをどの程度「警戒」し、(機械のメカニズムに関する)説明の「正確さ」をどこまで求め、(個人データを利用することによる)パフォーマンス強化と「プライバシー」のバランスをどこに求めるか。社会がこれらのバランスをどうみなすかで、人間がAIとどのような関係を築いていくかが左右される。

スパイと嘘とアルゴリズム
―― 情報活動とソーシャルメディア

2019年8月号

エイミー・ゼガート フーヴァー研究所シニアフェロー マイケル・モレル 元米中央情報局副長官・長官代理

情報機関は常に干し草の山のなかから針を見つけなければならなかったが、現在、干し草の山は指数関数的に大きくなっている。多数のスマートディバイスがインターネットにつながれ、オープンソース情報は爆発的に増えている。秘密情報はいまでも重要だが、どこにでもあるオープンソース情報が、大きな価値を持ち始めている。ロシア軍のウクライナ侵攻も、米軍のビンラディン急襲作戦も、第一報はソーシャルメディアによってもたらされた。いまやアメリカ戦略軍の地下核司令センターのスクリーンには秘密情報とともにツイッターが表示されている。問題は、米テクノロジー企業と情報機関の間にスノーデン事件以降存在する不信感のために、技術的協調が進まず、権威主義国家に比べて、サイバー情報面での戦略をうまく整備できないことだ。しかも、ディープフェイクという騙しのテクノロジーが登場しつつある。・・・

CFR Blog
イランと石油の地政学

2019年8月号

エイミー・M・ジャッフェ 米外交問題評議会シニアフェロー(エネルギー担当)

石油輸出国機構(OPEC)でのイランの影響力は低下し、原油の生産能力も低下しつつある。湾岸の産油国がロシアとの関係強化を模索しているのは、減産で原油価格を維持していくためだけでなく、ロシアとイランの間に楔を打ち込むという地政学的利益が期待できるからだ。一方、イランは、「資源ツールを越えた交渉カード」をもっていることを世界に示そうと、北朝鮮をモデルに、核開発プログラムを前倒しで再開するかもしれないし、それでもうまくいかなければ、(誰による仕業か分からない)グレーゾーンでのアラブ産油国のエネルギー施設への攻撃を続けるかもしれない。しかし、依然として外交路線を模索する可能性も残されている。現在のイランにとって本当の教訓とすべきなのが、北朝鮮ではなく、「政治腐敗、生産施設のメンテへの投資不足、外国投資の引き揚げによってその石油産業が機能不全に陥っている」ベネズエラかもしれないからだ。・・・

中国は貿易戦争をどうみているか
―― 自らを追い込んだトランプの強硬策

2019年8月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授(政治学)

ナバロとライトハイザーは、「世界経済におけるアメリカの主導的役割を維持するには、中国の経済モデルを抜本的に変化させるしかない」という立場をトランプに受け入れさせ、強硬策に出た。しかし、貿易戦争は、ワシントンが考えるほど大きな痛みを中国に強いていないようだ。2019年に入って最初の5カ月で、中国の対米輸出は4・8%減少したが、同時期に、中国にとって最大の貿易相手である欧州連合(EU)への輸出は14・2%上昇し、EUからの輸入も8・3%上昇している。一方、アメリカの対中輸出は2019年に入って以降の最初の5カ月で26%以上の落ち込みをみせた。農業を含む、数多くの米セクターのダメージはかなりのレベルに達している。有利な状況を手にしているのは中国であり、北京に妥協するつもりはない。貿易戦争、米中経済の切り離しのあるなしに関わらず、中国はアメリカからの経済独立コースを着実に歩み続けている。

制御不能な戦争
―― イランとの衝突は瞬く間に地域紛争へ拡大する

2019年8月号

イラン・ゴールデンバーグ 新アメリカ安全保障センター 中東安全保障プログラムディレクター

関係プレイヤーのなかに戦争を望んでいる者はいないが、それでも戦争になりかねない。アメリカとイランの局地戦は、スンニ派の湾岸諸国やイスラエル、一方でイランの同盟勢力であるイラク、レバノン、アフガニスタン、イエメン、シリアのシーア派を巻き込んだ地域紛争に瞬く間に拡大する。イランはホルムズ海峡を脅かし、世界の原油価格を高騰させる。大がかりな作戦が終わっても、紛争は続き、イランの傀儡勢力は、中東における米軍やそのパートナーを長期的に攻撃し続ける。イランから流出する難民が作り出す危機の地域的な不安定化作用がどのようなものになるかも考えなければならない。トランプ政権とイスラム共和国はもっと慎重になる必要がある。そうしない限り、両国は、瞬く間に制御不能となる危険で大きなコストを強いられる渦に巻き込まれるはずだ。

体制変革の鍵を握るベネズエラ軍
―― ベネズエラ政府と軍隊

2019年7月号

ローラ・ガンボア・グテーレス ユタ州立大学 アシスタントプロフェッサー

グアイド暫定大統領による4月の蜂起の呼びかけは失敗に終わった。政府がグアイドに逮捕状を出すという噂を前に、彼が軍の一部指導者が合意していたタイミングよりも1日早く行動を起こし、軍内部の同盟勢力を動揺させてしまったとする見方もある。結局、マドゥロを退陣に追い込むには、体制を支持することで軍が恩恵を得るという構図を切り崩し、新体制になっても、軍のメンバーが起訴されたり、処罰の対象にされたりしないことを保証しなければならない。問題は、この重要なポイントをめぐって反政権派と軍の信頼関係が十分でないことだ。処罰の対象にされないという保証なしで、軍が独裁者を見捨てるとは考えにくい。ここで重要になるのが、体制移行後の身分を仲介し、保証する第3国の存在だ。・・・

人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索

2019年7月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ研究所 政治経済担当議長

大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。・・・

Page Top