1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

米中という二つのリビジョニスト国家
―― トランプと米中関係の試金石

2017年4月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授

非自由主義諸国は、民主化を求めるアメリカの大戦略が本質的に現状のトランスフォーメーション(大変革)を重視していることに大きな脅威を感じている。問題は、アメリカの外交エリートたちが、多くの場合この点を認識していないことだ。現実には、アメリカと中国はともに現状の変革を求めるリビジョニスト国家なのだ。ワシントンは今後も民主化を促進すべきだが、より他に脅威を与えない方法を通じて、しかも地域大国とアメリカの関係に戦略的余波が及ばない地域でそれを行動に移すべきだろう。例えば、ワシントンがベトナムとの過度な関係強化を試みれば、中国は、ロシアがウクライナにとったのと同様の行動を、ベトナムに対してみせるかもしれない。ロシアや中国の国境近くへと同盟ネットワークを拡大することや、中ロ国内の民主化を支援することには慎重でなければならない。ワシントンはリベラリズムを促進しつつも、その大戦略が他国をひどく脅かす可能性があることを十分に認識する必要がある。

トランプと日本
―― 潜在的紛争の火種としての認識ギャップ

2017年4月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・リポート エディター

2月の日米首脳会談は成功だったとみなされている。日本は、安全保障面の要望についてはほぼ満額回答を得たし、トランプは日本防衛へのコミットメントを再確認した。為替操作や安全保障のタダ乗りといった、かねてトランプが主張してきた対日批判に安倍首相がさらされることもなかった。共同声明でも為替問題への言及はなく、共同記者会見でもトランプは、為替を含むいかなる貿易問題への注文もつけなかった。ただし、共同声明の中には「二国間の枠組み」という曖昧な表現があり、この点で認識にずれがあれば、将来的に対立の火種となりかねない。しかも、トランプにとって厄介なのは、公約どおり貿易赤字を解消して、日本などの外国に奪われたと主張してきた雇用を「取り戻すこと」など、とうてい不可能なことだ。トランプ支持基盤の多くが反日感情を抱いていることも、今後の日米関係における不安材料だろう。・・・

トランプとプーチンのゲーム理論
―― 相互不信と関係の冷却化

2017年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授(政治学)

トランプもプーチンもかなりのパラノイアで、トランプはおもに国内に、プーチンはおもに外国に敵を見いだしている。こうした人物たちが、本質的な問題をめぐって協力していけるはずはない。2人の性格からみて、トランプもプーチンも、相手が約束を守るはずはないと考えるだろう。客観的にみて合意が双方に恩恵をもたらす場合でさえ、2人は「相手が約束を守り、自分が約束を守らなければ、取り分はさらに多くなる」と考えるかもしれない。ともに相手の過去の行動がどのようなものかを十分に理解していないとしても、2人の相互不信は今後ますます大きくなり、アメリカとロシアの関係は早晩、冷え込んでいく。アメリカの死活的利益がプーチンによって脅かされているのは、そうすることがロシアの利益に合致するからではなく、プーチンが作り上げた体制とイデオロギーが、そうした政策を必要としているからだ。・・・

CFR Events
漂流するアメリカ外交
―― ソフトパワーの崩壊とリスクヘッジ策

2017年4月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長
スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー

「トランプ政権がかくもこれまでとは逆方向の路線をとり、大統領がアメリカのパワーの目的について何も議論しないことに、私は驚き、衝撃を受けている。人権、民主化の促進などについて彼は何も語っていない。控えめな表現しかしないというのではなく、全くこれらに言及しないのは、この国の政治的文脈に照らしても驚くべきことだ」(S・パトリック)

「これまでワシントンは、外での出来事がやがて国内に余波をもたらすと先読みして、『チャリティやフィランソロピー』としてではなく、リアリズムの視点から問題を内面化してとらえ(世界に関与し)てきた。アメリカの行動は現実にはリアリズムに基づくものだったことがうまく理解されていない」(R・ハース)

「アングロスフィア」の未来
―― アングロサクソン・コミュニティとグローバル秩序の再編

2017年4月号

エドゥアルド・カンパネッラ 金融エコノミスト
マルタ・ダッス アスペン研究所 ヨーロッパ問題担当ディレクター

いまや世界はノスタルジックなナショナリズムに覆われている。紛争が起きやすい環境だ。しかし一方で、過去への郷愁が国家間協調を促すこともある。この文脈で、プライドを捨てきれないイギリス人の多くにとっての積年の夢、「アングロスフィア(英語圏諸国)」の再形成が次第に現実味を帯び始めている。メンバーとなり得るのはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、アメリカ、イギリスといったアングロサクソン文化を共有する国々だ。これをきっかけに、世界は文化を共有するコミュニティへ分かれていくかもしれない。ノスタルジックなナショナリズムは文化的に距離のある地域間の緊張や摩擦を高める一方で、文化的に近い国家を強く結びつける。すでにこの流れがグローバル秩序を変化させているが、これが必ずしも孤立主義や紛争につながっていくと決まっているわけではない。新たな協調モデルが生まれる可能性も残されている。

仏大統領選挙は何を問いかける
―― 出現した新しい政治ダイナミクス

2017年3月号

カルロ・インヴェルニッツィ・アクセッティ ニューヨーク市立大学助教(政治学)

フランス政治の主役だった右派左派の二大政党の公認候補が、二人そろって決選投票に進めそうにないという驚くべき事態が起きている。第一回投票を想定した世論調査によれば、両候補を合わせても得票率35%に達しない。おそらくはルペンとマクロンの対決になると思われる決選投票の結果は、フランス、ひいてはヨーロッパ政治の新時代の幕開けを告げるものになるだろう。ルペンは「根なし草のグローバル化支持者」と「愛国者」との対決こそが、今後の政治闘争では重要になると主張している。一方、マクロンは「保守主義」と「反動」に対抗して自らは「進歩」の側に立つと述べている。両者の対立は、冷戦終結後の欧米世界における新自由主義的社会経済モデルをめぐる対立であり、そこで問われているのは、冷戦後、欧米世界が基本としてきた社会モデルと民主主義そのものだ。

ブレグジット後のヨーロッパ
―― 統合の本来の目的に立ち返るには

2017年3月号

マティアス・マタイス ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際関係大学院(SAIS)助教(国際政治経済学)

欧州統合プロジェクトの設計者たちが欧州連合(EU)の現状をみれば、さぞや落胆するだろう。1950年代にエリートたちがヨーロッパ経済共同体(EEC)を創設したのは「第二次世界大戦後のヨーロッパで国民国家システムを再生するためだった」からだ。当時は、主権国家は段階的に市場を開放するが、国内経済が悪化したときに対処できるように、国家に一定の自己裁量権を残すというコンセンサスが存在した。だが1980年代半ばにヨーロッパのエリートたちは、統合によって国民国家システムを強化するのではなく、新しい超国家的統治システムの構築へとギアを入れ替えた。そしていまやイギリスがEUからの離脱を選んだことで、EU史上最悪の政治危機が引き起こされつつある。欧州の指導者たちは、統合の目的を新たに描き、統合プロセスの管理メカニズムを再確立する必要があるだろう。

ドゥテルテの対中・対米戦略のバランス
―― 穏やかな対中アプローチの真意

2017年3月号

ジェシカ・リョウ ノースカロライナ州立大学助教

長年の同盟国であるアメリカと「決別し、中国と手を組む」つもりだというドゥテルテ発言は世界を驚かせたが、この発言は「インフラ上の深刻な問題を改善することで、貧困層の生活を改善していく」という彼の選挙公約と密接に関連している。アメリカはドゥテルテのインフラ計画に資金提供する資源も政治的意思ももっていないが、一方の中国は潤沢な資金だけでなく、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を擁している。すでにドゥテルテは1件のAIIBからの融資を成立させ、中国との間で総額240億ドルに達する13件の二国間融資をまとめている。問題は、親米国フィリピンでの対中感情がよくないこと、そして、このやり方が必要以上にアメリカを刺激していることだ。ドゥテルテが中国資本の一部を取り込むチャンスがあるのは、国内で彼の支持率が高い間だけだろうし、ワシントンは、選挙公約を実現する上で必要なドゥテルテの(中国を念頭においた)経済戦略をもっと許容すべきだろう。

中国のグローバル・リーダーシップという神話
―― 中国はグローバル化モデルにはなり得ない

2017年3月号

エリザベス・C・エコノミー 外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

世界のリーダーとしての役割を続けることへのワシントンの意思が不透明化するなか、世界は、たとえ一時的であっても、アメリカに代わってリーダー役を担える国を求めている。習近平がそれに興味を示しているという理由だけで、中国が世界のリーダーとしての条件を満たしていると考える専門家さえいる。すでに中国がグローバルなリーダーシップに必要な資質を身に付けているのは事実だろう。世界第2位の貿易大国で、世界最大の常備軍を擁し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路のような新しい組織や構想を提案するなど、中国はすでに世界のリーダーのように振る舞っている。しかし、その開発モデルがもたらした環境、医療・衛生、その他の社会問題に関して中国モデルは模倣に値するものだろうか。世界における人権侵害について何も語らず、国内の人権問題を長年にわたって認めてこなかった国をグローバルリーダーと呼べるだろうか。・・・

ドイツが主導するヨーロッパの防衛強化
―― ベルリンに何ができるか

2017年3月号

ステファン・フローリック トランスアトランティック・アカデミー シニアフェロー

トランプのアメリカがグローバルなリーダーシップからまさに手を引こうとし、イギリスが欧州連合(EU)からの混乱に満ちた離脱プロセスに足をとられるなか、リベラルな秩序と米欧関係の今後を心配するヨーロッパ人やアメリカ人の間では、アメリカに代わってドイツが「リベラルな秩序」のリーダーになるのではないかと期待されている。しかし、これは希望的観測というものだ。ドイツはすでに国内と国境線における危機対応に気を奪われている。世界におけるリベラルな覇権国としてのアメリカにドイツが取って代わることができないのは、純粋にそうした力をもっていないからだ。しかし、ベルリンが世界の出来事に無頓着なわけではない。ドイツとそのパートナーは、(NATOからの離脱も辞さないとする)トランプの恫喝策を、機能不全に陥っているヨーロッパ政治を立て直す機会にできるかもしれない。

Page Top