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論文データベース(最新論文順)

さようなら、国際主義のアメリカ
―― トランプ時代の歴史的ルーツ

2019年4月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学教授(戦略研究)

トランプの「アメリカ第1主義」は、外交の初心者が犯した間違いではなく、アメリカのリーダーたちが戦後外交の主流概念から距離を置きつつあるという重要な潮流の変化を映し出している。先の大戦期及びその直後に成人した世代は、アメリカが世界をリードしなければ、いかに忌まわしい世界が出現するかを本能的に理解していた。これは、戦争で苦しんだ末に得た教訓だった。しかし、この世代の多くが亡くなり、具体的に秩序を形作った子どもの世代も少なくなってきている。これが、今後の米外交政策にもっとも重要な帰結を与えることは間違いない。トランプが大統領の座を退いても、「アメリカのリーダーシップなき世界」がどのような末路を辿るかを知る人々が支えたかつてのコンセンサスへアメリカが回帰していくことはない。残念ながら、不幸な結果を記憶している人々はもうすぐいなくなる。

現実主義志向の国際システムを
―― 民主国家の拡大志向を抑えよ

2019年4月号

ジェニファー・リンド ダートマスカレッジ 准教授(政治学)
ウィリアム・C・ウォールフォース ダートマスカレッジ 教授(政治学)

世界が直面する課題を「現状の維持を試みる自由主義国家」と「不満を募らせ、秩序を覆そうとする(リビジョニストの)権威主義国家」間の抗争として捉えるのは間違っている。権威主義国家のリビジョニズムとは異なるが、自由主義国家も、民主主義を輸出し、民主的空間の幅と奥行きを拡大するリビジョニスト路線をとってきた。むしろ、アメリカとパートナー諸国は民主主義の拡大路線を止め、これまでの成果を固めるために現実を見据えた保守路線をとるべきだろう。非自由主義的大国との長期的な競争的共存の時代に備えるには、民主空間の拡大策からは手を引き、既存の同盟関係を強化する必要がある。リベラリズムを基盤とする秩序を守るには、保守主義を取り入れなければならない。

中国は近く台湾に侵攻する?
―― 重層的誤算と戦争リスク

2019年4月号

ピーター・グリース マンチェスター大学教授(中国政治)
タオ・ワン マンチェスター大学  博士候補生(東アジア政治)

中国で対台湾強硬論が高まっている。「アメリカは台湾を守る戦闘のために部隊を送り込むとは考えにくい」とメディアは指摘し、北京も「台湾を締め付けてもアメリカは静観する」と信じているようだ。しかも、再統一を実現すれば、「習近平は毛沢東や鄧小平に劣る」とは誰も言わなくなる。一方、台湾人の多くは「中国に台湾を侵略するつもりはない」と確信している。かたや、トランプ米大統領は「(中国を刺激するような)波風をたててもたいしたことにはならない」と考えている。問題は、これらがすべて間違っており、こうした希望的観測が重なり合うことで紛争リスクが高まっていることだ。

迫り来る中台危機に備えよ
―― 米中台のレッドラインと危機緩和策

2019年4月号

マイケル・チェース ランド研究所シニアポリティカルサイエンティスト

アメリカ、中国、台湾での政治的、政策的展開によって新たな台湾海峡危機が起きる危険が高まっている。中国が1995―96年の危機の時よりも、台北を屈服させるよりパワフルでさまざまなオプションをもっているだけに、リスクは高い。台湾統一は、習近平が重視する「中国の夢」における重要なアジェンダの一部であり、国内での正統性を強化するためにも台湾問題を解決しようとするかもしれない。一方、台湾では台湾人としてのアイデンティティが高まり、一国二制度への支持も低下し、しかも、2020年に総統選挙を控えている。そして、ワシントンはすでに中国を敵視する路線にギアを入れ替えている。状況が悪化していくのを座視するのではなく、それが不可避となった場合にうまく対応できるように態勢を整え、台湾海峡危機を阻止するためオプションを実施できる態勢を整備しておく必要がある。

解体した米欧同盟
―― 新同盟形成の余地は残されているか

2019年4月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策)
ジェレミー・シャピロ 欧州外交問題評議会 リサーチディレクター

トランプ政権の最初の2年間にわたって、ヨーロッパの指導者たちは「虐げられた配偶者」のような状態に追い込まれた。酷い扱いを受けながらも、離婚を恐れ、状況は改善すると見込みのない期待に思いを託してきた。しかし、離婚は避けられなかった。トランプ政権にとって、大西洋関係の統合とは、ヨーロッパがアメリカの言う通りに動くことを意味するに過ぎなかった。すでに同盟は死滅している。今後、アメリカが、ヨーロッパのノスタルジックな幻想のなかに存在する利他的なパートナーになることはあり得ない。新しい大西洋関係には、同盟の価値を認識する米大統領と、域内の分裂を克服し、米欧の平等なパートナーシップにコミットするヨーロッパ人が必要になる。

ベネズエラの人道的危機と難民

2019年4月号

ロシオ・カラ・ラブラドル、ウィリアム・メロー

ベネズエラは、かつてない政治・経済危機のなかにあり、その余波は西半球に留まらない地域へ及んでいる。約40万人が政治的迫害や暴力を理由に亡命を求め、これはラテンアメリカの歴史をみても、最大かつもっとも短期間で起きた大規模な人の流出であり、国連はすでにこの事態を「人道的危機」と描写している。・・・

紛争か交渉か
―― チャベス主義とベネズエラの未来

2019年4月号

イワン・ブリスコー 国際危機グループ プログラムディレクター (ラテンアメリカ&カリブ海周辺諸国)

マドゥロ政権は、いかに生き延びるかを議論している。どうすれば重油を精製できるか。資金援助に乗り気でない中国とロシアから援助を引き出すには、どのような見返りが必要になるか。社会騒乱を引きおこす恐れのある欠乏の深刻化を前に、軍高官たちはどのように反応するか。野党勢力との交渉、暫定的な軍政、早期における大統領選挙の実施も取り沙汰されている。チャベス主義者の虚勢が怒りへ変化し暴走し始める危険もある。マドゥロ政権は団結して誇りをもつように市民に求めているが、政権の高官や軍部は、非常に大きな内外の圧力にさらされながら活動している。最終的に今後数週間、あるいは数カ月で忠誠の対象を見直すことになるかもしれない。・・・

米財団の足跡と新しい任務
―― 多極化した世界とフォード財団のミッション

2019年3月号

ダレン・ウォーカー フォード財団会長

アメリカの財団は多くの成果を収めつつも、冷戦という環境下、欧米の思想や制度を重視するあまり、途上国の成長と安定を公正に支援できなかった部分もある。そして、いまや世界は多極化し、財団も多種多彩になっている。カーネギー、フォード、ロックフェラーなどの米ファミリー系財団が独占してきた助成活動も、21世紀に入ってブルームバーグ、ゲイツ、ソロスが設立した欧米財団だけでなく、インドのアンバニ、ナイジェリアのダンゴート、中国のマー、メキシコのスリムなどの大富豪が設立した世界の財団と共有していくことになるだろう。米財団だけでは世界の切実な問題に対応できない以上、これは希望がもてる展開だろう。アメリカの財団は他国の財団による慈善事業の拡大を支援する方法を特定し、世界の新しい富のポテンシャルを解き放つ必要がある。

イスラム世界におけるトルコのソフトパワー
―― 宗教・文化外交の目的は何か

2019年3月号

ギョニュル・トル 米中東研究所 トルコ研究センター ディレクター

トルコの政府機関と市民組織は、スンニ派イスラムとトルコのナショナリズムを融合させた宗教教育プログラムを外国で実施し、トルコの言語と文化も教えている。こうした宗教・文化活動が実施される場所にはトルコの国旗が掲げられている。活動に関わる人々は、「オスマン帝国の後継国家であるトルコは、イスラムに残された最後の要塞であり、イスラム文明復活を主導する指導国である」と自負している。このソフトパワー戦略はスーダンなどのアフリカ諸国では成功している。しかし、中東では「トルコは帝国的野望をもっている」と猜疑心で捉えられ、ヨーロッパ諸国政府は、「トルコの宗教外交は社会を分断し、トルコ系移民の社会的同化を妨げる」と怒りを露わにして反発している。・・・・

一体化する湾岸とアフリカの角
―― 反目と紛争と開発のポテンシャル

2019年3月号

ザック・バーティン ブルッキングス研究所 ドーハセンター客員研究員

アラブ首長国連邦、サウジアラビア、カタール、トルコがアフリカの角に関与するにつれて、対立関係を抱えるこの地域に中東の対立構図が持ち込まれている。しかも、かつてはのどかだった紅海西岸地域に注目しているのは、湾岸諸国だけではない。中国は最近、ジブチに初の外国軍事基地を設置し、いまや紅海は米中超大国の新たな競争の舞台でもある。紅海両岸で適切に状況を管理できれば、湾岸諸国とアフリカ諸国はともに新たなエンゲージメントから恩恵を引き出せるかもしれない。特に経済の近代化を試みるアフリカ諸国は、中東からの投資と援助を利用してインフラ整備を試み、雇用を創出し、グローバル市場にアセクスできるようになる。しかし、そこに到達するためにクリアーすべき懸案は数多く残されている。

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