1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

大都市は消滅するのか
―― 適度な密度と過密を区別せよ

2020年7月号

ジェニファー・キースマート キースマートグループ 最高経営責任者

密度は必ずしも悪ではなく、そこには適度で好ましい密度もある。手頃な価格の住宅、広い歩道、多くの公園スペース、家から徒歩圏にある豊かな自然環境、学校、その他のコミュニティ施設がある町をイメージしてほしい。これらが適切な密度のイメージだ。比較的ストレスのない環境で、包含的でアクティブなコミュニティ活動を促すようにすれば、優れた公衆衛生も実現される。実際、現職のパリ市長は、住民が短時間の徒歩や自転車であらゆる仕事、買い物、レジャーのニーズを満たせる「15分で動ける都市」に変えるという公約を掲げて再出馬し、選挙を戦うつもりだ。北米の都市は、このビジョンから学ぶ必要がある。より深くつながり、住みやすく、持続可能で、混雑が少ない適切な密度へ向かっていくべきだ。

CFR Briefing
香港と国家安全法
―― 我々の知る香港の終わり?

2020年7月号

ジェローム・A・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー

北京が国家安全法を導入すれば、これまで香港に約束されてきた(一国二制度に基づく)自治体制は実質的に終わりを迎えることになる。全人代で同法の制定方針を取り付けた北京は、香港の民主化運動を鎮圧する動きをすでにみせている。結局、北京は「香港の一国二制度の枠組みは着実に手に負えない状況を作り出しつつあり、香港民衆による抗議行動を阻止しなければ、情勢は手に負えなくなる」と先読みしているようだ。国際社会での香港弾圧への懸念も高まっている。イギリス当局は、北京が今後も立場を変えなければ、英国海外市民(BNO)旅券保有者は英国に住んで働き、最終的には英国の市民権を得ることを許されるかもしれないと示唆している。・・・

CFR Meeting
コロナウイルスが変える社会と経済
 ――経済効率を落としてもよりレジリエントな存在になる

2020年6月号

エドマンド・S・フェルプス コロンビア大学資本主義・社会センター所長  セシリア・エレナ・ラウズ プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール ディーン グレン・ハバード コロンビア大学ビジネススクール ディーン

イノベーションプロセスに参加してイマジネーションとクリエーティビティを開花できるはずの膨大な数の人々が雇用を失ったままであれば、社会紛争のなかで国が崩壊するのではないかとさえ私は懸念している。(E・フェルプス)

「病気なのに、仕事に向かい、他の人に感染させるかもしれない」。有給の病欠が認められていれば、家で安静にしていても、給料を減らされることはない。実際、(医療保険)公衆衛生は、政府が役割を果たすのが適切で、これが非常に重要な公共財であることを理解すべきだろう。公衆衛生は、国防とともにきわめて重要だ。  (C・ラウズ)

ビジネスマンは、今回の経験から(効率よりも)レジリエンス(柔軟性、ゆとり)を維持することの重要性を教訓として学んでいくだろう。(今回のように)この上なく最適化された(無駄のない)サプライチェーンが、ショックによって機能不全に陥るのを避けようとするはずだ。・・・結局、各国が新たに議論できる空間を提供する国際機関を立ち上げられるまでが、効率性や成長の重要性はこれまでよりも割り引いて捉えられるようになるかもしれない。(G・ハバード)

危機後の増税で社会保障投資を
―― 緊縮財政ではなく、増税による投資を

2020年6月号

スヴェン・スタインモ  コロラド大学ボルダー校 政治学教授  マーク・ブリス  ブラウン大学ワトソン研究所 国際経済学教授

コロナアウトブレイクが落ち着いてくれば、「支出を減らして、予算を均衡させよ」と緊縮財政を求める声が大きくなるはずだ。だが、パンデミック対策によって、米政府の債務レベルが1940年代以降、もっとも高い水準に達するのは避けられないとしても、緊縮財政は拒絶すべきだろう。債務を懸念する人々も、アメリカの指導者が大恐慌と第二次世界大戦期にとったコースに目を向ければ十分にその理由を理解できるはずだ。これらの非常に大きなショックを前にしても、ワシントンは緊縮財政を拒絶して増税し、米史上最大のインフラプロジェクトやGIビルのために投資し、大きな成功を収めた。ポストパンデミック期にも、税収を増やして、市民が切実に必要としている社会プログラムに資金を投入すべきだろう。・・・

米経済の復活とコロナショック
―― 経済覇権の米中逆転はあり得ない

2020年6月号

ルチール・シャルマ  モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 主席投資ストラテジスト

多くの人は、米経済が2010年に復活を遂げ、この10年にわたって黄金時代を謳歌していたことを見落とし、アメリカ衰退論に囚われている。パンデミックショックが本格的な金融危機を引き起こせば、問題を抱える企業が世界中で債務不履行に陥り、最終的にはアメリカ金融帝国にとっても脅威となるだろう。しかし、巨大な公的債務だけでなく、ゾンビ企業が企業債務の10%を占める現在の中国は、そうした危機に対してアメリカ以上に大きな脆弱性をもっている。結局、経済成長にとってもっとも重要なのは生産年齢人口であり、アメリカではこれが依然として増大しているのに対して、中国では5年前から減少に転じている。アメリカが世界最大の経済大国の地位を失うことも、米中逆転も当面あり得ない。

ブレグジット後のイギリス
―― 漂流する連合王国

2020年6月号

ローレンス・D・フリードマン キングス・カレッジ・ロンドン名誉教授

国際社会におけるイギリスの例外的役割は何か。イギリス外交をこれまで規定してきた「ヨーロッパやアメリカとの関係」は「ブレグジット」そして「欧州との関係を軽視するドナルド・トランプ米大統領の登場」によってさらに不透明化している。問題は「もはやアメリカとイギリスが特別な関係にないこと」ではない。壮大な戦略プロジェクトを共有していないことだ。それでもイギリスは、テロとの戦いにおける長い経験を持ち、経済開発の領域でも大きな貢献をしてきた。かなりの軍事大国であり、ヨーロッパでそれに比肩する軍事力を持つのはフランスだけだ。パワーバランスが変化し続け、破壊的な行動が日常化しつつある。このような世界で、イギリスが貢献できることは数多くある。しかしそのためには、独立国家としての限界を受け入れ、ユニークかつ例外的な役割探しを断念する必要がある。・・・

テクノロジーでネットゼロを切り開く
―― 実質ゼロエミッションへの道

2020年6月号

イネス・アゼベド 、マイケル・R・デビッドソン、 ジェシー・D・ジェンキンス、 ヴァレリー・J・カープラス 、デビッド・G・ビクター

19世紀最大の技術革新は、化石燃料のパワーを利用して産業を成長させたことだった。20世紀はそれに続くイノベーションの波に乗り、図らずも、地球を大規模な温暖化軌道に乗せてしまった。当然、21世紀の決定的に重要な産業プロジェクトは炭素からの脱却になる。政府と企業は、長期戦を覚悟すべきだが、幸い、電力生産部門では、すでに大きな変化が起きており、低排出技術が急速に広がっている。風力、太陽光、原子力に正しい政策的介入をすれば、各国の化石燃料への依存を大幅に低下させ、その過程で二酸化炭素排出量を劇的に減らすことができる。運輸技術と加熱技術の電化、低炭素の電力生産の拡大は、現時点ではもっとも確実なクリーン経済への道のりを示している。

温暖化と気候変動対策クラブ
―― いかに態勢を立て直すか

2020年6月号

ウィリアム・ノードハウス イエール大学教授(経済学) 2018年ノーベル経済学賞受賞者

スポーツチームが25連敗すれば、当然、コーチは入れ替えられる。温暖化対策に関する一連の会議でまとめられた国際合意も、ことごとく結果を出せずに失敗を続けている。合意が「自発的なアレンジメント」に依存し、「フリーライド」が合意を損なってきたからだ。コーチを入れ替え、これまでの間違いを正せる新しい設計が必要だ。「クライメート(気候変動)クラブ」を立ち上げる構想を提案したい。メンバーに恩恵をもたらすクラブモデルを採用すれば、メンバーは排出量削減に向けた規律を守るようになる。一方で、クラブに参加しない国に(関税などの)ペナルティを課せば、気候変動対策をめぐる国際合意からフリーライドをなくすことにつながる。・・・。

パンデミックと保護主義の台頭
―― 輸入からの保護と輸出保護主義

2020年6月号

チャッド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー

「グローバルパンデミック」がどの段階にあるかは地域差がある。自国よりも早く経済を再開できる地域や国があるかもしれない。経済再建の試みが始まった段階で、港が輸入品で埋め尽くされているようなら、国内産業から保護主義を求める圧力は大きくなる。一方、輸出制限策が、ナショナリズムとともに高まっていくことはすでに実証済みだ。実際、仏独だけでなく、イギリス、韓国などの他の数十カ国も医療品や医薬品の輸出を制限している。もっとも深刻な余波が生じるのはパンデミックが収束し、経済生産が再開されたときかもしれない。貿易保護主義を求める社会圧力の高まりを予測もせず、備えることを怠れば、世界は壊滅的な事態に直面することになる。

迫り来るアナーキー
―― 米中対立と国際社会

2020年6月号

ケビン・ラッド  アジア・ソサエティ政策研究所・会長 元オーストラリア首相

パンデミックの残骸のなかから、パックス・シニカが生まれたり、パックス・アメリカーナが再出現したりすることはあり得ない。むしろ、米中のパワーは国内においても対外的にも衰退していく。その結果、国際的アナーキーに向けた着実な漂流が続くだろう。秩序と協調の代わりに、様々な形態のナショナリズムが噴出する。米中対立が拡大するにつれて、多国間システムとそれを支えてきた規範や制度はすでに崩れ始めている。多くの多国間機関は、むしろ、米中のライバル関係の舞台と化しつつある。アメリカも中国もダメージを受け、しかもそこには、ジョセフ・ナイが言う、「国際システムを機能させるシステムマネージャー」はいない。間違った決断をし、配慮を怠れば、2020年代は1930年代へ回帰していく。

Page Top