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テーマに関する論文

CFR Blog
イランと石油の地政学

2019年8月号

エイミー・M・ジャッフェ 米外交問題評議会シニアフェロー(エネルギー担当)

石油輸出国機構(OPEC)でのイランの影響力は低下し、原油の生産能力も低下しつつある。湾岸の産油国がロシアとの関係強化を模索しているのは、減産で原油価格を維持していくためだけでなく、ロシアとイランの間に楔を打ち込むという地政学的利益が期待できるからだ。一方、イランは、「資源ツールを越えた交渉カード」をもっていることを世界に示そうと、北朝鮮をモデルに、核開発プログラムを前倒しで再開するかもしれないし、それでもうまくいかなければ、(誰による仕業か分からない)グレーゾーンでのアラブ産油国のエネルギー施設への攻撃を続けるかもしれない。しかし、依然として外交路線を模索する可能性も残されている。現在のイランにとって本当の教訓とすべきなのが、北朝鮮ではなく、「政治腐敗、生産施設のメンテへの投資不足、外国投資の引き揚げによってその石油産業が機能不全に陥っている」ベネズエラかもしれないからだ。・・・

中国は貿易戦争をどうみているか
―― 自らを追い込んだトランプの強硬策

2019年8月号

アンドリュー・J・ネーサン コロンビア大学教授(政治学)

ナバロとライトハイザーは、「世界経済におけるアメリカの主導的役割を維持するには、中国の経済モデルを抜本的に変化させるしかない」という立場をトランプに受け入れさせ、強硬策に出た。しかし、貿易戦争は、ワシントンが考えるほど大きな痛みを中国に強いていないようだ。2019年に入って最初の5カ月で、中国の対米輸出は4・8%減少したが、同時期に、中国にとって最大の貿易相手である欧州連合(EU)への輸出は14・2%上昇し、EUからの輸入も8・3%上昇している。一方、アメリカの対中輸出は2019年に入って以降の最初の5カ月で26%以上の落ち込みをみせた。農業を含む、数多くの米セクターのダメージはかなりのレベルに達している。有利な状況を手にしているのは中国であり、北京に妥協するつもりはない。貿易戦争、米中経済の切り離しのあるなしに関わらず、中国はアメリカからの経済独立コースを着実に歩み続けている。

制御不能な戦争
―― イランとの衝突は瞬く間に地域紛争へ拡大する

2019年8月号

イラン・ゴールデンバーグ 新アメリカ安全保障センター 中東安全保障プログラムディレクター

関係プレイヤーのなかに戦争を望んでいる者はいないが、それでも戦争になりかねない。アメリカとイランの局地戦は、スンニ派の湾岸諸国やイスラエル、一方でイランの同盟勢力であるイラク、レバノン、アフガニスタン、イエメン、シリアのシーア派を巻き込んだ地域紛争に瞬く間に拡大する。イランはホルムズ海峡を脅かし、世界の原油価格を高騰させる。大がかりな作戦が終わっても、紛争は続き、イランの傀儡勢力は、中東における米軍やそのパートナーを長期的に攻撃し続ける。イランから流出する難民が作り出す危機の地域的な不安定化作用がどのようなものになるかも考えなければならない。トランプ政権とイスラム共和国はもっと慎重になる必要がある。そうしない限り、両国は、瞬く間に制御不能となる危険で大きなコストを強いられる渦に巻き込まれるはずだ。

体制変革の鍵を握るベネズエラ軍
―― ベネズエラ政府と軍隊

2019年7月号

ローラ・ガンボア・グテーレス ユタ州立大学 アシスタントプロフェッサー

グアイド暫定大統領による4月の蜂起の呼びかけは失敗に終わった。政府がグアイドに逮捕状を出すという噂を前に、彼が軍の一部指導者が合意していたタイミングよりも1日早く行動を起こし、軍内部の同盟勢力を動揺させてしまったとする見方もある。結局、マドゥロを退陣に追い込むには、体制を支持することで軍が恩恵を得るという構図を切り崩し、新体制になっても、軍のメンバーが起訴されたり、処罰の対象にされたりしないことを保証しなければならない。問題は、この重要なポイントをめぐって反政権派と軍の信頼関係が十分でないことだ。処罰の対象にされないという保証なしで、軍が独裁者を見捨てるとは考えにくい。ここで重要になるのが、体制移行後の身分を仲介し、保証する第3国の存在だ。・・・

人口動態と未来の地政学
―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索

2019年7月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ研究所 政治経済担当議長

大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。・・・

一帯一路が作り出した混乱
―― 誰も分からない「世紀のプロジェクト」の実像

2019年7月号

ユェン・ユェン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

一帯一路(BRI)はうまく進展せず、現地での反発に遭遇している。一部の専門家が言うように、この構想は莫大なローンを相手国に抱え込ませ、中国の言いなりにならざるを得ない状況に陥れる「借金漬け外交」のツール、「略奪的融資」なのか。問題は、北京を含めて、BRIが何であるかを分かっているものが誰もいないことだ。中国政府が構想の定義を示したことは一度もなく、認可されたBRIの参加国リストを発表したこともない。このために民間の企業や投資家がこの曖昧な状況につけ込み、自らのプロジェクトを促進するためにBRIを自称し、これによって混乱が作り出され、反中感情が高まっている部分がある。中国内の機を見るに敏な日和見主義者たちが、この構想を自己顕示欲や立身出世のために利用し、それがグローバルな帰結を引き起こしている。・・・

トランプ外交は誰を追い込んだのか
―― イラン、中国、北朝鮮それともアメリカ

2019年7月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(米外交政策担当)

威嚇、経済制裁、大言壮語で敵対勢力が譲歩するか、より優れた取引を手に入れられると期待するのがトランプの外交パターンだ。そうした戦術が何を引き起こすかを想定できず、逃げ場のない袋小路に自らを追い込むのもパターン化している。イランだけでなく、ベネズエラのケースでも「後退か軍事力行使」が残された選択肢となりつつあるし、中国と北朝鮮へのアプローチも同様に袋小路に追い込まれつつある。一方で、トランプが「戦争は望んでいない」とペンタゴンの高官に述べたとすれば、おそらく、彼はアメリカが不用意に紛争に巻き込まれていくリスクを予見し、それを回避したいと考えているのかもしれない。問題は、戦争を回避するのを助けてきた側近たちがもはやいないことだ。

CFR Events
米中貿易戦争は続く
―― その政治的、経済的意味合い

2019年7月

エドワード・オールデン 米外交問題評議会シニアフェロー(経済・貿易担当)
エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)
マイルス・カーラー 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバル統治担当)

最近の大統領のツイートは、米企業が中国を離れて、別の場所、つまり、他のアジア諸国、あるいは国内に工場を移して、アメリカに部品その他を供給させる計画を米政権がもっていることを思わせる。ファーウェイに対する攻撃も、多くの意味で米中経済の切り離しを意図している。少なくとも現状では、大統領は米中切り離し派の立場に耳を傾けている。(E・オールデン)

すべては目的が何であるか、双方が勝利をどのように定義しているか、時間枠をどうみているかに左右される。アメリカ側にも中国側にも何をもって勝利とみなすかについてのコンセンサスはない。実際、より多くの米製品の輸入、より大きな市場アクセス、IT技術の保護で由とする立場から、米中経済の切り離しを求める立場にいたるまで、アメリカ側にはさまざまな意見がある。(E・エコノミー)

人工知能の恩恵とリスク
―― 誰も勝者になれない世界を回避するには

2019年6月号

ポール・シャーリ 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー(技術と国家安全保障プログラム)

19世紀の産業革命は世界に大きな経済成長だけでなく、戦車、機関銃、毒ガス兵器をもたらした。人工知能(AI)はこれらに匹敵する変化を誘発することになる。AIは医療から交通に至るまでのあらゆる分野で大きな恩恵とともに大きなリスクも生み出す。最大のリスクは、AI軍事システムを最初に開発した国が、ライバル国に対して圧倒的な優位を手に入れられるために、いい加減なテストだけで、システムを一刻も早く導入せざるを得ないと考えるかもしれないことだ。こうして非常に深刻な問題が作りだされる。AIシステムの導入を競い合うのではなく、その安全性の検証と研究に多国間で投資すべきだ。そうしない限り、「誰も勝者になれない世界」が創り出されることになる。

AIと未来の戦争
―― アメリカが軍事的に衰退する理由

2019年6月号

クリスチャン・ブローズ  カーネギー国際平和財団  シニアフェロー(国防戦略)

人工知能を組み込んだ自律的軍隊を構築するのが望ましいだけでなく、それが技術的に可能になっている。米軍は、低コストの自律型航空機から無人潜水艦までの、将来の戦力整備を目的とする数多くの開発プログラムをもっている。目的はさまざまなプラットフォームを導入することではなく、よりスピーディに「キルチェーン」を実現することにある。現状で、時代遅れの一つのプログラムに投資されている金額で、数十の自律的システムを導入できるし、これによって、より高度な能力を手に入れられる。目的は、もちろん、戦争を挑発するためではなく、それを抑止することにある。アメリカは、このタイプの軍隊を組み立てる資金、人的資源、テクノロジーを兼ね備えている。問題は、新軍事技術革命を生かしたシステム移行に想像力と決意をもたらせるかどうかだ。

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