本誌一覧

2017年3月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2017年3月号

Price
  • 12カ月購読

    \24,000

  • 6カ月購読

    \12,200

  • 3カ月購読

    \6,300

購読はこちら

フォーリン・アフェアーズ・リポート2017年3月号 目次

トランプの思想と外交アジェンダ

  • トランプが寄り添うジャクソニアンの思想
    ―― 反コスモポリタニズムの反乱

    ウォルター・ラッセル・ミード

    雑誌掲載論文

    「不満を表明する手段として(非自由主義的なイデオロギーや感情に訴えているのは)苦々しい思いを抱くルーザーたち、つまり、銃の所有や(相手の)宗教にこだわり、自分たちとは違う人々を毛嫌いする人たちだけだ」。アメリカのエリートたちはこう考えるようになっていた。(国や民族に囚われない)コスモポリタン的感情をもつアメリカ人の多くは、道義的、倫理的にみて、人類全般の生活の改善に取り組むことが重要だと考えていた。一方、ジャクソニアンはコスモポリタン・エリートのことを、「アメリカやその市民を第1に考えることを道徳的に疑問視する、国に反逆的な連中」とみている。ジャクソニアンがアメリカのグローバル関与路線を敵視しているのは特定の代替策を望んでいるからではない。むしろ、外交エリートに不信感をもっているからだ。そして彼らは、「トランプは間違いなく自分たちの側にある」と考えている。

  • ロシアとの和解という虚構
    ――トランプとロシア

    ユージン・ルマー、リチャード・ソコルスキー、アンドリュー・S・ワイス

    雑誌掲載論文

    アメリカとロシアの対立の根は深い。ドナルド・トランプはキャンペーン中も大統領選で勝利した後も、「なぜロシアとうまくやれないのか」と問いかけてきたが、うまくやれないのは、双方が国益の基礎をなすと考える中核問題をめぐって双方の立場の隔たりが大きいからだ。ロシアによる勢力圏の主張はワシントンには受け入れられないし、「欧米によるロシア勢力圏の侵食」とモスクワがみなす動きへの反発も障害となる。貿易で関係を安定させるのも難しい。実際、米ロが中核問題をめぐって歩み寄るのは今後も難しいままだろう。トランプ政権の課題は、モスクワとの緊張を緩和することではなく、むしろ、それをうまく管理して、さらなる悪化を防ぐことだ。ロシアと突然和解すれば、アメリカとヨーロッパの関係、ヨーロッパの安全保障、そしてすでに不安定化している国際秩序が永続的なダメージを受ける。

  • 伝統的な対中政策への回帰を
    ―― トランプと中国

    スーザン・シャーク

    雑誌掲載論文

    国内の不安定化を心配し始めた習近平は、(不満の矛先が政府ではなく、外に向かうように)国内のナショナリズムを鼓舞するような対外強硬路線をとり、一方で、国内における反政府運動の兆候があると、直ちにこれを粉砕している。この状況でトランプ政権が北京を挑発する路線をとれば、民衆に弱腰だとみなされることを警戒する北京は、台湾とアメリカに痛みを伴う経済懲罰策をとり、台湾海峡あるいは南シナ海で挑発的な軍事行動に出る恐れがある。しかも、中国を敵として扱えば、気候変動、感染症、核拡散などの重要なグローバルアジェンダをめぐって、両国が協議するのは不可能になる。いまやホワイトハウスの主となったトランプは、ニクソン政権以降の歴代の米政権がとってきた慎重な対中アプローチへと立ち返る必要がある。これまでのアプローチを完全に覆すのではなく、トランプはうまく機能してきたものは温存し、そうでないものだけを変化させるべきだ。

  • 平壌との交渉しか道はない
    ―― トランプと北朝鮮

    ジョン・デルーリ

    雑誌掲載論文

    北朝鮮の指導者が経済を第1に据え、経済開発のために国を開放するとすれば、「自分の国内での地位が安泰であると確信し、外国からの脅威を相殺できると自信をもったとき」だけだろう。したがって、ワシントンが朝鮮半島における平和の実現を望むのなら、北朝鮮経済を締め上げたり、金正恩体制を切り崩す方法を探したりするのを止め、平壌がより安心できる環境が何であるかを考える必要がある。国の崩壊を心配しなくてよくなれば、北朝鮮の民衆も、生き延びることよりも、繁栄を享受したいと考えるようになる。欠乏を和らげ、外の世界と彼らを遮断している壁を崩すことで、世界は北朝鮮民衆の多くを救うことができる。したがって、トランプがまず試みるべきは、アメリカが安全を保証することを条件に、北朝鮮の核開発プログラムの凍結を交渉することだろう。金正恩を経済開発に向かわせ、遅ればせながら北朝鮮に変革の道を歩ませるには、この方法しかない。

  • 米ポピュリズムの歴史と今日的意味合い
    ―― ティーパーティー運動が揺るがすアメリカの政治と外交

    ウォルター・ラッセル・ミード

    Subscribers Only 公開論文

    ポピュリストの政治的エネルギーが高まる一方で、主流派メディア、外交エスタブリッシュメントに始まり、金融企業、一般企業の経営陣、そして政府にいたるまでの確立されたアメリカの組織への信頼が失墜しつつある。現在のポピュリスト運動の代名詞であるティーパーティー運動は、彼らが「憶測を間違え、腐敗している」とみなす各分野の専門家に対する反乱とみなせる。しかも、2010年3月にアメリカで実施された世論調査では、回答者の37%がティーパーティー派を支持すると答えており、これは、少なくとも1億1500万のアメリカ人がティーパーティー運動になんらかの共感を示していることを意味する。アメリカの政策決定者、そして外国政府の高官たちは、アメリカ政治における主要な勢力であるポピュリストを十分に理解せずして、もはや米外交に関する適切な判断を下すことができなくなっていることを認識する必要がある。

  • アメリカは神の国か?
    ―― キリスト教福音派台頭の政治・
    外交的意味合い

    ウォルター・ラッセル・ミード

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカのプロテスタンティズム内の保守派の信徒が増え、20世紀半ば当時は、アメリカの主流派だったリベラル派プロテスタントの信徒が減少している。この宗教勢力地図の変化は、すでにアメリカの外交政策を大きく変化させている。第二次世界大戦、そして冷戦期におけるアメリカの政治を支配していたのは、教義よりも道徳律を重視するリベラルなプロテスタンティズムの思想だった。だが、いまやキリスト教リベラル派は、かつての影響力を失い、リベラル派よりも教義を重視し、例えば、イスラエルを擁護することで、自分たちが神によって支えられると感じ、そうすることで世界を敵に回してもかまわないと考える福音派が台頭している。福音派の台頭で、アメリカの政治・外交路線はどのように変わるのか。それは政策の幅を広げることになるのか、それとも……。

  • 蘇るロシアの歴史的行動パターン
    ―― プライドと大きな野望、
    そして脆弱なパワーという現実

    スティーブン・コトキン

    Subscribers Only 公開論文

    自らの弱さを理解しつつも、特別の任務を課された国家であるという特異な意識が、ロシアの指導者と民衆に誇りを持たせ、一方でその特異性と重要性を理解しない欧米にモスクワは反発している。欧米との緊密なつながりを求める一方で、「自国が軽く見られている」と反発し、協調路線から遠ざかろうとする。ロシアはこの二つの局面の間を揺れ動いている。さらにロシアの安全保障概念は、外から攻撃される不安から、対外的に拡大することを前提としている。この意味でモスクワは「ロシアが旧ソビエト地域で勢力圏を確立するのを欧米が認めること」を望んでいる。だが現実には、ロシアは、経済、文化など)他の領域でのパワーをもっていなければ、ハードパワー(軍事力)だけでは大国の地位を手に入れられないことを具現する存在だ。現在のロシアは「新封じ込め」には値しない。新封じ込め政策をとれば、ロシアをライバルの超大国として認めることになり、欧米は相手の術中にはまることになる。・・・

  • プーチンの思想的メンター
    ―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

    アントン・バーバシン、ハンナ・ソバーン

    Subscribers Only 公開論文

    2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

  • 中国は超大国にはなれない
    ―― 米中逆転があり得ない理由

    スティーブン・G・ブルックス、ウィリアム・C・ウォルフォース

    Subscribers Only 公開論文

    いまや問題は「中国が超大国になるかどうかではなく、いつ超大国になるかだ」と考える人もいる。確かに中国は、真にアメリカに匹敵する大国になるポテンシャルをもつ唯一の国だが、技術的な遅れという致命的な欠陥を抱えている。一方、アメリカの経済的優位はかつてほど傑出してはいないが、その軍事的優位に変化はなく、現在の国際秩序の中核をなす世界的な同盟関係にも変化はない。近代史で特筆すべき成長を遂げた新興国のほとんどは、経済よりも軍事面で強力だったが、中国は軍事面よりも経済面でパワフルな存在として台頭している。経済規模が巨大なだけでは、世界の超大国にはなれないし、必要な技術力の獲得という、次の大きなハードルを越えることもできない。しかもその先には、こうした資源を活用して、グローバルな軍事力行使に必要なシステムを構築し、その使い方をマスターしていくというハードルが待ち受けている。要するに、多くの人は中国の台頭に過剰反応を示している。むしろ、アメリカの超大国としての地位を脅かす最大の脅威は国内にある。

  • 中国の対外強硬路線の国内的起源
    ―― 高揚する自意識とナショナリズム

    トーマス・クリステンセン

    Subscribers Only 公開論文

    民衆レベルでの大国意識が定着し、ナショナリズムが高まる一方で、国内の不安定化が予想される。このため、中国政府は世論動向に非常に神経質になっている。民衆の声を北京のエリートたちが無視できた時代はすでに終わっている。政府は、長期的な政府の正統性と社会的安定をいかに維持していくかをもっとも気に懸けており、党指導層は、ナショナリスト的立場からの政府批判をもっとも警戒している。しかも、軍、国有エネルギー企業、主要輸出企業、地方の党エリートなど、国際社会との協調路線をとれば、自分たちの利益が損なわれる集団が中国の外交政策への影響力を持ち始めている。これが、中国がソフト路線から強硬な対外路線へと舵を切った大きな理由だ。中国での権力継承が完了する2012年までは、中国国内における政治、心理要因ゆえに、中国の対外路線をめぐって状況を楽観できる状態にはない。

  • 北朝鮮は経済改革を模索している
    ―― 崩壊か経済改革か

    ジョン・デルーリー

    Subscribers Only 公開論文

    北朝鮮は2030年までに崩壊すると予測する専門家もいるが、平壌はすでに中国流の経済改革導入への道を歩みつつあるとみなすこともできる。これを理解するには、中国はどのような手順で改革へと歩を進めたかを考える必要がある。1960年代に核兵器を獲得した北京は、1970年代に対米デタントによって体制の安定と安全を確保した上で、経済改革路線を優先させるようになった。つまり、今日の北朝鮮は1970年の中国同様に、経済改革に着手する前に、まずワシントンから体制の安全に関する保証を取り付けたいと考えている段階にある。金正恩は「経済建設」の次の局面に進みたいと考えていると示唆し、4月1日には実務派テクノクラートの朴奉珠を首相に登用して、経済成長の舵取りを委ねている。朴奉珠が北朝鮮の首相に抜擢されたこと自体、金正恩が経済を重視し、改革志向を持っていることの現れとみなせる。平壌の穏健派に力を与えるためにも、アメリカは強硬策ではなく、北朝鮮の安全を保証し、経済改革にむけた環境整備に手を貸すべきだ。体制を揺さぶり、崩壊を待つ路線を続ければ、偶発事件によって次なる朝鮮戦争が誘発される恐れがある。

  • 北朝鮮の崩壊を恐れるな
    ―― リスクを上回る半島統一の恩恵に目を向けよ

    スー・ミ・テリー

    Subscribers Only 公開論文

    朝鮮半島の統一が韓国を経済的・社会的に押しつぶすわけでも、アメリカ、中国、日本に受け入れがたいリスクを作り出すわけでもない。たしかに、朝鮮半島の統一はドイツ統一以上にコストがかかり、多くの課題を伴うだろう。例えば、北の崩壊シナリオとしてもっとも現実味があるのは北朝鮮が内破し、体制が崩れていくことで、この場合、核兵器の安全な管理をいかに確保し、人道的悲劇を回避して大規模な難民が発生しないようにすることが大きな課題となる。だからといって、半島の統一を回避すべきだと考えるのは間違っている。崩壊を経た半島統一の最大の恩恵は、北東アジアにおける主要な不安定化要因が消失することだが、特に韓国は大きな経済的恩恵を手にできる。これまで各国は、平壌が挑発的行動を前にしても、北朝鮮を不安定化させることを懸念して、経済制裁の強化や、対抗策をとることを躊躇ってきたが、今後はそのような配慮をすべきではない。統一の恩恵はリスクやコストを遙かに上回るのだから。

トランプリスクに怯える世界

  • トランプリスクが促す世界秩序の再編
    ―― 各国のリスクヘッジで何が起きるか

    スチュワート・パトリック

    雑誌掲載論文

    トランプ政権が同盟関係へのコミットメントを弱め、保護主義的な経済・貿易政策をとり、地球温暖化対策を放棄すれば、同盟国は、自国の安全保障、繁栄、市民の安定した生活を、独立性を高めることで強化しようと模索し始めるだろう。地政学領域では、各国は、「アメリカ」と「自国にとって重要な地域大国」、つまり、アジアにおける中国、ヨーロッパにおけるロシア、中東におけるイランとの関係を見直すことで、リスクヘッジを試みる。この流れのなかで、日本と韓国は核開発を真剣に検討するようになるかもしれないし、バルト諸国は、アメリカを見限って「フィンランド化」に踏み切るかもしれない。経済領域では、中国が主導する一帯一路構想などの、アメリカが関与していないアレンジメントを各国は求めるようになるだろう。もちろん、トランプ政権が伝統的なアメリカのリーダーシップを放棄していくにつれて、他の諸国がリスクヘッジ策をとると決まってはいない。そうなるかどうかは、「大統領としてのトランプの選択」に左右される。

  • トランプと米欧関係の未来
    ―― トランプの脅威は欧州の連帯を促すか

    キャサリン・R・マクナマラ

    雑誌掲載論文

    ドナルド・トランプは北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」とけなし、欧州連合についても「ドイツのためのツールと化している」と、まるでその解体を支持するかのような発言をしている。これにヨーロッパはどう対処するだろうか。トランプを「異質な他者」とみなし、ヨーロッパは団結できるだろうか。それとも、彼の発言はヨーロッパのポピュリスト勢力を勢いづけるだけなのか。欧州連合(EU)が築いたヨーロッパの「想像の共同体」は、伝統的なナショナリズムがもつ強い文化や感情的なこだわりをもっていないために、トランプがEUに脅威を与えても、それによって、ヨーロッパプロジェクトへの支持と結束が生み出されるとは考えにくい。ポピュリズムの台頭を前に、ヨーロッパの政治家と市民は、EUが達成した成果を強く擁護しつつ、EUが直面する課題に対応していくしかない。一方、これまでアメリカの優位を支えてきたリベラルな制度の多くが解体していくかもしれず、この事態が、EUにとって希望の光になることもあり得ない。

  • ドイツが主導するヨーロッパの防衛強化
    ―― ベルリンに何ができるか

    ステファン・フローリック

    雑誌掲載論文

    トランプのアメリカがグローバルなリーダーシップからまさに手を引こうとし、イギリスが欧州連合(EU)からの混乱に満ちた離脱プロセスに足をとられるなか、リベラルな秩序と米欧関係の今後を心配するヨーロッパ人やアメリカ人の間では、アメリカに代わってドイツが「リベラルな秩序」のリーダーになるのではないかと期待されている。しかし、これは希望的観測というものだ。ドイツはすでに国内と国境線における危機対応に気を奪われている。世界におけるリベラルな覇権国としてのアメリカにドイツが取って代わることができないのは、純粋にそうした力をもっていないからだ。しかし、ベルリンが世界の出来事に無頓着なわけではない。ドイツとそのパートナーは、(NATOからの離脱も辞さないとする)トランプの恫喝策を、機能不全に陥っているヨーロッパ政治を立て直す機会にできるかもしれない。

  • 中国のグローバル・リーダーシップという神話
    ―― 中国はグローバル化モデルにはなり得ない

    エリザベス・C・エコノミー

    雑誌掲載論文

    世界のリーダーとしての役割を続けることへのワシントンの意思が不透明化するなか、世界は、たとえ一時的であっても、アメリカに代わってリーダー役を担える国を求めている。習近平がそれに興味を示しているという理由だけで、中国が世界のリーダーとしての条件を満たしていると考える専門家さえいる。すでに中国がグローバルなリーダーシップに必要な資質を身に付けているのは事実だろう。世界第2位の貿易大国で、世界最大の常備軍を擁し、アジアインフラ投資銀行(AIIB)や一帯一路のような新しい組織や構想を提案するなど、中国はすでに世界のリーダーのように振る舞っている。しかし、その開発モデルがもたらした環境、医療・衛生、その他の社会問題に関して中国モデルは模倣に値するものだろうか。世界における人権侵害について何も語らず、国内の人権問題を長年にわたって認めてこなかった国をグローバルリーダーと呼べるだろうか。・・・

  • ドゥテルテの対中・対米戦略のバランス ―― 穏やかな対中アプローチの真意

    ジェシカ・リョウ

    雑誌掲載論文

    長年の同盟国であるアメリカと「決別し、中国と手を組む」つもりだというドゥテルテ発言は世界を驚かせたが、この発言は「インフラ上の深刻な問題を改善することで、貧困層の生活を改善していく」という彼の選挙公約と密接に関連している。アメリカはドゥテルテのインフラ計画に資金提供する資源も政治的意思ももっていないが、一方の中国は潤沢な資金だけでなく、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を擁している。すでにドゥテルテは1件のAIIBからの融資を成立させ、中国との間で総額240億ドルに達する13件の二国間融資をまとめている。問題は、親米国フィリピンでの対中感情がよくないこと、そして、このやり方が必要以上にアメリカを刺激していることだ。ドゥテルテが中国資本の一部を取り込むチャンスがあるのは、国内で彼の支持率が高い間だけだろうし、ワシントンは、選挙公約を実現する上で必要なドゥテルテの(中国を念頭においた)経済戦略をもっと許容すべきだろう。

  • トランプとアメリカの同盟関係
    ―― 同盟国に防衛責任を委ねよ

    ダグ・バンドウ

    雑誌掲載論文

    トランプが同盟国から米軍を撤退させる可能性は低そうだが、かといって現状を受け入れるのも間違っている。同盟国が軍事支出を少しばかり増やすことで満足するのではなく、ワシントンは同盟国に対して国を守る責任を引き受けるように求めるべきだ。・・・それによってアメリカの安全保障が強化されるケースなら同盟国を防衛すべきだが、同盟国の安全だけを強化するような行動はとるべきではない。例えばモンテネグロ、バルト三国、そしてウクライナの問題は、アメリカの安全保障には関わってこない。朝鮮半島で戦争が起きても、アメリカの安全保障を直接脅かすわけではない。新大統領は、同盟国に自国を防衛する責任を引き受けさせることに力を注ぐべきだし、そのためには同盟諸国は戦争を抑止し、戦争になればそれに勝利できる通常戦力を構築すべきだろう。

  • 欧米の衰退と国際システムの未来
    ―― バッファーとしての「リベラルな国際経済秩序」

    ロビン・ニブレット

    Subscribers Only 公開論文

    これまで世界の民主主義空間を拡大させてきたリベラルな国際秩序が、政治的な勢いを取り戻せる見込みはあまりない。格差と失業に悩む現在の欧米諸国は弱体化し、もはやリベラルな政治経済システムの強さを示すシンボルではなくなっているからだ。それでも孤立主義に傾斜したり、代替秩序の封じ込めを試みたりするのは間違っている。そのようなことをすれば、リベラルな国際秩序の擁護派と、それに挑戦する勢力が公然と対立し、偶発的に大掛かりな紛争に発展する恐れもある。希望は、「リベラルな国際政治秩序」は衰退しても、「リベラルな国際経済秩序」が生き残ると考えられることだ。中国やロシアのような統制国家も国の豊かさと社会的安定・治安を確保するには、リベラルな国際経済秩序に依存するしかない。これによって短期的には、民主国家と非自由主義国家が共存する機会が提供され、長期的には、リベラルな民主主義は再び国際秩序における優位を取り戻せるかもしれない。但し、変化に適応できればという条件がつく。

  • 「リベラルな覇権」後の世界
    ―― 多元主義的混合型秩序へ

    マイケル・マザー

    Subscribers Only 公開論文

    リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

  • ポピュリズムを台頭させた 欧州政治の構造的変化とは
    ―― 難民危機、経済危機はトリガーにすぎない

    カス・ムッデ

    Subscribers Only 公開論文

    すでにギリシャ、ハンガリー、イタリア、ポーランド、スロバキア、スイスの6カ国でポピュリスト政党が最大の議席数を確保している。フィンランド、リトアニア、ノルウェーの3カ国では、ポピュリスト政党が政権の一翼を担っている。大規模な難民流入やユーロ危機などで社会治安や経済の安定が脅かされたために、ポピュリズムの急激な台頭が刺激された部分があるのは事実だろう。しかし、ヨーロッパの社会と政治に構造的変化が起きていたことがポピュリズムを台頭させる素地を作り出していたことが見落とされがちだ。難民危機や経済危機はトリガーにすぎない。しかも、構造的変化が近い将来に覆される見込みがない以上、ポピュリズムが下火になっていくと考える理由はない。要するに、これまでの主流派政党が時代遅れの存在になるにつれて、ポピュリスト政党が台頭している。・・・

  • ヨーロッパをトランプ外交から守るには
    ―― ドイツはリベラルな秩序を擁護できるか

    トルステン・ベナー

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの勝利が決まった直後、ベルリンのタブロイド紙B.Z.は、今夜は「西洋が死んだ夜」になったと表現した。北大西洋条約機構(NATO)を嫌悪し、貿易保護主義を擁護するトランプの姿勢を、安全保障と自由貿易によって豊かさを享受してきたドイツ人は特に警戒している。ドイツは最悪のシナリオに備えるべきだろう。トランプが、アメリカの同盟国と多国間機構、そして国際協定に深刻なダメージを与える事態に備える必要がある。変化に対応する最善の方法は、ドイツが国防能力を強化し、明白な原則に基づいてワシントンに接することだ。・・・アメリカの同盟国と世界におけるアメリカの役割を守る決意をもつ米議会共和党との関係を強化する必要もある。ヨーロッパの混乱ゆえに、できることは限られているが、ドイツはダメージコントロールを試み、NATOを含む大西洋同盟や国際機構をトランプ政権から守ることを再優先にすべきだろう。

  • 変貌したドイツ外交
    ―― 「保護する責任」と「自制する責任」のバランス

    フランク=ヴァルター・シュタインマイアー

    Subscribers Only 公開論文

    ドイツが国際舞台で新たな役割を果たすことを望んだわけではない。むしろ、世界が大きく変化するなか、安定を保ち続けたドイツが中心的なプレイヤーに浮上しただけだ。いまやドイツはヨーロッパ最大の経済国家に見合う国際的責任を果たそうと試みている。コソボとアフガニスタンへの軍事的関与は、それまで「戦争」という言葉が禁句だった国にとって、歴史的な一歩を刻むものだった。ドイツが既定路線を見直したのは、ヨーロッパの安定とアメリカとの同盟を真剣に受け止めたからだ。それでもドイツは過去を踏まえて慎重に考える国家だ。変化に適応しながらも、自制や配慮を重視する信条と外交を重視していくことに変わりはない。過去を必要以上に償おうとしているのではない。むしろ、過去を踏まえて慎重に考える国家として、ドイツは歴史の教訓を現在の課題へのアプローチに生かそうとしている。

  • 欧米とロシアとの関係の鍵を握るドイツ
    ――普通の国ドイツに求められる新しい役割

    コンスタンツェ・ステルゼンミューラー

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアのヨーロッパ戦略において最大の資産は緊密なドイツとの絆だし、一方、ドイツはモスクワとの「戦略的パートナーシップ」を模索している。これは、ロシアと欧米の緊張した関係の間に身を置くドイツがユニークな役割と責任を負っていることを意味する。「かつてのドイツ問題」はすでに解決されている。ドイツはヨーロッパ、そして欧米という枠組みにしっかりと根を下ろしている。しかし現在では、かつて同様に切実な「新しいドイツ問題」が生じている。それは「ドイツはロシアの行動を変え、必要ならモスクワに対して毅然と立ち上がるために政治資源の多くをつぎ込む能力と意思を持っているかどうか」という疑問に他ならない。

  • 次期米大統領のアジア政策
    ―― 同盟システムの軽視と単独行動主義

    ミラ・ラップ・ホッパー

    Subscribers Only 公開論文

    ドナルド・トランプはTPPに反対し、(アメリカ人の雇用を奪う)中国からの輸入に45%の課税を適用すると公約している。そのようなことをすれば貿易戦争が起き、米経済は深刻なリセッションに陥る。数百万のアメリカの雇用が失われ、日韓を含む同盟諸国の経済もダメージを受ける。安全保障領域でも、日本と韓国に米軍の駐留コストを全額支払うように何度も求め、そうしない限り、米軍部隊の規模を削減していくと語っている。すでにアメリカのコミットメントへの信頼は揺らいでいる。トランプはまるで不確実性を作りだすことがドクトリンであるかのような発言を繰り返し、外交ツールとして経済懲罰策を振りかざす路線を強調している。新大統領は後退路線を、側近たちは単独行動主義を主張しているが、重要な部分を共有している。ともに、戦後国際秩序におけるアメリカのリーダーシップを支えてきた「同盟システム、国際的ルールや規範を基盤とする外交を求めていない」ことだ。

  • 中国の対外行動をいかに制御するか
    ―― 台頭する中国とアメリカの
    アジア外交

    トマス・J・クリステンセン

    Subscribers Only 公開論文

    グローバル金融危機をアメリカや他の主要国よりもうまく凌いだ中国のエリートたちは、国際的な対応への自信を深め、中国人の多くも他国に譲るのはもう止めて、自国の利益をもっと積極的に主張すべきだと考えるようになった。ナショナリズムも台頭した。一方、危機を契機に、輸出市場に多くを依存する自国の経済モデルの持続可能性を北京は心配するようになった。別の言い方をすれば、中国は大国に台頭したが、「依然として、非常に多くの国内問題と不安を内に抱える途上国でもある」。この有毒な組み合わせが、対中関係を管理していくのを難しくしている。だが、米中が明確に衝突コースへと向かうと決まっているわけではない。アメリカの力を認識し、北京がどこまでアメリカや東アジアを含むアメリカの同盟国と協調するつもりがあるか、その境界を見極めれば、リスクを抑え込むことができるはずだ。

  • ドゥテルテ大統領の挑戦
    ―― マニラの強権者の思惑を検証する

    リチャード・ジャバド・ヘイダリアン

    Subscribers Only 公開論文

    強気のアウトサイダーだったドゥテルテは、フィリピンの有権者たちのエスタブリッシュメント層に対する反発をうまく追い風にして、大統領ポストを射止め、その後、瞬く間に権力基盤を固めていった。最近の調査では、ドゥテルテの支持率は91%という、空前のレベルに達している。彼の「対麻薬戦争」にいくら世界が懸念を示しても、外交的にはあり得ない発言を繰り返して非難されても、国内の人気や影響力が衰える気配はない。「フィリピンの抱える根本的な問題を解決できるのは強気で断固としたリーダーだけだ」という民衆の意識が高まっているためだ。ドゥテルテは、欧米でどう思われようと、残虐な麻薬取締りで民衆の支持が得られる限り、路線を見直すことはないだろう。公正に言えば、ドゥテルテは麻薬撲滅以外にも、環境、交通渋滞、インフラ整備など、さまざまな領域で積極的な取り組みをみせている。外交領域では、アメリカとフィリピンの関係の「ニューノーマル」を確立することを決意しているようにみえる。・・・

  • 成功をいかに未来につなげるか
    ―― ベニグノ・アキノ・フィリピン大統領との対話

    ベニグノ・アキノ

    Subscribers Only 公開論文

    (憲法を改正して)大統領選挙に再出馬するかどうか。確かに「なぜ大統領を続けないのか。われわれはあなたのことを信頼している」という声を耳にする。とはいえ、「後継者をうまく育てられるかどうかが、成功の指針だ」という私の両親の教えもある。人々の声と両親の教えの間のバランスをとる必要がある。・・・(私が、日本の防衛力強化をむしろ支持しているのは)第二次世界大戦後に日本がフィリピンに好ましい)行動をとってくれたからだ。戦後、フィリピンに本当の友情を示してくれた戦略的パートナー国が二つ存在した。それがアメリカと日本だった。・・・外国の人々に、フィリピンが戦略的に重要な場所に位置し、資源にも恵まれていることを伝えたい。資源の最たるものは人材だ。人々は勤勉で誠実、しかも柔軟性に富んでいる。いまや、長く抑え込まれてきたフィリピンのポテンシャルが解き放たれようとしている。

  • 日韓の核開発をアメリカは容認すべきか
    ―― 核の傘から
    「フレンドリーな拡散」へ

    ダグ・バンドウ

    Subscribers Only 公開論文

    日本や韓国が核武装を考えているとすれば、なぜワシントンが彼らの防衛と安全を保証しなければならないのかという考えが浮上してもおかしくない。一方で、ワシントンが日韓への防衛コミットメントを続けるかどうか迷い始めれば、両国を核武装へと向かわせるかもしれない。日本と韓国が中国や北朝鮮に対抗していくために、(核開発を通じて)独自の抑止力を構築することを望むのなら、ワシントンはそれを許容することも考えるべきだろう。日韓が核抑止力を手に入れれば、仮に紛争が起きても、アメリカが自動的に戦争に巻き込まれることもなくなり、ワシントンは自国の防衛に向けて戦力を再編できる。アメリカのグローバルな防衛上のコミットメントに必要とされるコストは、コミットメントから得られる利益を上回っている。ソウルと東京が北朝鮮に対抗する兵器を開発するのを決意するのであれば、それを許容することをワシントンが検討しないのは愚かだろう。

  • 戦略目的に合致しない同盟関係の解消を
    ―― トランプの主張は間違っていない

    ダグ・バンドウ

    Subscribers Only 公開論文

    トランプの主張するとおり、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)政策は時代遅れだ。戦後(・冷戦期)のアメリカにとっては、ヨーロッパの同盟諸国を守る以外に道はなかったかもしれない。だが、当時の軍事関与を正当化したロジックはとうの昔に消失している。同盟関係は戦略目的のための手段でなければならず、現状に照らせば、それはアメリカの安全を強化することだ。同盟関係のコストを問題にするトランプに対して、彼に批判的な勢力は、「同盟諸国は合計すると100億ドルのホストネーション・サポート(受入国による支援)を負担し、米軍の駐留コストを助けている以上、アメリカの戦略コミットメントは高くない」と反論する。しかし、これは事実誤認だ。対外軍事コミットメントを控えれば、ワシントンは年間1500億ドルを節約できる可能性がある。人口が多く、繁栄する世界の工業国家を相手に成り代わって防衛するのは、実質的にアメリカの納税者の税金を、相手国の納税者の富として移転していることになる。

ヨーロッパ・アップデート

  • ブレグジット後のヨーロッパ
    ―― 統合の本来の目的に立ち返るには

    マティアス・マタイス

    雑誌掲載論文

    欧州統合プロジェクトの設計者たちが欧州連合(EU)の現状をみれば、さぞや落胆するだろう。1950年代にエリートたちがヨーロッパ経済共同体(EEC)を創設したのは「第二次世界大戦後のヨーロッパで国民国家システムを再生するためだった」からだ。当時は、主権国家は段階的に市場を開放するが、国内経済が悪化したときに対処できるように、国家に一定の自己裁量権を残すというコンセンサスが存在した。だが1980年代半ばにヨーロッパのエリートたちは、統合によって国民国家システムを強化するのではなく、新しい超国家的統治システムの構築へとギアを入れ替えた。そしていまやイギリスがEUからの離脱を選んだことで、EU史上最悪の政治危機が引き起こされつつある。欧州の指導者たちは、統合の目的を新たに描き、統合プロセスの管理メカニズムを再確立する必要があるだろう。

  • 仏大統領選挙は何を問いかける
    ―― 出現した新しい政治ダイナミクス

    カルロ・インヴェルニッツィ・アクセッティ

    雑誌掲載論文

    フランス政治の主役だった右派左派の二大政党の公認候補が、二人そろって決選投票に進めそうにないという驚くべき事態が起きている。第一回投票を想定した世論調査によれば、両候補を合わせても得票率35%に達しない。おそらくはルペンとマクロンの対決になると思われる決選投票の結果は、フランス、ひいてはヨーロッパ政治の新時代の幕開けを告げるものになるだろう。ルペンは「根なし草のグローバル化支持者」と「愛国者」との対決こそが、今後の政治闘争では重要になると主張している。一方、マクロンは「保守主義」と「反動」に対抗して自らは「進歩」の側に立つと述べている。両者の対立は、冷戦終結後の欧米世界における新自由主義的社会経済モデルをめぐる対立であり、そこで問われているのは、冷戦後、欧米世界が基本としてきた社会モデルと民主主義そのものだ。

  • 危機後のヨーロッパ
    ―― 圏内経済不均衡の是正か、ユーロの消失か

    アンドリュー・モラフチーク

    Subscribers Only 公開論文

    単一通貨導入から10年を経ても、ヨーロッパは依然として、共通の金融政策と為替レートでうまくやっていけるような最適通貨圏の条件をうまく満たしていない。これが現在の危機の本質だ。南北ヨーロッパが単一の経済規範に向けて歩み寄りをみせなかったために、単一通貨の導入はかねて存在したヨーロッパ内部の経済不均衡を際立たせてしまった。救済措置を通じて、危機を管理することはできても、南北ヨーロッパの経済をコンバージ(収斂)させていくという長期的課題は残されている。経済の均衡を図るには、各国のマクロ経済政策を十分に均質性の高いものにすること、つまり、ドイツのような債権国と南ヨーロッパの債務国が、政府支出、競争力、インフレその他の領域で似たような経済状況を作り上げることが必要になる。そうできなければ、ユーロの存続は揺るがされ、ヨーロッパは、今後10年以上にわたって、その富とパワーを浪費し、消耗していくことになるだろう。

  • EUの衰退と欧州における
    国民国家の復活

    ヤコブ・グリジェル

    Subscribers Only 公開論文

    いまやヨーロッパ市民の多くは、EU(欧州連合)の拡大と進化、開放的な国境線、国家主権の段階的なEUへの委譲を求めてきた政治家たちに幻滅し、(超国家組織に対する)国民国家の優位を再確立したいという強い願いをもっている。ブレグジットを求めたイギリス市民の多くも、数多くの法律がイギリス議会ではなく、ブリュッセルで決められることに苛立っていた。昨今におけるドイツの影響力拡大を前に、ギリシャやイタリアなどの小国はすでにEUから遠ざかりつつある。一方、EU支持派の多くは、この超国家組織がなくなれば、ヨーロッパ大陸は無秩序に覆い尽くされると主張している。だが現実には、自己主張を強めた国民国家で構成されるヨーロッパのほうが、分裂して効率を失い、人気のない現在のEUよりも好ましいだろう。アメリカの指導者とヨーロッパの政治階級は、ヨーロッパにおける国民国家の復活が必ずしも悲劇に終わるとは限らないことを理解する必要がある。

  • マリーヌ・ルペンとの対話
    ―― フランスの文化、独立と自由を取り戻す

    マリーヌ・ルペン

    Subscribers Only 公開論文

    「フランスは、欧州連合(EU)の一部であるときより、独立した国家だったときの方がパワフルだったと私は考えている。そのパワーを再発見することを望んでいる。EUは段階的に欧州ソビエト連邦のような枠組みへと姿を変えつつある。EUがすべてを決め、見解を押しつけ、民主的プロセスを閉ざしている。・・・メルケルは次第に自分がEUの指導者だという感覚をもつようになり、その見方をわれわれに押しつけるようになった。・・・私は反メルケルの立場をとっている。テロについては、移民の流れを食い止める必要があるし、特に国籍取得の出生地主義を止める必要がある。出生地主義以外に何の基準もないために、この国で生まれた者には無条件で国籍を与えている。われわれはテロ組織と関係している二重国籍の人物から国籍を取り上げるべきだろう。・・・・」 (聞き手 スチュアート・レイド Deputy Managing Editor)

  • フランスのイスラム教徒問題
    ―― 真の問題はフランスそのものにある

    ステファニー・ジリ

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパで生まれたイスラムテロにどう対応するかは重要な課題だが、イスラムテロとイスラム教徒が安易に結びつけられているために、現在ヨーロッパに住む1500万~2千万人のイスラム教徒のほとんどがイスラム過激派とは無関係であり、ヨーロッパ社会に反発して背を向けるどころか、現地社会に溶け込もうと努力しているという重要な事実が見えにくくなっている。イスラム地区における犯罪発生率が高いとしても、それは宗教とは関係なく、フランス国内の社会経済環境を背景としている。フランスの移民問題を「文明の衝突」としてとらえるのではなく、フランスのエリートは、経済停滞、小さな違いを認めない非寛容的な態度、世論の場でのイデオロギー論争、政治的策略の横行といった国内の真の問題に取り組んでいくべきだろう。

論文データベース

カスタマーサービス

平日10:00〜17:00

  • FAX03-5815-7153
  • general@foreignaffairsj.co.jp

Page Top