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2015年5月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2015年5月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2015年5月号 目次

After Europe

  • ユーラシアで進行する露欧中の戦略地政学
    ―― 突き崩されたヨーロッパモデルの優位

    アイバン・クラステフ

    雑誌掲載論文

    ベルリンの壁崩壊以降、ヨーロッパはEUの拡大を通じて、軍事力よりも経済相互依存を、国境よりも人の自由な移動を重視する「ヨーロッパモデル」を重視するようになり、ロシアを含む域外の近隣国も最終的にはヨーロッパモデルを受け入れると考えるようになった。だが、2014年に起きたロシアのクリミア侵攻によってその前提は根底から覆された。しかも、ウクライナへの軍事援助をめぐって欧米はいまも合意できずにいる。一方でプーチンは、ハンガリーを含む一部のヨーロッパ諸国への影響力を強化し、ユーラシア経済連合構想でEUに対抗しようとしている。だが、ウクライナをめぐるロシアとの対立にばかり気をとられていると、思わぬ伏兵・中国に足をすくわれることになる。海と陸のシルクロード構想を通じて、ユーラシアを影響圏に組み込もうと試みる中国は、ウクライナ危機が進行するなか、すでに東ヨーロッパでのプレゼンスを高めることに成功している。

  • すべての道は北京に通ず
    ―― 習近平の遠大なビジョンのリスクと機会

    エリザベス・C・エコノミー

    Subscribers Only 公開論文

    経済的な成功にもかかわらず、中国が政治的に漂流しているタイミングで習近平は国家主席に就任した。政治腐敗問題とイデオロギーの形骸化に苦しむ中国共産党は大衆の信任を失い、社会騒乱も深刻化している。依然として見事な成長軌道にあるものの、中国経済は柔軟性を失い、先行き不透明感が高まっている。グローバルな経済大国としての地位を確立しながらも、その実力に見合うような影響力を行使できていない。こうした停滞を前に習近平は、彼のため、共産党のため、そして中国のために権力の強化を模索するようになった。共産党の伝統的な集団指導体制を拒絶し、厳格な中央集権型政治システムにおけるより大きな権限を持つ指導者として自らを位置づけた。だが彼の政策はすでに国内の不満を増大させ、国際的な批判と反動を呼び込んでいる。・・・・

  • プーチンの思想的メンター
    ―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

    アントン・バーバシン

    Subscribers Only 公開論文

    2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

  • 論争 悪いのは欧米かロシアか
    ―― ウクライナ危機の本質は何か

    マイケル・マクフォール

    Subscribers Only 公開論文

    本当のストーリーを知るには何が同じで、何が変わったかに目を向ける必要がある。何が変わったかといえば、それはロシアの政治に他ならない。プーチンは支持層を動員し、野党勢力の力を弱めようと再びアメリカを敵として位置づけた。(M・マクフォール)

    モスクワはヤヌコビッチに対して反政府デモを粉砕するように促したが、結局、彼の政権は崩壊し、ロシアのウクライナ政策も破綻した。プーチンがクリミアの編入に踏み切ったのは、自分が犯した大きな失敗からの挽回を図るためだった。(S・セスタノビッチ)

    EUとの連合協定は、重要な安全保障合意という側面ももっていた。協定文書は「外交と安全保障政策の段階的な統一を、ウクライナをヨーロッパ安全保障へより深く組み込むという目的に即して進めること」を提案していた。これは、どうみても裏口からNATOに加盟させる方策だった。(J・ミアシャイマー)

  • プーチンの戦略とヨーロッパの分裂

    マイケル・ブラウン

    Subscribers Only 公開論文

    NATOの東方拡大路線がロシアを刺激することはない。この欧米の認識は希望的観測にすぎなかった。欧米との明確な対立路線を選択したプーチンのロシア国内での支持率は高まっており、当面、状況は変化しないだろう。一方、ヨーロッパの安全保障は機能不全に陥っている。しかも、ヨーロッパはロシアからのエネルギー供給に依存している。このため、ロシアにどう対処するかをめぐってヨーロッパ諸国の足並みは乱れている。プーチンは「近い外国」におけるロシア系住民地域をロシアに編入してロシアの勢力圏を確立し、国内の政治的立場を支えるためにも欧米との対決状況を維持していくつもりだ。プーチンの野望、そして脅威の本質を過小評価するのは間違っている。欧米の指導者たちは、プーチンの最終的な戦略目的を見極めて、それに応じた行動をとる必要がある。

特集 瀬戸際の中国

  • 中国という砂上の楼閣
    ―― 改革時代の終わり

    ヨーウエイ(匿名)

    雑誌掲載論文

    政治腐敗の蔓延、格差の拡大、成長率の鈍化、環境問題など、依然として改革の余地は残されている。だが、中国における「権威主義的適応」による改革の時代は終わりつつある。現在の中国の権威主義的枠組みのなかで、さらなる進化のポテンシャルはほとんど存在しない。むしろ、停滞を持続させるバランスがすでに形作られている。問題が表面化しないように、中国全土が警察国家的な監視体制で覆われ、治安維持を担当する省庁、監視部隊のメンバーに始まり、交通補助員、国税調査員までもが監視対象にされている。反政治腐敗キャンペーンも真の改革プログラムとはみなせない。このキャンペーンは政府によるトップダウンで実施されているし、秘密主義、冷酷さ、政治的計算がその特徴だ。しかも、これまで政府の正統性を支えてきた成長率は鈍化し、経済のハードランディングシナリオへの懸念が高まっている。・・・

  • このままでは中国経済は債務に押し潰される
    ―― 地方政府と国有企業の巨大債務

    シブ・チェン

    雑誌掲載論文

    これまで中国政府は、主要銀行の不良債権が経済に悪影響を与えないようにベイルアウト(救済融資)や簿外債務化を試み、一方、地方の銀行については、地方政府が調停する「合意」で債務危機を抑え込んできた。だが、もっともリスクが高いのは地方政府そして国有企業が抱え込んでいる膨大な債務だ。不動産市場が停滞するにつれて、地方政府がデフォルトを避けるために土地をツールとして債務不履行を先送りすることもできなくなる。経済成長が鈍化している以上、国有企業がこれまでのように債務まみれでオペレーションを続けるわけにもいかない。しかも、債務の返済に苦しむ借り手は今後ますます増えていく。中国が債務問題を克服できなければ、今後の道のりは2008年当時以上に険しいものになり、中国経済に壊滅的な打撃を与える危機が起きるのは避けられなくなる。

  • 投資バブルの崩壊で
    中国経済は長期停滞へ

    パトリック・チョバネック

    Subscribers Only 公開論文

    この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

  • 世界経済を左右する
    中国における成長と改革の行方

    ロバート・カーン

    Subscribers Only 公開論文

    市場プレイヤーの多くは、中国経済の成長率は今後急激に減速していくと考えている。2013年と2014年の成長率は6%台へと落ち込み、悪くすると5%を割り込む可能性もあると予測している。だが、こうした経済成長の減速は、中国が経済構造のリバランスを試み、現在の輸出・投資主導型経済から、消費主導型経済に移行するための改革を実施することを織り込んでいる。これを別にしても、IMF(国際通貨基金)が指摘する通り、労働力人口の減少が労働市場ダイナミクスを根本的に変化させる。つまり、中国は、労働力の過剰供給の時代が終わり、相対的な賃金が上昇する「ルイスの転換点」にさしかかりつつある。だが一方でIMFは、経済成長の停滞を理由に中国は改革(経済構造のリバランシング)を先送りするのではないかと懸念している。中国が野心的な改革を実行し、経済のリバランシングを実現して短期的な低成長のリスクを受け入れるか、あるいは、経済成長を維持しようと改革プロセスを先送りするかで、グローバルな経済成長の見通しは大きく変わってくる。

  • 中国の労働者はどこへ消えた
    ―― 経済成長至上主義の終わり

    ダミアン・マ他

    Subscribers Only 公開論文

    中国の輸出と安価な製品をこれまで支えてきた季節労働者が不足するにつれて、中国経済の成長は鈍化している。市場レベルへと賃金を引き上げなかった工場のオーナーたちは、労働者が工場を後にし、戻ってこないという事態に直面している。「安価な労働力」の時代は終わり、企業は労働者を生産現場につなぎ止めようと賃上げに応じ、よりやる気のある季節労働者を確保できる内陸部へと工場を移転させる企業もある。一方、米企業の一部は生産部門をアメリカ国内に戻すか、メキシコやベトナムに移動させることを検討し始めている。だが、悪いことばかりではない。急速に上昇する賃金レベルが、投資・輸出主導型経済から内需主導型経済モデルへのシフトを促している。中国の指導者がこれまでの流れを維持したいのなら、利益集団としての労働者の集団化を認識し、安定よりも成長を重視する、これまでの社会契約を見直す必要があるだろう。

  • 中国経済はなぜ失速したか
    ―― 新常態を説明する二つの要因

    サルバトーレ・バボネス

    Subscribers Only 公開論文

    中国経済の成長率鈍化を説明する要因は二つある。一つは出生率の低下、もう一つは都市への移住ペースの鈍化だ。たしかに、1970年代の出生率の低下は経済成長の追い風を作り出した。一人っ子政策で、扶養すべき子供が1人しかいない親たちはより多くの時間を労働に充てることができた。だが40年後の現在、いまや年老いた親たちは引退の年を迎えつつあり、しかも子供が親を支えていくのは不可能な状態にある。都市への移住ペースの鈍化も中国の経済成長率を抑え込んでいる。1980年当時は、総人口の5分の1を下回っていた中国の都市人口も、いまや全体の過半数を超え、しかも主要都市の空室率が上昇していることからみても、都市化はいまや上限に達している。要するに、中国の経済ブーム・高度成長の時代は終わったのだ。今後成長率はますます鈍化し、2020年代には中国の成長率は横ばいを辿るようになるだろう。

  • 米エリート大学の嘆かわしい現実
    ―― 失われた人間教育と格差の拡大

    ジョージ・シアラバ

    雑誌掲載論文

    アメリカのエリート大学は若者に教養と規律を与える場ではなくなっている。大学は学部生を教える仕事を薄給の非常勤講師に任せる一方で、学生とはほとんど接することのない著名な研究者をリクルートすることに血道をあげている。経験が豊かで献身的な教員の指導のもとで、学生たちがさまざまな概念について意見を交換し、人生の目的を考え、それまで常識と考えてきたことに疑いを抱くような経験をさせるという役割はもはや重視されていない。親にも問題がある。いまや十代あるいはそれ未満の子供時代でさえ、名門大学に入るための激しい競争のなかにいる。・・・完璧な経歴づくりは、プレスクール選びから始まり、小中学校を通じて続く。これらが社会格差を増大させ、コミュニティ意識を希薄化させている。この歪んだ構造が教育上の問題だけでなく、政治・社会問題も作り出している。

  • 実用化に近づいたソーラーパワー
    ―― なぜソーラーは安く実用的になったか

    ディッコン・ピンナー他

    雑誌掲載論文

    いまやソーラーパワーは他の電力資源と価格的に競い合えるレベルに近づきつつあり、2050年までにソーラーエネルギーは、世界の電力の27%を生産する最大のエネルギー資源になると予測されている。ソーラーパワーの急激な台頭を説明する要因としては、政府の促進策、低価格化と効率化、そして技術革新などを指摘できる。今後も多くの市場で、ソーラーパワーの電力生産コストは8―12%低下すると考えられているし、蓄電技術の進化もソーラーパワーの台頭を支えることになるだろう。電力価格が低下すれば、電力会社は再編を余儀なくされるが、ソーラーパワーの普及によって、温室効果ガスの排出量削減という環境上の大きなメリットも期待できる。太陽光に恵まれた地域における新しい住宅のほとんどの屋根にソーラーパネルが設置されるとしても、いまや不思議はない。

  • 精密農業と農家なき農業の時代
    ―― テクノロジーが農業を根底から覆す

    ジェス・ローエンバーグ=デボア

    雑誌掲載論文

    1980年代に地球測位システム(GPS)テクノロジーが民間利用に開放され、ここに精密農業の基盤が提供された。適切な場所に適正な量の資材(農薬、肥料、水など)の投入を行う可変作業技術(VRT)を用いた装置や機械が市場化され、例えば、農地の各部分にそれぞれ適正な量の肥料を与えられるようになった。トラクターをGPSで誘導し、(収穫量を測定しながら作業を行える)収量モニタリングも実現した。いまやビッグデータを農業に生かすこともできる。だが、農業を大きく変貌させるテクノロジーはやはりロボットだろう。ロボットなら農作物の生育をつぶさに調べ、害虫や病気を早い段階で発見できる。特定の害虫や病気にかかった植物だけを対象に農薬を散布できる。これらが実現すれば、世界の農業生産性は劇的に向上するだけでなく、農業の歴史が根本から覆される。「農家なき農業の時代」がやってくる。

  • イラン核合意と北朝鮮の教訓
    ―― 合意を政治的に進化させるには

    ジョン・デルーリー

    雑誌掲載論文

    イランとの核合意にとって、北朝鮮への核外交が失敗したことの中核的教訓とは何か。それは、最善の取引を交わしたとしても、合意そのものは外交ドラマのプレリュードにすぎないということだ。テヘランが平壌と同じ道を歩むのを阻むには、今後、テヘランがこれまでとは抜本的に異なる新しいアメリカや地域諸国との関係、国際コミュニティとの関係を築いていけるようにしなければならない。アメリカは北朝鮮との核合意を結びながらも、政治的理由から合意を適切に履行せず、結局、北朝鮮は核開発の道を歩み、核保有を宣言した。米議会からリヤド、エルサレムにいたるまで、イランとの核合意に反対する勢力がすでに動きだしている。相手国との関係の正常化こそが、核開発の凍結を実現する最善の方法であることを忘れてはならない。そうできなかったことが北朝鮮外交失敗の本質であり、この教訓をイランとの外交交渉に生かしていく必要がある。

  • 日中軍事衝突のリアリティ
    ―― 日中危機管理システムの確立を急げ

    アダム・P・リッフ

    雑誌掲載論文

    東シナ海をめぐる日中関係は、一般に考えられている以上に緊張している。中国軍の高官が言うように、「わずかな不注意でさえも」、世界で2番目と3番目の経済国家間の「予期せぬ紛争に繋がっていく恐れがある」。もちろん、日中はともに紛争は望んでいない。だが、東シナ海の海上と上空の環境が極端に不安定である以上、誤算や偶発事件が大規模な危機へとエスカレートしていく危険は十分にある。世論調査結果をみても、日中間の敵意はこれまでになく高まっている。しかも、偶発的衝突を制御していく力強い危機管理メカニズムが存在しない。中国軍と自衛隊の高官たちでさえも、危機エスカレーションリスクが存在することを懸念している。危機管理メカニズムが必要なことは自明だが、日中両国にそれを導入する政治的意思があるかどうか、依然として不透明な状況にある。・・・

特集 中東紛争のパワーバランス

  • 敵はイランかイスラム国か
    ――問題解決の鍵を握るスンニ派部族

    マックス・ブート

    雑誌掲載論文

    イランが支援するシーア派の過激派組織が勢いを増しているとみなされるようになれば、ますます多くのスンニ派が危機感を抱き、イスラム国に結集するという悪循環が存在する。・・・極論すれば、中東世界における過激派勢力とはイランのアルクッズ旅団とスンニ派のイスラム国だ。この二つの集団は相手が攻勢と影響力を強めれば、自分たちの影響力も強化できる奇妙な共生関係にある。(M・ブート)

    イラクでイスラム国が台頭し、シリアへと勢力を拡大できたのは、イラクのマリキ首相がスンニ派を冷遇し、シリアではアサドがスンニ派を弾圧したからだ。この意味では、確かに今後のスンニ派の扱いが、イスラム国を打倒する鍵になる。(J・デビッドソン)

    アメリカが中東で何を達成しようとしているかを理解せずに、イスラム国、シリア、イラクの問題にどう対処すべきか、判断はできない。米本土を防衛し、中東の地域同盟国を守り、中東の安定を実現すること。エネルギー資源へのグローバルなアクセスを保障するという利益を前提に考えれば、中東への地域政策はもっとクリアーになる。(A・クルト・クローニン)

  • トルコのサウジ接近と対イラン関係
    ―― トルコの真意、サウジの思惑

    アーロン・ステイン

    雑誌掲載論文

    サウジは、(イランが支援していると言われる)イエメンのシーア派武装集団フーシ派に対する空爆を実施し、サウジと同じスンニ派のトルコは、サウジの空爆を支持すると最近表明した。それでも、トルコがサウジの地域的な野心のために、イランとの関係を犠牲にするとは考えにくい。トルコは中東におけるイランの大きな役割を事実上受け入れ、これに挑戦しようとは考えていない。トルコは、サウジほどイランの核開発プログラムを警戒していないし、イラン同様にクルド人問題を抱え、イランにエネルギー資源を依存している。一方、(ムスリム同胞団の)政治的イスラム主義をめぐるサウジとトルコの対立は解消していない。イエメン空爆に対するトルコのサウジへの歩み寄りは、戦争が続く中東でトルコがとってきたこれまでのバランス戦術の継続とみなすべきで、抜本的な路線変更ではない。

  • サウジのトリレンマ
    ――  地政学と宗派対立と対米関係

    グレゴリー・ゴース

    Subscribers Only 公開論文

    サウジにとっての地域的・宗派的ライバルであるイランとの関係改善へとワシントンが舵をとりつつあること、そして、シリア内戦に対する軍事関与路線からオバマ政権が遠ざかりつつある現実を前に、リヤドは苛立ちを強めている。国連総会での演説を拒否したり、(国連安全保障理事会の非常任理事国への就任を拒否したりと)サウジが不可解な行動を見せているのは、この苛立ちゆえのことだ。だが、アメリカへの反発を強めれば強めるほど、地域的なライバルであるイランパワーの拡大への危機意識も高まり、結局、サウジはますますアメリカを必要とするようになる。・・・シリア内戦への関与を含めて、サウジの対外行動の目的は、イランの影響力拡大を封じ込めることにある。だからこそ、イランに核を放棄させる代わりに、アメリカはイランの地域的優位を認めるつもりではないか、と神経をとがらせ、警戒している。だが、アメリカがそうした譲歩をすることはあり得ない。アメリカの湾岸政策は、この産油地域で、特定の国が支配的な優位を確立するのを阻止することを目的にしている。―― 聞き手はバーナード・ガーズマン(Consulting Editor@cfr.org)

  • イスラムのモデル国家はトルコかイランか

    ムスタファ・アキョル

    Subscribers Only 公開論文

    「アラブの春」をきっかけにトルコとイラン間の緊張が高まり、いまや「アメリカやイスラエルから攻撃を受ければ、トルコを攻撃する」とテヘランが表明するほどに両国の関係は悪化している。根底には、イスラム原理主義を重視する「イランモデル」と、民主主義とプラグマティズムを重視する「トルコモデル」のせめぎ合いがある。だが、「欧米支配に立ち向かうイスラム世界のヒーロー」としてのイランの影響力も、現在のトルコの地域的影響力を前にすれば影が薄い。「より平和で民主的、しかも自由な中東の未来」を夢みる人々が取り入れたいと考えているのは、イランモデルではなく、リベラルなトルコモデルだからだ。すでにアラブ人の多くが、イスラム国家ながらも、民主的で開放的な社会を持ち、繁栄を手にしているトルコのことを自分たちの「モデル国家」とみなし始めている。イランはイラクのシーア派の、サウジはスンニ派のパトロンを自認しているが、トルコは、キリスト教徒や世俗派に加えて、シーア派、スンニ派の双方に関わっている。トルコは、イスラムと「民主主義、市場経済、近代性」との統合が必要だと考えている。

  • 内戦への道を歩むイエメン
    ――シーア派系フーシ派の目的は何か

    エイプリル・ロングレー・アレイ

    Subscribers Only 公開論文

    2015年1月、イエメンでイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が権力を掌握し、議会を解散して暫定政府の樹立を宣言した。しかし、政治的経験のないフーシ派には、政府を運営し、経済を管理していく力はない。これまでの問題を批判するだけで、統治上の責任はほとんど果たせずにいる。一方でイエメンのスンニ派系テロ集団・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、紛争を宗派抗争へ持ち込もうと策謀している。実際、フーシ派を侵略者とみなしているイエメン中央部のバイダー県を含む地域では、いまやAQAPに多くの若者が参加しつつある。地方の部族がAQAPと手を組む可能性もある。サウジは、外交的にフーシ派を孤立させ、彼らと軍事的に対立している集団を支援し、フーシ派に明確に敵対する路線をとっている。一方で、危機を緩和させるためにシーア派のイランが前向きな行動をみせるとも考えにくい。いまや宗派を軸とするイエメン内戦のリスクが高まっている。・・・

  • アサド体制を支えるアラウィ派のジレンマ

    レオン・ゴールドスミス

    Subscribers Only 公開論文

    シリアでの紛争が長期化するにつれて、一部のアラウィ派が政府に背を向け始めている兆候もある。だが、彼らのほとんどは依然としてアサド体制を守ろうと戦いを続けている。現体制によるこれまで、そして現在の残虐行為の報復として、いずれスンニ派の報復がバッシャール・アサドだけでなく、アラウィ派にも向けられることを恐れているからだ。こうした危機感に根ざすアラウィ派の体制への忠誠は歴史的なルーツをもっている。アラウィ派コミュニティは、歴史的にスンニ派による差別と殺りくの対象にされてきた。だが、バッシャール・アサド現大統領の父でアラウィ派のハフェズ・アサドが1970年に権力を掌握したことで流れは変化する。権力者であるハフェズはスンニ派の反乱を抑えるために過酷な弾圧策をとった。この段階でアラウィ派は犠牲者から加害者になった。・・・そして今、アラウィ派は実存的ジレンマに直面している。バッシャール・アサド政権が崩壊すれば、アラウィ派はかくも長期にわたって体制を支えてきたことの責任を問われる。一方でアサド体制に固執すれば、容赦のないスンニ派による報復のリスクを高めてしまう。・・・

  • 動き出したアメリカの対イスラム国戦略
    ――イスラム国対策の鍵を握る男 ジョン・アレン

    Subscribers Only 公開論文

  • 中国の債務交換プログラム
    ―― 北京は地方の債務にどう対処するのか

    ダン・ステインボック

    雑誌掲載論文

    2013年以降、中国政府は、不安定な不動産市場と地方債務の削減をいかにバランス良く進めていくかに腐心してきた。不動産市場をさらに過熱させ、債務を拡大させる過剰な不動産開発を抑制する一方で、(地方政府が財源を依存する)不動産市場を過度に冷え込ませることを警戒して、債務を劇的に削減するのを躊躇してきた。北京は2015年3月に、地方政府のリスクの高い高金利債務を低金利の債券に交換していく、推定1600億ドル規模の債務交換プログラムを発表した。このプログラムは、2010年代後半までに債務圧力を軽減し、リスク・プレミアムを減少させ、シャドーファイナンスの実態を明らかにすることを目的にしている。中央政府は、債務交換によって、不透明な債務を把握し、シャドーバンキングの活動を牽制することで、地方の統治改革を促したいと考えている。

  • アジアインフラ投資銀行
    ―― 国際経済秩序への挑戦か協調か

    ロバート・カーン

    雑誌掲載論文

    中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は各国のインフラ改善を目的に掲げ、他の国際機関と協力していくと表明している。とはいえ、この構想は既存のグローバル金融機関における改革が進展しなかったことに対する中国の不満に根ざしている。この意味では、AIIBは、BRICS銀行とともに、既存の国際経済秩序に対する中国の挑戦とみなせる。一方、ヨーロッパ諸国がAIIBへの参加を決めたのは、その活動と既存の国際機関の活動との一体性を持たせるには、外にいるよりも参加して内側にいた方がよいと判断したからだ。ワシントンが次第にこの構想をめぐって孤立しつつあることは否定できない。理屈上はAIIBが世界銀行やアジア開発銀行と共同出資して投資プログラムを進めることもできるが、現実にどうなるかは分からない。現在のAIIBは勢いをもっているが、今後、融資基準の劣化、投資プロジェクトの選択ミスなどの問題に直面していくはずで、こうした問題を経験することなく、AIIBが拡大していくとは考えにくい。(聞き手はEleanor Albert , Online Writer and Editor)

  • ウクライナのチェチェン人兵士
    ―― さらに複雑化するウクライナ紛争の構図

    ニコラス・ウォーラー

    雑誌掲載論文

    プーチンに忠誠を誓うチェチェンの政治指導者カディロフはウクライナ東部の新ロシア派のために数百名の戦闘員を現地に派遣している。一方、2013―14年にキエフで起きた反ロシアの抗議行動に刺激されたチェチェンの独立派も、ウクライナに向かいロシア軍や親ロシア派と戦うために銃をとっている。彼らはヨーロッパに亡命したディアスポラのチェチェン人たちで、その多くはかつてチェチェン紛争でロシア軍との戦闘経験をもっている。この二つの集団はウクライナ紛争にチェチェン紛争の代理戦争という構図を持ち込むことで、各勢力間の競合する利益をさらに複雑にし、地域を越えた余波を作り出す危険を生み出している。

  • ある限界集落の物語
    ―― 渓谷の人形たち

    フリッツ・シューマン

    雑誌掲載論文

    辺りは完全な静寂に包み込まれていた。ざわめきもなければ、人声もしない。機械音もなければ、子供たちの遊び声も聞こえない。耳にするのは祖谷(いや)川のせせらぎと渓谷へと流れ込む水の音だけだ。ここに木、綿、古紙、そして人々から譲り受けた衣類で人形を作る女性がいる。彼女の家の周りには少なくとも70の人形がある。座っている人形もあれば、立っている人形も、しゃがんでいる人形もある。家の居間にも20の人形たちがいる。村の至る所、そして渓谷の東部にも人形たちがいる。すべてをあわせると、350の人形をこれまでに作ったと彼女は考えているが、数えたわけではなく、その数が正しいかどうかは、はっきりしない。だが、すでに高齢化している住民たちがいつかこの世を去れば、この集落には人形だけが残される。人口ゼロ、人形350の村になる。

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