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ある限界集落の物語
―― 渓谷の人形たち

フリッツ・シューマン 独フォトジャーナリスト

Valley of the Dolls ―― Japan's Disappearing Villages

Fritz Schumann  ドイツのフォトジャーナリスト、フィルムメーカー。2009年から2014年まで日本に滞在し3冊の日本関連の書籍を出版している。

2015年5月号掲載論文

辺りは完全な静寂に包み込まれていた。ざわめきもなければ、人声もしない。機械音もなければ、子供たちの遊び声も聞こえない。耳にするのは祖谷(いや)川のせせらぎと渓谷へと流れ込む水の音だけだ。ここに木、綿、古紙、そして人々から譲り受けた衣類で人形を作る女性がいる。彼女の家の周りには少なくとも70の人形がある。座っている人形もあれば、立っている人形も、しゃがんでいる人形もある。家の居間にも20の人形たちがいる。村の至る所、そして渓谷の東部にも人形たちがいる。すべてをあわせると、350の人形をこれまでに作ったと彼女は考えているが、数えたわけではなく、その数が正しいかどうかは、はっきりしない。だが、すでに高齢化している住民たちがいつかこの世を去れば、この集落には人形だけが残される。人口ゼロ、人形350の村になる。

  • 人形の村
  • 少子高齢化と限界集落
  • 政府の過疎集落への対応

<人形の村>

名頃(なごろ)集落は消滅しつつある。四国(徳島県)の過疎地域にあるこの集落の住民はわずか35人。日本には、都市への移住によって空洞化し、今後数十年で消滅すると考えられている集落が1万はあると言われ、名頃もそうした集落の一つだ。だが、住民の1人は村の寂しさを少しでも紛らわそうと、故人やよそへ引っ越した人たちの等身大の人形を作り続けている。綾野月美が作った人形の数は、いまや村の人口の10倍になる。

ドキュメンタリーフィルム「渓谷の人形」を作り、月美の奇妙な作品を欧米の人々に紹介しようと私が名頃を訪れたのは2013年11月だった。辺りは完全な静寂に包み込まれていた。ざわめきもなければ、人声もしない。機械音もなければ、子供たちの遊び声も聞こえない。耳にするのは祖谷(いや)川のせせらぎと渓谷へと流れ込む水の音だけだ。・・・

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