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新型コロナウイルスに関する論文

パンデミック対策を左右する政府への信頼
―― 誰がどのように情報を伝えるか

2020年12月号

トマス・J・ボリキー 外交問題評議会 ディレクター (グローバルヘルス担当) ソーヤー・クロスビー ワシントン大学健康指標評価センター  データアナリスト サマンサ・キーナン 外交問題評議会リサーチアソシエーツ グローバルヘルス、経済、開発)

パンデミックに相対的にうまく対応できた国とそれに失敗した国の違いはどこにあるのか。リスクコミュニケーションにおいて重要なのは「何が問われているか」だけでなく、「誰が」情報や懸念を「どのように」伝えるかだ。要するに、情報を伝える側が信頼されていなければ、市民が耳を傾けることもない。実際、事実に反する説明をした政治家もいる。米大統領は2月の時点で、「それはインフルエンザのようなもので、制御できるし、いずれいなくなる」とさえ表明した。効果的な治療法がなく、人々が既存の免疫をもたない新型ウイルスに直面して、市民が互いに自らを守れるようにするために、政府ができる唯一のことは「自分を守るために何が必要かについて市民を納得させること」だ。特に自由な社会においては、そうした試みの成功は政府と市民の間に信頼があるかどうかに左右される。

パンデミックとデジタルなつながり
―― 貧困国におけるコミュニティパワー

2020年12月号

リチャード・セネット コロンビア大学 資本主義社会センター・シニアフェロー

世界の貧困地域における感染者にとって、唯一の対策は(隔離や)行動規制だけであることが多い。地元の医師や看護師でさえ外科用手袋やその他の防護具を調達できずにいる。こうして、貧しいコミュニティは、最後の手段としてオンラインネットワークを、医療ケアの代わりとして使うようになった。もちろん、人工呼吸器や高度な治療薬を代替できるわけではない。それでも、かつては存在しなかった「つながり」という、非常に重要な社会サービスが提供される。こうして、互いに支援サービスを提供し、小額の送金を確認し、地方を含む遠くにいる家族とつながることができる。貧しいコミュニティは、オンラインネットワークを利用して、日常的なリスクを軽減し、パンデミックとその後のロックダウンが必然とする不況と孤立に対処していくだろう。

対途上国ワクチン供給の覇者
―― 中国は途上世界の救世主へ

2020年12月号

エイク・フライマン オックスフォード大学博士候補生  ジャスティン・ステビング インペリアル・カレッジ・ロンドン教授

世界保健機関(WHO)は、途上国の重症化リスクがある人々に20億回分のワクチンを提供するイニシアティブを促進しているが、中国とは違って、アメリカは構想への参加を拒否している。実際、世界人口の半数以上が暮らし、国がワクチン接種費用を負担するのが財政的に難しいアジアやアフリカそして中東の新興国では、中国メーカーのワクチンが圧倒的なシェアを握りそうだ。2021年、世界の注目を「健康シルクロード」に向けることで、中国は世界の技術大国かつ公衆衛生の擁護者として自らを「リブランド」しようとしている。これに成功すれば、一流の技術大国という名声に加えて、中国は、途上世界のパートナーとの友好関係を強化し、「グローバルリーダー」の称号への国際的支持を得ることになるだろう。

レジリエンス強化の大戦略を
―― パンデミック、異常気象時代における復元力パワー

2020年11月号

ガネーシュ・シタラマン  バンダービルト大学法科大学 教授

2020年にはパンデミックが発生し、多くの米市民がステイホームを余儀なくされた。来年には、農業と食糧生産を破壊する千年に一度の大干ばつが起きるかもしれないし、その翌年には、サイバー攻撃によって電力網が破壊され、重要なサプライチェーンが遮断されるかもしれない。現在のパンデミックが(今後の不透明さを示す)何らかの兆候だとしても、各国はこうした混乱に対処するための準備が嘆かわしいほどにできていない。必要なのは、レジリエンス(柔軟性と復元力)を強化する大戦略でなければならない。アメリカを含むほとんどの国々は、単独では完全なレジリエンスをもつことはできない。重要な物資や製造能力のすべてを国内で調達できるわけではないからだ。解決策は、価値を共有する北米、西ヨーロッパ、北東アジアのリベラルな民主国家との絆と同盟を深めることだ。

パンデミック後の資本主義
―― 官民協調型の経済システムの模索

2020年11月号

マリアナ・マッツカート  ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン  経済学教授

多くの人が、民間部門がイノベーションと価値創造の主要な原動力だったと信じてきたために、利益は民間企業が手にする権利があると考えている。だがこれは真実ではない。医薬品、インターネット、ナノテク、原子力、再生可能エネルギーなど、これらのすべては政府の膨大な投資とリスクテイキングのおかげで実現してきた。イノベーションのために公的資金を投入しつつも、それから恩恵を引き出してきたのは、おもに企業とその投資家たちだった。COVID19危機は、この不均衡を正す機会を提供している。ベイルアウトする企業により公益のために行動するように求め、これまで民間(の企業)部門だけが手にしてきた成功を納税者が分かち合えるようにする新しい経済構造が必要だ。富の創造への公的資金の貢献を明確に理解すれば、公的投資の意味合いを変化させることができる。目の前にある課題は、よりすぐれた経済システム、よりインクルーシブで持続可能な経済を官民で形作ることであり、世界の誰もがCOVID19ワクチンを利用できるようにすることでなければならない。

ヨーロッパの地政学的覚醒
―― 危機を前に連帯を強めた欧州の自立

2020年10月号

マックス・バーグマン センター・フォー・アメリカン・プログレス シニアフェロー

パンデミックは、数十年にわたる経済的、政治的な眠りからヨーロッパ大陸を覚醒させ、わずか6カ月前には想像もつかなかった形でEU統合プロジェクトを再活性化したようだ。トランプ政権によって乱用されてきた大西洋同盟に甘んじたり、対外的リーダーシップを攻撃的に行使するようになった中国に期待したりするのではなく、ヨーロッパの指導者たちは「自分に目を向けなければならないこと」を理解し始めている。危機のなかで2兆ドル規模の「経済復興基金」を成立させたことも、この文脈で理解すべきだ。いまや「戦略的自主路線」は、欧州の指導者たちが議論すべきテーマとしてよりも、むしろ、早急に成立させるべき政策とみなされている。大きな問題を内に抱えつつも、今回の危機を経て、ヨーロッパがより強く、より統合されたグローバルプレーヤーになることはほぼ間違いない。

ラテンアメリカとパンデミックの悪夢
―― ウイルスが暴き出した社会的病巣

2020年10月号

ディアナ・エンリケ  プリンストン大学社会学部博士候補  セバスチャン・ロハス・カバル  プリンストン大学社会学部博士候補 ミゲル・A・センテノ  プリンストン大学社会学教授 公共政策・国際関係大学院副学院長

ラテンアメリカにコロナウイルスを持ち込んだのは飛行機で世界を飛び回る富裕層たちで、最大の打撃を受けたのは貧困層だった。チリの場合、最初に感染したのはヨーロッパでの休暇から戻った首都サンティアゴのエリートたちで、彼らの家で働くメイドがウイルスを人口密度が高い貧困地区に持ち帰ってしまった。こうした階級格差はウイルスが国全体にばらまかれるきっかけをつくっただけでなく、一方的に大きな負担を貧困層に負わせた。初期の感染拡大は偶然とロケーションが大きな要因だったが、その後の感染動向は社会的状況によって異なる道をたどった。格差や非正規労働者の多さそして政府の能力の低さがラテンアメリカにおけるパンデミック対応の足かせを作り出した。だが最大の問題は、各国のお粗末な政治的リーダーシップだった。

インドのパンデミックが制御不能な理由
―― 実際の感染者数は4000万?

2020年10月号

T・ヤコブ・ジョン  インド医学研究センター評議会 ・先端研究所(ウイルス学)元所長

最近のインドにおける急速なコロナウイルスの感染拡大は、経済に大きなダメージを与えたロックダウン(封鎖措置)を緩和したことで引き起こされている。「感染の拡大を引き起こすとしても、経済を救済せざるを得ない」と考えた上での、ある意味、仕方のない政府判断だった。時とともにウイルスの毒性は弱くなりつつあるかもしれないが、感染力を高めている可能性がある。パワフルな抗ウイルス療法が登場していないにもかかわらず、インドの死亡率が比較的低いことは、こうしたウイルスの変異で説明できるのかもしれないし、おそらく、インドの人口が比較的若いことにも関係があるだろう。いずれにせよ、インドでの新規感染者が減少し、コロナウイルスが風土病化するまで、ウイルスの感染拡大は2021年初頭まで続くと考えるべきだろう。9月初旬の段階で、インドでの感染者数は約430万とされているが、実際の感染者数は2000万から4000万に達していると考えられる。

パンデミック後の日本
―― 世界の労働者と留学生は日本を目指す

2020年9月号

ファーラー・グラシア 早稲田大学教授(社会学)

アメリカへの移民の流れは今後か細くなっていくかもしれないが、一方で、移民を受け入れ、多様性、ダイナミクス、新しい才能という移民がもたらす社会的恩恵を引き出す国も出てくるだろう。そして日本ほどこの流れから大きな恩恵を引き出せる国もない。社会的に安全で安定しているし、失業率も低く、より多くの労働者を必要としている。いまや欧米へのコスト高の留学に前向きでなくなった世界の学生を魅了できる優れた大学もある。パンデミックが経済を破壊し、欧米の大学がかつてのようなアクセスも魅力も失うにつれて、移民や学生の目的地としての日本の魅力と優位はますます際だってくる。この流れが根付けば日本企業だけでなく、日本社会もいずれ世界の一部として統合されていくはずだ。

パンデミックとポピュリズム
―― 政治対立と反知性主義とポピュリストの再台頭

2020年9月号

ナディア・ ウルビナティ  コロンビア大学教授

ポピュリストの政治家は、ウイルスに関する科学的見解が不確実で可変的であることを根拠に、パンデミックそのものを「フェイクニュース」と呼んだ。世界のポピュリストたちは、一般にパンデミック対策への「リバタリアン的な反発」を示している。都市封鎖に移動の自由の立場から反対し、マスク着用やソーシャルディスタンスを保つことにも反発した。デマゴーグたちは、「絶対的な自由」を重視する戦略をとり、トランプも移動の自由や集会の自由に対する規制を緩和するように呼びかけた。社会(と経済)が全面的に再開すれば、われわれは深刻な失業と貧困の問題に直面する。つまり、ロックダウンに反対したポピュリストたちは、この段階でロックダウンを擁護した政府や多数派を攻撃するための勲章と棍棒を得ることになる。エスタブリッシュメント(の判断)に対する「忘れられた多くの人々(の不満と怒り)」を動員して、ポピュリズムはさらに力を得るかもしれない。

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