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論文データベース(最新論文順)

トランプと米欧関係の未来
―― トランプの脅威は欧州の連帯を促すか

2017年3月号

キャサリン・R・マクナマラ ジョージタウン大学教授(政治学)

ドナルド・トランプは北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」とけなし、欧州連合についても「ドイツのためのツールと化している」と、まるでその解体を支持するかのような発言をしている。これにヨーロッパはどう対処するだろうか。トランプを「異質な他者」とみなし、ヨーロッパは団結できるだろうか。それとも、彼の発言はヨーロッパのポピュリスト勢力を勢いづけるだけなのか。欧州連合(EU)が築いたヨーロッパの「想像の共同体」は、伝統的なナショナリズムがもつ強い文化や感情的なこだわりをもっていないために、トランプがEUに脅威を与えても、それによって、ヨーロッパプロジェクトへの支持と結束が生み出されるとは考えにくい。ポピュリズムの台頭を前に、ヨーロッパの政治家と市民は、EUが達成した成果を強く擁護しつつ、EUが直面する課題に対応していくしかない。一方、これまでアメリカの優位を支えてきたリベラルな制度の多くが解体していくかもしれず、この事態が、EUにとって希望の光になることもあり得ない。

トランプリスクが促す世界秩序の再編
―― 各国のリスクヘッジで何が起きるか

2017年3月号

スチュワート・パトリック  米外交問題評議会シニアフェロー (グローバルガバナンス)

トランプ政権が同盟関係へのコミットメントを弱め、保護主義的な経済・貿易政策をとり、地球温暖化対策を放棄すれば、同盟国は、自国の安全保障、繁栄、市民の安定した生活を、独立性を高めることで強化しようと模索し始めるだろう。地政学領域では、各国は、「アメリカ」と「自国にとって重要な地域大国」、つまり、アジアにおける中国、ヨーロッパにおけるロシア、中東におけるイランとの関係を見直すことで、リスクヘッジを試みる。この流れのなかで、日本と韓国は核開発を真剣に検討するようになるかもしれないし、バルト諸国は、アメリカを見限って「フィンランド化」に踏み切るかもしれない。経済領域では、中国が主導する一帯一路構想などの、アメリカが関与していないアレンジメントを各国は求めるようになるだろう。もちろん、トランプ政権が伝統的なアメリカのリーダーシップを放棄していくにつれて、他の諸国がリスクヘッジ策をとると決まってはいない。そうなるかどうかは、「大統領としてのトランプの選択」に左右される。

平壌との交渉しか道はない
―― トランプと北朝鮮

2017年3月号

ジョン・デルーリ 延世大学准教授(中国研究)

北朝鮮の指導者が経済を第1に据え、経済開発のために国を開放するとすれば、「自分の国内での地位が安泰であると確信し、外国からの脅威を相殺できると自信をもったとき」だけだろう。したがって、ワシントンが朝鮮半島における平和の実現を望むのなら、北朝鮮経済を締め上げたり、金正恩体制を切り崩す方法を探したりするのを止め、平壌がより安心できる環境が何であるかを考える必要がある。国の崩壊を心配しなくてよくなれば、北朝鮮の民衆も、生き延びることよりも、繁栄を享受したいと考えるようになる。欠乏を和らげ、外の世界と彼らを遮断している壁を崩すことで、世界は北朝鮮民衆の多くを救うことができる。したがって、トランプがまず試みるべきは、アメリカが安全を保証することを条件に、北朝鮮の核開発プログラムの凍結を交渉することだろう。金正恩を経済開発に向かわせ、遅ればせながら北朝鮮に変革の道を歩ませるには、この方法しかない。

伝統的な対中政策への回帰を
―― トランプと中国

2017年3月号

スーザン・シャーク カリフォルニア大学サンディエゴ校 21世紀中国センター議長

国内の不安定化を心配し始めた習近平は、(不満の矛先が政府ではなく、外に向かうように)国内のナショナリズムを鼓舞するような対外強硬路線をとり、一方で、国内における反政府運動の兆候があると、直ちにこれを粉砕している。この状況でトランプ政権が北京を挑発する路線をとれば、民衆に弱腰だとみなされることを警戒する北京は、台湾とアメリカに痛みを伴う経済懲罰策をとり、台湾海峡あるいは南シナ海で挑発的な軍事行動に出る恐れがある。しかも、中国を敵として扱えば、気候変動、感染症、核拡散などの重要なグローバルアジェンダをめぐって、両国が協議するのは不可能になる。いまやホワイトハウスの主となったトランプは、ニクソン政権以降の歴代の米政権がとってきた慎重な対中アプローチへと立ち返る必要がある。これまでのアプローチを完全に覆すのではなく、トランプはうまく機能してきたものは温存し、そうでないものだけを変化させるべきだ。

ロシアとの和解という虚構
――トランプとロシア

2017年3月号

ユージン・ルマー カーネギー国際平和財団シニアフェロー
リチャード・ソコルスキー 同財団シニアフェロー
アンドリュー・S・ワイス 同財団バイスプレジデント

アメリカとロシアの対立の根は深い。ドナルド・トランプはキャンペーン中も大統領選で勝利した後も、「なぜロシアとうまくやれないのか」と問いかけてきたが、うまくやれないのは、双方が国益の基礎をなすと考える中核問題をめぐって双方の立場の隔たりが大きいからだ。ロシアによる勢力圏の主張はワシントンには受け入れられないし、「欧米によるロシア勢力圏の侵食」とモスクワがみなす動きへの反発も障害となる。貿易で関係を安定させるのも難しい。実際、米ロが中核問題をめぐって歩み寄るのは今後も難しいままだろう。トランプ政権の課題は、モスクワとの緊張を緩和することではなく、むしろ、それをうまく管理して、さらなる悪化を防ぐことだ。ロシアと突然和解すれば、アメリカとヨーロッパの関係、ヨーロッパの安全保障、そしてすでに不安定化している国際秩序が永続的なダメージを受ける。

トランプが寄り添うジャクソニアンの思想
―― 反コスモポリタニズムの反乱

2017年3月号

ウォルター・ラッセル・ミード バードカレッジ教授(外交)

「不満を表明する手段として(非自由主義的なイデオロギーや感情に訴えているのは)苦々しい思いを抱くルーザーたち、つまり、銃の所有や(相手の)宗教にこだわり、自分たちとは違う人々を毛嫌いする人たちだけだ」。アメリカのエリートたちはこう考えるようになっていた。(国や民族に囚われない)コスモポリタン的感情をもつアメリカ人の多くは、道義的、倫理的にみて、人類全般の生活の改善に取り組むことが重要だと考えていた。一方、ジャクソニアンはコスモポリタン・エリートのことを、「アメリカやその市民を第1に考えることを道徳的に疑問視する、国に反逆的な連中」とみている。ジャクソニアンがアメリカのグローバル関与路線を敵視しているのは特定の代替策を望んでいるからではない。むしろ、外交エリートに不信感をもっているからだ。そして彼らは、「トランプは間違いなく自分たちの側にある」と考えている。

CFRミーティング
レッディ準備銀行総裁が語る インドの経済成長と今後の課題
 ――経済の全体バランスに配慮した改革・成長を目指す

2006年5月号

スピーカー インド準備銀行(中央銀行)総裁 Y・V・レッディ
司会 AIGグループ副理事長 フランク・ウィズナー

インド経済が急成長を遂げているのは、規制緩和によって民間部門が成長できるようになり、政府の介入を減らすとともに、外資を受け入れたからだ。1980年代における規制緩和を経て90年代に資本の自由化を行ったことで、われわれは6%強の経済成長を実現した。そして、90年代末までには、経済をめぐる官民のパートナーシップ、新しい経済体制の制度化が進み、政策決定者も経済全般への認識を新たにし、年8%の持続的経済成長への布石が打たれた。今後の課題は、非農業部門での成功を追い風にして、農業部門を改革することだ。これが、インドの経済、政治、社会的な安定を持続させるための最大の試金石、ナンバーワンの課題だ。次に教育・医療・公衆衛生への投資と一方での財政赤字の削減、そしてインフラ整備が必要だ。また、その名に値するような保険制度を最近まで持っていなかったことからみても、保険部門を整備することも重要だ。これは、外資の専門知識とインド国内の必要性がうまく重なり合う領域だろう。

トランプとアメリカの同盟関係
―― 同盟国に防衛責任を委ねよ

2017年3月号

ダグ・バンドウ ケイトー研究所シニアフェロー

トランプが同盟国から米軍を撤退させる可能性は低そうだが、かといって現状を受け入れるのも間違っている。同盟国が軍事支出を少しばかり増やすことで満足するのではなく、ワシントンは自国を守る責任を引き受けるように同盟国に求めるべきだ。・・・それによってアメリカの安全保障が強化されるケースなら同盟国を防衛すべきだが、同盟国の安全だけを強化するような行動はとるべきではない。例えばモンテネグロ、バルト三国、そしてウクライナの問題は、アメリカの安全保障には関わってこない。朝鮮半島で戦争が起きても、アメリカの安全保障を直接脅かすわけではない。新大統領は、同盟国に自国を防衛する責任を引き受けさせることに力を注ぐべきだし、そのためには同盟諸国は戦争を抑止し、戦争になればそれに勝利できる通常戦力を構築すべきだろう。

原油供給とアメリカの軍事戦略
―― ペルシャ湾岸からの米軍撤退を

2017年2月号

チャールズ・L・グレーザー ジョージ・ワシントン大学教授(政治学)
ローズマリー・A・ケラニック ウィリアムズ・カレッジ准教授(政治学)

湾岸石油の供給混乱を阻止するために必要なコストは、いまや軍事関与によって得られる恩恵を上回りつつある。冷戦期には国家安全保障と経済的繁栄の二つがペルシャ湾岸に関与する目的だったが、いまや重視されているのは経済的繁栄だけだ。しかもほとんどのアメリカ人が経済利益のために米軍をリスクにさらすことに否定的になり、ペルシャ湾岸への軍事介入の敷居は高くなっている。むしろ、湾岸石油の大規模な供給混乱の衝撃を緩和する非軍事的クッションに投資して、軍事コミットメントをやめるための選択肢を作り出すべきではないか。実際、戦略備蓄を増大させれば、アメリカは(ホルムズ海峡)封鎖その他で市場に供給されなくなった原油を(当面は)代替できる。消費を抑える燃費基準の引き上げも、ガソリン税の引き上げも、供給の乱れの衝撃を小さくする助けになる。短期的にはともかく、最終的には湾岸への軍事関与を打ち切るための措置をとる必要がある。

サルマン副皇太子とサウジの未来
―― 改革への長く険しい道のり

2017年2月号

ビラル・Y・サーブ アトランティック・カウンシル 国際安全保障センター

現在のサウジの経済システムが持続不可能であることは、サウジ政府内で堅固なコンセンサスがある。それでも(大きな権限を託された)サルマン副皇太子が経済、文化領域であまりに急速な変革を進めているために、「旧秩序が覆され、サウジの社会契約が揺るがされている」と懸念されている。しかしこのリスクは、サウジが直面する社会・経済的課題の大きさゆえのことだ。サウジが先に進むには大変革が必要だし、そうした変革は必然的にある程度の不安定化を伴う。人々が今後に不安を感じているのは無理もないが、本気で変革を試みる以外に道はない。石油経済からの離脱と経済の多様化に向けて経済を再建するだけでない。サルマンは、内に不安を募らせる大衆と批判派を抱え、イエメンでコストのかかる紛争を戦い、イランの地域的台頭に目配りし、ますます暴力的になっている近隣地域に対処しつつ、経済改革に取り組まなければならない。

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