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論文データベース(最新論文順)

青い惑星の水不足
―― 高まる水資源需要にいかに応えるか

2016年1月号

韓昇洙 国連「水と衛生に関する諮問委員会」委員

水の惑星と言われる地球だが、人類が実際に摂取できる水の量は、地球上の水資源のわずか1%。現状でも、世界の8億人近くの人々が、クリーンな飲料水へのアクセスをもたず、国連の世界水資源開発報告書は、水資源需要が現在のペースで増え続ければ、2030年には需要が供給を40%上回ることになると予測している。このシナリオが現実と化せば、10億人以上の人々が水資源不足だけでなく、多くの国が(農業用水の不足による)食料不足や生活レベルの低下に苦しむことになる。十分な飲料水資源を人類に供給するには、既存の資源をいかに管理していくかが重要だ。幸い、三つのイノベーションが未来を切り開きつつある。・・・

イスラム国とカリフ制国家
―― 何が異質で、どこに継続性があるのか

2016年1月号

ヒシャム・メルヘム アルアラビヤ コラムニスト

イスラム国と、過去の原理主義運動の間には多くの連続性があるが、戦術と戦略には歴然とした違いがある。・・・イスラム国は、中東に国家を樹立することを主眼とし、イスラム教徒を虐殺することも厭わない。また、ソーシャルメディアなど最新のテクノロジーを駆使して、高度かつ広範にわたるプロパガンダを展開する点で、過去のいかなる原理主義組織とも大きく違っている。だがイスラム国が自らの目標を達成することはないだろう。中東のイスラム教徒たちは、イスラム国はまったく異質な存在であるという妄想を捨てて、イスラム国がマフディーやカリフを語るのは、イスラムの長い流血の伝統の一つにすぎないことを認めれば、イスラム国との戦いの本質、つまり、どの伝統が今後のイスラム教の中心になるかを決める戦いがみえてくるはずだ。・・・

介入が許される条件とは何か
―― J・S・ミルと不介入の薦め

2016年1月号

マイケル・ドイル コロンビア大学教授(政治学)

いまや(欧米が)いつ地上戦を含むシリアへの軍事介入に踏み切り、政府と市民の間に強引に割って入るのか、というテーマさえ浮上している。軍事介入についてどのような立場をとるかは、人道的介入、主権、国家安全保障を人々がどのように認識しているかに左右される。19世紀のイギリスの哲学者ジョン・スチュワート・ミルは、「自由や民主主義を強制するための軍事介入」を否定し、基本的に不介入主義を説いた。一方ミルは「人道的な懸念」や「国家安全保障上の必要性が相手国の主権以上に重視される場合」、或いは「相手国が分裂し、国家として機能していないために、主権を無視してもかまわない」ケースでは介入が許容されるとしている。現在のシリア紛争はどうだろうか。・・・

原油安が好ましいとは限らない。例えば、原油価格が今後10年にわたって50ドル前後で推移した場合、中東産油国へのわれわれの依存度は高まっていく。北米、ブラジル、アフリカなどの原油は生産コストが高いために、生産量は削減され、生産コストの安い一部の中東産油国の石油への需要と依存が高まっていく。一方、中東は、誰もが知るとおり、大きな混乱のなかにある。つまり、石油安全保障の観点からみれば、長期的に原油が低価格で推移するのは、かなりのリスクがある。・・・さらに原油安によって、やっと勢いづいた再生可能エネルギーへの支援策を政府が見直す危険もある。だがそうならなければ、石炭から再生可能エネルギーへの大きなシフトが起きる。電力生産部門での石炭のシェアは低下し、近い将来、再生可能エネルギーが石炭を抑えて最大のシェアをもつようになる。例えば、3人のうち2人が電力へのアクセスをもっていないアフリカのサハラ砂漠以南の地域が、化石燃料ではなく、再生可能エネルギーで経済成長を遂げる最初の大陸になると考えることもできる。彼らは再生可能エネルギー資源に恵まれているし、再生可能エネルギーによる電力生産コストは大幅に減少している。・・・・

ヨーロッパの政治的混乱とイスラム主義
―― 代替策なきヨーロッパに苦悶する若者たち

2016年1月号

ケナン・マリク インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

イスラム教徒の若者だけではない。ヨーロッパの若者の多くがその政治プロセスに幻滅し、自分の声を届けられないことへの政治的無力感、メインストリームの政党も、教会や労働組合のような社会的集団も自分たちの懸念や必要性を理解していないことへの絶望が社会に蔓延している。これまでなら、そうしたメインストリームに対する不満を抱く若者の多くは政治的変化を求める運動に身を投じたが、いまやそうした政治運動も現実との関連性を失っている。そして移民の社会的統合を目指したヨーロッパの社会政策が、より分裂した社会を作り出し、帰属とアイデンティティに関する視野の狭いビジョンを台頭させてしまった。皮肉にも、こうした欧州の社会政策が、不満をジハード主義に転化させる空間の形成に手を貸してしまっている。・・・・

ヨーロッパの危機と分裂をどうとらえるか
―― ドイツの覇権、移民、分離独立の流れ

2016年1月号

ニゲアー・ウッズ オックスフォード大学教授 (グローバル経済ガバナンス)

押し寄せる難民が「域内移動の自由」というEUの中核原則を脅かし、ギリシャ危機はユーロの存続に依然として大きな圧力をかけている。しかも、イギリスでは、EU脱退の是非を問う国民投票が近く実施される。どうみてもEUの存続は、かつてなく脅かされている。一方で、統合支持派はギリシャなど、ソブリンリスクを抱え込んだ諸国への寛大な救済策が政治的に許容されたことそのものが、統合が成功していることを裏付けていると言う。しかし、ユーロ圏メンバー国が団結したのは、ギリシャのユーロ脱退コストが、救済コストよりも高くつくことがわかっていたからだ。結局、EUにおけるドイツの事実上の覇権が今後さらに強化されていくだろう。だが多くの国にとって、ユーロ危機は、(緊縮財政を求める)ドイツの影響力を野放しにするとどうなるかを認識する機会でもあった。「欧州連合は少しずつ、『非民主主義的なドイツに支配されるヨーロッパ』へと変化している」という批判も出てきている・・・。

ウクライナがドネツクを失うとき
―― アレクサンドル・ザハルチェンコの世界

2016年1月号

アレクサンダー・J・モティル ラトガース大学教授(政治学)

ウクライナ東部の平和は実現するか。これは、ウラジーミル・プーチンとアレクサンドル・ザハルチェンコという、強情で何をするかわからず、軍事志向の強い二人のデマゴークたちの意向に左右される。プーチンはウクライナ紛争について「自分は見守っているだけだ」と主張し、ザハルチェンコは「自分が責任者だ」と語っている。しかし、現実はもっと複雑だ。2015年9月1日の停戦合意が示すように、決定権をもっているのはプーチンだ。戦争を始めたプーチンなら、和平も模索できる。しかし、ザハルチェンコはたんなる傀儡ではない。思想と野心、そして自分の計画をもっている。彼がおとなしくしているかどうかが、いかなる合意の成功も左右することになる。結局、ウクライナ東部は「凍結された紛争」という事態に陥っていく可能性がもっとも高いが、別のシナリオもある。・・・

ロシアの介入で変化したシリア紛争の構図
―― 内戦からグレートゲームへ

2016年1月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

バッシャール・アサド政権を支援することが、ロシアのシリア介入の目的だと当初は考えられていたが、それだけではないこともわかってきた。イランの影響下にある地上部隊と連携してアレッポ近郊をロシア軍が空爆した証拠が出てきているからだ。ロシアとイランが支援する地上部隊の連携作戦は、シリア北部におけるトルコや湾岸諸国の実質的勢力圏と正面から衝突している。実際、ロシア軍は度重なるトルコ領空の侵犯を通じて、シリア北部に関与する意図をトルコにみせつけている。ロシアがもっとも重視するターゲットには、アメリカが支援してきた穏健派反体制グループ、トルコが支援してきたイスラム主義勢力も含まれている。こう考えると、今やシリアではグレートゲームが展開されている。ロシアが介入する前は、シリアはボスニアかソマリアへの道を歩みつつあるかにみえたが、今やグレートゲームの舞台となった19世紀のアフガニスタンへの道を歩みつつある。・・

封じ込めではなく、
イスラム国の打倒と粉砕を

2016年1月号

ヒラリー・クリントン 元米国務長官

結局のところ、米軍機やドローンによる攻撃を含む、われわれが利用できる全てのツールを用いて、テロの危険がある全ての地域で対策をとらなければならない。外国人戦士のイスラム国への流入と流出、テロ資金の流れを遮断し、サイバースペースでの闘いを試みることが、イスラム国との戦いには欠かせない。今後の脅威に対抗していく上でも、これらの試みが対策の基盤を提供することになるだろう。・・・われわれの目的をイスラム国の抑止や封じ込めではなく、彼らを打倒し、破壊することに据えなければならない。・・・「スンニ派の第2の覚醒」の基盤作りを試みる必要もある。・・・アサドがこれ以上民間人や反体制派を空爆で殺戮するのを阻止するために、飛行禁止空域も設定すべきだ。有志連合メンバー国が地上にいる反体制派を空から支援して安全地帯を形作れば、国内避難民もヨーロッパを目指すのでなく、国内に留まるようになる。・・・

ミャンマー 民主化への遠い道のり

2016年1月号

ゾルタン・バラニー
テキサス大学教授(政治学)

2015年11月8日、ミャンマー(ビルマ)で25年ぶりに総選挙が実施され、ほぼ半世紀に及んだ残忍な軍政を経て、ノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチー率いる野党・国民民主連盟(NLD)が地滑り的な勝利を収めた。いまやミャンマー内外で、平和的に政権交代が実現し、歴史的な民主化が実現することへの期待が高まっている。しかし、そうした期待をもつのは時期尚早だし、過度に楽観的だろう。ミャンマーの軍部は依然として大きな権力と権限をもっているし、NLDは巨大で複雑な国の官僚機構を管理した経験がない。しかも政治腐敗が蔓延し、中国との関係も不安定化している。NLDの勝利が近年のミャンマーにとってもっとも期待のもてる展開であることは間違いないが、政治的安定が実現するまでには、まだ長い道のりが待ち受けている。

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