1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

アジア秩序をいかに支えるか
―― 勢力均衡と秩序の正統性

2021年2月号

カート・M・キャンベル  アジアグループ 議長  ラッシュ・ドーシ  ブルッキングス研究所 中国戦略イニシアティブ ディレクター

ウィーン体制によって1815年から第一次世界大戦までの1世紀に及んだ長い平和の礎が築かれた。大国間政治が激化し、地域秩序が緊張している現在のインド太平洋はウィーン体制の歴史的教訓から多くを学べるだろう。当時も今もいかに勢力均衡を形作り、秩序の正統性を保つかが問われている。北京の行動が、アメリカやアジア諸国の「インド太平洋秩序」のビジョンと衝突するのが避けられない以上、ワシントンはシステムを強化するために他国と協力し、北京が生産的に秩序にエンゲージするインセンティブを与え、一方で中国が秩序を脅かす行動をとった場合のペナルティを他の諸国とともに考案しておく必要がある。秩序のパワーバランスと正統性をともに維持するには、同盟国やパートナーとの力強い連帯、そして中国の黙認と一定の応諾を取り付けておく必要がある。

未来に備える能力の強化を
―― 軍の近代化と産業基盤の再生

2021年1月号

ヒラリー・クリントン 元米国務長官

アメリカはさまざまな脅威に直面しつつも、危険なまでに備えを欠いている。この国の産業や技術上の優位は崩れ、その生命線であるサプライチェーンは危機にさらされ、同盟関係はほころび、政府は空洞化している。必要なのは防衛力の近代化と国内産業基盤の強化で、この二つを組み合わせる必要がある。軍の近代化は、莫大なコスト削減につながり、その余剰資金を、国内における先進製造と研究開発に投じることができる。そうすることで、アメリカがライバル諸国と競争し、気候変動や未来のパンデミックなど非伝統的な脅威に備える助けになる。このように外交政策と国内政策を統合すれば、その双方をより効率化できる。それは、不透明な世界でこの国が再び足場を築いていく助けになるはずだ。

中国のグローバルドローン戦略
―― 対抗するか、取り残されるか

2021年1月号

マイケル・C・ホロウィッツ  ペンシルベニア大学教授  ジョシュア・A・シュワルツ  ペンシルベニア大学 博士候補生  マシュー・ファーマン  テキサスA&M大学 教授(政治学)

2011年まで、軍事ドローンを保有していたのはアメリカ、イギリス、イスラエルの3カ国だけだったが、2011年から2019年の間にその数は18カ国に上昇した。こうした軍事ドローンの拡散は、主要サプライヤーとして中国が出現した時期と一致している。ドローン輸出戦略をとる中国の優位の一つは「相手国政府の立場や内政を問わないこと」にある。一方、アメリカは長く輸出規制を課してきた。トランプ政権が再解釈を通じて規制を緩和するなか、ドローンの輸出を認めるのか、誰に対して洗練された軍事ドローンテクノロジーの輸出を認めるのか。次期政権はこの難しい質問に答えを出すことを迫られる。

「アメリカは敗北しつつある」
―― 米中競争についての北京の見方

2021年1月号

ジュリアン・ゲワーツ  米外交問題評議会 中国担当シニアフェロー

2008年の金融危機を前に、北京の指導者たちは「欧米の衰退が実際に始まった」と考えるようになった。マルクス主義的な歴史の流れを信じる北京の指導者たちは、毛沢東の言う「無為に中国を抑え込もうとする救いようのない反動勢力」のアメリカは、結局は挫折すると考えてきた。この考えが中国の習近平国家主席の世界観を規定している。それだけに、ワシントンは「中国の能力と目的を分析するだけでなく、北京の指導者たちがアメリカをどのように認識しているか」を踏まえた戦略をとらなければならない。アメリカは衰退の一途をたどっているという中国の指導者たちの思い込みを覆す戦略が必要だ。幸い、そのために、アメリカが実行しなければならないことの多くは、ワシントンが管理できる範囲内にあるし、行動のための時間も残されている。

中国が望む世界
―― そのパワーと野心を検証する

2021年1月号

ラナ・ミッター  オックスフォード大学教授(現代中国史・政治)

世界第2位の経済大国である中国が、ライバルが規定した条件で世界秩序に参加するはずはない。特に、2008年のグローバル金融危機以降、中国指導部は、自国の権威主義的統治システムは、自由主義国家に至るプロセスにおける一つの形態ではなく、それ自体が目的地であると明言するようになった。明らかに国際秩序を作り替えることを望んでいる。中国は間違いなく、国際社会の「舞台中央に近づきつつある」と習はすでに宣言している。今後の展開にとっての重要な鍵は、中国が世界における自らの野心を、他国にとってある程度許容できるものにできるかどうかだ。現実には、もっともらしい新世界秩序を作る中国の能力を脅かしているのは、その権威主義体質に他ならない。

新大統領が直面する内外のアジェンダ
―― バイデンが生かすべき機会を検証する

2021年1月号

サマンサ・パワー  ハーバード大学 ケネディスクール教授

新政権は、国内問題の解決を優先し、パンデミックを終わらせ、社会に広く恩恵を与える平等な経済再生を一気呵成に実現し、ほころびをみせ始めた民主的制度を改革しなければならない。バイデンは、経済的不平等、システミックな人種差別、気候変動に正面から向きあって、アメリカを「よりよい再生(build back better)」へ向かわせることで、現在の危機を克服していくと語っている。当然、ワクチンのグローバルな流通を先導し、留学生のためのアメリカでの教育機会を拡大し、内外で政治腐敗と闘っていく姿勢をアピールしなければならない。アメリカの強さを利用し、中国の行き過ぎた対外関与が作り出した空白をうまく利用すれば、そうした構想は、アメリカの能力への信頼を大きく引き上げることができる。これが、今後、アメリカの利益を促進するために必要なパートナーシップの説得や連帯の構築に向けた基盤を作り出すことになる。

コロナ後の経済再建を考える
―― 債務増でも積極財政をとるべき理由

2021年1月号 

ジェイソン・ファーマン  ハーバード大学ケネディスクール 教授(経済政策)

2009年と比べて今回は財政政策上より多くの手を打てる。グローバル金融危機後の2009年1月におけるアメリカの債務残高が国内総生産(GDP)の50%未満だったのに対して、パンデミックを経たバイデンの大統領就任時には債務がGDPの100%におそらく達していることを考慮すれば、この見方は間違っているようにも思えるかもしれない。だが、かつてと現在では金利に違いがある。2009年1月の段階で10年国債の実質金利はおよそ2%だったが、2021年1月のそれはマイナス1%程度になる。現在の公的債務がかつて以上に大きいとしても、キャリーコスト(持ち越し費用)は少なくて済む。バイデンがキャンペーンで約束してきた政策を実施すれば、回復は加速する。景気サイクルだけでなく、ワクチンも追い風を作り出すと期待したい。

CFR Blog
ワクチン開発と集団免疫
―― 米中免疫ギャップの意味合い

2021年1月号

ヤンゾン・ファン 米外交問題評議会シニアフェロー

ワクチンの大規模接種と感染・回復の免疫獲得によってアメリカは集団免疫を実現し、2021年秋までには平常への復帰を果たせるかもしれない。一方、コロナウイルスのアウトブレイクを短期間で封じ込めただけに、ウイルスにさらされた中国人はほとんどおらず、このままでは中国の人口の多くがこの感染症に脆弱なままの状態に置かれる。この「免疫ギャップ」によって(中国が今後集団免疫を獲得する上で大きな困難とリスクに直面するとすれば)、もはや(初期段階で感染症を封じ込めた)中国の「成功」と(そうできなかった)欧米諸国の「失敗」を、中国モデルの優位を示す証拠として指摘できなくなり、中国の指導者に政治問題を突きつけることになるかもしれない。むしろ、リベラルな民主主義国家のレジリエンス(復元力)、大きな危機に直面したときの自己修正能力が評価されるようになるかもしれない。つまり、ワクチンが大国間競争のゲームチェンジャーになる可能性がある。

農村地帯で続く小さなアウトブレイク
―― コロナ危機が長期化する理由

2021年1月号

タラ・C・スミス  ケント州立大学教授(疫学)

都市部で猛威を振るったコロナウイルスは、いまや多くの農村コミュニティを襲っている。全米で感染ケースが増えているが、一人当たりの感染率がもっとも高いのは農村部や小さな町であることが多い。農村部での感染状況は当面は悪化し続けると考えられる。地方の病院は設備も十分ではないし、ファイザーのワクチンのように保存に特殊な設備が必要なワクチンを管理していくのは難しい。1世紀前のインフルエンザがそうだったように、都市がコロナウイルス感染の拡大を制御できるようになっても、農村部では2021年あるいはより長期的にウイルスへの感染は拡大し続けるかもしれない。

ワクチンへの過大な期待と幻滅
―― 迅速な勝利は期待できない

2021年1月号

ジョシュ・ミショー  カイザーファミリー財団グローバルヘルス 政策担当アソシエートディレクター ジェン・ケイツ  カイザーファミリー財団グローバルヘルス&HIV 政策担当ディレクター 上席副会長

将来のアウトブレイクリスクを排除するには、世界人口の70%がワクチンの接種あるいは感染と回復を通じて、コロナウイルスの免疫を獲得する必要がある。COVID19に感染したのは世界人口の10%と推定されるだけに、グローバル規模のワクチン接種でリスクを抑え込むのは非常に難しい。途上国へのワクチン供給に遅れが生じるのも、ワクチン接種をいやがる人が出てくるのも避けられない。ソーシャルメディアを通じて拡散される反ワクチンのプロパガンダや偽情報が・・・ワクチンへの信頼を貶めるかもしれない。有効なワクチンの供給で、コロナ危機が終わるわけではない。迅速な勝利がもたらされることはなく、むしろ、ウイルスとの長期に及ぶデタントの時代の始まりになる可能性が高い。

Page Top