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論文データベース(最新論文順)

企業活動と持続可能な社会
―― 環境と社会への企業の貢献を数値化せよ

2015年10月号

ダイアン・コイル マンチェスター大学教授(経済学)

他の一切の指標を排除して、利益だけが商業的成功を測る唯一の基準にされ、目先のことしか考えず、持続可能性を考えない風潮が生まれたのは、現在の会計基準のせいだろう。だが、この限定的で一面的な評価モデルにも変化が起きている。営利企業ながらも、社会や環境問題の解決に貢献する「ベネフィット・コーポレーション」という分類がすでにアメリカでは登場しているし、他の国々でも似たような企業が誕生している。現代の企業を「真に公平に評価する」には、金融資産と物的資産だけでなく知的資本、人的資本、社会資本、自然資産という四つの資本を考慮する必要がある。そうすれば企業は、より持続可能な活動を心がけるようになる。必要な変革を起こすには、新しい国際会計基準を作り、企業に決算報告とともに社会・環境インパクトを報告させるべきだろう。・・・

都市の連携が世界を変える
―― 都市の新しい魅力

2015年10月号

マイケル・ブルームバーグ 前ニューヨーク市長

これまで都市の経済開発といえば、既存の企業を市内に引き留め、新しい企業を、インセンティブを提供して誘致するというスタイルが主流だった。しかし21世紀に入ると、より効果的な経済開発モデルが登場した。企業ではなく、市民にとって魅力的な都市環境の整備に力を入れることが、経済モデルになった。多くの都市が経験している通り、いまや資本がある場所に才能ある人々が集まるのではなく、才能ある人々がいる場所に資本が集まる。そして企業は、人が住みたい場所に投資したいと考えるようになった。・・・今後、都市は貧困、医療、生活レベルの改善、治安強化のために、より積極的な対策を講じるようになるだろうし、気候変動対策でも、都市は中央政府以上に大きな役割を果たすようになる。・・・

キッシンジャーの歴史的意味合い
―― なぜ彼はリアリストと誤解されたか

2015年10月号

ニーアル・ファーガソン ハーバード大学教授(歴史学)

キッシンジャーは広く「リアリスト」だと考えられている。だが、彼は外交キャリアの初期段階から、理想主義者として活動してきた。確かに、彼はウッドロー・ウィルソンのような理想主義者ではないが、リアリストでもない。哲学的な意味では間違いなく理想主義者だった。キッシンジャーが重視したのは、ライバルや同盟国との関係を理解する上で歴史が重要であること。外交政策決定の多くは不毛の選択肢のなかから、ましな選択をすることに他ならないこと。そして、指導者たちが、道徳的な空虚なリアリズムに陥らないように心がけなければならないことだった。1968年末同様に、深刻な戦略的混乱のなかにある現在、ワシントンはキッシンジャー流の外交アプローチを切実に必要としている。しかし、まず政策決定者そして市民は、「キッシンジャーの意味合い」を正確に理解する必要がある。

欧州移民危機の真実
―― 悲劇的選択とモラルハザード

2015年10月号

マイケル・テイテルバーム ハーバード大学法律大学院 シニアリサーチフェロー

人道的にも政治的にも非常に深刻な危機がヨーロッパで進行している。難民に同情する市民感情のうねりは、リセッション、高い失業率、テロ攻撃、ユーロシステムの危機に苦しむヨーロッパに、さらに深刻な課題を突きつけている。ヨーロッパのポピュリストや反EUの政党や運動にとっては、そこに、うまく追い風にできる政治環境が生じていることを意味する。しかも「悲劇的な選択」と「モラルハザード」の問題がある。限られた資源を絶望的な状況にある人々にいかに分配するかを含めて、ヨーロッパの移民対策がその社会的価値と衝突する恐れがある。一方、好ましい目的地とみなされている国が人道主義的立場から移民を受け入れるという声明を発表すれば、ますます多くの人をリスクの高い旅へと駆り立ててしまう。紛争周辺国にいる難民への支援強化など、現在の路線を見直していかない限り、平和と繁栄、そして人の自由な移動に象徴されるヨーロッパ統合プログラムの成果そのものが、揺るがされることになる。

解体する秩序と帝国主義の教訓
―― 強制力と合意の間

2015年10月号

ニック・ダンフォース ジョージタウン大学博士候補生(歴史)

西洋の帝国主義が一時的であれ、大きな流れを作り出せたのは、「強制力を行使する地域」と「相手の同意を求める地域」を明確に区別していたからだ。「パワー面で見劣りする国が相手なら力で支配できるかもしれない。しかし、相手が帝国のライバルとなると、周到な外交とうまく調整された協調が欠かせない」。これが当時の考えだった。このコンセンサスを無視して、ヨーロッパで帝国の建設を目指したヒトラーの試みは、悲劇を引き起こした。プーチンが、ロシアが主導する独立国家共同体(CIS)を形作ったのは繁栄を共有することを考えたからではない。帝国主義国家が世界の多くの地域を力で統治することに道を開いた国家パワーの格差がいまや消失し、新たな枠組みを考案する必要に迫られたからだ。すでに各国間、地域間のパワーの格差は消失している。ここでかつての帝国主義の歴史からどのような教訓を引き出すか。帝国にノスタルジアを抱くのも、帝国の強制力を正当化するのも間違っている。・・・

難民の対応コストを誰に負担させるか
―― 難民を発生させた国の責任を問う

2015年10月号

ガイ・S・グッドウィン=ジル/オックスフォード大学名誉教授
セリム・キャン・サザク/センチュリー財団リサーチャー

大規模な難民が発生しても、国際社会は難民を受け入れた当事国に主な責任を負わせ、近隣諸国が難民たちを暖かく受け入れることを期待するだけだ。難民受け入れ国を他国が支援することを定めた国際法が存在しないために、現実には、その対応コストは難民を受け入れた当事国が負担せざるを得ない。こうして、難民の滞在期間が長期化するにつれて、受け入れ国の出費は膨らんでいく。だが、難民が外国において人間的な生活をするために必要なコストは、人々が家を後にせざるを得ない状況を作り出した国に支払わせるべきではないか。国際社会が大量の難民を発生させた政策や行動に関わった特定の指導者の資産を標的とする制裁を適用することもできる。危機を作り出した国の資産を凍結して、その資金を難民の人道支援に充てることは物質的な貢献になるだけでなく、紛争に対する抑止力にもなる。・・・

CFR Experts Brief
移民問題とヨーロッパの統合
―― 通貨危機から難民危機へ

2015年10月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)

現状では、難民受け入れをドイツが主導し、一方で、東ヨーロッパ、中央ヨーロッパ諸国はこれに否定的だ。いずれにせよ、ヨーロッパの難民危機は、今後当面続く。シリアだけでも、すでに400万人が国を後にし、700万人が国内避難民と化している。これまでのところ、シリア難民のごく一部がヨーロッパの海岸に押し寄せているに過ぎない。欧州連合(EU)がこの課題への集団的対応策を見いだせなければ、非常に無様な疑問が浮上することになる。ヨーロッパの国境線が抜け穴だらけになった場合、EUメンバー国は「域内の自由な人の移動」へのコミットメントを維持できるだろうか。移民の流れをうまく管理できなければ、ヨーロッパの有権者のヨーロッパ統合への熱意がさらに揺るがされることになりかねない。

ロシアはなぜシリアに介入したか
―― プーチンに譲歩を求めよ

2015年9月号

ミッチェル・オレンスタイン ペンシルベニア大学教授(政治学)

なぜプーチンはシリア紛争に介入したのか。第1の目的は、ウクライナという言葉を新聞のヘッドラインから消すためだ。モスクワの外交担当者たちは、ウクライナ問題が後方に位置づけられるようになれば、欧米の問題意識も薄れ、最終的に制裁も緩和されると期待している。第2の目的は、シリアに関与することで、プーチンは、欧米が取引しなければならない世界の指導者としての地位を確立できると考えたようだ。だが、安易にプーチンの策謀に調子を合わせるのではく、欧米はこの「プーチンのあがき」をうまく利用して、ウクライナ問題をめぐってロシアから譲歩を引き出すべきだ。ウクライナが東部国境を守る権利を認め、ロシアの部隊と兵器を撤収させ、恩赦と権力分有を条件に、ドンバスの指導者たちにキエフへ権限を返還させる必要がある。

迫りくる中国経済の危機
―― 人民元下落は危機のプレリュードにすぎない

2015年9月号

サルバトーレ・バボネス  シドニー大学准教授(社会学、社会政策)

中国で金融危機が進行している。株式市場の混乱、輸出の低迷、そして人民元のクラッシュはまだ序の口にすぎない。今後、人口動態の停滞、資本逃避、そして、経済の多くを市場に委ねるとした2013年の決定がさらに大きな危機を作り出すことになるだろう。高齢化で政府の社会保障関連支出が増大していくにも関わらず、税収を通じた歳入増にはもはや多くを期待できない。「中国は豊かになる前に歳をとる」とよく言われるが、同様に、完全な税制を整備する前に、経済が自由化されれば、歳入を確保するのはますます難しくなる。課税なき自由化は中国政府を第3世界特有の永続的な金融危機に直面させるだろう。主に逆累進税で資金を調達し、社会保障上の責務を果たそうとすれば、中国は、すでにそこから抜け出したはずの第3世界のような状況に陥る。人民元の切り下げは、さらに大きな危機のプレリュードに過ぎず、そこで問題が終わることはない。

対ロ新冷戦とヨーロッパの漂流
―― オバマはなぜロシアの侵略を予見
できなかったか

2015年9月号

アン・アップルボーム ワシントン・ポスト紙コラムニスト

欧米はロシアに嘘をついてきた。NATOは今もロシアにとって脅威だ。・・・たとえ欧米がロシアの天然ガスに背を向けても、ロシアには東アジアに多くの潜在的顧客がいる」。すでに2009年の段階で、ロシアのラブロフ外相はこう語っていた。しかしオバマ政権は、「ヨーロッパは安全で退屈な場所で、真剣に議論すべき対象というより、記念写真に収まるサイト」としか考えていなかった。そしてウクライナ危機が起きた。それでも、オバマは危機を一貫してヨーロッパの地域問題と表現し、距離を置いた。いまやロシアの影響力が高まっているのは旧ソビエト地域だけではない。ロシアはヨーロッパの反EU・反NATO政党を資金面で支援し、ヨーロッパを内側から切り崩そうとしている。しかも、ヨーロッパはギリシャの債務問題とイギリスのEU離脱を問う国民投票、そして大規模な地中海難民の問題に翻弄されている。・・・

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