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2024年5月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2024年5月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2024年5月号 目次

中東の混乱とイランの戦略

  • イランの戦略目的は何か
    混乱と変動から利益を引き出せる理由

    スザンヌ・マロニー

    雑誌掲載論文

    テヘランは混乱のなかにチャンスをみいだしている。イランの指導者たちは、ガザ戦争を利用し、エスカレートさせることで、イスラエルを弱体化させてその正統性を失墜させ、アメリカの利益を損ない、地域秩序を自国に有利なものへ変化させようとしている。混沌とした状況から自国の利益を導き出すイランの能力を侮るべきではない。攻撃によってアメリカを刺激し、テヘランとその同盟国が有利になるようなミスを犯させたいとテヘランは考えている。だが、イランを含む関係勢力のいずれかが誤算を犯せば、中東全域でより激しい紛争が発生し、中東の安定とグローバル経済に大きなダメージが生じる恐れがある。

  • イスラエル・イラン戦争のリスク
    ガザ紛争が長期化すれば(10/19)

    ダリア・ダッサ・ケイ

    Subscribers Only 公開論文

    これまで、イスラエルとイランは、制御不能なエスカレーションリスクを冒すことなく、定期的に相手を挑発できると考えてきた。だが、いまやガザにおける戦争が、そうした微妙な計算を狂わせつつある。テヘランは、イスラエルとハマスの戦争を、レバノンやシリアでの代理(傀儡)勢力の攻撃によってイスラエルの能力を低下させるチャンス、あるいはイラクやシリアの米軍に対する武装勢力による攻撃の再開を促すチャンスとみなすかもしれない。こうした作戦はすでに進行しているのかもしれない。紛争が長引けば、安定化へのインセンティブは低下し、イスラエルとイランの衝突リスクは高まっていく。戦争がまだこの地域に広がっていないとしても、世界の指導者たちは、戦争の拡大はあり得ないと錯覚してはならない。

  • 抵抗の枢軸という新脅威
    ミサイルとSNSで戦う敵の目的は

    ナルゲス・バジョグリ、バリ・ナスル

    Subscribers Only 公開論文

    イラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニが設計し、シリア紛争で具体的なつながりをもち、ガザ戦争で一気に連帯を深めた「抵抗の枢軸」とは、いかなる軍事ネットワークなのか。欧米は、イランが(ハマス、ヒズボラ、フーシ派などを含む)「抵抗の枢軸」の黒幕だとみているが、実際には、それぞれが自立した、より緩やかなネットワークだ。それでも、メンバーたちは、イスラエル、そして間接的にはアメリカに対する同じ戦争を戦っていると信じている。それだけに、抵抗の枢軸を簡単に解体することも、それを生み出した思想を粉砕することもできない。ガザの銃声が静まり、住民への圧力が緩和され、パレスチナの主権と自決への確かな道筋が描かれない限り、アメリカは危険なエスカレーション・スパイラルから抜け出すことはできないだろう。

  • 制御不能な戦争
    イランとの衝突は瞬く間に地域紛争へ拡大する

    イラン・ゴールデンバーグ

    Subscribers Only 公開論文

    関係プレイヤーのなかに戦争を望んでいる者はいないが、それでも戦争になりかねない。アメリカとイランの局地戦は、スンニ派の湾岸諸国やイスラエル、一方でイランの同盟勢力であるイラク、レバノン、アフガニスタン、イエメン、シリアのシーア派を巻き込んだ地域紛争に瞬く間に拡大する。イランはホルムズ海峡を脅かし、世界の原油価格を高騰させる。大がかりな作戦が終わっても、紛争は続き、イランの傀儡勢力は、中東における米軍やそのパートナーを長期的に攻撃し続ける。イランから流出する難民が作り出す危機の地域的な不安定化作用がどのようなものになるかも考えなければならない。トランプ政権とイスラム共和国はもっと慎重になる必要がある。そうしない限り、両国は、瞬く間に制御不能となる危険で大きなコストを強いられる渦に巻き込まれるはずだ。

  • イランとロシアのパートナーシップ
    孤立国家の連帯は続くのか

    ディーナ・エスファンダイアリー

    Subscribers Only 公開論文

    イラン・ロシア間の緊密な協力関係は、特有の環境に導かれている。ウクライナ戦争の兵器需要が高まるなかで、世界の主要なテクノロジー供給国がロシアとの取引を閉ざしていなければ、モスクワがテヘランに助けを求めることはなかっただろう。一方、核合意再建の不調や国内の抗議行動を前に、イランの国際的な孤立も深まっていた。だが、このような歴史の偶発性が、重要な長期的同盟を誕生させることもある。イランとロシアは、引き続き、欧米の影響を押し返し、孤立から身を守り、米主導の秩序に対抗する連合を維持していくだろう。お互いに信頼し合っているわけでも、好きですらないかもしれない。だが、どのような協力なら自国の助けになるかを両国はともに理解している。

  • 紛争の一方で進む中東の和解と協調
    ポストアメリカの中東秩序へ

    ダリア・ダッサ・ケイ、サナム・ヴァキル

    Subscribers Only 公開論文

    アラブ世界の主要国は、トルコのような地域大国とともに、ガザ戦争前に存在した和解の流れとその後誕生した協調の機運を固定化するために、この瞬間を生かし、この地域に安定をもたらせる力強い安全保障メカニズムの確立をめざすべきだ。中東は清算の時を迎えている。ガザ戦争からみても、いまや中東におけるアメリカパワーに限界が生じていることは明らかであり、今後の中東の和平と安全保障をめぐって主導権をとるのは、地域の指導者や外交官たちでなければならない。危機と紛争にさらに陥っていく危険もある。だが、別の未来を築き始めることもできる。中東の指導者たちが暴力のスパイラルを食い止め、この地域をより前向きな方向へと導ける可能性は存在する。

  • 中東を一変させたガザ戦争
    混乱をいかに安定と秩序に導くか

    マリア・ファンタッピー、バリ・ナスル

    Subscribers Only 公開論文

    ついに実現しつつあるかにみえた、イスラエルとアラブ世界の関係正常化を中心とするアメリカの中東構想も、イスラエル・ハマス戦争によって根底から覆されてしまった。もはやパレスチナ問題は無視できないし、パレスチナ国家への信頼できる道筋がみえるまでは、アラブ・イスラエル関係の今後を含めて、アメリカがこの地域の他の問題に取り組むのは不可能だろう。さらに、中東を動揺させているテヘランの台頭にも対処しなければならない。このためにも、ワシントンは、イラン、イスラエル、アラブ世界全体と実務的な関係を維持しているサウジとのパートナーシップを、新たな中東ビジョンの基盤に据える必要がある。

中国経済を考える

  • 中国経済は成長を続ける
    悲観派を惑わす4つの誤解

    ニコラス・R・ラーディ

    雑誌掲載論文

    アメリカを追い越すどころか、中国は長い不況に突入する可能性が高く、「失われた10年」を経験するのかもしれない。中国経済の今後をこう捉える悲観派の見方は状況を誤認している。中国は今後も世界の経済成長の約3分の1に貢献し、特にアジアでの経済的影響力を高めていくはずだ。ワシントンがこの流れを過小評価すれば、アジアのパートナーとの経済・安全保障関係の深化を維持していくアメリカの能力を過大評価することになるだろう。中国経済の先行きを懸念する人が指摘する、家計支出の低迷、民間投資の減少、デフレの定着などはすべて状況を誤認している。

  • 中国は欧米との衝突コースへ
    実現しない内需主導型モデルへの転換

    ダニエル・H・ローゼン、ローガン・ライト

    雑誌掲載論文

    欧米のエコノミストは、個人消費の制約に対処することで、北京が内需主導の経済戦略へシフトすることをこれまで長く求めてきた。国内経済のリバランスと貿易黒字の削減を両立させるには、不動産やインフラへの投資を減速させるだけでなく、消費を促進する必要がある。だが、中国の指導者たちは、必要な変化を先送りし、経済の外需依存を高めるような政策をいまもとっている。先進国も途上国も同様に中国による大規模な輸出攻勢に反発している。それでも、北京は問題を無視しているようだ。こうして、中国の過剰生産能力が外国政府をこれまで以上に激しい対抗措置へ向かわせつつある。その結果生じる対立は、中国経済にとっても、世界の貿易システムにとっても許容できるものではないだろう。

  • 「中国経済の奇跡」の終わり
    アメリカが門戸開放策をとるべき理由

    アダム・S・ポーゼン

    Subscribers Only 公開論文

    中国では家計貯蓄が急増し、民間の耐久消費財消費が大きく減少している。この現象を「経済領域におけるコロナ後遺症」とみなすこともできる。特定の政策がある日突然拡大され、次の日には撤回される事態を経験した人々は、景気刺激策を含む政府の経済対策に反応しにくくなる。専門家の多くは、現状を説明する上で、不安定化する不動産市場や不良債権の問題などを重視するが、経済成長を持続的に抑え込む「経済領域で長期化するコロナの余波」の方がはるかに深刻な問題だ。すでに、不安定な状況に直面した富裕層は、外への退出を試みており、時とともに、こうした出口戦略はより多くの中国人にとって魅力的になるだろう。アメリカはこのタイミングで、現在の対中政策を全面的に見直し、中国の人と資本への門戸開放政策をとる必要がある。

  • 中国経済は低成長期へ
    世界経済への意味合い

    ダニエル・H・ローゼン

    Subscribers Only 公開論文

    企業投資、家計や政府の支出、貿易黒字からみても、中国の国内総生産(GDP)がこれまでのような成長を持続できるとは考えにくい。現実には、2022年に2%の成長を維持することさえ難しく、正確に計測すれば、2022年はゼロ成長、あるいは景気後退に陥る危険もある。基本的な財政・金融・その他の改革を遂行せずに、政治的に決定された高い成長目標を永続的に達成できると信じる理由はどこにもない。ワシントンは「中国経済が問題に直面している」という現実への関心を責任ある形で喚起すべきだろう。中国の経済成長の鈍化は、14億の中国人だけでなく、世界の多くの人の経済的繁栄を損なうことになるのだから。・・・

  • 追い込まれた中国経済
    もはや低成長を受け入れるしかない

    マイケル・ペティス

    Subscribers Only 公開論文

    中国にとって、投資率が高いことは悪いことではなかった。かつて必要とされていたのはまさしく投資主導型の経済開発モデルだった。問題は不動産とインフラ部門での非生産的投資の時代があまりに長く続いたことだ。15年ほど前から、債務が国内総生産(GDP)成長率を上回るペースで増加し始め、肥大化していった。しかもいまや不動産バブルははじけ、新しい経済モデルへ移行するしかない状況にある。中国が消費(内需)主導型の成長へシフトできるとは考えにくい。投資を急速に減らして成長率の大幅な低下を受け入れるか、問題を先送りし、債務の急増によって路線維持が困難になるまで、現在の投資主導型路線を続けるしかないだろう。だが最終的には、経済成長は急激に減速し、その減速の仕方は、中国、中国共産党、そして世界経済に深刻な影響を与えることになるはずだ。・・・

  • 低成長と中国経済の課題
    内需主導型成長への転換は実現するか

    ブラッド・セッツァー

    Subscribers Only 公開論文

    高い貯蓄率は借金頼みの経済成長を促すことで、中国の金融システムが現在抱える問題を生み出してきた。貯蓄が多いということは、消費が弱い(消費に回す資金が乏しい)ことを意味するからだ。このため過去20年間、中国経済の成長は内需ではなく、輸出または定期的な投資拡大によって支えられてきた。だが不動産デベロッパーもいまや債務問題に苦しんでいる。しかも、地方政府の歳入は、デベロッパーへの土地売却に大きく依存してきたために、現在の不動産不況で大きく圧迫されている。地方政府が誘導する投資ではなく、個人消費に牽引された、より健全な経済を築くには、政府の財政措置を拡大しなければならない。北京は、国内債務が拡大して投資主導型経済成長の時代が終焉し、歴史的な高度成長は過去のものになったという困難な現実を受け入れる必要がある。

  • 中国は停滞と混乱の時代へ
    社会不満と経済停滞が重なれば

    イアン・ジョンソン

    Subscribers Only 公開論文

    生活レベルの改善に貢献している体制への反政府運動は力を持ち得ないが、経済衰退期には、多くの人が反体制派や批評家に現実の説明を依存するようになる。これまでも、エコノミストたちは、中国経済の成長は鈍化し、停滞期に入りつつあると主張し、その理由として、人口動態の変化、政府債務、生産性の低下、市場志向改革の欠落などを指摘してきた。いまや「ピーク・チャイナ」という言葉さえ使われている。長期停滞に入った中国でも、人々は、反体制派の主張に現実の説明を依存するようになるかもしれない。いまや、北京は体制の安定を追求するあまり、技術的な進歩や民衆の支持さえも犠牲にし始めている。

  • ナレンドラ・モディとインドの未来
    ヒンドゥー・ナショナリズムの長期的帰結

    ラーマチャンドラ・グハ

    雑誌掲載論文

    宗教的・言語的少数派の権利を尊重し、個人と国家、中央と地方の権利のバランスをとろうとする繊細な試みによって、インドは統一と民主政治を維持し、貧困と差別という歴史的重荷を着実に克服してきた。だが、ナレンドラ・モディが具現するヒンドゥー・ナショナリズムはそうではない。ヒンドゥー教徒に恐怖心を抱かせることで、一丸となって行動させ、最終的には非ヒンドゥーのインド市民を支配することを目的としている。モディ政権は宗教や地域間の対立を和らげるどころか、むしろ激化させ、インド社会の混乱をさらに深めることになるだろう。選挙は実施されるが、民主制度の空洞化によってインドは名ばかりの民主国家となり、専制国家に近づきつつある。・・・

地政学競争の現実

  • 地政学競争と道徳なき外交の時代
    理念と現実主義をいかに融和させるか

    ハル・ブランズ

    雑誌掲載論文

    自由主義国家は、どうすれば、「価値ある目的」と「それを達成する上で必要になる不道徳な手段」を調和させられるか。これは、現在の米外交が直面するもっとも悩ましいジレンマの一つでもある。民主的同盟関係だけで、中国とロシアに対抗していくことに限界がある以上、地政学競争の時代が道徳なき時代になるのは避けられないだろう。ライバルに対抗し、自由世界を守るには、民主的価値からみれば問題のあるパートナーともつきあっていかざるを得ない。だが、そのようなご都合主義は危険に満ちている。国内で幻滅を引き起こすし、アメリカの世界的影響力をこれまで支えてきた道徳的優位を失う危険もある。

  • ヨーロッパが備える脅威の本質
    ドナルド・トランプと米欧関係の崩壊

    リアナ・フィックス、マイケル・キマージ

    雑誌掲載論文

    トランプは、北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を決断し、ウクライナを見捨て、プーチンとのパートナーシップを模索するかもしれない。だが、彼は決意に乏しく、無謀なアイデアを実行に移すことはめったにない。むしろ、大混乱をもたらす危険があるのは、トランプのビジョンよりも、気まぐれな性格だろう。道徳観念がひどく乏しく、世間の注目を集め、金儲けをし、あるいは権力と地位を高めるためなら何でもする。トランプは瞬く間に大西洋関係を破壊してしまうかもしれない。実際、アメリカのヨーロッパとの歴史的なつながりを破壊することを「勝利」として売り込めるのなら、トランプはそうするだろう。戦争をあまりにもよく知る大陸が、恒久的な平和でも、鉄のカーテンでもなく、再びカオスに包まれる未来は、決して幻想ではない。・・・

  • 「グローバルサウス」の問題点
    欧米諸国の思い込みと誤解

    コンフォート・エロー

    雑誌掲載論文

    現在の欧米における多くの政策論争では、「グローバルサウス」の存在が既成事実とみなされている。だが、グローバルサウスをまとまりのある連合としてとらえると、各国の個別の懸念を単純化したり、無視したりすることになりかねない。ブラジルやインドとの関係を強化すれば、他のグローバルサウス諸国も後からついてくると考えられている。これでは、債務、気候変動、人口動態、国内暴力など、各国の政治を形作っている固有の圧力がみえなくなってしまう。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々を地政学的ブロックとして扱っても、彼らが直面する問題の解決にはつながらないし、アメリカとそのパートナーが求める影響力を確保することもできないだろう。

  • 地政学パワーとしてのビッグテック
    米中対立と世界秩序を左右するプレイヤー

    イアン・ブレマー

    Subscribers Only 公開論文

    ほぼ400年にわたって国家は国際政治の主要なアクターとして活動してきたが、それも変化し始めている。いまやビッグテックは政府に匹敵する地政学的影響力をもち始めている。ビッグテックの地政学的な姿勢や世界観を規定しているのはグローバリズム(アップル、グーグル、フェイスブック)、ナショナリズム(マイクロソフト、Amazon)、テクノユートピアニズム(テスラ)という三つの大きな思想・立場で、国家の立場ではない。国家的な優先事項を追求するために、大国の政治家が巨大テクノロジー企業をたんなる地政学的なチェスの駒として自由に動かせる時代は終わりつつある。テクノロジー企業は名実ともに独立した地政学アクターになり、米中対立だけでなく、今後の秩序を左右する大きな影響力をもち始めている。

  • 大国間競争とドルの命運
    制裁と地政学とドル秩序の未来

    カーラ・ノーロフ

    Subscribers Only 公開論文

    中ロは、アメリカによる経済制裁の痛みから逃れようと、自国通貨での決済を増やして、ドルシステムへの対抗バランスを形成しようと試みている。一方、安全保障の視点からドル支配体制の強化を望む国もある。不安定な国際環境のなか、各国は「友好国との地政学的経済関係」を重視しており、これが、世界最大の安全保障ネットワークの中枢に位置するアメリカとその通貨であるドルに新たな優位をもたらしている。もちろん、ワシントンが経済制裁を乱用すれば、ドルに代わる通貨を模索する各国の動機が強化される。アメリカはリベラルな国際秩序の公共財を強化する形で経済外交を展開しなければならない。主要な同盟国や国際社会の多くを離反させれば、アメリカはドル支配体制を維持できなくなる。

  • トランプと地政学
    変化し始めた同盟国と敵対国の立場

    グレアム・アリソン

    Subscribers Only 公開論文

    バイデンと彼の外交チームは厄介な状況に直面している。交渉相手国が、あらゆる問題をめぐって、1年後にはまったく異なる米政府を相手にしている可能性を考慮した上で、ワシントンの意向を判断し始めているからだ。ロシアを含む敵対国は、いずれ、ワシントンとよりよい条件で交渉できるようになるという期待から、現状での判断を先送りしている。一方、ヨーロッパ諸国などは、トランプが大統領に返り咲けば、より劣悪な選択肢に直面する可能性が高いと考え、それに応じた対応を進めている。実際、ウクライナに送る戦車や砲弾の数をめぐっても、「トランプが当選すれば、自国の防衛のためにそれらが必要になるのではないか」と考え込むヨーロッパの指導者もいる。・・・

  • ウクライナ戦争とグローバルサウス
    多極世界における途上国の立場

    マティアス・スペクター

    Subscribers Only 公開論文

    インド、インドネシア、ブラジルからトルコ、ナイジェリア、南アフリカにいたるまで、世界の途上国の多くは、ウクライナ戦争を含めて、主要国との厄介ごとに巻き込まれるのを避け、将来への保険、リスクヘッジ策をとるようになった。物質的な譲歩を得るためだけでない。自らの地位を高めるためにリスクヘッジ策をとり、多極化を国際秩序における地位向上のチャンスとして前向きに捉えている。欧米は、グローバルサウスの主要国が北京やモスクワの政策に幻滅しつつあることが作り出す機会にもっと注目すべきだろう。主要途上国は、気候変動対策だけでなく、世界経済の混乱を阻止する上でも、中国の台頭やロシアの復権を管理していく上でも欠かせない存在だ。・・・

  • 大国間競争とインドの立場
    対話促進者としてのポテンシャル

    ニルパマ・ラオ

    Subscribers Only 公開論文

    他の国家と同様に、自国の利益に即して行動するインドにとって、ロシアとのパートナーシップを断ち切れば、国益を損なうことになる。当然、ロシアを孤立させることを求める欧米の要請には応じない。インドはすべての国々と協調する権利をもっている。北京に対するワシントンの対抗バランス形成の一翼を担うこともない。米中対立では中立の立場を維持している。インドは14億人以上の人口を抱え、急速に経済成長を遂げている国であり、ほとんどすべての国と貿易を行い、良好な関係を維持している。世界の緊張が高まるなかでも、インドは世界に成長を広げ、対話を促進していくポテンシャルをもっている。

Current Issues

  • AIが主導する戦争の時代?
    自律型兵器の脅威にどう対処するか

    ポール・シャーリ

    雑誌掲載論文

    すでに、ウクライナでは、AIが「戦場で誰を殺すかを判断する」完全自律型兵器が実戦配備されており、このままでは、機械が主導する危険な戦争の時代へと向かっていく危険がある。ターゲットを発見・特定し、攻撃するまでの時間が短縮され、意思決定のサイクルが短くなり、機械が、個々の標的を選択するにとどまらず、作戦全体を計画・実行するようになる可能性もある。こうなると、人間は、戦争を管理し、終わらせる力をほとんど失ってしまう。そのリスクを回避し、より重大なAIの脅威に対処する協調体制の基盤を築くためにも、自律型兵器についての合意をまとめる必要がある。・・・

  • 人工知能と地政学
    分裂するAI規制の意味合い

    アジズ・ハク

    雑誌掲載論文

    多国間の共同声明や二国間協議を通じて、AIを規制する国際的な枠組みができつつあるかにみえる。たしかに、米中欧の規制は、驚くほど内容が収斂しつつあるが、それぞれの行動に照らせば、分断と競争の未来が到来する可能性が高いことは明らかだろう。すでに、半導体へのアクセスや技術標準の設定、データとアルゴリズムの規制では、国によって異なる法体系が生まれつつあり、将来のいかなる協力も行く手を阻まれることになると考えられる。一つのAI規制が世界で広く共有されるのではなく、対立する規制によって分断された世界が出現することになるだろう。AIを公共の利益として育んでいけるという理想的なアイデアも、地政学的な緊張によってすでに粉砕されつつある。・・・

  • 食糧の兵器化を阻止するには
    忌まわしい戦術にいかに対処するか

    ザック・ヘルダー他

    雑誌掲載論文

    紛争による飢餓という永続的なパターンが、ガザ、ハイチ、スーダンなどで再現され、多くの人が飢餓の瀬戸際に追い込まれている。2020年以降、世界の急性食糧不安を抱える地域は約3倍に拡大し、3億3300万もの人々が飢餓リスクに直面している。さらに、敵の民間人を包囲して飢えさせるなど、飢餓は、(紛争による混乱だけでなく)食糧の兵器化によっても引き起こされる。相互依存レベルの高い現在のグローバル経済では、特定地域で食糧兵器化策がとられると、あらゆる地域の食糧安全保障に悪影響がでる危険がある。われわれは、食糧兵器化を禁止する国際条約の制定を求める運動を開始すべきタイミングにある。

  • 人工知能の恩恵とリスク
    誰も勝者になれない世界を回避するには

    ポール・シャーリ

    Subscribers Only 公開論文

    19世紀の産業革命は世界に大きな経済成長だけでなく、戦車、機関銃、毒ガス兵器をもたらした。人工知能(AI)はこれらに匹敵する変化を誘発することになる。AIは医療から交通に至るまでのあらゆる分野で大きな恩恵とともに大きなリスクも生み出す。最大のリスクは、AI軍事システムを最初に開発した国が、ライバル国に対して圧倒的な優位を手に入れられるために、いい加減なテストだけで、システムを一刻も早く導入せざるを得ないと考えるかもしれないことだ。こうして非常に深刻な問題が作りだされる。AIシステムの導入を競い合うのではなく、その安全性の検証と研究に多国間で投資すべきだ。そうしない限り、「誰も勝者になれない世界」が創り出されることになる。

  • AIをいかに戦力に取り込むか
    未来の戦力をどう評価する

    マイケル・C・ホロウィッツ、ローレン・カー、ローラ・レズニック・サモティン

    Subscribers Only 公開論文

    AIは、いまや防衛技術における進化のすべての中枢に位置し、戦力の配備や戦闘方法にまで影響を与えている。ロシアとウクライナはともにアルゴリズムを使ってソーシャルメディアと戦場から入ってくる膨大なデータを分析し、自国の攻撃にこれらの情報を生かしている。一方、ペンタゴンはAIと自律型兵器システムを含む新技術の重要性を説きつつも、軍事領域での応用ペースは緩慢だ。こうしたアメリカのAI軍事技術開発の遅れは、もっともパワフルな地政学的ライバルである中国の動きとは対照的だ。AI技術を軍事戦略、計画立案、システムに統合することに向けて中国はより積極的な動きをみせ、台湾をめぐる未来の紛争の戦闘スキームにもAIを組み込んでいる。アメリカは現状に満足するのではなく、その軍事力を未来に向けて適応させ、再編していく必要がある。・・・

  • 世界食糧危機をいかに緩和するか
    農業大国アメリカのポテンシャル

    カーライル・フォード・ランゲ、ロビン・S・ジョンソン

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアの黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が妨げられ、ロシアの輸出も経済制裁によって抑え込まれている。こうして、ボスポラス海峡を通過するウクライナやロシアの小麦やトウモロコシの輸出が大きく減少し、エジプトだけでなく、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、南スーダン、イエメンを含む中東や北アフリカの多くの国々が食糧危機(供給不足、価格高騰)に苦しんでいる。途上国への食糧支援を十分に提供できる立場にある農業大国のアメリカは、飢餓に苦しむ世界に援助を拡大すべきだし、その経験もノウハウももっている。第二次世界大戦期のレンドリースといえば、イギリスへの船舶や軍需品を供給したことが先ず想起されるが、実は食糧援助も含まれていた。・・・

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