本誌一覧

2019年12月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2019年12月号

購読はこちら

フォーリン・アフェアーズ・リポート2019年12月号 目次

もう一つの移民危機

  • 少子高齢社会と移民
    ―― 問題は移民がいなくなることだ

    チャールズ・ケニー

    雑誌掲載論文

    「移民危機」という表現が日常的に使われ、反移民感情の高まりを理由に国境を閉ざす国も多い。しかし、先進国の多くでは少子高齢化が進み、高齢者人口が大きくなる一方で、生産年齢人口が小さくなっている。残念ながら、ロボットや人工知能が、人口減少が引き起こす経済的帰結から先進国を救ってくれるわけでもない。こうなると少子高齢化危機への解決策は一つしかない。国境を移民に開放することだ。問題は、移民が先進国に殺到するのではなく、今後、誰もやってこなくなる事態を警戒しなければならないことだ。これが本当の移民危機だ。一人当たり(購買力平価)GDPが7500ドルに達するまでは、途上国の多くの人が外国で働こうと移住を考えるが、国内経済がこのレベルを超えると、パターンは逆転する。

  • 人口動態と未来の地政学
    ―― 同盟国の衰退と新パートナーの模索

    ニコラス・エバースタット

    Subscribers Only 公開論文

    大国への台頭を遂げたものの、深刻な人口動態問題を抱え込みつつある中国、人口動態上の優位をもちながらも、さまざまな問題に足をとられるアメリカ。そして、人口動態上の大きな衰退途上にある日本とヨーロッパ。ここからどのような地政学の未来が導き出されるだろうか。ヨーロッパと日本の出生率は人口置換水準を下回り、生産年齢人口はかなり前から減少し始めている。ヨーロッパと東アジアにおけるアメリカの同盟国は今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろう。一方、その多くがアメリカの同盟国やパートナーになるポテンシャルとポジティブな人口トレンドをもつインドネシア、フィリピン、そしてインドが台頭しつつある。国際秩序の未来が、若く、成長する途上世界における民主国家の立場に左右されることを認識し、ワシントンはグローバル戦略を見直す必要がある。・・・

  • 人口減少と資本主義の終焉
    ―― われわれの未来をどうとらえるか

    ザチャリー・カラベル

    Subscribers Only 公開論文

    ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

  • 生産年齢人口の減少と経済の停滞
    ―― グローバル経済の低成長化は避けられない

    ルチール・シャルマ

    Subscribers Only 公開論文

    労働人口、特に15―64歳の生産年齢人口の増加ペースが世界的に鈍化していることは否定しようのない事実だ。生産年齢人口の伸びが年2%を下回ると、その国で10年以上にわたって高度成長が起きる可能性は低くなる。生産年齢人口の減少というトレンドで、なぜ金融危機後の景気回復がスムーズに進まないか、そのかなりの部分を説明できる。出生率を上げたり、労働人口に加わる成人を増やしたりするため、各国政府はさまざまな優遇策をとれるし、実際多くの国がそうしている。しかしそれらが中途半端な施策であるために、労働人口の増大を抑え込む大きなトレンドを、ごく部分的にしか相殺できていない。結局世界は、経済成長が鈍化し、高度成長を遂げる国が少ない未来の到来を覚悟する必要がある。

  • 外国人労働者政策と日本の信頼性
    ―― 労働力確保と移民国家の間

    ユンチェン・ティアン、エリン・アイラン・チャング 

    Subscribers Only 公開論文

    人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

  • 依存人口比率と経済成長
    ―― 流れは中国からインド、アフリカへ

    サミ・J・カラム

    Subscribers Only 公開論文

    「人口の配当」として知られる現象は経済に大きな影響を与える。この現象は合計特殊出生率が低下し、その後、女性が労働力に参加して人口に占める労働力の規模が拡大し(依存人口比率が低下することで)、経済成長が刺激されることを言う。本質的に、人口の配当が生じるのは、生産年齢人口が増大する一方で、依存人口比率が減少したときだ。実際、出生率の低下と労働力規模の拡大、そして依存人口比率の減少というトレンドが重なり合ったことで、1983年から2007年までのアメリカの経済ブーム、そして中国の経済ブームの多くを説明できる。問題は、先進国だけでなく、これまでグローバル経済を牽引してきた中国における人口動態上の追い風が、逆風へと変わりつつあることだ。人口動態トレンドからみれば、今後におけるグローバル経済のエンジンの役目を果たすのはインド、そしてサハラ砂漠以南のアフリカになるだろう。

世界化する移民・難民危機

  • もう逃げ場がない
    ――サバイバル移民とラテンアメリカの悪夢

    アレクサンダー・ベッツ

    雑誌掲載論文

    2015年にヨーロッパが経験し、現在ラテンアメリカで起きている危機は、政治難民や経済難民の流出によるものではない。人々は「生き残るための移住(survival migration)」を試みている。ほとんどの人は、政治的迫害そのものではなく、ハイパーインフレーション、略奪行為、食糧不足などの「劣悪な政治状況がもたらした経済的帰結」から逃れることを目的に移動している。問題は、1951年の国連による難民の定義、つまり、ソビエトの反体制活動家を念頭に置いてまとめられた定義では、この現状に対処できないことだ。国が破綻したか脆弱なために、生活が耐え難いものになってきたがゆえに彼らは母国を後にしている。統治の破綻、社会暴力、経済的窮乏などが大きな理由なのだ。これまでの難民や移民の定義を見直して、これまで難民にしか与えられなかった支援の一部を、「サバイバル移民」にも提供できるようにしなければならない。

  • 経済停滞が引きずり出した民衆の怒り
    ――  暴走するラテンアメリカ

    モイセス・ナイーム 、 ブライアン・ウィンター

    雑誌掲載論文

    ベネズエラやキューバの介入がラテンアメリカで多発するデモや暴動のきっかけをつくりだしたかどうかはともかく、この地域の民衆の怒りが暴走しかねない状態にあったのは事実だ。21世紀初頭の原材料バブルがはじけて以降、ラテンアメリは長期に及ぶ停滞のなかにある。賃金が停滞し、生活コストが高騰するなか、格差や政治腐敗が作り出す問題に民衆が耐えるのはもはや限界に達していた。アジェンダを絞り込んで積極的対策をとる必要がある。消極的姿勢では、低成長、民主主義への信頼の失墜、ポピュリストの台頭という悪循環をさらに大きくするだけだ。

  • 米国境を目指す中米移民の窮状
    ―― 貧困と犯罪を逃れて北を目指す人々

    ステファニー・リュータート、 ロバート・ストラウスセンター

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカ国境を目指す中央アメリカの人々はなぜ故郷を後にし、ワシントンはこれにどのように対処しているのか。1980年代には内戦を逃れる難民が数多く押し寄せ、その後も、経済的機会を求めて、犯罪組織の社会的暴力から逃れるために北を目指す人の流れは続いている。最近ではアメリカへの入国を求める家族と子供が増えているのが特徴的だ。ワシントンは、国境地帯の警備を強化し、近隣諸国に移民抑止に向けて協力を依頼し、現地経済支援のための援助を提供することで、その対応策としてきた。しかし、これらは結果を出せていない。人々が故郷を後にせざるを得ない状況にワシントンがより真剣に対処しない限り、中南米移民は北を目指し、アメリカでの未来を思い描き続けることになる。

  • ベネズエラの自殺
    ―― 南米の優等生から破綻国家への道

    モイセス・ナイーム、フランシスコ・トロ

    Subscribers Only 公開論文

    インフレ率が年100万%に達し、人口の61%が極端に貧困な生活を強いられている。市民の89%が家族に十分な食べ物を与えるお金がない。しかも、人口の約10%(260万人)はすでに近隣諸国に脱出している。かつてこの国は中南米の優等生だった。報道の自由と開放的な政治体制が保障され、選挙では対立する政党が激しく競い合い、定期的に平和的な政権交代が起きた。多くの多国籍企業が中南米本社を置き、南米で最高のインフラをもっていたこの国が、なぜかくも転落してしまったのか。元凶はチャビスモ(チャベス主義)だ。キューバに心酔するチャベスと後任のマドゥロによって、ベネズエラは、まるでキューバに占領されたかのような大きな影響を受けた。でたらめで破壊的な政策、エスカレートする権威主義、そして泥棒政治が重なり合い、破滅的な状況が生み出された。・・・

  • 体制変革の鍵を握るベネズエラ軍
    ―― ベネズエラ政府と軍隊

    ローラ・ガンボア・グテーレス

    Subscribers Only 公開論文

    グアイド暫定大統領による4月の蜂起の呼びかけは失敗に終わった。政府がグアイドに逮捕状を出すという噂を前に、彼が軍の一部指導者が合意していたタイミングよりも1日早く行動を起こし、軍内部の同盟勢力を動揺させてしまったとする見方もある。結局、マドゥロを退陣に追い込むには、体制を支持することで軍が恩恵を得るという構図を切り崩し、新体制になっても、軍のメンバーが起訴されたり、処罰の対象にされたりしないことを保証しなければならない。問題は、この重要なポイントをめぐって反政権派と軍の信頼関係が十分でないことだ。処罰の対象にされないという保証なしで、軍が独裁者を見捨てるとは考えにくい。ここで重要になるのが、体制移行後の身分を仲介し、保証する第3国の存在だ。・・・

  • 現存する大国間戦争のリスク
    ―― 楽観派はどこで間違えたか

    タニーシャ・M・ファザル、ポール・ポースト

    雑誌掲載論文

    「戦争が起きる頻度は着実に低下している。大国間戦争などもはや考えられず、あらゆるタイプの戦争がますます起きにくくなっている」。このように現状を捉えるコンセンサスが広がりをみせている。だが、この考えは間違っている。たしかに第三次世界大戦は起きていない。だからといって、それは、大国間平和の時代がそこにあることを意味しない。戦争が少なくなっていると過信すれば、いかなる衝突も瞬く間に危険な方向にエスカレートしていく恐れがあることを軽くみなし、壊滅的な結末に直面することになりかねない。国際政治の混沌とした本質からみれば、大規模な紛争が発生する可能性は常に存在する。

Current Issues

  • ロシアとポストアメリカの中東
    ―― 中東のパワーブローカー

    ユージーン・B・ルーマー

    雑誌掲載論文

    1980年代末の帝国の解体とともに、ソビエト・ロシアは中東から姿を消した。一方ワシントンは、この地域で戦争を戦い、政治ビジョンを押し付け、中東の覇権国として振舞うようになった。だが、2015年秋に流れは変化した。モスクワはシリアにロシア軍を派遣し、パワーブローカーとしての足場を中東に築き、今後ここから立ち去るつもりはない。だが、シリアの外国プレイヤーであるイラン、トルコ、イスラエルとの関係を管理するだけでなく、モスクワはサウジを含むアラブ諸国との関係も形作っていかなければならない。問題は、治安と安定そして近代化の機会をアラブ社会が求めているのに対して、ロシアがオファーできるものをほとんど何も持っていないことだ。・・・・

  • メコンと東南アジアを脅かす脅威
    ―― ダムではなく、再生可能エネルギーの整備を

    サム・ギアル

    雑誌掲載論文

    メコン川に流水の多くを供給しているヒマラヤの氷河は21世紀末までに温暖化によって消滅するかもしれない。上流の中国は下流のラオスとカンボジアにダム建設を働きかけ、いまやメコン川は中国がその利益とパワーを展開する主要な舞台と化している。しかも、流域諸国政府はメコン川の環境問題にほとんど配慮していない。要するに、流域コミュニティは気候変動の弊害、中国の地政学的野心、政府の環境問題への無関心という逆風にさらされている。流域のよりよい未来はダムによる水力発電ではなく、再生可能エネルギーを整備することで切り開けるはずだ。国内でソーラーパワー産業を育成し、貧困を緩和するという目的から再生可能エネルギーを整備してきた実績持つ中国は、ダム開発ではなく、メコン流域における脱炭素の未来を切り開くための投資を考えるべきではないか。

  • プーチンが思い描く紛争後のシリア
    ―― 戦後処理と各国の思惑

    ドミトリ・トレーニン

    Subscribers Only 公開論文

    バッシャール・アサドはダマスカスの権力を握っているかもしれないが、シリアの政治的風景はもはや元に戻せないほどに変化している。シリアはすでにアサド政権、反アサド、親トルコ、親イランの勢力、さらにはクルド人という五つの勢力がそれぞれに管理する地域へ実質的に分裂している。ロシアは、この現実を受け入れようとしないアサドだけでなく、紛争期の同盟国であるイランの動きにも対処していく必要がある。アサド政権だけでなく、イランやトルコのシリアに対する思惑が変化していくのは避けられず、これに関連するイスラエルの懸念にも配慮しなければならない。今後、外交領域で勝利を収めるのは、戦闘で勝利を収める以上に難しい課題になっていくだろう。

  • プーチンがシリアを支援する本当の理由
    ―― チェチェン紛争とシリア内戦をつなぐスンニ派の脅威

    フィオナ・ヒル

    Subscribers Only 公開論文

    ウラジーミル・プーチンはシリア紛争とチェチェン紛争を同列にとらえ、シリア紛争のことを「国家を標的にし(国家解体を狙う)スンニ派の過激主義勢力の、数十年におよぶ抗争の最近の戦場にすぎない」とみている。アフガン、チェチェン、数多くのアラブ国家を引き裂いてきたスンニ派の過激主義勢力と国家の戦いがシリアで起きているにすぎない、とプーチンは考えている。だからこそ、彼は「自分がチェチェンで成し遂げたことをアサドがシリアで再現し、反体制派の背骨を折ること」を期待し、シリアに対する国際介入に反対してきた。仮にプーチンがアサドを見限るとしても、その前に、「体制崩壊に伴う混乱の責任を誰がとるのか」という問いへの答を知りたいと考えるはずだ。誰がスンニ派の強大化を抑え込むのか、誰が北カフカスその他のロシア地域に過激派が入り込まないようにするのか。そして、誰が、シリアの化学兵器の安全を確保するのか。プーチンは、アメリカや国際コミュニティがアサド後のシリアに安定を提供できるとはみていない。だからこそ、シリアという破綻途上国を支援し続けている。

  • プーチンの中東地政学戦略
    ―― ロシアを新戦略へ駆り立てた反発と不満

    アンジェラ・ステント

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアによるグルジアとウクライナでの戦争、そしてクリミアの編入は、「ポスト冷戦ヨーロッパの安全保障構造から自国が締め出されている現状」に対するモスクワなりの答えだった。一方、シリア紛争への介入は「中東におけるロシアの影響力を再生する」というより大きな目的を見据えた行動だった。シリアに介入したことで、ロシアはポスト・アサドのシリアでも影響力を行使できるだけでなく、地域プレイヤーたちに「アメリカとは違って、ロシアは民衆蜂起から中東の指導者と政府を守り、反政府勢力が権力を奪取しようとしても、政府を見捨てることはない」というメッセージを送ったことになる。すでに2015年後半には、エジプト、イスラエル、ヨルダン、クウェート、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の指導者たちが相次いでモスクワを訪問している。・・・すでにサウジは100億ドルを、主にロシアの農業プロジェクトのために投資することを約束し、・・・イラクはイスラム国との戦いにロシアの力を借りるかもしれないと示唆している。・・・

  • 大陸部東南アジアの統合と成長
    ―― メコン流域地帯のポテンシャル

    ティティナン・ポンスティラク

    Subscribers Only 公開論文

    地理的なロケーションと天然資源に恵まれた大陸部東南アジアは、内的な結びつきを深め、統合されつつある。だがそのポテンシャルを理解するには、地域内の相互的なつながりの強化だけでなく、その人口動態にも目を向ける必要がある。すべてを合わせると、大陸部東南アジアは3億を超える人々で構成される消費市場、労働市場をもち、所得レベルも上昇している。地域的なGDP合計は、2020年までに1兆ドルを上回ると予測されている。たしかに、教育や医療部門、そして格差や政治腐敗という深刻な問題を抱えているし、援助の呪縛という罠も待ち受けている。だが、中国南部とタイが資本と専門知識を提供し、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムが労働力、土地、天然資源を提供するという棲み分けが存在する。インフラプロジェクトや製造業は外国投資家に魅力的な投資機会を、そして外国企業は現地が切実に必要とする専門知識と技術を提供できる。大陸部東南アジアの未来は大きく開かれている。

エルドアンの夢と野望

  • 強権者エルドアンの不安と権力
    ―― トルコはどこへ向かうのか

    カヤ・ジェンク

    雑誌掲載論文

    夕暮れ迫る帰り道に船の甲板でコーランを暗唱した少年も、いまやトルコの強権者だ。信奉するイデオロギーを数年ごとに見直してきたエルドアンは、すでにチェック&バランスシステムの多くを解体し、権力を自身に集中させている。かつてはあまりに高圧的と感じ、批判してきた近代トルコの父「アタチュルク」と驚くほど似たスタイルをとる政治家になった。これは、主に権力をアウトソースしたことの結果だった。与党内に官僚を束ねる実務家を欠いていたために、エルドアンは司法、警察、軍という国の機能をギュレン派にアウトソースし、その結果、管理権を喪失した。権力の分散化を前に「自分の権力はいつ覆されておかしくない」と考えるようになり、中東での孤立と国内での反政府行動そしてクーデター未遂事件がこれに追い打ちをかけた。・・・

  • 粉砕されたクルド人の夢
    ―― エルドアンとトランプの誤算

    アンリ・J・バーキー

    雑誌掲載論文

    トランプは(米軍のシリアからの撤退という)クルド人に対する裏切り行為への米社会の反発を過小評価し、エルドアンは、トルコの残忍な侵攻作戦に対する国際社会の反発を軽くみていたようだ。アメリカの議会、軍、官僚、メディアは「(イスラム国との戦いの中枢を担った)同盟勢力であるシリアのクルド人をなぜあっさりと見限ったのか」と困惑した。しかも、クルド人が支配してきた地域に収容されている1万2000人のイスラム国戦闘員と4万人の家族が収容施設から外へ出る恐れもある。カリフ国家を打倒するという数年に及んだ困難な試みの成果を、(米軍を撤退させ、トルコのシリア侵攻を認めたことで)トランプはあっさりと台無しにしたのかもしれない。いまやトルコと欧米の関係だけでなく、トルコの国内政治も、トルコと中東におけるクルド人との関係も不安定化している。

  • CFR In Brief
    シリア北西部の現状
    ―― そこに誰がいるのか

    リンジー・メイズランド

    雑誌掲載論文

    アンカラが南部国境線に近いシリア北部にトルコ軍を投入したことで、シリア内戦は新たな局面を迎えている。わかり難いのは現地でどのようなプレイヤーたちが活動しているかだ。
    10月9日、シリアに展開する米軍が国境地帯から撤退した後、トルコ軍は国境を越えて、実質的なクルド人地域に進攻した。一方クルド人勢力の要請に応じてシリア軍が北東部に進攻した。
    トルコ軍とクルド人勢力との間で交戦が起き、トルコ軍によるクルドの民間人を対象とする残虐行為があったとも報道された。10月下旬、ロシアのソチでプーチンとエルドアンが会談し、安全地帯の設定を含む国境地帯に関する合意が交わされた。
    ロシアは「クルド人勢力の撤退はすでに完了した」と表明し、国境地帯をロシア軍とトルコ軍が合同パトロールをしている。事態は依然として流動的で、特にクルド人勢力がこれまで管理してきたイスラム国戦闘員の拘束施設や難民キャンプがどのような状態にあるかが懸念されている。(FAJ編集部)

  • 新「トルコ国家の父」を目指したエルドアン
    ―― なぜ権威主義的ナショナリズムへ回帰したのか

    ハリル・カラベリ

    Subscribers Only 公開論文

    これまで経済・政治の自由化を約束してきたエルドアンが、なぜ非自由主義的な権威主義路線の道を歩んでいるのだろうか。いまや彼は伝統的な中東の強権者となり、自分の権力基盤を固め、ライバルを追放し、反体制派を抑圧している。エルドアンの本来の目的は、保守的な社会秩序を維持する一方で、クルド人などの国内の少数派民族・文化集団との関係を修復していくことにあった。クルド人を含む、トルコ市民の多くが信奉する「スンニ派イスラム」を国の統合原理にしたいと考えてきた。しかし、クルドとの和平に失敗したことからも明らかなように、「スンニ派イスラム」だけでは、21世紀に向けた持続的な政治秩序を育んでいくトルコのアイデンティティを形作れなかった。こうしてエルドアンは、伝統的な権威主義的ナショナリズムへと立ち返らざるを得なくなった。・・・

  • イスラム世界におけるトルコのソフトパワー
    ―― 宗教・文化外交の目的は何か

    ギョニュル・トル

    Subscribers Only 公開論文

    トルコの政府機関と市民組織は、スンニ派イスラムとトルコのナショナリズムを融合させた宗教教育プログラムを外国で実施し、トルコの言語と文化も教えている。こうした宗教・文化活動が実施される場所にはトルコの国旗が掲げられている。活動に関わる人々は、「オスマン帝国の後継国家であるトルコは、イスラムに残された最後の要塞であり、イスラム文明復活を主導する指導国である」と自負している。このソフトパワー戦略はスーダンなどのアフリカ諸国では成功している。しかし、中東では「トルコは帝国的野望をもっている」と猜疑心で捉えられ、ヨーロッパ諸国政府は、「トルコの宗教外交は社会を分断し、トルコ系移民の社会的同化を妨げる」と怒りを露わにして反発している。・・・・

  • トランプの撤退宣言とシリアの現実
    ―― 介入目的を下方修正するしかない

    ブレット・マクガーク

    Subscribers Only 公開論文

    2018年12月、トルコのエルドアン大統領との電話会談後、トランプ米大統領はシリアからの米軍撤退を命じるという驚くべき決定を下し、アメリカのシリア戦略を根底から覆した。現在の課題は、次に何が起きるか、そして今後数カ月間で現地の米軍プレゼンスが削減されていくとしても、シリアにおける利益を守るために何ができるかを特定することだ。バッシャール・アサドが退陣することも、イランがシリアからいなくなることもあり得ないし、トルコは厄介なプレイヤーのままだろう。一方で現在のシリアにおける主要なパワーブローカーがロシアであることをワシントンは認識しなければならない。幸い、米ロの利益には重なり合う部分がある。ともにシリアの領土保全を望み、イスラム国勢力やアルカイダの聖域を誕生させてはならないと考え、イスラエルとの緊密な関係をもっている。・・・

論文データベース

カスタマーサービス

平日10:00〜17:00

  • FAX03-5815-7153
  • general@foreignaffairsj.co.jp

Page Top