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米国境を目指す中米移民の窮状
―― 貧困と犯罪を逃れて北を目指す人々

ステファニー・リュータート テキサス大学オースチン校  ロバート・ストラウスセンター ディレクター

The Migration Disconnect
Why Central Americans Will Keep on Heading to the United States

Stephanie Leutert テキサス大学オースチン校 ロバート・ストラウスセンター ディレクター(メキシコ安全保障プログラム)。専門は米・メキシコ関係。

2019年1月号掲載論文

アメリカ国境を目指す中央アメリカの人々はなぜ故郷を後にし、ワシントンはこれにどのように対処しているのか。1980年代には内戦を逃れる難民が数多く押し寄せ、その後も、経済的機会を求めて、犯罪組織の社会的暴力から逃れるために北を目指す人の流れは続いている。最近ではアメリカへの入国を求める家族と子供が増えているのが特徴的だ。ワシントンは、国境地帯の警備を強化し、近隣諸国に移民抑止に向けて協力を依頼し、現地経済支援のための援助を提供することで、その対応策としてきた。しかし、これらは結果を出せていない。人々が故郷を後にせざるを得ない状況にワシントンがより真剣に対処しない限り、中南米移民は北を目指し、アメリカでの未来を思い描き続けることになる。

  • いまそこにある危機
  • パターン化された対応
  • 故郷を後にする理由
  • 本当の救済

<いまそこにある危機>

中央アメリカからメキシコに入り、アメリカ国境に数千規模の移民が殺到する事態を前にしても、トランプ政権は強硬姿勢を崩していない。米大統領は移民集団(キャラバン)の入国を阻止すると約束し、アメリカを目指す移民たちの流れを「侵略」と呼び、「中東出身者」が紛れ込んでいると主張している。国防総省は2018年10月末に、キャラバンが到着する前に対メキシコ国境に5200人を派兵すると発表し、最初の派遣部隊が有刺鉄線を設置した。国境における壁の建設と同様に、国境地帯への部隊派遣は、トランプが中央アメリカからの移民をアメリカの国家安全保障上の重大な脅威と捉えていることを意味する。だが、この措置も、中央アメリカ移民を抑制しようと、歴代の米政権がとってきたコストのかさむ一連の政策の一つに過ぎない。国境地帯への部隊派遣も、ワシントンが中央アメリカの民衆が家を後にし、北を目指すようになる現地情勢を変化させようと、これまで国境警備と地域開発に投入した数十億ドルの投資と同程度のはかない効果しかないだろう。

 

<パターン化された対応> 

キャラバンの国境地帯への殺到を伝えるニュースから受ける印象とは逆に、中央アメリカからアメリカへの大規模な移民の流れは目新しい現象ではない。南から北を目指す人の流れは30年ほど前から続いている。1980年代にはグアテマラとエルサルバドルから数万の難民が、内戦を逃れてメキシコ南部のキャンプに入るか、アメリカへ入国している。

90年代半ばまでに中央アメリカの内戦は終結したが、より良い暮らしを求め、あるいは、すでに国を離れてアメリカにいる家族との再会を目指す移民の流れは続いた。犯罪組織の社会暴力から逃れ、壊滅的な自然災害のために(故郷を捨て)外国での生活の再スタートを望む人々もいる。

(これまでは労働目的の単身男性が多かった)移民集団に家族と子どもが占める割合が次第に高まっている。2014年には、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラから数万の家族と同伴者のいない子どもがアメリカとメキシコの国境に殺到したために、労働を目的とする単身男性の入国手続きをするために作られた入国管理システムはパンク状態に追い込まれた。いまや中央アメリカから米国境線へ殺到する移民の半数以上が家族や同伴者のいない未成年者たちだ。

今回の「キャラバン」、そして移民全般への対応をめぐって、トランプは市民の不安をかきたてるレトリックを弄し、安全保障上の懸念を強調している。しかし、個々の対策とその対策コストからみた効果という面では、トランプ政権の移民政策と歴代政権のそれの間に大きな違いはない。

入国を望む移民が増加すると、米政府は、先ずメキシコとの国境(での入国管理)に充てる予算と人材を増やしてきた。2014年夏に中央アメリカからの単身の未成年者や家族移民が急増すると、オバマ政権は即座に、収容施設の建設に予算を割り当て、国境に配置する移民担当判事、移民税関捜査局(ICE)の弁護士、難民庇護担当官(asylum officer)の数を増やした。トランプ政権の下でも同様に、国境警備が強化されつつあり、2018年4月に2000人規模の州兵が国境に派遣されたのに続き、11月にはさらに5200人が送り込まれた。トランプは最大で1万5000人の兵士を投入するかもしれないと発言している。

国境に到着した移民に対処する文官や部隊の派遣が完了すると、次に、これ以上の移民が国境線に向かってくるのを阻止するための政策がとられる。

オバマ大統領の場合は、ジョージ・W・ブッシュ政権が始めた、正規の国境検問所ではない「非正規」のポイントから(不法に)入国した者全員を刑事訴追する「ストリームライン作戦」(Operation Streamline)を継続した。人々がアメリカに向かうインセンティブを抑え込もうと、本来は庇護申請をした家族を審査が終わるまで拘留するための家族用の収容施設を増設している。

トランプはこの懲罰的なアプローチを継続、拡大した。2018年4月、司法省は「ゼロトレランス=不寛容」政策を発表し、入国手続きポイントを通らずに不法に越境した者は、庇護申請者や家族などの、通常は起訴対象とされない人々を含めて、すべて訴追すると表明した。政府が家族を対象とする刑事訴追を始めると、子どもは両親から引き離されて全米各地の別の施設に送られた。世論の激しい批判を受けて、トランプはこのやり方を見直したが、その後、家族を無期限に拘束し始めている。

程度の差はあっても、オバマ、トランプ両政権は懲罰的なアプローチをとる一方で、別の予防的対策もとっている。ともにアメリカに押し寄せる移民を少なくしようと、近隣諸国の協力を模索してきた。2014年にオバマは、メキシコのエンリケ・ペーニャ・ニエト大統領(当時)に、メキシコの南部国境で移民の拘束を増やすように働きかけた。一方トランプ政権は、メキシコと「安全な第三国」協定を結ぼうとしている。これまでのところ合意に至っていないが、この協定が締結されれば、(庇護申請者が迫害や拷問を受ける恐れがない「安全な第三国」である)メキシコを経由する庇護希望者は、アメリカでなくメキシコで庇護申請をしなければならなくなる。

同様に、オバマ政権は、中央アメリカ民衆のための経済機会の拡大、治安や制度の改善を目的とする支援プログラム「繁栄のための同盟」のために14億ドルを超える資金を投入している。対外援助をやめると息巻いているトランプ政権も、このプログラムを継続し、ペンス副大統領は、中央アメリカの繁栄と安全保障に関する地域会合を2度にわたって主導している。この援助プログラムは引き続きアメリカの中央アメリカ戦略の中核とされている。

 

<故郷を後にする理由> 

スタイルや重視するポイントの違いはあるとしても、国境警備の強化、移民流入の抑止、地域諸国との連携という移民対策のアウトラインについては、オバマ政権とトランプ政権の間に大きな違いはない。そして、中央アメリカからの移民の流れにも大きな変化はみられない。過去5年間で、ホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラからアメリカの国境に殺到した移民の数は約87万5000人に達する。

アメリカの中央アメリカへの援助は、長期的には特定領域での成果につながるかもしれないが、犯罪組織による暴力など、中央アメリカの多くの人々が日々直面している、息の詰まるような現実を変えていくという点では、ほとんど結果を出せていない。

例えば、(ホンジュラスの首都)テグシガルパやグアテマラシティのような大都市では、マラ・サルバトルチャ(MS-13)やバリオ18のようなギャング団の縄張りが、パッチワークのように張り巡らされている。ギャングたちは抗争を展開したり、警察と衝突したりするだけでなく、地元住民に嫌がらせをし、子どもやティーンエージャーを自分たちの仲間にしようと誘い込んでいる。彼らの主な収入源は「ゆすり」だ。小さな商店や住民を恐喝し、彼らの収益や所得の半分を「ショバ代」として巻き上げることもある。支払いを拒んだ場合の選択肢はシンプルで、逃げるか、そこに留まり、殺されるかだ。

都市部の外側、つまり、地方では、経済的困窮から人々は家を後にしている。エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス西部の農村部では最大の雇用を提供しているのはコーヒー産業だが、(葉にサビのような胞子が繁殖し、立ち枯れを引き起こす)コーヒーサビ病の猛威、ますます予測不能と化しつつある天候不順、世界的な商品相場の下落によって、この産業は崩壊寸前の状態にある。

私は1カ月かけて、グアテマラの高地で潜在的移民たちにインタビューをした。多くの農業経営者が土地を切り売りし、雇用する労働者の賃金を最低限まで下げてなんとか生計を立てている。その結果、失業と所得レベルの低下が常態化し、多くの家庭は1日3度の食事用の食材を買うお金にも事欠いている。

ギャングの脅しや飢えといった環境に人は長く耐えられるものではない。国を離れるという決断は理にかなっているし、雇用機会がある高賃金で就労できるアメリカを目指すのも当然だろう。しかも、アメリカに行けば、そこで家族や友人たちと再会できる。

だがホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの低所得層の人々は、アメリカに入国する合法的手段をもっていない。多くは米企業からの雇用のオファーがあるわけでも、ビザのスポンサーに必要な合法的な在留資格をもつ親族がいるわけでもない。つまり、アメリカに入国するには、メキシコとの国境まで行って庇護申請をするか、気づかれずに国境を越えるしかない。

現状ではワシントンが移民受入を制限しようとしているために、アメリカへの旅は移民にとってさらに厄介で危険に満ちたものになっている。それでもアメリカを目指す中央アメリカの人々の決意は変わらない。

米政府が国境警備の予算を増やしても、移民削減にはほとんど効果がない。正規の入国ポイントではない場所からアメリカに入国した者がすべて刑事訴追されるとすれば、特に子ども連れの場合、より大きなコストを支払わせられることになる。それでも「見つからずにアメリカに入国できるかもしれない」と期待し、「母国に留まるよりもアメリカで拘束されるリスクを冒したほうがましだ」と考える者は多い。中央アメリカへの投資は長期的には地域の経済基盤作りになるかもしれないが、これまでのところ、大多数の移民の日常に大きな違いをもたらせていない。

 

<本当の救済>

実際には、アメリカが中央アメリカ諸国の助けになる政策をとることもできる。飢えと破綻しつつある経済に苦しむ中央アメリカの人々にとって、経済救済策が短期的に役に立つかもしれない。商品価格安定化プログラムは、コーヒー農家が繰り返し発生するコーヒーサビ病を抑え込んだり、収益性の高い農産物へ切り替えたりする助けになる。グアテマラとホンジュラスはこの目的で国家基金を設立しており、アメリカがこれを支援することもできる。

特に経済的に後れているために、潜在的に移住を考える人が多い地域で、現地政府に公共事業プロジェクトを実施させれば、道路、港湾、国立公園の整備や環境浄化の雇用を創り出せる。灌漑プロジェクトがあれば、干ばつの被害を受けた地域に迅速に対応できるようになる。アメリカ、メキシコ、カナダの政府と民間部門はこうしたプロジェクトのための基金を支援できる。

アメリカは、外国への移住率の高い中央アメリカ諸国出身の労働者を、労働力不足に直面する米企業に送り込めるゲストワーカー・プログラムを提供することもできる。ゲストワーカーに(労働力不足の農業分野での就労を目的に入国する外国人を対象とする)H―2Aビザ、あるいは(労働力不足のサービス部門で一時的あるいは季節的に就業する目的で入国する外国人用の)H―2Bビザを発給して、入国と労働を認め、家族を養い、子どもの将来に投資するだけの安定した収入を確保させて帰国させることもできる。これまでのところ、この2種類のビザを活用して中央アメリカからの移民問題に対処しようという動きはなく、2017会計年度に非熟練労働者を対象とした短期ビザを取得したホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラからの労働者は全体の4%(9365人)に過ぎない。

生命を脅かされる暴力に直面している中央アメリカの人々にとって、アメリカあるいはメキシコに庇護申請をすることが、最大の救いであり希望だ。しかし、そうした必要性がある者に迅速に手を差し伸べ、より秩序だって移民として入国させるには、庇護申請の審査をアメリカの国境だけではなく、出身国(にあるアメリカの出先機関)そしてメキシコなどの第三国でも行えるようにすべきだ。オバマ政権はこの方向で一歩を踏み出し、条件を満たす中央アメリカ出身の子どもやティーンエージャーを保護するために、国内(の出先機関)で庇護申請手続きをするプログラムを導入したが、これはトランプの就任1年目に凍結された。先ず、このプログラムを再開すべきだろう。

最善の環境でも、中央アメリカからの移民の流れを緩和するために政策的にできることは限られている。しかし、危機的状況にある地域に短期的な経済支援を行い、中央アメリカの未来に対する長期的投資を継続し、庇護申請のための合法的道筋を拡大すれば、移民問題を緩和できるし、引いては、その他のより広範な構想を定着させるために必要な対策上の余裕が生まれることになる。単一の完全な解決策などなく、一進一退を繰り返すことになるだろう。だが人々が故郷を後にせざるを得ない状況にワシントンがより真剣に対処しない限り、中央アメリカからの移民は北を目指し、アメリカでの未来を思い描き続けることになる。●

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