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2020年1月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2020年1月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2020年1月号 目次

ポスト資本主義は社会主義ではない

  • 資本主義の衝突
    ―― 「民衆の資本主義」か「金権エリート資本主義」か

    ブランコ・ミラノヴィッチ

    雑誌掲載論文

    グローバル経済の未来を左右するのは、資本主義と他の経済システムの競争ではなく、資本主義内の二つのモデル、つまり、「リベラルで能力主義的資本主義」と「政治的資本主義」間の競争だろう。リベラルな資本主義が「民衆の資本主義」へ進化し、拡大する格差問題にうまく対処しない限り、欧米のシステムは、社会主義ではなく、中国型の政治的資本主義に近づき、金権政治的になっていくだろう。格差を是正し、民衆の資本主義への進化を実現するには、中間層により大きな金融資産の保有を促す税インセンティブを与え、超富裕層の相続税を引き上げ、公教育の質を改善し、選挙キャンペーンを公的資金でカバーできるようにしなければならない。そうしない限り、政治的資本主義同様に、排他的な少数で構成される特権階級の家庭が、将来に向けて永遠にエリートを再生産していくようになる。

  • 人口減少と資本主義の終焉
    ―― われわれの未来をどうとらえるか

    ザチャリー・カラベル

    Subscribers Only 公開論文

    ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

  • マルキスト・ワールド
    ―― 資本主義を制御できる政治形態の模索

    ロビン・バーギーズ

    Subscribers Only 公開論文

    共産主義モデルを取り入れた国が倒れ、マルクスの政治的予測が間違っていたことがすでに明らかであるにも関わらず、その理論が、依然として鋭い資本主義批判の基盤とされているのは、「資本主義が大きな繁栄をもたらしつつも、格差と不安定化をもたらすメカニズムを内包していること」を彼が的確に予見していたからだ。欧米が20世紀半ばに社会民主的な再分配政策を通じて、資本主義を特徴づけたこれらの問題を一時的に制御することに成功して以降の展開、特に、70年代末以降の新自由主義が招き入れた現状は、まさにマルクスの予測を裏付けている。今日における最大の課題は、「人類が考案したもっともダイナミックな社会システムである」資本主義の弊害を制御できる新たな政治システムを特定することにある。しかし、そのためには先ず、社会民主的政策を含めて、過去に答が存在しないことを認識しなければならない。・・・

  • 歴史の未来
    ―― 中間層を支える思想・イデオロギーの構築を

    フランシス・フクヤマ

    Subscribers Only 公開論文

    社会格差の増大に象徴される現在の厄介な経済、社会トレンズが今後も続くようであれば、現代のリベラルな民主社会の安定も、リベラルな民主主義の優位も損なわれていく。マルキストが共産主義ユートピアを実現できなかったのは、成熟した資本主義社会が、労働者階級ではなく、中産階級を作り出したからだ。しかし、技術的進化とグローバル化が中産階級の基盤をさらに蝕み、先進国社会の中産階級の規模が少数派を下回るレベルへと小さくなっていけば、民主主義の未来はどうなるだろうか。問題は、社会民主主義モデルがすでに破綻しているにも関わらず、左派が新たな思想を打ち出せずにいることだ。先進国社会が高齢化しているために、富を再分配するための福祉国家モデルはもはや財政的に維持できない。古い社会主義がいまも健在であるかのように状況を誤認して、資本主義批判をしても進化は期待できない。問われているのは、資本主義の形態であり、社会が変化に適応していくのを政府がどの程度助けるかという点にある。

  • 終末期を迎えた資本主義?
    ―― もはや民主政治では資本主義を制御できない

    マーク・ブリス

    Subscribers Only 公開論文

    資本主義と民主主義の緊張と妥協が相互に作用することで、これまで政治と経済のバランスが形作られてきた。民主体制のなかで、労働保護法や金融規制の導入、社会保障制度の拡大が実現することで、市場の猛威は緩和されてきた。こうして労働者は労働搾取を試みる資本家を抑え込み、企業は労働者の生産性を高めるための投資を重視するようになった。これが戦後における成長のストーリーだった。しかし「いまや政府は戦後の税金を前提とする国家から、債務を前提とする国家へと変貌している」。この変化は非常に大きな政治的帰結を伴った。政府債務の増大によって、国際資本が、各国の市民の望みを潰してでも、自分たちの意向を各国政府に強要する影響力をもつようになったからだ。格差が拡大し、賃金が停滞する一方で、政府は、資金力豊かな金融機関が問題の兆候を示しただけで救済の対象にするようになった。こうして市民たちは、いわゆる調整コストを運命として受け入れるのを次第に嫌がるようになった。・・・

  • 近代化と格差を考える
    ―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

    ロナルド・イングルハート

    Subscribers Only 公開論文

    19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

  • グローバル金融を蝕むタックスヘイブン
    ―― 犯罪と格差の象徴を粉砕するには

    ニコラス・シャクソン

    Subscribers Only 公開論文

    犯罪組織や途上国の独裁者だけでなく、超富裕層も多国籍企業も「自分にとって好ましくないルールを回避するために」資金や資産を「オフショア」と呼ばれる「他のどこか」に移動させている。好ましくないルールとは「税法、情報開示請求、刑法、あるいは金融規制」だ。「他のどこか」であるオフショアでの取引はエキゾチックなどこかではなく、世界経済の中枢近くで行われている。タックスヘイブンは租税回避を容易にし、法の支配を弱め、組織犯罪の温床を作り出す。格差をさらに拡大させてポピュリストの反動を助長し、市場経済を腐敗させる。すでにパナマ文書とパラダイス文書によって、「オフショアシステムはグローバル経済のガンである」ことが明らかにされている。強大な力で保護されているこの世界最大の利権構造に切り込むのは容易ではない。犯罪と格差に対する民衆の怒りを動員する政治家の政治的意思が必要になる。

  • 政府は格差にどう対処していくべきか
    ―― アフター・ピケティ

    メリッサ・S・カーニー

    Subscribers Only 公開論文

    格差は貧困の世代間連鎖の罠を作り出し、社会的流動性を低下させ、非常に多くの人を周辺化させる。このような現象が政治的余波を伴うのは避けられない。ピケティは大きな富の格差の存在は、平等主義的な政策対応を求める声を高めると指摘した。しかし、これまで以上の大きな富を手にした富裕層は、そうした変化を阻む手段をもつようになる。ピケティが特定した問題は本質的に政治問題だが、それに対処していくには政治が不可欠であることに彼はほとんど関心を示していない。・・・極端な格差が経済安全保障や社会的流動性を脅かさないようにするには、どのような政策が必要なのか。そのためには、先ず、高額な報酬が支払われているエグゼクティブの所得が市場における効率的な働き、才能を反映したものなのか、それとも、それ以外のプロセスの結果なのかを解明しなければならない。

  • 北欧福祉国家モデルの幻想
    ―― なぜ誤解が生じているのか

    ニマ・サナンダジ

    Subscribers Only 公開論文

    北欧諸国は繁栄を遂げつつも、富を平等に分配し、優れた社会を実現しているようにみえるかもしれない。だが、そうしたイメージは誇張されている。北欧諸国の経済は民主社会主義(スカンジナビアモデル)に移行して以降よりも、それに先立つ市場経済時代の方が急速な成長を遂げていた。所得格差にしても、福祉国家が定着する前の段階でスウェーデンの所得格差は減少し始めていた。要するに、スカンジナビアにおける福祉国家の成功をテーマとするアメリカ人の研究は、福祉国家体制を確立する前のスカンジナビアの歴史、この地域の人々の社会的特性にまったく関心を寄せておらず、歴史的視点、社会・文化的視点が欠落している。「経済成長を損なうことなく、大規模な社会保障システムを導入できる」と考えるのは間違っている。北欧諸国の実験から得られる教訓とは、「福祉国家システムは社会保障への依存という文化を作り出してしまう」ことに他ならない。

Agenda 2020

  • アメリカの危険な対中コンセンサス
    ―― チャイナスケアを回避せよ

    ファリード・ザカリア

    雑誌掲載論文

    「経済的にも戦略的にも、中国はアメリカの存続にかかわってくる脅威であり、これまでの対中政策はすでに破綻している。ワシントンは中国を封じ込めるためのよりタフな新戦略を必要としている」。これが、民主・共和両党、軍事エスタブリッシュメント、主要メディアをカバーしている新対中コンセンサスだ。しかし、このコンセンサスでは脅威が誇張されている。ソビエトの脅威を誇張したことの帰結がいかに大きかったことを思い出すべきだ。中国が突きつける課題を現状で適切に判断しないことの帰結はさらに大きなものになる。40年にわたる中国へのエンゲージメントを通じてやっと獲得したものを浪費し、中国に対決的政策をとらせ、世界の二大経済大国を経験したことのない規模と範囲の危険な紛争へ向かわせる。この場合、われわれは数十年にわたる不安定化と不安の時代に向き合うことになる。・・・

  • 中東における全面戦争のリスク
    ―― 何が起きても不思議はない

    ロバート・マレー

    雑誌掲載論文

    中東のいかなる地域における衝突も中東全体を紛争に巻き込む引き金になる恐れがある。一つの危機をどうにか封じ込めても、それが無駄な努力になる危険が高まっているのはこのためだ。しかも、国家構造が弱く、非国家アクターが大きな力をもち、数多くの大きな変化が同時多発的に進行している。イスラエルと敵対勢力、イランとサウジ、そしてスンニ派の内部分裂が存在し、これらが交差するだけでなく、ローカルな対立と絡み合っている。「サウジに味方をすることは、(イエメンの)フーシに反対するということであり、それはイランを敵に回すことを意味する」。こうしたリンケージが入り乱れている。ワシントンが中東から撤退するという戦略的選択をしようがしまいが、結局、アメリカはほぼ確実に紛争に巻き込まれていく。

  • 貿易と移民と労働者
    ―― 保護主義はなぜ間違っているか

    キンバリー・クラウジング

    雑誌掲載論文

    グローバル市場は素晴らしい恩恵を数多くもたらしてくれるが、一方で、貿易の恩恵をあらゆる市民が感じられるようにするパワフルな国内政策が必要だ。そうした政策なしでは、経済的な不満が高まり、現状を説明する安易なロジックと間違った政策を売り込むデマゴークの政治家が台頭する。現実には、貿易と移民を制限すれば、国内労働者の利益は最終的に傷つけられる。格差を縮小し、労働者を助けたいと考えるのなら、保護主義と外国人排斥が自らの大義を後退させることを認識すべきだろう。中間層の再構築に焦点を合わせる革新主義の政治家は、労働者の必要性を満たすための国内政策を重視する一方で、貿易合意を改善し、移民の受け入れを拡大しなければならない。関税や国境の壁は解決策ではない。

  • 温暖化への適応か国の消滅か
    ―― 気候変動が引き起こす大災害の衝撃に備えよ

    アリス・ヒル、レオナルド・マルティネス=ディアス

    雑誌掲載論文

    アメリカの場合、社会・経済インフラは歴史的水準の異常気象に耐えられるように設計されているが、いかに手を尽くしても、今後の気候変動と災害の衝撃が過去のそれを上回るようになるのは避けられない。川や海に近く、住宅地として人気があるとしても、危険地帯での住宅建設を止めさせ、コミュニティ全体の移住にも備えるべきだろう。災害後の復興策もこれまでのやり方では財政がもたない。生き残るには、これまでのインフラ、データシステム、そして災害予算政策を抜本的に刷新する必要がある。復旧コストのほとんどを借入金で賄うやり方は、自然災害の頻度と破壊度が増している以上、深刻な状況にある財政をさらに悪化させる。災害に対するレジリエンス強化に向けた投資が必要だし、気候変動リスクをわれわれはもっと正面から捉えなければならない。

  • 対中幻想に決別した新アプローチを
    ―― 中国の変化に期待するのは止めよ

    カート・キャンベル

    Subscribers Only 公開論文

    中国を孤立させ、弱体化させようと試みるべきではないし、よりよい方向へと変化させようとすべきでもない。これをアジア戦略の道標とすべきだ。外交や通商面でのエンゲージメントも、軍事力もアジアリバランシング戦略も効果はなかった。リベラルな国際秩序も、期待されたように中国を惹きつけることも、つなぎ止めることもできなかった。中国はむしろ独自の道を歩むことで、アメリカの多方面での期待が間違っていることを示した。さまざまな働きかけで中国が好ましい方向へ進化していくという期待に基づく政策をとるのはもう止めるべきだ。中国を変化させるアメリカの力をもっと謙虚に見据える必要がある。

  • 習近平と中国共産党
    ―― 党による中国支配の模索

    リチャード・マクレガー

    Subscribers Only 公開論文

    胡錦濤の後継者として習を指名した2007年当時、共産党幹部たちも「自分たちが何をしたのか分かっていなかった」ようだ。国家を激しくかき回すであろう強権者を、彼らが意図的に次期指導者に選んだとは考えられない。「妥協の産物だった候補者が妥協を許さぬ指導者となってしまった」というのが真実だろう。最高指導者となって以降の最初の200日間で、彼は驚くべきペースで変化をもたらした。共産党への批判も封じ込めた。対外的には「一帯一路」を発表し、台湾問題を「次世代に託すわけにはいかない政治課題」と呼んだ。しかも、2017年に彼は国家主席の任期ルールを撤廃し、実質的に終身指導者への道を開いた。毛沢東でさえも政治的ライバルがいたが、習は一時的ながらもライバルがいない状況を作り出している。だが、中国経済が停滞すれば、どうなるだろうか。2022年後半の次期党大会前に、習による行き過ぎた権力集中は彼自身を悩ませることになるはずだ。・・・

  • 新アラブ秩序を規定する恐れと野望
    ―― 安全保障のジレンマに支配された中東

    マーク・リンチ

    Subscribers Only 公開論文

    アラブの春の余波のなか、中東は大きく変化している。カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)という豊かな湾岸諸国が繁栄を維持する一方で、エジプト、イラク、シリアという伝統的な地域大国はいまや国家としてほとんど機能していない。リビアを含む破綻国家、そして国家基盤が揺らいで弱体化した国も増えている。いまやほぼすべてのアラブ国家は「恐れ」と「野望」をもっている。国内での民衆蜂起、イランパワーの拡大、アメリカの中東からのディスエンゲージメント(で引き起こされる事態)に対する「恐れ」をもつ一方で、弱体化した国と国際的な混乱につけ込みたいという各国の「野望」が、破壊的な紛争への関与へと走らせ、地域全体をカオスに巻き込みかねない状況にある。

  • 中東に迫り来る巨大な嵐
    ―― 石油依存型政治システムの崩壊

    マーワン・ムアシャー

    Subscribers Only 公開論文

    サウジアラビアのような中東の産油国は原油輸出を歳入源とし、エジプトやヨルダンのような石油輸入国は石油の富をもつ地域諸国からの援助に多くを依存してきた。中東諸国は、石油の富を安定した雇用、教育、医療に充当し、政治指導者はその見返りに民衆の政治的服従と沈黙を手に入れた。しかし、原油の低価格化トレンドゆえに、これまで政府に政治的正統性を授けてきた資源が消失しつつあり、この社会契約はもはや持続できない。この大きな流れの変化を前にしても、指導者たちが、権力の掌握を強めるだけで、有意義な改革を実施しなければ、中東各国で、かつてない規模の社会騒乱が起きることになる。

  • 米中経済のディカップリングの意味合い
    ―― 解体するグローバル貿易システム

    チャッド・P・ボウン他

    Subscribers Only 公開論文

    トランプ政権が永続的な中国との取引はもとより、北京が受け入れるかもしれない合意など望んでいないことはすでに明らかだ。表面的な合意が結ばれても、それは永続的な貿易戦争の一時的な休戦にすぎない。トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。世界の2大経済大国のつながりが断ち切られ、分裂していけば、世界の貿易地図も書き換えられていく。各国はライバルの貿易ブロックのどちらかを選ばざるを得なくなり、これまでの「グローバル貿易システム」は解体へ向かう。

  • 米国境を目指す中米移民の窮状
    ―― 貧困と犯罪を逃れて北を目指す人々

    ステファニー・リュータート

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカ国境を目指す中央アメリカの人々はなぜ故郷を後にし、ワシントンはこれにどのように対処しているのか。1980年代には内戦を逃れる難民が数多く押し寄せ、その後も、経済的機会を求めて、犯罪組織の社会的暴力から逃れるために北を目指す人の流れは続いている。最近ではアメリカへの入国を求める家族と子供が増えているのが特徴的だ。ワシントンは、国境地帯の警備を強化し、近隣諸国に移民抑止に向けて協力を依頼し、現地経済支援のための援助を提供することで、その対応策としてきた。しかし、これらは結果を出せていない。人々が故郷を後にせざるを得ない状況にワシントンがより真剣に対処しない限り、中南米移民は北を目指し、アメリカでの未来を思い描き続けることになる。

  • もう逃げ場がない
    ―― サバイバル移民とラテンアメリカの悪夢

    アレクサンダー・ベッツ

    Subscribers Only 公開論文

    2015年にヨーロッパが経験し、現在ラテンアメリカで起きている危機は、政治難民や経済難民の流出によるものではない。人々は「生き残るための移住(survival migration)」を試みている。ほとんどの人は、政治的迫害そのものではなく、ハイパーインフレーション、略奪行為、食糧不足などの「劣悪な政治状況がもたらした経済的帰結」から逃れることを目的に移動している。問題は、1951年の国連による難民の定義、つまり、ソビエトの反体制活動家を念頭に置いてまとめられた定義では、この現状に対処できないことだ。国が破綻したか脆弱なために、生活が耐え難いものになってきたがゆえに彼らは母国を後にしている。統治の破綻、社会暴力、経済的窮乏などが大きな理由なのだ。これまでの難民や移民の定義を見直して、これまで難民にしか与えられなかった支援の一部を、「サバイバル移民」にも提供できるようにしなければならない。

  • 気候変動で慢性化した異常気象
    ―― そのダメージとコストに対処するには

    ケイト・ゴードン リッジ・レーン他

    Subscribers Only 公開論文

    気候変動に派生する異常気象が引き起こす災害への対応コストは膨れあがり、いまや短期的な緊急対応能力だけでなく、長期的な投資や経済成長も脅かされつつある。しかも、異常気象は1度きりの出来事ではなく、いまや慢性化しており、これを管理していくには、現在の政策決定者の気候変動に対する捉え方とはまったく異なるアプローチが必要になる。すでに気候変動のインパクトを前に、企業は工場を移動させ、ビジネスモデルを見直し、国防総省は、海面水位の上昇が慢性化していることのリスクを認め、今後10年間で海軍基地に対するリスク管理と適応のための計画をまとめている。異常気象が、一過性の風邪ではなく、慢性疾患化していることを認識した上で、それに即した計画で備える必要がある。

  • ワーミング・ワールド
    ―― 気候変動というシステミック・リスク

    ジョシュア・バズビー

    Subscribers Only 公開論文

    気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

国家 VS. GAFA

  • 監視資本主義と暗黒の未来
    ―― ビッグテックとサーベイランスビジネス

    ポール・スター

    雑誌掲載論文

    「監視資本主義=サーベイランス・キャピタリズム」が台頭している。フェイスブックとグーグルが主導するこの産業は、バーチャル世界から現実世界へとサーベイランスの範囲を拡大し、個人の生活の内側に入り込んでいる。ユーザーデータの収集・分析から、ユーザーが「今かすぐ後、あるいはしばらく後にとる行動」を予測することへ流れは移行しつつある。しかも、予測を的中させるもっとも効率的な手法は、予測されている行動をとるように仕向けることだ。すでにフェイスブックは前例のない行動誘導の手法を確立している。中国の「社会信用システム」はインスツルメンタリアンパワー(技術的操作能力)と(政治的画一性を実現したい)国家の組み合わせだが、米企業はインスツルメンタルパワーと市場を抱き合わせるつもりかもしれない。

  • 国家とGAFAの攻防
    ―― 5Gとクラウドをめぐる本当の闘い

    スコット・マルコムソン

    雑誌掲載論文

    GAFAに象徴される巨大IT企業に対する各国政府の反発は一時的な現象ではない。トランプ政権がファーウェイに対して、中国がかつてグーグルに対してとった措置を、今後欧州連合(EU)がアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に対してとるかもしれない。国が動きだしている以上、シリコンバレーを未来の覇者と当然視できた時代は終わりつつある。実際、各社のクラウドネットワークの境界を越えてスムーズに移動できるようにしない限り、車や電話そしてモノのインターネットの複雑な処理はグローバルに機能できなくなる。これを克服するには企業が「コーポレートビザ」を発行する必要が生じるが、国にとって、これはIT企業への主権の委譲に等しく、これを容易に認めるとは考えにくい。すでにこの問題は現実に起きている。・・・

  • フェイスブックとテンプル騎士団
    ―― 暗号通貨リブラのポテンシャルとリスク

    ケビン・ワーバック

    Subscribers Only 公開論文

    今も昔も、国境を越えて資金を移動させるのは容易ではない。十字軍のメンバーたちが聖地への長旅の資金をどうするかという問題を解決したのは、ヨーロッパから中東にかけての遠大なネットワークをもつテンプル騎士団が発行した手形だった。現在も外国送金にはコストも時間もかかる。これを魔法のように解決してくれるのが、ブロックチェーンを基盤とするフェイスブックの暗号通貨・リブラだ。暗号通貨なら、ユーザーは、メッセージやビデオを送るのと同じスピードで送金できるし、銀行へのアクセスをもたない人にも恩恵をもたらせる。但し、この構想が実現すれば、既存の金融機関は追い込まれ、資金洗浄やテロ資金に悪用されるリスクもある。資本規制をしている国の中央銀行のパワーも低下させるかもしれない。驚異的な利便性の一方で、富の移転を規制し、監視する立場にある政府にとっては非常に厄介な事態が作り出される。

  • ファーウェイのリスクと魅力
    ―― アメリカは競争環境を整備せよ

    アダム・シーガル

    Subscribers Only 公開論文

    ファーウェイのシステムを導入すれば、情報や安全保障上の安全を確保することはできなくなるとワシントンは主張している。しかし、日本とオーストラリアを別にすれば、ヨーロッパや東南アジアの多くの国が、その経済性ゆえに、ファーウェイシステムの導入に前向きになっている。米中の科学技術領域のエコシステムを分断することを重視するワシントンの姿勢は、結局は、アメリカの技術革新のペースを鈍化させることになる。ファーウェイシステムの導入を止めるように大きな圧力をかけるよりも、アメリカは価格や効率面で競合できる代替策を各国にオファーできるように対策をとり、サイバーセキュリティを強化し、5Gテクノロジーおよびその後継テクノロジーをリードできるように研究開発に投資する必要がある。

  • 人工知能とデジタル権威主義
    ―― 民主主義は生き残れるか

    ニコラス・ライト 

    Subscribers Only 公開論文

    各国にとっての政治・経済的選択肢は「民衆を抑圧し、貧困と停滞に甘んじるか」、それとも「民衆(の創造力)を解き放って経済的果実を手に入れるか」の二つに一つだと考えられてきた。だが、人工知能を利用すれば、権威主義国家は市民を豊かにする一方で、さらに厳格に市民を統制できるようになり、この二分法は突き崩される。人工知能を利用すれば、市場動向を細かに予測することで計画経済をこれまでになく洗練されたものにできる。一方で、すでに中国は、サーベイランスと機械学習ツールを利用した「社会信用システム」を導入して「デジタル権威主義国家」を構築し始めている。20世紀の多くが民主主義、ファシズム、共産主義の社会システム間の競争によって定義されたように、21世紀はリベラルな民主主義とデジタル権威主義間の抗争によってまさに規定されようとしている。

Current Issues

  • CFR Briefing
    中国のイスラム教徒収容所
    ――なぜウイグル人を弾圧するのか

    リンジー・メイズランド

    雑誌掲載論文

    中国政府は、100万以上のイスラム教徒を西部の「再教育施設」に拘束していると言われる。・・・人権団体によれば、多くの場合、彼らにとって唯一の罪はイスラム教徒であることだ。・・・収容所内で何が起きているかについての情報は限られているが、(施設および)中国から脱出した人物の証言によると、CCPへの忠誠とイスラム教の放棄を求められ、共産主義の賛美と標準中国語の学習を強制される。中国政府は、ウイグル人が過激化し、分離主義が高まることを恐れており、収容所は中国の領土保全、政府、広く中国市民に対する脅威をなくすための手段だと考えているようだ。「新疆ウイグルでの出来事は国内問題である」と主張する北京は、外部の調査ミッションを受け入れるように求める国際社会の圧力を退けている。多くのイスラム国家も、中国との経済的絆や戦略的関係を優先し、中国内での人権侵害に目をつむっている。

  • グローバル外交の新しい見取り図
    ―― アメリカの後退と中国の前進

    ボニー・ブレー

    雑誌掲載論文

    かつて鄧小平が諭した「韜光養晦(才能を隠して、力を蓄える)」への関心を失ったかのように、北京はグローバルパワーの行使に前向きになるにつれて、外交への投資に力を入れるようになった。一方、ワシントンは内向きになっている。中国の外交ネットワークは広がりだけでなく、奥行きも深くなっている。北京とワシントンは、大使館の数ではほぼ同等だが、領事館の数でみると、アメリカが88なのに対して、中国のそれは96に達している。大使館が政治力を反映するのに対して、領事館の数は経済力を映し出す。中国に限らず、ブレグジットに揺れるアイルランドであれ、地域環境の変化に対応しようとする日本であれ、ある国がどこに外交ネットワークを拡大するかの選択は明確な意図に導かれている。

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