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2018年10月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2018年10月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2018年10月号 目次

イラン制裁と国際政治の分水嶺

  • トランプ流外交の悪夢
    ―― 外交と「取引」の間

    フィリップ・ゴードン

    雑誌掲載論文

    貿易問題、関税、イラン核合意、北朝鮮問題やパレスチナ和平へのアプローチ、そして中国やヨーロッパとの関係など、トランプ政権のこれまでの外交記録は、彼のアプローチが根本的に間違っていることを示している。同時にすべての人を批判しようとする彼の本能とは逆に、外交交渉を成功させるには、どの問題を交渉するかを選び、同盟関係を維持し、慎重に決定した優先課題の実現に向けて連帯を組織しなければならない。貿易問題をめぐって容赦なく攻撃している中国やヨーロッパから、イラン問題をめぐって支持を引き出すのは難しい。どうみてもトランプは、うまく交渉ができるタイプではない。基本的事実に習熟しておらず、何を重視するかについての一貫性がない。しかも、彼は合意形成を根本的に誤解している。

  • イラン制裁が同盟関係を揺るがす
    ―― 同盟関係の動揺と米中関係の行方

    ピーター・ハレル

    雑誌掲載論文

    イランに対するトランプの強硬なアプローチは、経済制裁を求めるアメリカの圧力から自国の企業をどのようにして守るかについて、欧州連合(EU)内、そして世界での長期的議論を喚起することになるかもしれない。すでにヨーロッパは具体的な動きをみせている。最大のイラン石油の輸入国である中国はこの問題をより広範な米中貿易関係の緊張の高まりという枠組みに位置づけて判断することを決めている。北朝鮮の核の脅威や中国の強硬路線に対処していくためにアメリカの支援を必要とする日本と韓国は、イラン制裁への参加を回避したいと望みつつも、トランプとの間で大きな対立を抱え込むことを望んでいない。イラン制裁が実現しても、その後、ワシントンは同盟関係の修復に取り組まざるを得なくなるだろう。

  • 米欧関係に生じた大きな亀裂
    ―― 金融自立と新同盟を模索するヨーロッパ

    ソーステン・ベナー

    雑誌掲載論文

    アメリカの金融システムは、もはや公共財ではなく、ワシントンが他国を従わせるために一方的に振り回す地政学的ツールにされていると各国が考えるようになれば、それに翻弄されるのを防ぐ措置をとるようになる。既に、ヨーロッパはアメリカの金融覇権に挑戦することを決断している。外交領域も例外ではない。ドイツ外相は「既存のルールを守り、必要な場合には新ルールを導入し、各国の目の前で国際法が踏みにじられる事態に対しては連帯を示す有志同盟」の形成を明確にイメージし、既にカナダや日本に接触している。現状では、失敗を運命づけられている試みなのかもしれない。しかし、敵意あふれる世界で自分たちの立場を守っていくつもりなら、「自立」と「新しい同盟」が、ヨーロッパが取り得る唯一の賢明な方策かもしれない。

  • 信頼性失墜の果てに
    ―― ドナルド・トランプという外交リスク

    カレン・ヤーヒ=ミロ

    Subscribers Only 公開論文

    主要な選挙公約への立場を何度も見直し、ツイッターで奇妙かつ不正確なコメントを流し、脅威を誇張し、即興的に何かを約束する。こうして、大統領が内外におけるアメリカの信頼性を失墜させていくにつれて、同盟国はアメリカの約束を信頼するのを躊躇うようになり、敵対国に対する威圧策も効力を失っていく。危険な誤算が生じるリスクも高まる。アメリカ市民だけでなく、世界の人々も、すでにトランプの予測不能な発言や矛盾するツイートに慣れてしまっている。しかし、信頼できる大統領の言葉が必要になったときに、どうすればよいのか。今後の危機において、アメリカの意図を明確に示すために必要な信頼を大統領がもっていなければ、どのように敵を抑止し、同盟国を安心させられるだろうか。

  • 同盟諸国のリスクヘッジ策
    ―― トランプリスクと同盟諸国の対応

    スチュワート・パトリック

    Subscribers Only 公開論文

    ナショナリスト的外交政策を展開しようと、トランプ政権が、戦後アメリカが構築してきたシステムに背を向けたために、リベラルな国際秩序はきしみ音をたてている。予想された通り、新政権の路線を前に同盟国やパートナー国はリスクヘッジ策をとっている。現状がアメリカ外交の一時的な逸脱であることを願いつつも、同盟諸国はすでに事態の変化に対応できる計画をまとめつつあるし、アジア諸国のなかには、中国にすり寄ってバランスをとろうとする国もある。経済、軍事領域で各国は自立性を高め、貿易政策や温暖化対策をめぐっても、アメリカ抜きで対策を進めつつある。トランプの大統領就任からたった1年でアメリカのリーダーシップへの国際社会の信頼は劇的に低下している。

  • トランプリスクが促す世界秩序の再編
    ―― 各国のリスクヘッジで何が起きるか

    スチュワート・パトリック

    Subscribers Only 公開論文

    トランプ政権が同盟関係へのコミットメントを弱め、保護主義的な経済・貿易政策をとり、地球温暖化対策を放棄すれば、同盟国は、自国の安全保障、繁栄、市民の安定した生活を、独立性を高めることで強化しようと模索し始めるだろう。地政学領域では、各国は、「アメリカ」と「自国にとって重要な地域大国」、つまり、アジアにおける中国、ヨーロッパにおけるロシア、中東におけるイランとの関係を見直すことで、リスクヘッジを試みる。この流れのなかで、日本と韓国は核開発を真剣に検討するようになるかもしれないし、バルト諸国は、アメリカを見限って「フィンランド化」に踏み切るかもしれない。経済領域では、中国が主導する一帯一路構想などの、アメリカが関与していないアレンジメントを各国は求めるようになるだろう。もちろん、トランプ政権が伝統的なアメリカのリーダーシップを放棄していくにつれて、他の諸国がリスクヘッジ策をとると決まってはいない。そうなるかどうかは、「大統領としてのトランプの選択」に左右される。

  • リアリスト・ワールド
    ―― 米中の覇権競争が左右する世界

    スティーブン・コトキン

    Subscribers Only 公開論文

    この1世紀で非常に深遠な変化が起きたとはいえ、現在の地政学構造は、一つの重要な例外を別にすれば、1970年代、あるいは1920代のそれと比べて、それほど変わらない。それは、アジアのパワーバランスの鍵を握るプレイヤーとして、中国が日本に取って代わったことだ。中国が力をつけているのに対して、アメリカとその他の先進民主国家は政治が機能不全に陥り、将来に向けてパワーを維持できるかどうか、はっきりしなくなっている。もちろん、現状から直線を引いて今後を予測するのは危険だが、中国の台頭を予見した19世紀初頭の予測は、間違っていたのではなく、時期尚早なだけだったのかもしれない。すでに中国の勢力圏は拡大を続けており、現在問われているのは、中国が他国を手荒く扱ってでもルールを設定・強制しようするか、あるいはアメリカがグローバルなリーダーシップを中国と共有していくかどうかだろう。

Defining Moments

  • デジタル企業の市場独占と消費者の利益
    ―― 市場の多様性とレジリエンスをともに高めるには

    ビクター・メイヤー=ションバーガー 、トーマス・ランゲ

    雑誌掲載論文

    グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの「デジタルスーパースター企業」は、企業であるとともに、膨大な顧客データを占有する市場でもある。消費者の好みや取引について、運営会社がすべての情報を管理し、そのデータを使って独自の意思決定アシスタントに機械学習をさせている。買い手は「おすすめ」と選択肢の示され方に大きな影響を受ける。こうした市場は、レジリエントで分散化された伝統的市場よりも、計画経済に近い。しかも、状況を放置すれば、このデジタル市場は、外からの意図的な攻撃や偶発的な障害によってシステムダウンを起こしやすくなる。だが、必要なのは企業分割ではない。むしろ、スーパースター企業が集めたデータを匿名化した上で、他社と共有するように義務づけるべきだろう。データが共有されれば、複数のデジタル企業が同一データから最善の洞察(インサイト)を得ようと競い合うようになり、デジタル市場は分散化され、イノベーションも刺激されるはずだ。

  • 金融危機の忘れ去られた歴史
    ―― そして、いかに米欧の絆は失われたか

    アダム・トゥーズ

    雑誌掲載論文

    アメリカでは、2008年の金融危機を引き起こした政府の無謀さと民間の犯罪的行動ばかりが強調され、ヨーロッパの指導者たちは「すべてをアメリカのせい」にしている。実際には、世界的な銀行の取り付け騒ぎを防ぐために流動性を供給した米連邦準備制度の即断がなければ、金融危機はアメリカとヨーロッパの経済をいとも簡単に崩壊に追い込んでいたはずだ。だが、この事実は忘れ去られ、アメリカとヨーロッパの金融上の密接なつながりはいまや解体されつつある。ヨーロッパを救うために2008年に連邦準備制度は守護天使の役割を果たした。アメリカの政治状況の変化、次の金融危機が新興市場、特に中国で起きる可能性が高いことを考えると、次の危機からグローバル経済を救うには守護天使以上の何かが必要になるだろう。

  • 次なるサイバー超大国 中国
    ―― 主導権はアメリカから中国へ

    アダム・シーガル

    雑誌掲載論文

    いずれ中国はサイバースペースを思いどおりに作り直し、インターネットの大部分は、中国製ハードウエアを利用して中国製アプリで動くようになるかもしれない。「難攻不落のサイバー防衛システム」を構築し、インターネット統治についての中国モデルの影響力を強化するだけでなく、人工知能(AI)や量子コンピュータ部門でも世界のリーダーになることを目指し、大がかりな投資をしている。途上国では、中国の「サイバー主権」統治モデルが大きな支持を集めているし、中国は、第5世代モバイル通信システム(5G)の技術標準を確立したいと考えている。もはやワシントンがいかに手を尽くそうと、今後、サイバースペースの主導権がアメリカから中国へシフトしていくのは避けられない。

  • デジタル経済とアナログ経済の未来
    ―― 政府と企業は新しいモデルを導入せよ

    サミュエル・パルミサーノ

    Subscribers Only 公開論文

    企業にとって基本的な課題は、(アナログ世界とデジタル世界という)二つの世界の双方で活動する際に、(アナログ世界の)政治や社会が作り出す障害を迂回するか、克服する一方で、(デジタル世界の)つながりと統合が提供する機会をうまく生かし、その適切なバランスをいかに見出すかにある。経済開発を促進し、経済成長軌道へと立ち返ることに配慮するビジネスの指導者と政府官僚も、アナログ世界とデジタル世界という拡大する二つの領域のバランスに目配りをしなければならない。二つの領域が交差する領域をいかに最適化するかで、グローバルなビジネスの構造が左右され、この構造が将来における成功を左右する。現状において重要なのは、啓蒙的な指導者たちが企業と政府の新しいモデルを考案し、これを常に近代化していくことだ。そうしない限り、われわれは不寛容と緊張に支配される世界に直面することになる。

  • アメリカ流市場経済モデルの崩壊?
    ――何が金融危機を引き起こし、今後、どうするのか

    ハロルド・ジェームズ

    Subscribers Only 公開論文

    「2008年3月、アメリカ政府が米証券会社のベアー・スターンズを救済しようと努力していた当時は、事態はすぐにでも収束すると多くの人は軽く考えていた。だが、(この書評で取り上げる書の筆者である)マーチン・ウォルフはフィナンシャル・タイムズ紙のコラムで、ベアー・スターンズに救済策がとられた『2008年3月14日の金曜日を「グローバルな市場経済・資本主義の夢が潰えた日」と記憶に留めよう』と書いている。そのわずか6カ月後には、アメリカ政府は金融問題の悪化を食い止めるために、中国式の解決法を採用した。資本の流れを制限するための大規模な政府介入に踏み切ったのだ。奇しくも、これは、アメリカ政府がアジア各国の政府にアメリカ・モデルの優位を説いてから10年後の出来事だった」

  • インターネット企業と中国経済の未来
    ―― 製造業からインタンジブル・エコノミーへ

    サルバトーレ・バポネス

    Subscribers Only 公開論文

    アップルは環太平洋地域の至る所に新しい経済システムをつくりあげている。iPhoneとそれが支える技術的エコシステムに多くを依存しているこのシステムをiエコノミーと呼ぶこともできる。そこには数多くのハブがある。マイクロソフトとアマゾンはシアトルを、ソニーと任天堂は日本を、サムスンは韓国を拠点としている。しかし現在の「インタンジブル・エコノミー」(無形経済)の主要センターはやはり中国だ。アリババ、バイドゥ、テンセントといった中国のインターネット企業は、規模や収益性という側面でも、カリフォルニア州のライバル企業に次ぐ存在となり、もはや他国の企業を寄せ付けない存在となっている。いまや中国を含む太平洋諸国にとって、もっとも価値ある経済要素は、生産・組立工程から、ソフトウェアデザインとアプリケーションなどのインタンジブル・エコノミーへとシフトしつつある。

変化した中東のパワーバランス

  • 新アラブ秩序を規定する恐れと野望
    ―― 安全保障のジレンマに支配された中東

    マーク・リンチ

    雑誌掲載論文

    アラブの春の余波のなか、中東は大きく変化している。カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)という豊かな湾岸諸国が繁栄を維持する一方で、エジプト、イラク、シリアという伝統的な地域大国はいまや国家としてほとんど機能していない。リビアを含む破綻国家、そして国家基盤が揺らいで弱体化した国も増えている。いまやほぼすべてのアラブ国家は「恐れ」と「野望」をもっている。国内での民衆蜂起、イランパワーの拡大、アメリカの中東からのディスエンゲージメント(で引き起こされる事態)に対する「恐れ」をもつ一方で、弱体化した国と国際的な混乱につけ込みたいという各国の「野望」が、破壊的な紛争への関与へと走らせ、地域全体をカオスに巻き込みかねない状況にある。

  • ナイル川の水争奪戦と中東地政学
    ―― 地域を超えた重層的課題にどう対処するか

    マイケル・ワヒッド・ハンナ、ダニエル・ベナイム

    雑誌掲載論文

    グランド・エチオピア・ルネサンス・ダムは多層的な課題を抱えている。ダムが完成すればエチオピアは近隣諸国に相当規模の電力を輸出できる電力生産ができるようになる。隣国スーダンも、ダムが自国の農業に恩恵をもたらすことを期待している。一方、水資源に乏しいエジプトは、上流でのダム稼働によって深刻な事態に直面する恐れがある。しかも、中東での影響力の確立を求めて競い合うトルコ、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)はアフリカ北東部に陸海軍の基地を確保し、耕作可能な土地を手に入れているだけでなく、ライバルに圧力をかけようと現地で傀儡勢力を育成しているようだ。このハイブリッド化した多層的な課題に取り組んでいくには、縦割りの官僚組織に囚われず、問題を横断的に捉える必要がある。地域問題、政治・軍事問題の専門家だけでなく、水文学や工学の専門家の知識も動員しなければならない。

  • 次期サウジ国王の野望と夢
    ―― 壮大な社会・経済改革の行方

    F・グレゴリー・ゴースIII

    Subscribers Only 公開論文

    潤沢な石油の富がサウジ経済を潤して福祉国家を支える一方、この国の秩序は王族、宗教・経済エリート間の社会契約によって規定されてきた。だが、原油価格の暴落をきっかけにこの構図も変化しつつある。モハメッド・ビン・サルマン皇太子は、民間経済の強化を通じて経済を多角化し、石油への依存を軽減するとともに、これまでの社会契約を見直して民衆や世論の支持を重視する路線に転じている。反政治腐敗キャンペーンを利用して王族内の秩序改革も試みている。権力の多くを手中に収めた皇太子が進める改革が長期的にどのような作用をするかは、彼が実際にどのような指導者になるか、反政治腐敗キャンペーンをどのような意図で進めていくかに左右される。・・・

  • イランの孤立と米シリア戦略
    ―― なぜ親アサド同盟は分裂したか

    イラン・ゴールドバーグ、ニコラス・A・ヘラス

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアはアサドが権力を維持できるように支えてきたが、アサド政権にとってもっとも重要な同盟相手のイランは介入を利用して、シリアでの永続的な軍事的プレゼンスを確保するのが狙いだった。イランが大がかりに介入したことで、シリアの戦況は大きく塗り替えられたが、現在のイランはシリア国内に展開する軍事力をテコに、イスラエルに軍事的圧力をかけようと試みている。こうしたイスラエルとの対決路線を重視するイランの路線が、アサドを支える他の国際プレイヤーとの軋轢を生み出している。シリアの統治体制を固めていくにつれて、アサドそしてロシアを含むアサドを支援する勢力は、大統領としてのアサドのプレゼンスを正常化し、再建に向けた資金を確保しようと試みており、イスラエルとの戦争は望んでいないからだ。

  • 何が内戦を長期化させているのか
    ―― テロと外部パワーの介入で変化した内戦の本質

    リセ・M・ハワード、アレクサンドラ・スターク

    Subscribers Only 公開論文

    冷戦終結から9・11までは、大半の内戦が交渉によって終結したが、その後、再び国際環境が変化し、内戦の規範も変化した。テロリストとの交渉は選択肢とされず、テロ組織の粉砕が目標とされ、欧米諸国も民主化よりも安定を重視するようになった。紛争当事国政府は、全面的勝利を目指す戦略を正当化し、外部パワーからの支援を確保するために、反政府勢力にテロリストの烙印を押し、しかも外部パワーがそれぞれ対立する勢力を支援するようになった。これが、内戦が長期化している大きな要因だ。現在の内戦は、外部パワーが「こう終わるべきだ」と考える形で終結する。シリア紛争は「内戦がこれまでよりも長期化し、交渉による解決よりも(特定の紛争勢力の)一方的な勝利で終わる可能性が高い」という現在の内戦トレンドを示す具体例に他ならない。

  • イスラエルとヒズボラの次なる衝突
    ―― これまでの紛争と何が違うのか

    マーラ・カーリン

    Subscribers Only 公開論文

    偶発的エスカレーションリスクや双方の長期的な戦略目標を考えると、イスラエルとヒズボラ間でいずれ戦争が起きるのは避けられないだろう。いまや問われているのは紛争が差し迫っているかどうかではなく、いつどのようにしてそれが起き、どこで紛争が戦われるかだ。現実に紛争になれば、忌まわしい戦闘が展開され、好むと好まざるとにかかわらず、外部アクターを巻き込んでいくことになる。しかも、これまでとは違って、戦域はレバノン南部だけでなく、ベイルートとシリアへ拡大していくだろう。レバントの安全保障はさらに揺るがされ、レバノンとシリアは今以上に、外国のアジェンダが入り乱れる場所と化し、民衆たちはより多くを失うことになるだろう。

  • 引き裂かれたヨーロッパ
    ―― 多数派のアイデンティティ危機

    エリック・カウフマン

    雑誌掲載論文

    ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

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