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2018年9月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2018年9月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2018年9月号 目次

習近平体制を民衆が揺るがす?

  • 中国の未来と韓国の現在
    ―― なぜ政治的自由化が必然なのか

    ハーム・チャイボン

    雑誌掲載論文

    中国は政治的自由化をせずに、経済成長を持続し、社会を満足させられるだろうか。韓国の経験はそうはならないことを示している。戦後における韓国経済の成長を上から主導した朴正煕は、輸出主導型成長モデルをとる一方、欧米の価値が伝統的社会に入り込むのを阻止しようと孝行、忠誠、権威の尊重を重視する儒教復興策をとった。ここまでは完全に中国の今と重なり合う。だが、上からの産業政策ゆえに、韓国は1970年代末までに過剰生産能力を抱え込むようになり、企業倒産や労働争議が続き、大規模なストが起きた。結局、労働者と学生が連帯した社会騒乱のなかで、朴は側近の手で暗殺され、その後、韓国は民主化された。朴の韓国流民主主義は独裁主義だったし、「中国的特質をもつ社会主義」も同様だ。朴が最終的に直面したように、経済を自由化すれば、権威主義の指導者でさえ押さえ込めないような流れが作り出される。

  • 追い込まれた中国共産党
    ―― 民主改革か革命か

    ヤシェン・フアン

    Subscribers Only 公開論文

    これまでのところ、中国が民主体制へと近づいていくのを阻んできたのは、それを求める声(需要)が存在しなかったからではなく、政府がそれに応じなかった(供給しなかった)からだ。今後10年間で、この需給ギャップが埋められていく可能性は十分ある。一人あたりGDPが4000―6000ドルのレベルに達すると、多くの社会は必然的に民主化へと向かうとされるが、すでに中国はこのレベルを超えている。さらに、今後、中国経済がスローダウンしていくのは避けられず、社会紛争がますます多発するようになると考えられる。さらに、中国の政治・経済的未来へのコンフィデンスが低下していくのも避けられなくなり、資本逃避が加速することになる。この流れを食い止めなければ、相当規模の金融危機に行き着く危険もある。政治改革に今着手するか、壊滅的な危機に直面した後にそうするかが、今後、中国政治の非常に重要なポイントになるだろう。

  • 中国の台頭は続く
    ―― 共産党の強さの源泉と中国モデルの成功

    エリック・X・リ

    Subscribers Only 公開論文

    非常に大きな課題が習近平を待ち受けているのは事実だろう。だが、共産党がそうした課題に対処できないと考えるのは、大きな間違いだ。高い適応能力と能力主義の文化、そして民衆の支持に支えられた正統性をもつ共産党は、中国の病にダイナミックかつ柔軟に対処していく力をもっている。中国の成功は、代議制民主主義ではなくても、統治システムが、その国の文化や歴史と一体性をもっていれば、機能することを立証している。今後も中国は台頭を続け、新指導層は一党支配体制をさらに固めていくだろう。このプロセスを通じて、政治的発展と民主化に関する欧米での一般通念は覆されることになる。世界は、北京においてポスト民主主義の未来が開花するのを目撃することになるはずだ。

  • 経済成長は本当に民主化を促すのか
    ―― 中国の民主化はなぜ進展しない

    ブルース・ブエノ・デ・メスキータ、

    Subscribers Only 公開論文

    近年では、抑圧政権は、経済発展を実現しつつも、民主主義の導入を非常に長い間遅らせることに成功している。例えば、中国は、この年にわたって力強い経済成長を遂げているが、依然として政治的には抑圧体制を温存している。現実には、経済成長によって抑圧政権の寿命は短くなるどころか、むしろ長くなっている。経済成長によって得た資金をバックに、公共交通機関、保健医療サービス、初等教育などの公共財を提供することで市民の満足度を高める一方で、民主化を求める市民の連帯を育む前提である政治的権利、人権、報道の自由を厳格に管理しているからだ。いまやわれわれは、経済成長は民主化を呼び込むという理論を見直す必要があるし、国際機関の融資条件に市民間の連帯をうながす一連の権利の保障を含めるべきだろう。

変化する北東アジアの安全保障環境

  • 日本の新しい防衛戦略
    ―― 前方防衛から「積極的拒否戦略」へのシフトを

    エリック・ヘジンボサム、リチャード・サミュエルズ

    雑誌掲載論文

    日本本土が攻撃されても、日米の部隊は中国の攻撃を間違いなく押し返すことができる。しかし、中国軍が(尖閣諸島を含む東シナ海の)沖合の島に深刻な軍事問題を作り出す能力をもっているだけに、東京は事態を警戒している。実際、中国軍との東シナ海における衝突は瞬く間にエスカレートしていく危険がある。最大のリスクは、尖閣諸島や琉球諸島南部で日本が迅速な反撃策をとれば、壊滅的な敗北を喫し、政府が中国との戦闘を続ける意思と能力を失う恐れがあることだ。日本は東シナ海における戦力と戦略を見直す必要がある。紛争初期段階の急変する戦況での戦闘に集中するのではなく、最初の攻撃を生き残り、敵の部隊を悩ませ、抵抗することで、最終的に敵の軍事攻撃のリスクとコストを高めるような「積極的拒否戦略」をとるべきだろう。ポイントはこの戦略で抑止力を高めることにある。

  • 中台関係の新たな緊張
    ―― 北京が強硬策をとる理由

    マイケル・マッザ

    雑誌掲載論文

    この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

  • 米中貿易戦争の安全保障リスク
    ―― 対立は中国をどこへ向かわせるか

    アリ・ワイン

    雑誌掲載論文

    ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。

  • 中国をいかに抑止するか
    ―― 拒否的抑止と第1列島線防衛

    アンドリュー・F・クレピネビッチ

    Subscribers Only 公開論文

    領有権をめぐる北京の拡大主義的な主張は、日本、フィリピン、台湾を内包するいわゆる第1列島線に位置するあらゆる諸国を脅かしている。そしてアメリカは、これらの諸国を防衛する責務を負っている。中国の攻撃を阻む信頼できる抑止力を形成するには、ペンタゴンはより踏み込んだ対抗策をとる必要がある。中国の軍備増強の意図は、同盟諸国やパートナー諸国を支援する米軍の軍事能力を機能不全に陥れることにある。もちろん、アメリカの同盟国を攻撃すれば空爆や海上封鎖などの懲罰策を受けるという認識が、中国の軍事的冒険主義に一定の歯止めをかけている。だが、ワシントンそして同盟諸国とパートナー国は、拒否的抑止(deterrence through denial)、つまり、北京に力では目的を達成できないと納得させることを目的に据える必要がある。・・・・

  • トランプの台湾カードと台北
    ―― 急旋回する米中台関係

    ダニエル・リンチ

    Subscribers Only 公開論文

    中台関係と米中関係の緊張が同時に高まっている。中国は台湾海峡に空母を、この島の上空近くに頻繁に戦闘機を送り込んでいるだけでなく、中国の外交官は「米海軍の艦船が高雄港に寄港すれば、中国軍は直ちに台湾を武力統合する」とさえ警告している。一方ワシントンでは、台湾カードを切ることを求めるジョン・ボルトンが大統領補佐官に就任した。いずれトランプ政権が、中国との軍事衝突を引き起こしかねないやり方で台湾カードを切る可能性は現に存在する。トランプがアメリカと台湾の関係を大幅に格上げすれば、この動きは台湾では大いに歓迎されるだろう。しかし、蔡英文はそのような変化を受け入れる誘惑に耐えた方がよい。誘惑に負ければ、台湾は「ワシントンの中国対抗策における人質」にされてしまう。

  • ポストアメリカの世界経済
    ―― リーダーなき秩序の混乱は何を引き起こすか

    アダム・ポーゼン

    Subscribers Only 公開論文

    ドナルド・トランプは、アメリカが築き上げたグローバルな経済秩序に背を向け、経済と国家安全保障の垣根を取り払い、国際的ルールの順守と履行ではなく、二国間で相手を締め付ける路線への明確なコミットメントを示している。世界貿易機関(WTO)の権威を貶め、いまや、主要同盟諸国でさえ、アメリカ抜きの自由貿易合意や投資協定を模索している。すでに各国は貿易やサプライチェーンの流れ、ビジネス関係を変化させつつある。経済政策の政治化が進み、経済領域の対立が軍事対立にエスカレートする危険も高まっている。アメリカが経済秩序から今後も遠ざかったままであれば、世界経済の成長は鈍化し、その先行きは不透明化する。その結果生じる混乱によって、世界の人々の経済的繁栄は、これまでと比べ、政治略奪や紛争に翻弄されることになるだろう。

Current Issues

  • 色あせた対米投資の魅力
    ―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

    アダム・S・ポーゼン

    雑誌掲載論文

    対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

  • 外国人労働者政策と日本の信頼性
    ―― 労働力確保と移民国家の間

    ユンチェン・ティアン 、エリン・アイラン・チャング

    雑誌掲載論文

    人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

  • サイバー攻撃から米インフラを守るには
    ―― ロシアのサイバー攻撃に備えよ

    ロバート・ネイク

    雑誌掲載論文

    情報機関やセキュリティ企業は、ドイツの製鋼所のネットワークシステムへの侵入、90万人のドイツ人が影響を受けた電話回線とインターネットサービスの切断だけでなく、ウクライナで発生した2度の停電にも、ロシアのハッカーが関与していたとみている。2016年大統領選挙へのロシアの介入からワシントンが学ぶべき教訓は、アメリカの(中間)選挙を守ることだけではないだろう。ロシアがサイバースペースを使って旧ソ連諸国に仕掛けている攻撃を、ワシントンはアメリカを待ち受けている未来への警鐘と捉えるべきだ。実際、ウクライナに対するロシアのサイバー攻撃は単なる実験で、相手国の電力網の遮断でロシアが戦略的あるいは戦術的優位を得ることに備えた演習にすぎなかった可能性がある。・・・

  • ポストアメリカの世界経済
    ―― リーダーなき秩序の混乱は何を引き起こすか

    アダム・ポーゼン

    Subscribers Only 公開論文

    ドナルド・トランプは、アメリカが築き上げたグローバルな経済秩序に背を向け、経済と国家安全保障の垣根を取り払い、国際的ルールの順守と履行ではなく、二国間で相手を締め付ける路線への明確なコミットメントを示している。世界貿易機関(WTO)の権威を貶め、いまや、主要同盟諸国でさえ、アメリカ抜きの自由貿易合意や投資協定を模索している。すでに各国は貿易やサプライチェーンの流れ、ビジネス関係を変化させつつある。経済政策の政治化が進み、経済領域の対立が軍事対立にエスカレートする危険も高まっている。アメリカが経済秩序から今後も遠ざかったままであれば、世界経済の成長は鈍化し、その先行きは不透明化する。その結果生じる混乱によって、世界の人々の経済的繁栄は、これまでと比べ、政治略奪や紛争に翻弄されることになるだろう。

  • 人口の高齢化と生産性

    エドアルド・カンパネッラ

    Subscribers Only 公開論文

    高齢社会は若年層が多い社会に比べて生産性が低くなる。この問題に正面から対峙しなければ、人口が減少し、高齢化が進むだけではなく、豊かさを失うことになる。生産性は45歳から50歳のときにピークに達するが、その後、下降線を辿る。つまり、高齢者がうまく利用できない高度な技術を導入してもその生産性を向上させることはできない。むしろ、人口動態の変化と生産性のダイナミクスとの関連を断ち切ることを目指した政策を併用すべきだ。例えば、ロボティクスやIoT(インタネット・オブ・シングズ)のような技術への投資を増やし、高齢者に関連する生産性の低い労働をこれらの技術で代替していくべきだろう。すでに日本の安倍晋三首相は、この視点から高齢者のための介護ロボットや自律走行車の開発技術を日本再生戦略の中核に位置づけている。・・・

  • サイバー攻撃に対する防衛策を
    ―― サイバーインフラの多様性を高めてリスク管理を

    ウェズリー・K・クラーク、ピーター・L・レビン

    Subscribers Only 公開論文

    サイバー攻撃は相手を攻撃するための魅力的な選択肢だ。陸上交通や航空の管制、電力の生産・供給、水道・下水道処理の制御、電子コミュニケーション・システム、さらには、高度に自動化されたアメリカの金融システムなど、国家にとって重要なインフラを、敵対勢力が遠隔地からサイバー攻撃のターゲットにする危険もある。ソフトウェアに対する攻撃は一般に認識され、対策も進められているが、ハード部門の防衛対策は遅れている。(誤作動を起こすように)欠陥を埋め込まれた集積回路は、ソフトウェアとは違って、パッチをあてて修復するのは不可能であり、これは、ふだんは市民になりすまして生活し、いざとなればテロリストの本性を現す究極の「スリーパー・セル」のようなものだ。サイバー攻撃の脅威を完全に封じ込めるのはもはや不可能だが、リスクを管理していくにはシステムの多様性を高めるとともに、開放的なオープンリソースの問題解決方法に学んでいく必要がある。

温暖化・異常気象と人類社会

  • 温暖化と異常気象が人類を脅かす
    ―― ダメージ管理から環境浄化への道を

    ビーラバドラン・ラマナタン、マルチェロ・サンチェス・ソロンド パーサ・ダスグプタ、ヨアヒム・フォン・ブラウン、デビッド・ビクター・

    雑誌掲載論文

    二酸化炭素の排出量は増え続けており、今後1世紀で、世界の気温は最低でも4度上昇する軌道にある。2050年を過ぎると、世界の人口の半数以上が、経験したことのない暑い夏に苦しめられるようになり、それ以降、地球の陸地の44%は乾燥し始める。温暖化した地球ではより極端な現象が起きるようになる。熱波、大暴風雨、干ばつなど(の異常気象)が気候変動によって引き起こされていることはいまや立証されている。熱波と干ばつが世界の穀倉地帯の多くを脅かし、市場はボラタイルになり、農産品価格も上昇する。異常気象が引き起こす災害は人間のメンタルヘルスにも悪影響を与える。実際、摂氏54度を上回れば、社会全体が冷静さを失う。もはや排出量をゼロに抑え込むだけでは十分ではない。すでに大気中にある約1兆トンの二酸化炭素を取り除かなければならない。

  • 気候変動対策の不都合な真実
    ―― 破綻したアプローチを繰り返すな

    テッド・ノードハウス

    雑誌掲載論文

    世界の気温上昇を摂氏2度以内に抑えるという目標にこだわるのは間違っている。ほとんどの国は2年前にパリで掲げた二酸化炭素排出量の削減目標を実現できる軌道にはないし、仮にこれらの目標が達成されても、21世紀末までに世界の気温は3度以上上昇しているはずだ。多くの環境保護派は完全に失敗した過去のやり方で現在の問題に対処しようとしている。うまくアプローチできていない目標にこだわるのではなく、再生可能エネルギー、原子力、そして有望な新しい二酸化炭素回収テクノロジーを導入し、二酸化炭素排出量の削減努力をさらに強化すれば、たとえ気温上昇を2度以下に抑えられなくても、気候変動リスクは大幅に緩和できる。特に、二酸化炭素除去テクノロジーや原子力発電をもっと重視し、ジオエンジニアリングの研究も推進する必要がある。

  • カーボンプライシングという幻想
    ―― より直接的な二酸化炭素削減策との組み合わせを

    ジェフリー・ボール

    雑誌掲載論文

    炭素税や二酸化炭素排出権取引の前提として二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシングを導入することで、政策決定者や市民が、自分たちは地球温暖化対策に有意義な貢献をしていると幻想を抱いている限り、このシステムは無力なだけでなく、非生産的だ。このソリューションだけでは問題解決には至らないという現実を認識する必要がある。地球が摂氏2度の気温上昇という臨界点を超えるのはもはや避けられないが、それでも温暖化を最小限に食い止める方法はある。石炭の段階的利用停止、二酸化炭素回収貯留(CCS)技術開発のスピードアップ、原子力発電の継続、再生可能エネルギーコストの削減、化石燃料価格の値上げは効果がある。「カーボンプライシングは地球温暖化防止のために社会が用いる主要ツールであるべきだ」という考えには、ほとんど根拠がないことをまず認識する必要がある。

  • 気候変動と次の難民危機
    ―― 沈みゆく島嶼国の運命

    パトリック・サイクス

    Subscribers Only 公開論文

    科学者たちは、ツバルは今後50年で完全に水没し、モルジブが水没するまでの猶予はあと30年と予測している。これらの島に住めなくなるとすれば、その近隣の島も同じ運命を辿る。太平洋の22の島国で暮らす920万人、そしてモルジブ諸島の34万5000人が住む場所を失う。ヨーロッパの海岸に押し寄せる大規模な難民ほど、海面水位の上昇がメディアの関心を引くことはないが、国家と領土が海面下に姿を消し、消失するというかつてない事態の帰結は、ヨーロッパの難民危機同様に深刻なものになる。最大の問題は、気候変動難民の場合、国と主権を完全に失ってしまうことだ。難民の受け入れ国は、入国を認めようとしている人物が誰なのか、その母国が消失しているとすれば、一体誰が彼らに責任を負うのかを考え込むことになるだろう。気候変動がすすむなか、国の存続と海洋境界線の安定した存続を想定する国際法は過去の遺物と化しつつある。・・・

  • 地球を覆うエアロゾルを削減せよ
    ―― エアロゾルの拡散と水資源の減少

    ベラガダン・ロマナサン 、ジェシカ・セダン、デビッド・G・ビクター

    Subscribers Only 公開論文

    発電所で利用される石炭、自動車のディーゼル燃料、料理用の薪の燃焼など、温室効果ガスを排出する人間の活動は、一方でエアロゾルと呼ばれる微粒子も排出する。エアロゾルは、広い範囲に靄(もや)がかかる現象をもたらし、太陽光を遮ったり散乱させたりする。その結果、地表に届く太陽光エネルギーが減少し、いつ、どこに、どれくらいの雨が降るかを左右する水分の蒸発が減少して水循環を混乱させる。2050年までに世界人口の40%が苛酷な水不足に直面するとの予測もすでに出ている。各国政府が理解し始めているように、水不足は経済的、人道的な課題であるだけではなく、地政学的な問題も絡んでくる。エアロゾル汚染への対策は温室効果ガス削減のキャンペーンに比べて市民の大きな関心を集めないが、その対策を、気候変動を抑える地球規模の行動における重要な柱とすべき理由は十分にある。

  • 森林伐採と地球温暖化
    ―― 農業開発と環境保護を両立させるには

    ジェフ・トルフソン

    Subscribers Only 公開論文

    1988年以降、ブラジルのアマゾン川流域では、(ドイツの国土面積より広い)40万平方キロ以上の森林が伐採されてきた。伐採された森は耕地や牧草地とされ、大豆や牛肉など、世界的に需要が拡大している農産品の生産に利用されている。だが、これは大量の二酸化炭素を吸収し蓄えることで、地球環境を調整する重要な役割を果たしているアマゾンの熱帯雨林がその機能を失いつつあることを意味し、下手をすると、地球環境を劇的に悪化させるトリガーになる恐れもある。幸い、(森林の減少・劣化を回避することで温室効果ガス排出の削減を目指す)REDDと呼ばれる気候変動対策スキームが導入され、一定の成果を上げている。REDDは森林に蓄積された二酸化炭素に値段をつけ(価値を査定し)、先進国が途上国に資金を支払うことで森林を保護してもらい、森林に蓄積されている二酸化炭素の排出を抑えた分、先進国における排出量を相殺するという、二酸化炭素排出権取引に似たコンセプトだ。・・・

  • 地球工学に関する国際ルールの導入を

    M・グランジャー・モーガン、ジョン・ステインブルーナー、ルース・グリーンスパン・ベル

    Subscribers Only 公開論文

    3年ほど前から心配になり始めたことがある。それは、アメリカその他の諸国による温室効果ガス排出量削減へのずさんな取り組みをみて、突然誰かが「何ということだ、これは問題だ。ほかに手はないか」と言い出すことだ。(M・G・モーガン)

    重要なのは地球工学的オプションが二酸化炭素排出量の削減の代替策ではないことを認識することだ。排出量の削減努力の代替措置として地球工学的オプションを用いるのは、麻薬中毒になるのと同じで、やり始めると止められなくなる。地球工学オプションは、根本的な二酸化炭素排出の増大の抑制や海洋の酸化に対しては一切効果がなく、問題はなくならない。(J・ステインブルーナー)

  • 温暖化対策の切り札としての地球工学オプション
    ―― 地球工学オプションの恩恵とリスクの検証を

    デビッド・ビクター、M・グランジャー・モーガン、ジャイ・アプト、ジョン・ステインブルーナー、キャサリン・リック

    Subscribers Only 公開論文

    世界各国の二酸化炭素排出量削減が思うに任せず、地球環境が急激に悪化する「ティッピング・ポイント」を超えてしまう危険が迫りつつある以上、政策決定者は、地球温暖化の余波を少しでも和らげるための緊急対応戦略として(太陽光の一部を遮断するために)反射性の粒子を大気中にちりばめたり、あるいは、地球を冷やすためのサンシェード(日よけ)を設けたりするなど、地球規模のスケールで工学システムを配備することの恩恵とリスクの分析を開始すべきだ。ただし、地球工学的なやり方で地球を冷やすことはできるが、大気中に蓄積される二酸化炭素の排出量を減らすことはできないし、その余波がどのようなものになるかもはっきりしない。その時に備えた地球工学の実証的研究を今から進めておく必要がある。

  • 地球温暖化と水資源争奪戦

    シュロミ・ダイナー、ルシア・デ=ステファノ、ジェームズ・ダンカン、カースティン・スタール、ケネス・M・ストルゼペック、アーロン・T・ウォルフ

    Subscribers Only 公開論文

    地球温暖化によって干ばつ、水害、その他の異常気象が増えるなか、水資源の量と質がともに変化する恐れが出てきている。世界の276の国際河川のうちの24の河川では、すでに流水量が変化し、水資源をめぐる政治的緊張が高まっている。例えば、上流域に位置する国と下流域に位置する諸国が、水力発電のエネルギー源として、あるいは農業用水として、水資源を争っているからだ。問題なのは、緊張が高まっている地域で水資源使用の管理を定めた国際条約が存在しないことが多いために、対立が生じても、それに対処するメカニズムが存在しないことだ。水資源の国際的管理合意を包括的に整備していかない限り、アフリカ、カフカス、中東、中央アジアなど、水資源が世界の紛争多発地域の安定をさらに損なうことになりかねない。

  • 社会民主主義は死滅していない
    ―― 「小さな政府」と福祉国家の間

    レーン・ケンワーシー

    雑誌掲載論文

    アメリカの社会民主的な制度は、デンマークやスウェーデンと同レベルには達していないが、ゆっくりとだが着実に進化して、福祉国家への道を歩んできた。(小さな政府を標榜する)共和党がホワイトハウスと議会をともに制した結果、その歩みが停止に追い込まれているとしても、アメリカにおける社会民主主義の未来が閉ざされたわけではない。米政府の構造と、社会保障制度への世論の支持が、現在および未来の共和党多数派が唱える「小さな政府」のビジョンに大きく立ちはだかることになるだろう。いずれ、現在の試練も社会民主主義への道のりにおける行き止まりではなく、一時的な遠回りだったことが理解されるはずだ。

  • プーチンを育んだロシア的価値
    ―― ロシア文化に配慮した外交アプローチを

    マイケル・キメージ

    雑誌掲載論文

    プーチンがロシア社会を自分のおもう方向へ強制しているのか、それとも、社会がプーチンを育んでいるのか。ロシアは実態のない国、つまり、古代の神話を基礎に(実態を隠そうとする)見せかけの村(ポチョムキン村)であり、民衆とは国家によって意思を授けられるポストモダンの意伝子(ミーム)にすぎないとみなされることも多い。だが現実には、プーチンがロシア社会に価値を押しつけたのではなく、ロシア社会の価値がプーチンの対外行動を支えている。多くのロシア人は、欧米はロシアに対して攻撃的かつ偽善的で自分たちを見下すような態度をとっているとみている。当然、ロシアの政治家たちにとって、欧米の要求に屈すれば、国内で重大な代償を支払わされる。欧米を公然と無視するプーチンを支えているのは、実際には、ロシア社会の価値に他ならない。

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