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2018年11月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2018年11月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2018年11月号 目次

戦後国際政治の分水嶺か ―― 米欧同盟の終わりの始まり?

  • トランプ・ドクトリン
    ―― 対イラン経済制裁への参加がなぜ必要か

    マイク・R・ポンペオ

    雑誌掲載論文

    トランプ大統領が引き継いだのは、第一次世界大戦や第二次世界大戦前夜、あるいは冷戦のピーク時に匹敵する危険な世界だ。しかし、先ず北朝鮮に、そして現在はイランに対して大統領がみせている破壊的なまでの大胆さは、明確で強い信念と、核不拡散と強力な同盟関係を重視する姿勢を組み合わせれば、いかに多くのことを成し遂げられるかを示している。・・・率直な態度は交渉を妨げるという、古臭い思い込みにとらわれている人々も、ターゲットを絞り込んだレトリック、現実的な圧力行使策が、アウトロー国家を変化させ、現在も変化させつつあることを認めるべきだ。・・・われわれは、(イランとの)戦争は望んでない。しかし事態をエスカレートさせれば、イランの敗北に終わることを、われわれは明白にしておく必要がある。

  • 外交的経済パワー乱用の果てに
    ―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

    ジェイコブ・ルー、リチャード・ネフュー

    雑誌掲載論文

    経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

  • トランプが思うままに行動できる理由
    ―― 形骸化した抑制と均衡

    ジェームズ・ゴールドガイアー、エリザベス・N・サンダース

    雑誌掲載論文

    なぜドナルド・トランプ米大統領は好き勝手に振る舞えるのか。実際には、これは、トランプ個人に留まる問題ではなく、アメリカ政治を支えてきた抑制と均衡のシステムが形骸化していることで引き起こされている。米議会の外交専門家が少なくなり、国務省は虐げられ、国家安全保障会議が肥大化している。同盟国の立場も公然と無視されるようになった。トランプは、かねて進行してきたこのシステムの劣化を前に、暴走しているに過ぎない。大統領権限の拡大を阻止したいのなら、トランプが引き起こしたダメージだけでなく、そのダメージが明らかにしたより根深い問題、つまり、大統領権限の抑制を担うべき組織が、その意欲と能力の双方を着実に失っているという現実に対処していかなければならない。

  • イラン制裁が同盟関係を揺るがす
    ―― 同盟関係の動揺と米中関係の行方

    ピーター・ハレル

    Subscribers Only 公開論文

    イランに対するトランプの強硬なアプローチは、経済制裁を求めるアメリカの圧力から自国の企業をどのようにして守るかについて、欧州連合(EU)内、そして世界での長期的議論を喚起することになるかもしれない。すでにヨーロッパは具体的な動きをみせている。最大のイラン石油の輸入国である中国はこの問題をより広範な米中貿易関係の緊張の高まりという枠組みに位置づけて判断することを決めている。北朝鮮の核の脅威や中国の強硬路線に対処していくためにアメリカの支援を必要とする日本と韓国は、イラン制裁への参加を回避したいと望みつつも、トランプとの間で大きな対立を抱え込むことを望んでいない。イラン制裁が実現しても、その後、ワシントンは同盟関係の修復に取り組まざるを得なくなるだろう。

  • 米欧関係に生じた大きな亀裂
    ―― 金融自立と新同盟を模索するヨーロッパ

    ソーステン・ベナー

    Subscribers Only 公開論文

    アメリカの金融システムは、もはや公共財ではなく、ワシントンが他国を従わせるために一方的に振り回す地政学的ツールにされていると各国が考えるようになれば、それに翻弄されるのを防ぐ措置をとるようになる。既に、ヨーロッパはアメリカの金融覇権に挑戦することを決断している。外交領域も例外ではない。ドイツ外相は「既存のルールを守り、必要な場合には新ルールを導入し、各国の目の前で国際法が踏みにじられる事態に対しては連帯を示す有志同盟」の形成を明確にイメージし、既にカナダや日本に接触している。現状では、失敗を運命づけられている試みなのかもしれない。しかし、敵意あふれる世界で自分たちの立場を守っていくつもりなら、「自立」と「新しい同盟」が、ヨーロッパが取り得る唯一の賢明な方策かもしれない。

  • 信頼性失墜の果てに
    ―― ドナルド・トランプという外交リスク

    カレン・ヤーヒ=ミロ

    Subscribers Only 公開論文

    主要な選挙公約への立場を何度も見直し、ツイッターで奇妙かつ不正確なコメントを流し、脅威を誇張し、即興的に何かを約束する。こうして、大統領が内外におけるアメリカの信頼性を失墜させていくにつれて、同盟国はアメリカの約束を信頼するのを躊躇うようになり、敵対国に対する威圧策も効力を失っていく。危険な誤算が生じるリスクも高まる。アメリカ市民だけでなく、世界の人々も、すでにトランプの予測不能な発言や矛盾するツイートに慣れてしまっている。しかし、信頼できる大統領の言葉が必要になったときに、どうすればよいのか。今後の危機において、アメリカの意図を明確に示すために必要な信頼を大統領がもっていなければ、どのように敵を抑止し、同盟国を安心させられるだろうか。

  • トランプリスクが促す世界秩序の再編
    ―― 各国のリスクヘッジで何が起きるか

    スチュワート・パトリック

    Subscribers Only 公開論文

    トランプ政権が同盟関係へのコミットメントを弱め、保護主義的な経済・貿易政策をとり、地球温暖化対策を放棄すれば、同盟国は、自国の安全保障、繁栄、市民の安定した生活を、独立性を高めることで強化しようと模索し始めるだろう。地政学領域では、各国は、「アメリカ」と「自国にとって重要な地域大国」、つまり、アジアにおける中国、ヨーロッパにおけるロシア、中東におけるイランとの関係を見直すことで、リスクヘッジを試みる。この流れのなかで、日本と韓国は核開発を真剣に検討するようになるかもしれないし、バルト諸国は、アメリカを見限って「フィンランド化」に踏み切るかもしれない。経済領域では、中国が主導する一帯一路構想などの、アメリカが関与していないアレンジメントを各国は求めるようになるだろう。もちろん、トランプ政権が伝統的なアメリカのリーダーシップを放棄していくにつれて、他の諸国がリスクヘッジ策をとると決まってはいない。そうなるかどうかは、「大統領としてのトランプの選択」に左右される。

  • 気候変動で慢性化した異常気象
    ―― そのダメージとコストに対処するには

    ケイト・ゴードン、ジュリオ・フリードマン

    雑誌掲載論文

    気候変動に派生する異常気象が引き起こす災害への対応コストは膨れあがり、いまや短期的な緊急対応能力だけでなく、長期的な投資や経済成長も脅かされつつある。しかも、異常気象は1度きりの出来事ではなく、いまや慢性化しており、これを管理していくには、現在の政策決定者の気候変動に対する捉え方とはまったく異なるアプローチが必要になる。すでに気候変動のインパクトを前に、企業は工場を移動させ、ビジネスモデルを見直し、国防総省は、海面水位の上昇が慢性化していることのリスクを認め、今後10年間で海軍基地に対するリスク管理と適応のための計画をまとめている。異常気象が、一過性の風邪ではなく、慢性疾患化していることを認識した上で、それに即した計画で備える必要がある。

  • ジェネレーション・ストレス
    ―― いまアメリカの大学で何が起きているか

    シルビア・マシューズ・バーウェル

    雑誌掲載論文

    2007年以降の10年間で、心理療法を受けているアメリカの大学生の割合は13%から24%へ上昇している。高等教育の中核ミッションの一つが、学生たちを試し、答をみつけさせることにあるだけに、メンタルヘルスの課題に対処していくのは複雑な課題になる。端的に言えば、大学は学生たちにとって本来容易な場所ではない。大学教育の特徴である、学習面での困難さとストレス間のバランスをどのようにとらせ、一方で学生のメンタルヘルスをどのように支えていくかは、次第に綱渡り並みの難しさを伴うようになった。大学での経験から、課題から逃げることを身につけさせてはならない。結局のところ、人生は課題にあふれている。課題が引き起こすストレスに対処していく方法を学ばせなければならない。

チャイナ・アップデート

  • 中ロによる民主国家切り崩し策
    ―― 台頭する権威主義モデルと追い込まれた欧米

    アンドレア・ケンドール=テイラー、デビッド・シュルマン

    雑誌掲載論文

    民主主義を切り崩していけば、欧米の影響力低下というトレンドを加速し、ロシアと中国の地政学的目標を促進できる。これが、中ロが共有している中核ビジョンだ。自国のパワーをアメリカのそれと比較して相対的に捉えるモスクワと北京は、欧米民主国家を衰退させれば、自国の国際的な地位向上につながると考えている。ロシアが民主体制を様々な方法で混乱させ、切り崩す一方で、中国が欧米民主主義の代替モデルを示し、困難な状況にある国に援助や投資を提供することで、弱体な民主国家が欧米から離れていく環境が作り出されている。これが侮りがたい権威主義モデル台頭の潮流を作り出しつつある。

  • 変化する中国人の対米イメージ
    ―― 米中関係の好転が期待できぬ理由

    チェン・リー

    雑誌掲載論文

    中国経済の健全性と政治の軌道を左右する重大な社会集団である中間層の不安と不満が高まっている。株式市場も人民元も下落し、不動産バブルの崩壊リスクの地理的広がりが拡大している。経済成長率の鈍化に加えて、政治腐敗、環境悪化、政治および思想領域での統制強化などを前に、中間層は政府批判を強めている。しかし、ワシントンの対中強硬策がこの流れを変えるかもしれない。米大統領就任1年目にはトランプに好意的だった中国メディアも、いまや貿易摩擦の責任の大部分を「クレージーで強欲な」米大統領のせいだと批判し、アメリカを「丘の上の輝ける町」として捉える中国人は少なくなっている。北京の指導者と中間層の複雑な関係を的確に理解しない限り、アメリカの政策立案者と専門家は対中貿易強硬策の効果を正確に評価できないだろう。

  • 接近するイスラエルと中国
    ―― 何が両国を結びつけているのか

    エリオット・エーブラムス

    雑誌掲載論文

    もちろん、中国とイスラエルは自然のパートナーではない。面積、人口構成、地政学的志向からみても、大きな違いがある。しかもイスラエルは、中国と世界規模でライバル関係にあるアメリカと密接な関係にある。それでも、中国とイスラエルの関係はさまざまな領域で急速に進化している。過去数年間で著しい拡大をみせているのが、貿易、投資、教育交流、観光の分野だ。中国は、イスラエルに投資チャンスと最先端技術を提供してくれる拠点を新たに見出している。イスラエルにとっても、中国との関係は、アメリカと欧州連合(EU)を越えた世界との関係を構築するというネタニヤフ首相の戦略の最近の成功例とみなせる。・・・

  • 民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
    ―― 中ロによる情報操作の目的は何か

    クリストファー・ウォーカー、ジェシカ・ルドウィッグ

    Subscribers Only 公開論文

    民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

  • 民主国家に浸透する権威主義
    ―― 蝕まれるリベラルな民主主義

    ソーステン・ベナー

    Subscribers Only 公開論文

    欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。・・・

  • 民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか
    ―― モスクワの策略に立ち向かうには

    ジョセフ・R・バイデン、マイケル・カーペンター

    Subscribers Only 公開論文

    ロシア政府は政治腐敗まみれの泥棒政治システムを守ろうと、その生存を外から脅かす最大の脅威と彼らがみなす「欧米の民主主義」に対する国境を越えた闘いを挑んでいる。欧米を攻撃することで国内の政治腐敗や経済的停滞に人々が目を向けないようにし、ナショナリズム感情を煽り立てて国内の反体制派を抑え込み、民主主義国家を守勢に立たせることで欧米諸国が国内の分断線対策に専念せざるを得ない状況を作り出そうとしている。この環境なら、モスクワは国内の権力基盤を固めることに専念し、「近い外国」に対して思うままに影響力を行使できる。だが、プーチンとその取り巻きたちは、アメリカの民主主義の最大の強さは市民の政治参加にあることを理解していない。米大統領が対策を拒んでも、われわれが行動を起こす。

  • 民主国家が開放性を維持すべき理由
    ―― シャープパワーとソフトパワーの間

    ジョセフ・ナイ

    Subscribers Only 公開論文

    中国とロシアは、権威主義国家の閉鎖性と民主国家の開放性という非対称性につけ込んで、「世界における自国のイメージを形作り、自国に対する民主国家の行動を枠にはめるための」キャンペーンに巨額の資金を注ぎ込み、その余波は世界に及んでいる。しかし、民主社会が権威主義国家のシャープパワーに対抗していく上で留意すべきことがある。それは、権威主義と同じやり方で相手のシャープパワーに対抗措置をとってはならないということだ。そのような過剰反応を示せば、自らのソフトパワーを傷つけることになる。アメリカ社会へのアクセスを閉ざしたり、その開放性を無くしたりすれば、ソフトパワーという大切な資産を損なうことになる。

トランプ化する欧州

  • ドイツにおける「ポスト真実」の政治
    ―― 民主主義と憲法の危機

    ゲオルク・ディーツ

    雑誌掲載論文

    問題が起きたことが社会で広く認識されなければ、それを事件とみなし、解決策を考えることもできない。ケムニッツでドイツ人が難民に殺害された後、レイシストたちが移民や見た目の違う人々を口汚く罵り、追い回して「奴らを殺したい」と叫んでいたことについては目撃者がいるだけでなく、ビデオにも収められている。それでも、一部の右派政治家たちは、「そのようなことは起きなかった」と発言し、しかも、こうした政治家たちが責任を問われることもなかった。これまでなら、異なる見解は認められたが、明らかな嘘や間違いが許容されることはなかった。だが、アメリカ同様にドイツでも、そうして真実の時代と政治が終わりつつある。

  • 長期化する金融危機の政治的余波
    ―― 極右政党の勢いが止まらない理由

    マヌエル・フンケ、モリッツ・シュラリック、クリストフ・トレベック

    雑誌掲載論文

    なぜ金融危機は大きな政治的混乱を伴うのか。それは、危機に人が介在しているからだ。民衆は、危機を回避できなかったエリートたちを糾弾する。実際、富と権力をもつ者たちが政策上の失敗を犯し、縁故主義に走ることは多く、この場合には、既存の政治システムへの信頼が損なわれ、極右のポピュリストが台頭する。もっとも、危機から5年もすれば、議会における政党の乱立と分裂現象は影を潜め、極右勢力は勢いを失う。だが2008年の金融危機は違う。10年を経ても、政治勢力の細分化や分裂、極右勢力の台頭が続き、確立されていた政治システムが一連の衝撃によって波状的に揺るがされている。その理由は・・・

  • 欧州ポピュリストが演出する「文明の衝突」
    ―― 文明論を語り始めたポピュリストたち

    ロジャーズ・ブルベーカー

    Subscribers Only 公開論文

    現在のヨーロッパのポピュリストを移民排斥論者、ナショナリスト、極右と言うこれまでの言葉で語るのは適切ではない。彼らはナショナリズムではなく、ヨーロッパを包み込む文明を「キリスト教」という言葉で表現し、それをイスラム文明と対比させている。彼らがキリスト教を引き合いに出すのは、(他者と区別するための文明的)帰属を示すためだ。そこでは、ユダヤ人もヨーロッパの一部を構成する仲間とみなされている。右派ポピュリストが女性の権利やゲイの権利を擁護しているのも、イスラム文明との違いを際立たせるためだ。こうしたヨーロッパの文明論的ポピュリズムが問題なのは、そもそもイスラム世界の一部に存在する過激な反西洋姿勢を、イスラム教徒にとってより信頼できる魅力的な思想にしてしまう恐れがあることだ。・・・

  • 引き裂かれたヨーロッパ
    ―― 多数派のアイデンティティ危機

    エリック・カウフマン

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

  • 欧米経済の衰退と民主的世紀の終わり
    ―― 拡大する「権威主義的民主主義」の富とパワー

    ヤシャ・モンク

    Subscribers Only 公開論文

    北米、西ヨーロッパ、オーストラリア、そして日本という、第二次世界大戦後にソビエトに対抗して西側同盟を形成した民主国家は、19世紀末以降、世界の所得の大半を占有する地域だった。しかしいまや、この1世紀で初めて、これらの国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は半分を割り込んでいる。国際通貨基金(IMF)は、今後10年もすれば、その比率はかつての3分の1へ落ち込むと予測している。今後を見通す上で現実的なシナリオは二つしかない。一つは中国を含む、世界でもっともパワフルな独裁国家の一部がリベラルな民主国家に移行すること。もう一つは、民主主義の支配的優位の時代が、敵対する政治体制との闘争という新時代が到来するまでの幕間の出来事に過ぎなかったことが立証されることだ。いずれの場合も、欧米民主主義の時代が終わりを迎えるのは避けられない。

  • ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
    ―― 主流派政党はなぜ力を失ったか

    マイケル・ブローニング

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。・・・

  • 資本主義の暴走をどう是正するか
    ―― 現状に対応できる政治連合とは

    スザンヌ・バーガー

    雑誌掲載論文

    グローバル化の衰退とともに、経済ナショナリズムが復活し、いまや多くの人が「堅固に守られた国境線が、社会の安定と繁栄を脅かす外国からのサービス、資金、人の流れを遮断していた時代」にノスタルジーを感じている。だがその黄金期がどの時代だったのかを彼らは特定していない。一方、左派の知識人は、アメリカの黄金期は、「資本主義、平等、民主主義間のバランスをうまくとれることを示した」1930年代のニューディール改革以降、1960年代まで続いた時代だったとみている。しかし、ニューディール連合の経済的盟約は消滅している。「野放しの資本主義」をどうすれば制御できるのか。グローバル化と社会がともに進化していけるようにするには、どのような政治的連合と盟約を新たに構築すればよいのか。

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