1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

ドゥテルテ大統領の挑戦
―― マニラの強権者の思惑を検証する

2016年11月号

リチャード・ジャバド・ヘイダリアン
デ・ラ・サール大学准教授(政治学)

強気のアウトサイダーだったドゥテルテは、フィリピンの有権者たちのエスタブリッシュメント層に対する反発をうまく追い風にして、大統領ポストを射止め、その後、瞬く間に権力基盤を固めていった。最近の調査では、ドゥテルテの支持率は91%という、空前のレベルに達している。彼の「対麻薬戦争」にいくら世界が懸念を示しても、外交的にはあり得ない発言を繰り返して非難されても、国内の人気や影響力が衰える気配はない。「フィリピンの抱える根本的な問題を解決できるのは強気で断固としたリーダーだけだ」という民衆の意識が高まっているためだ。ドゥテルテは、欧米でどう思われようと、残虐な麻薬取締りで民衆の支持が得られる限り、路線を見直すことはないだろう。公正に言えば、ドゥテルテは麻薬撲滅以外にも、環境、交通渋滞、インフラ整備など、さまざまな領域で積極的な取り組みをみせている。外交領域では、アメリカとフィリピンの関係の「ニューノーマル」を確立することを決意しているようにみえる。・・・

戦略目的に合致しない同盟関係の解消を
―― トランプの主張は間違っていない

2016年11月号

ダグ・バンドウ   レーガン政権大統領特別補佐官

トランプの主張するとおり、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)政策は時代遅れだ。戦後(・冷戦期)のアメリカにとっては、ヨーロッパの同盟諸国を守る以外に道はなかったかもしれない。だが、当時の軍事関与を正当化したロジックはとうの昔に消失している。同盟関係は戦略目的のための手段でなければならず、現状に照らせば、それはアメリカの安全を強化することだ。同盟関係のコストを問題にするトランプに対して、彼に批判的な勢力は、「同盟諸国は合計すると100億ドルのホストネーション・サポート(受入国による支援)を負担し、米軍の駐留コストを助けている以上、アメリカの戦略コミットメントは高くない」と反論する。しかし、これは事実誤認だ。対外軍事コミットメントを控えれば、ワシントンは年間1500億ドルを節約できる可能性がある。人口が多く、繁栄する世界の工業国家を相手に成り代わって防衛するのは、実質的にアメリカの納税者の税金を、相手国の納税者の富として移転していることになる。

CFR Events
次期米大統領への政策提言
CFR北朝鮮問題タスクフォース

2016年11月号

スピーカー
マイケル・マレン  タスクフォース共同議長
サム・ナン 元米上院議員、核脅威イニシアティブ共同理事長 タスクフォース共同議長
アダム・マウント アメリカ進歩センター・シニアフェロー タスクフォースディレクター
プレサイダー
ジュディ・ウッドラフ PBSニュースアワー アンカー

「すべての提言は、平壌の選択次第で北朝鮮にどのような帰結が待ち受けているかを明確にするとともに、中国の北朝鮮への認識を変化させることを意図している。現状では中国は北朝鮮のことをアメリカの東アジアにおける影響力に対するバッファーとみなしているが、そうではなく、中国の安全保障や地域的な安定に対する脅威としての北朝鮮へと認識を見直させたいとわれわれは考えている」(A・マウント)

「中国との協調を模索しつつも、アメリカ、韓国、日本の3国間関係を強化しなければならない。リポートでは、1国への攻撃であっても自国が攻撃されたとみなす(北大西洋条約機構型の)集団安全保障態勢が必要になると提言した。・・・THAAD(終末高高度)ミサイル防衛システムを配備する必要がある。核弾頭を小型化させれば、北朝鮮はアメリカも攻撃できるようになる」(M・マレン)

「現政権の政策と今回のリポートが示す政策の大きな違いは、経済制裁の成果を待って、その後、交渉に移るのではなく、交渉と制裁を同時に試みる必要があると提言したことだ。・・・中国との率直な交渉も必要になる。中国の利益にも配慮する必要がある。中国なしで、北朝鮮問題を平和的に解決するのは難しい。(もちろん)韓国と日本の抑止力と防衛力を強化する必要がある」(S・ナン)

なぜプーチンは米大統領選挙に干渉したか
―― トランプ支援とロシアの国内政治

2016年11月号(掲載予定)

グレゴリー・フェイファー 米ジャーナリスト

ドナルド・トランプが(「自分はロシアのプーチン大統領を尊敬している」と語ったことで)、プーチンが見逃すはずもない絶好のチャンスが作り出された。互いに相手を気に入っている2人は、「アメリカの政治エスタブリッシュメントを切り崩したい」と考えている点でも立場を共有している。ロシアが外国をターゲットにしたサイバー攻撃を政治的武器として使い始めたのは少なくとも10年ほど前からだが、大統領選挙のさなかに特定の大統領候補を支援しようとアメリカにサイバー攻撃を試みたのは、今回が初めてだ。しかし、プーチンの目的はロシア国内にある。自分が作り上げた統治システムと80%以上の高い支持率を維持していく上で、間違いなく効き目があるのはアメリカに挑戦していることを国内でアピールすることだからだ。これほど確かな得点稼ぎの方法はそう多くない。プーチンにとって、選挙キャンペーンが展開されるアメリカで、自分が話題にされるだけで十分なのだ。

アメリカのTPP批准はほぼあり得ない
―― 何をどこで間違えたのか

2016年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート エディター

米議会がTPPに批准するかどうか、かなり難しい情勢にある。2人の大統領候補たちも、TPPに反対すると明言している。議会共和党の指導者も11月8日の大統領選挙から12月16日までのレームダックセッションでTPP条約案の採決はしないとすでに表明している。オバマ大統領は、彼らを説得することへの自信を示しているが、そうできるとは考えにくい。TPPが2016年に批准されなければ、誰が大統領に選ばれようと、2017年以降に批准される見込みはさらに遠のく。なぜこんなことになったのか。ワシントンの利益団体の抵抗も、合意の欠陥も、「貿易は雇用を輸出し、失業を増やす」と市民が反発していることもその要因だ。それぞれTPPに反対する国内の利益団体を抱えつつも、それを克服して合意をまとめたアメリカの貿易パートナーたちが、大きな怒りを感じているとしても無理はない状況にある。・・・

論争 留学に価値はあるのか

2016年10月号

エリック・R・テルスオロ 元米外交官、サンフォード・アンガー 元ゴーチャーカレッジ学長

「留学プログラムが、アメリカの学生たちの知的レベルを高めるような豊かな経験を間違いなく与えてくれるのなら、それは大きな成果となる。だが、いかなる意味でも、そのような留学プログラムは現状では存在しない。・・・留学をすることで得られる認識の変化や文化的違いへの適応は、外国での経験よりも、その学生が本来もっているキャラクターに左右される」。(E・テルスオロ)

「10年以内に、アメリカの学部生の少なくとも3分の1が、コスト面で許容できる留学プログラムへアクセスできるようにし、21世紀半ばまでには、すべての学生にチャンスを与えるべきだと私は提言した。現状で米大学の学部生の1・5%しか留学しないという嘆かわしい状況からみれば、少しでも留学する学生が増えることが改善になる。アメリカ人が世界の出来事をもっと理解し、うまく対処できるようになるには、自分の目で確かめ、自国が直面する課題を自分で受け止める必要がある」。(S・アンガー)

サウジの男性後見システムを撤廃せよ
―― 女性と経済を抑え込む後見システムとは

2016年10月号

ハラ・アルドサリ アラブ湾岸研究所客員フェロー

サウジでは女性が自分で何かを選択できることはほとんどなく、常に男性後見人の判断に従わなくてはならない。女性が自分の人生を管理できるとすれば、後見人がその女性の意思を尊重してくれる場合だけだ。女子校の関係者は緊急時でも救急車や消防士を敷地内に入れることはできない。刑務所も、男性後見人の同意がなければ女性を釈放できない。後見人制度はサウジ経済にも悪影響を与えている。女性が労働力に参入しない限り、今後、サウジの家計所得は今後20%減少し、一方で女性の労働が認められれば60%増加すると予測されている。政府は労働法を見直して、後見人の許可がなくても、女性が働けるようにしたが、法改正が徹底されていないために、ほとんどの企業は後見人の同意なしで女性を雇うことはない。・・・・

北欧福祉国家モデルの幻想
―― なぜ誤解が生じているのか

2016年10月号

ニマ・サナンダジ
スウェーデンの作家・研究者

北欧諸国は繁栄を遂げつつも、富を平等に分配し、優れた社会を実現しているようにみえるかもしれない。だが、そうしたイメージは誇張されている。北欧諸国の経済は民主社会主義(スカンジナビアモデル)に移行して以降よりも、それに先立つ市場経済時代の方が急速な成長を遂げていた。所得格差にしても、福祉国家が定着する前の段階でスウェーデンの所得格差は減少し始めていた。要するに、スカンジナビアにおける福祉国家の成功をテーマとするアメリカ人の研究は、福祉国家体制を確立する前のスカンジナビアの歴史、この地域の人々の社会的特性にまったく関心を寄せておらず、歴史的視点、社会・文化的視点が欠落している。「経済成長を損なうことなく、大規模な社会保障システムを導入できる」と考えるのは間違っている。北欧諸国の実験から得られる教訓とは、「福祉国家システムは社会保障への依存という文化を作り出してしまう」ことに他ならない。

核兵器と核戦略を問い直す
―― 何のための核兵器なのか

2016年10月号

フレッド・カプラン
ピューリッツァー賞受賞ジャーナリスト

進行しつつある世界政治の変化を十分に考慮できぬまま、われわれは依然として核兵器に固執している。抑止に大量の核兵器は必要ない。オバマ大統領が本気で核戦力の近代化計画を見直すつもりなら、「抑止に本当に必要なものは何か」を再検証しなければならない。核兵器がない状態を想定して、核戦争プランを根底から見直し、何のためにどれだけの核兵器が必要なのかを白紙から合理的に再分析すべきだ。こうした見直しが行われてこなかったのには単純な理由がある。米軍が核戦力を戦略上の前提として重視する派閥を内に抱え、議会も核兵器関連産業や研究所を選挙区にもつ有力メンバーを抱えているからだ。オバマが残された任期中に核の近代化計画の見直しに向けた基盤を作るのは難しいとしても、これは、彼の後継者、そして世界の指導者たちが取り組むべき重要な任務だろう。

なぜイランはロシアに基地使用を許したか
―― 歴史的不信と中東新秩序への野望

2016年10月号

モフセン・ミラニ
南フロリダ大学教授(政治学)

第一次世界大戦後にイギリスとフランスが描いた中東の政治秩序はいまや崩壊しつつあり、ロシアもイランも新しい秩序における自国の居場所に思いを巡らしている。プーチンにとって、ロシアを中東のプレイヤーとして再確立することは、彼の悲願であるグローバルな大国の座を取り戻す上でもきわめて重要な一里塚だ。一方、イランはシリアの将来を決める現在の内戦を、今後の中東秩序を左右する重要な試金石とみなしている。テヘランは、ロシアとの協調は中東での影響力を強化する効果的な手段になると考えているようだ。こうした思惑ゆえに、ロシアに大きな不信感をもつイランも、ロシア軍に国内基地の利用を認めるという驚くべき決定を下した。ロシアとのより緊密な軍事・安全保障関係を築くことで、イランはアメリカの中東政策に対する保険策をとろうとしているとみなすこともできる。・・・

Page Top