1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

トランプ後もポピュリズムは続く
―― なぜ欧米でポピュリズムが台頭したのか

2016年11月

ファリード・ザカリア 「ファリード・ザカリアGPS」 (CNN)のホスト

欧米世界ではポピュリズムが着実かつ力強く台頭している。先進国が直面する低成長や移民流入が作り出す問題に慎重に対処していくには、一連の対策を通じて、全般的に少しずつ状況を改善させていくしかない。しかし、有権者はより抜本的な解決策とそれを実施できる大胆で決意に満ちた指導者を求めている。このために多くの人が、いまや大差ない政策しか打ち出せない伝統的な政党に幻滅し、ポピュリズム政党やポピュリストの指導者を支持している。バーニー・サンダースからトランプ、ギリシャの急進左派連合から、フランスの右派政党・国民戦線はその具体例だ。アメリカ人の多くは、トランプ現象は特有のもので、より大きくて永続的なアジェンダを映し出しているわけではないと考えているが、それとは逆が真実であることを示す証拠が出揃いつつある。・・・

見捨てられた白人貧困層とポピュリズム

2016年12月号

ジェファーソン・カーウィー バンダービルト大学教授(歴史学)

テクノロジーと金融経済の進化は、東海岸や西海岸における都市の経済的・社会的バイタリティーを高めたが、製造業に支えられてきた南部と中西部にはみるべき恩恵はなかった。南部と中西部の経済が衰退して市民生活の空洞化が進んでいるのに、政治的関心がこの問題に向けられなかったために、これらの地域の「成長から取り残された」多くの人々がドラッグで憂さを晴らすようになり、なかには白人ナショナリズムに傾倒する者もいた。トランプはまさにこの空白に切り込み、支持を集めた。トランプは、政治舞台から姿を消すかもしれないが、彼が言うように、「実質的な賃金上昇がなく、怒れる人々のための政党」が出現する可能性はある。民主党か共和党のどちらか(または両方)が、貧しい白人労働者階級が直面する問題に対処する方法を見つけるまで、トランプ現象は続くだろう。

日本の「長時間労働」と生産性

2016年12月(Web公開論文)

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

経済協力開発機構(OECD)によると、週の労働時間が50時間以上に達する日本の勤労者は全体の13%。イタリア人やドイツ人でこれほど長時間働いているのは労働力人口の約4%にすぎない。こうしたワーカホリック(仕事中毒)ぶりが、日本人の健康と生産性を損なっている。過労死の問題だけではない。経営側は、長時間労働が生産性を低下させるリスクを伴うことを認識すべきだ。少ない人材をできるだけ働かせようとするよりも、社員がもっと効率的に働けるようにし、仕事へのやる気の持たせ方を変化させるべきだ。「社員がもっと効果的に働けるようにし、与えられた目標を、できるだけ少ない残業時間、あるいは残業なしで達成した人に報い、部下に残業させた管理職にはペナルティを課す」。そうした慣習が当たり前になるようにすべきだろう。ワークスタイルを見直せば、女性の労働参加を促し、出生率も上昇し労働力も増大する。この方が金融緩和を何度も繰り返す以上に、国内総生産(GDP)を押し上げる効果は高いはずだ。

すでにギリシャ、ハンガリー、イタリア、ポーランド、スロバキア、スイスの6カ国でポピュリスト政党が最大の議席数を確保している。フィンランド、リトアニア、ノルウェーの3カ国では、ポピュリスト政党が政権の一翼を担っている。大規模な難民流入やユーロ危機などで社会治安や経済の安定が脅かされたために、ポピュリズムの急激な台頭が刺激された部分があるのは事実だろう。しかし、ヨーロッパの社会と政治に構造的変化が起きていたことがポピュリズムを台頭させる素地を作り出していたことが見落とされがちだ。難民危機や経済危機はトリガーにすぎない。しかも、構造的変化が近い将来に覆される見込みがない以上、ポピュリズムが下火になっていくと考える理由はない。要するに、これまでの主流派政党が時代遅れの存在になるにつれて、ポピュリスト政党が台頭している。・・・

アメリカにおけるポピュリズムの歴史
―― ポピュリズムと政治的進化

2016年11月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

トランプはアメリカの無数の白人労働者階級と中間層が心の底に抱える不満と怒りに訴えることに成功したが、そのスローガンが「アメリカを再び偉大な国に」ではなく、「アメリカを再び憎み合う国に」であっても何の違和感もないほどに、否定的なメッセージを撒き散らした。ポピュリズムを台頭させたのは、金持ちを優遇する経済システム、移民に雇用を奪われる不安、大多数の幸福よりも自分の出世を重視する政治家に対する怒りだ。ポピュリストの訴求力を低下させるには、こうした不安や怒りに真剣に対処するしかない。つまり、うまく利用すれば、ポピュリズムを、民主主義を危険にさらすのではなく、民主主義を強化するきっかけにできる。実際、アメリカ人が機会の平等や民主的統治といった理念の実現を政治的エリートに求める上でポピュリズムに勝るパワフルな手段はない。そして二大政党のいずれかが、こうした人々の不安や懸念に対処していかない限り、ポピュリズムは今後も続くだろう。

マリーヌ・ルペンとの対話
―― フランスの文化、独立と自由を取り戻す

2016年11月号

マリーヌ・ルペン フランス国民戦線党首

「フランスは、欧州連合(EU)の一部であるときより、独立した国家だったときの方がパワフルだったと私は考えている。そのパワーを再発見することを望んでいる。EUは段階的に欧州ソビエト連邦のような枠組みへと姿を変えつつある。EUがすべてを決め、見解を押しつけ、民主的プロセスを閉ざしている。・・・メルケルは次第に自分がEUの指導者だという感覚をもつようになり、その見方をわれわれに押しつけるようになった。・・・私は反メルケルの立場をとっている。テロについては、移民の流れを食い止める必要があるし、特に国籍取得の出生地主義を止める必要がある。出生地主義以外に何の基準もないために、この国で生まれた者には無条件で国籍を与えている。われわれはテロ組織と関係している二重国籍の人物から国籍を取り上げるべきだろう。・・・・」 (聞き手 スチュアート・レイド Deputy Managing Editor)

米政権の交代で変化する金融政策
―― 金融政策の「政治サイクル」とは何か

2016年11月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

政府から独立した機関だとはいえ、連邦準備制度理事会も政治を完全に無視することはできない。実際、理事会は、大統領選挙シーズンには政治に大きな関心を寄せる。大統領が変われば、イデオロギーが変化し、新たに一連の政策がとられ、経済は大きな影響を受け、最終的には金融政策も見直さざるを得なくなるからだ。そこには金融政策の「政治的サイクル」が存在する。民主党から共和党へ政権担当政党が移行すると、長期的な金融緩和政策がとられることが多い。一方、民主党が政権を獲得すると、金融政策は引き締められる傾向がある。「連邦準備制度理事会は議長を任命した政党に利益を与えるように戦略的に行動し、投資を刺激し、停滞する経済を回復させるために金利を引き下げる」のだろうか。それとも、政治的なバイアスではなく、マクロ経済状況が連邦準備制度理事会の意思決定を左右しているのか。・・・

アメリカのインフラを再建するには

2016年11月号

アーロン・クライン ブルッキングス研究所経済研究フェロー

米国土木学会によると、アメリカにある橋の4分の1が構造的欠陥を抱えるか、老朽化しており、2013年を基準とすると、平均で建設されてから42年が経過し、しかも、建設時の想定を大幅に上回る負荷の交通量に耐えている。橋だけでなく、アメリカのインフラ全般が大きな問題を抱えている。道路は渋滞し、あちこちに穴が生じている。いまやアメリカは大きな岐路に立たされている。国内のインフラが崩壊し、橋が崩れ、渋滞が悪化するのを放置するか、それとも、ガソリン税を引き上げてインフラ投資を試み、人々がもっと速く、もっと安全に移動できるようにして、経済成長を後押しするか。・・・

新しい独裁者たち
―― なぜ個人独裁国家が増えているのか

2016年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー 米国家情報会議・副国家情報官 (ロシア・ユーラシア担当)
エリカ・フランツ ミシガン州立大学助教授(政治学)
ジョセフ・ライト ペンシルベニア州立大学准教授(政治学)

極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

「エネルギー貧困」を克服するには
―― 農業の近代化、工業化、都市化が鍵を握る

2016年11月号

テッド・ノードハウス ブレイクスルー研究所 共同設立者
シャイヤラ・デビ 同研究所アナリスト
アレックス・トレンバス 同研究所コミュニケーション・ディレクター

世界の20億人が依然として電力や天然ガスなどのエネルギー資源へのアクセスをもたない「エネルギー貧困」の状態に置かれている、しかも、近代的エネルギーへのアクセス拡大に向けた努力の多くは、(ソーラーなど)送電網から離れた小型の分散型エネルギーの供給に集中している。(孤立したソーラー発電でも)エネルギーアクセスを強化することにはなる。しかし、「エネルギー貧困」をなくすには、この問題が構造的な側面をもっていることに目を向ける必要がある。工業化、農業の近代化、都市化そして所得の上昇とエネルギー消費の拡大には明確な相関関係がある。だが、マイクロファイナンス、マイクロ企業のためのマイクロエネルギーでは、工業やインフラ、中央管理型電力網の代わりはできない。「エネルギー貧困」を克服するには、途上国と多国間組織は、「生産的で大規模な経済活動を支えるエネルギーインフラの開発」を優先する必要がある。問題は、ここで環境問題とのトレードオフが生じることだ。・・・

Page Top