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論文データベース(最新論文順)

裏切られた民主化
―― 南アに残存する人種差別と格差

2022年2月号

シソンケ・ムシマン 作家

アパルトヘイトからの民主化を果たしたアフリカ民族会議(ANC)は、白人から黒人への権力移行は過去との決別であるとアピールする一方で、この変革は「白人の財産や暮らしには影響を与えない」とかつての支配層を安心させるために、大きな努力をしてきた。多くの意味で、ANCは黒人への約束の多くを破る一方で、白人に対する約束は守ってきた。こうして、1日2ドルの貧困ライン以下の生活を余儀なくされている人の割合は、数十年にわたり高止まりし、格差は拡大している。南アフリカの人種統合は、アパルトヘイト末期よりもわずかに前に進んだが、経済的な格差は当時よりも拡大している。南アフリカの人々は今一度新たな取り決めを交わす必要がある。1990年代にまとめられた政治的了解ではなく、経済的な取り決めを交わし、南アフリカの豊かさが、貧困層にも広く共有されるようにする必要がある。



習近平が描く新世界秩序
――「中国の夢」を阻む最大の障害

2022年2月号

エリザベス・エコノミー  スタンフォード大学フーバー研究所  シニアフェロー

「東の世界が台頭し、西洋は衰退している」と主張する北京は、「世界は習近平のビジョンを受け入れている」と考えているようだ。しかし、中国モデルを採用することに派生する政治・経済コストが明らかになるにつれて、多くの国は習近平構想にあまり興味を示さなくなっている。全人代で「世界は中国のためにある」と確信しているかのような自信を彼はみせつけたが、そのような過信が仇となって、中国がその対外行動ゆえに外国で反発を買っていることに中国の指導者は気づいていないのかもしれない。習近平が成功できるかは、そうした世界の反発に対応できるかに左右される。そうできなければ、さらに誤算を重ね、彼が考えるのとは別の方向に世界秩序を変えることになるのかもしれない。


サプライチェーンの混乱と再編は続く
―― 産業政策と保護主義の長期的弊害

2022年2月号

シャノン・K・オニール  米外交問題評議会副会長

各国で産業政策が復活するにつれて、世界でいかにモノが作られ、提供されるかをめぐって構造的な変化が起きるかもしれない。グローバルな生産と流通を永久に変える可能性があるのは、パンデミックの一時的な余波ではなく、むしろこのような国の政策だ。市場や産業そして企業の活動に各国政府は直接的に影響を与えようと試みるようになった。理由は、グリーン経済への移行、公衆衛生対策、人権保護、国家安全保障など多岐にわたる。もちろん、保護主義や地政学的思惑もある。実際、経済・技術・国家安全保障上の思惑を基盤とする政策上のアメとムチの世界的な拡散とエスカレーションは、世界の半導体産業の再編にとってパンデミックによる供給不足以上に重要な意味合いを持っている。半導体だけではない。電気自動車などに使われる大容量バッテリー、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)、重要な医薬品などへの政府の関与も高まりつつある。

エルドアン時代の終わり?
―― 権威主義者をいかに退場させるか

2022年2月号

ソネル・カガプタイ  ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

2022年にはトルコのインフレ率は20%を超えると予想されており、もはや経済が好転する見込みはなくなりつつある。しかも、野党のリーダーたちは、エルドアンを倒すために2023年の選挙に向けて連帯することを約束している。これまで政治腐敗に手を染め、権力を乱用してきただけに、ひとたび権力ポストを追われれば、エルドアンは起訴される可能性が高く、それだけに大統領の座を維持するためにあらゆることを試みるだろう。公正な投票を妨害したり、投票結果を無視したりするかもしれない。トルコの民主主義の根幹を揺るがすことなく、スムーズな政権交代をいかに実現するか。これが、いまやこの国の切実な課題だろう。

社会の信頼をいかに再構築するか
―― サイバー攻撃が切り崩す信頼

2022年2月号

ジャクリーン・シュナイダー  スタンフォード大学フーバー研究所 フーバー・フェロー

ソーシャルメディアの偽アカウントを使った偽情報で何千人もの有権者の政治的立場を変化させられるのなら、サイバー攻撃を独裁者が躊躇する理由はない。よりパワフルなレジリエンスを構築できなければ、サイバー攻撃の連鎖とそれが生む不信感が、民主主義社会の基盤を脅かし続けることになる。しかも、デジタルへの依存が高まり、テクノロジー、人間、組織のつながりが希薄になればなるほど、「人と人との信頼を揺るがすサイバー空間の脅威」はより大きく、深刻になる。経済、重要インフラ、軍事力の基盤となるネットワークとデータ構造のレジリエンス強化を優先し、人と人との直接的なつながりと信頼を取り戻す必要がある。より強力なレジリエンスを構築できなければ、サイバー攻撃の連鎖とそれが生む不信感が、民主社会の基盤を脅かし続けることになる。


台湾有事と日米同盟
―― 事前協議で解決しておくべき課題

2022年2月号

デビッド・サックス  米外交問題評議会リサーチフェロー

中国は尖閣諸島を「台湾省」の一部とみなしているため、台湾をめぐって紛争になれば、尖閣諸島も攻略しようとするかもしれない。米軍の介入にもかかわらず、中国が目的を達成すれば、日本は、同盟国のアメリカはひどく弱体化したとみなし、外交政策や防衛態勢を根本的に見直さざるを得なくなるだろう。中国による台湾編入が成功すれば、日本の経済的安全保障も損なわれる。だが、市民の平和主義が根強いために、アメリカを支援することに伴う潜在的なコストやリスクが、日本による支援を制約することになるかもしれない。アメリカにとって重要なのは、中国が挑発もされないのに台湾を攻撃した場合に日本がどのように反応するか、東京がどのようなタイプの支援をどの程度提供する用意があるかについての理解を深めておくことだろう。

ウクライナ危機の本質
―― モスクワの本当の狙い

2022年2月号

アンジェラ・ステント ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ロシアによる国境地帯への戦力増強は、ワシントンの関心を引くことだけが目的ではない。キエフへの圧力を高めることで、ウクライナ近隣のヨーロッパ諸国を不安にさせ、ロシアの真の目的がどこにあるのかをアメリカに憶測させることも狙いのはずだ。実際、モスクワの意図を曖昧にすることが、実は目的なのかもしれない。ロシアの高官たちはこれまでも、その動機を隠し、敵やライバルに絶えずその意図を憶測させる「戦略的曖昧性」を創り出そうと試みてきた。だが、こうした曖昧さゆえに、ロシアの意図を読み違え、米欧が対応を誤るリスクは高まる。・・・

中東への新しいエンゲージメントを
―― 軍事援助から社会経済支援へ

2022年1月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンゼルス校 バークル国際関係センター シニアフェロー

アメリカが中東との関係を終わりにしたいと考えているとしても、アラブ諸国が同様に考えているわけではない。アメリカの中東からの撤退は現実的でないだけでなく、地域の人々の生活を向上させ、より公正な政治秩序の構築に貢献するためにアメリカはどのように政策を調整できるかという重要な議論を妨げてしまう。戦略的流動性のなかで、アメリカはこれまでとは違ったやり方で、経済開発と公平性のための戦略を考案し、遂行する機会を手にしている。巨大な軍事投資ではなく、現地の人々がより健全な生活を手に入れるのを妨げている社会経済問題や統治問題を解決するための投資を試みるべきだろう。


権威主義の黄昏
―― 民主主義は復活する

2022年1月号

マデレーン・オルブライト 元米国務長官

近年、中ロを含む権威主義国家の指導者の一部が力をもつようになったのは事実だが、その多くは、自らの約束をすでに実現できなくなっている。透明性の欠如や弱いものいじめ的なやり方ゆえに、中国を友好国とみなす国はもはや存在しない。ロシアの現政権も腐敗し、信頼できず、終演に近づくワンマンショーとみなされている。一方、民主主義の優れた財産とは、あらゆる人々に最善を尽くすことを求め、人権、個人の自由、そして社会的責任を尊重することを基盤にしていることだ。これに対して、独裁者が民衆に求めるのは服従だけだし、それが人々を鼓舞することはない。しかも、独裁者の多くはいまや自らの約束を実現できなくなり、民衆の不満は高まっている、民主主義の大義が死滅しつつあるわけではない。カムバックしつつある。

エネルギーの新地政学
―― エネルギー転換プロセスが引き起こす混乱

2022年1月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学クライメートスクール 学院長 メーガン・L・オサリバン  ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際関係)

クリーンエネルギーへの転換がスムーズなものになると考えるのは幻想に過ぎない。グローバル経済と地政学秩序を支えるエネルギーシステム全体を再構築するプロセスが世界的に大きな混乱を伴うものになるのは避けられないからだ。予想外の展開も起きる。例えば、産油国は、転換プロセスの初期段階ではかなりのブームを経験するはずで、クリーンエネルギーの新しい地政学が石油やガスの古い地政学と絡み合いをみせるようになる。クリーンエネルギーは国力の新たな源泉となるが、それ自体が新たなリスクと不確実性をもたらす。途上国と先進国だけでなく、ロシアと欧米の対立も先鋭化する。クリーンエネルギーへの移行が引き起こす地政学リスクを軽減する措置を講じないかぎり、世界は今後数年のうちに、グローバル政治を再編へ向かわせるような新たな経済・安全保障上の脅威を含む、衝撃的な一連のショック(非継続性)に直面するだろう。

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