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論文データベース(最新論文順)

ウクライナ戦争と食糧危機
―― 小麦粉不足と中東の社会騒乱

2022年6月号

カリ・ロビンソン Writer@cfr.org

世界の穀倉地帯であるロシアとウクライナは、小麦、トウモロコシ、大麦などの穀物の主要輸出国だ。2020年まで、両国は生産した小麦の約半分を中東や北アフリカの国々に輸出してきた。だがウクライナ戦争が、穀物、種子油、食用油、肥料など、中東・北アフリカがもっとも必要とする物資の供給を妨げている。こうして、多くの地域諸国が政策を見直し、代替策を模索している。例えば、エジプトは数カ月分の食糧を備蓄し、アラブ首長国連邦から資金援助を受けて、パン(小麦粉)の価格統制を維持している。各国は特にパンの値上げを何とか回避しようとしている。この地域の多くの国ではパンに対する補助金は社会契約の一部と考えられており、値上げは不安を煽ることになる。一般に「アラブの春」として知られる中東・北アフリカの反乱も、2010年のロシア小麦の不作に派生する値上げの後に起きている。

戦争をいかに終結させるか
―― 成功の定義、キーウが求める条件とは

2022年6月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ウクライナでの戦争を可能な限り早く、キーウの民主的政府が受け入れる条件で終わらせること、これが欧米にとっての成功の定義だろう。しかし、その条件とは何だろうか。この2カ月で失った領土のすべてを回復することだろうか。ドンバスとクリミアからのロシア軍の完全撤退を求めるのか。それとも、ヨーロッパ連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)に加盟することなのか。これらのすべてをロシアが署名する文書に記載するよう主張するのか。プーチンが選択し、始めた戦争だとしても、もはやプーチンだけでは戦争を終結させることはできない。プーチンとゼレンスキーはともに、敵対行動を停止させるために必要な領土と条件が何であるかを検討し、戦闘の終結を命令するだけでなく、和平協定を締結し、それを尊重できるかどうかも考える必要がある。

AIをいかに戦力に取り込むか
―― 未来の戦力をどう評価する

2022年6月号

マイケル・C・ホロウィッツ ペンシルベニア大学教授
ローレン・カーン 外交問題評議会(CFR)リサーチフェロー
ローラ・レズニック・サモティン コロンビア大学 ポストドクトラル・リサーチ・スカラー

AIは、いまや防衛技術における進化のすべての中枢に位置し、戦力の配備や戦闘方法にまで影響を与えている。ロシアとウクライナはともにアルゴリズムを使ってソーシャルメディアと戦場から入ってくる膨大なデータを分析し、自国の攻撃にこれらの情報を生かしている。一方、ペンタゴンはAIと自律型兵器システムを含む新技術の重要性を説きつつも、軍事領域での応用ペースは緩慢だ。こうしたアメリカのAI軍事技術開発の遅れは、もっともパワフルな地政学的ライバルである中国の動きとは対照的だ。AI技術を軍事戦略、計画立案、システムに統合することに向けて中国はより積極的な動きをみせ、台湾をめぐる未来の紛争の戦闘スキームにもAIを組み込んでいる。アメリカは現状に満足するのではなく、その軍事力を未来に向けて適応させ、再編していく必要がある。・・・

ロシアとの連帯という幻想
―― 中国の間違った選択

2022年6月号

オッド・アルネ・ウェスタッド イェール大学教授(歴史・国際関係)

ウクライナでの戦争を欧米と中ロという二つのブロックを対立させる新冷戦の最初の一幕とみなす専門家もいる。かつての冷戦のように、今回も経済体制の違いだけでなく、イデオロギー的な違いもあるとみなし、新冷戦は「民主主義と権威主義、市場経済と国家主導型経済」の闘いと規定している。だが(かつての共産主義ブロックとは違って)現在の中ロは政治体制も経済制度も大きく違っており、一枚岩とはみなせない。豊かなエネルギーや鉱物資源がどれほど魅力的でも、近隣諸国との永遠の争いに明け暮れるモスクワの弱体政権との連帯が、中国の利益になるとは思えない。

中ロの行動をいかに抑えるか
―― 国際システムとアウトサイダー

2022年6月号

ステーシー・E・ゴダード  ウェルズリー大学教授(政治学) オルブライト研究所所長

中ロは連携しているが、まったく異なるタイプのリビジョニストであることを認識する必要がある。中国の攻勢はそれほど暴力的ではないが、大きな影響力をもっている。モスクワが破壊と暴力の戦略に依存してきたのに対し、北京はネットワークの拡大と国際秩序における地位を通じて影響力を行使してきた。冷戦後のアメリカは、現状に挑戦する手段と動機を兼ね備えたリビジョニスト国家を秩序に取り込む戦略をとってきたが、いまや新たなアプローチが必要だろう。アメリカは、国際秩序をライバルの基本的キャラクターを変革する枠組みではなく、こちらの意向を伝え、紛争を解決し、明確なレッドラインを設定するフォーラムとみなすべきだ。中国やロシアを変えるという高邁な計画でなくても、制度への取り込みを放棄しなくても、このやり方でリビジョニストを抑制できる。

そして「欧米と中露」の対立へ
―― 現状を規定する歴史の源流とは

2022年6月号

スティーブン・コトキン プリンストン大学教授(歴史学)

変化の源流は第二次世界大戦期にあり、冷戦期に流れは大きくなった。西側を基盤に戦後に形成された欧米の勢力圏が各国に繁栄と平和を提供しているのに対して、ロシアがウクライナで、中国がアジア地域およびアジアを越えて形成しつつある勢力圏は閉鎖性と強制を特徴とする。現在の中国は、外からの封鎖や制裁に耐えられるように、戦争を別とすれば、ナチス・ドイツや帝国日本が模索した戦略をとっている。プーチンが世界にロシア包囲網を築かれるなか、習近平はそうした努力をさらに強化していくはずだ。帝国は消えては現れるが、(経済・政治)ブロックは存続していく。だが、欧米は明確な優位をもっている。それは失敗から学べることだ。

人口減少に苦しむ中国
―― 一人っ子政策は放棄したが・・・

2022年6月号

カール・ミンズナー 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究)

長年にわたる産児制限策を撤廃すれば、出生率は上昇し、人口は増えると北京は考えていた。2013年、夫婦のどちらかが一人っ子の場合、二人の子どもを持つことを認めると発表し、2016年には一人っ子政策は正式に廃止され、二人っ子政策となった。そして2021年には三人っ子政策が導入された。だが、どれも十分な効果はなかった。共産党が「伝統的なジェンダー規範」を復活させたことも、出生率低下の根本原因を悪化させるだろう。北京は、女性を苦しめるイデオロギー的な政策転換をやめ、人口の高齢化を受け入れるべきだ。定年退職年齢を引き上げて、持続不可能な年金額を引き下げ、高齢者、特に貧しい農村の高齢者のための介護制度を改善して少子高齢化の余波に対処する必要がある。そうしない限り、中国の人口動態はさらに悪化し、最終的には、一段と過激で痛みを伴う政策転換が必要になる。・・・

領土征服時代への回帰?
―― 世界秩序の未来を左右するウクライナ

2022年6月号

タニシャ・M・ファザル ミネソタ大学教授(政治学)

いまやロシアの侵攻によって、領土の侵略と征服を禁止する規範が、第二次世界大戦以降、もっとも深刻に脅かされている。国際社会がロシアによるウクライナ領土の編入を許せば、各国はより頻繁に国境線を武力で変更しようと試みるようになり、戦争が起き、帝国が復活し、消滅の危機に瀕する国が増えるかもしれない。侵略と征服を禁止する規範が薄れてゆけば、世界は領土紛争のパンドラの箱を開け、数百万の市民が無差別攻撃の標的にされる恐れもある。だが、国際社会は経済制裁と国際法廷を利用して、ロシアの粗野で違法な侵略行為にペナルティを科すことができる。国際社会が領土の征服を禁止する規範を擁護できなければ、大国と国境を接する諸国はかなりの消滅リスクに直面することになる。

ウクライナ戦争と中国の選択
―― 軍事と経済を区別したバランス戦略

2022年6月号

閻学通 清華大学 教授 国際関係研究院 学院長

「経済制裁で威嚇してもロシアのウクライナ侵攻を抑止できなかったアメリカは、いまや紛争の終結から長期化へと目標を見直している」と北京では考えられている。バイデン自身、「この先長い戦いに備えなければならない」と発言している。オースチン米国防長官が「ウクライナに侵攻できない程度にロシアが弱体化することを望んでいる」と発言したことも、アメリカはロシアの弱体化を優先しているという中国側の確信を高めている。北京は「ロシアを泥沼に引きずり込もうと(ワシントンは)ウクライナでの紛争を長引かせるつもりではないか」と懸念する一方、ロシアのウクライナ戦争についての中国の言動がどのようなものであれ、ワシントンが対中封じ込め戦略を緩めるとは考えにくいとみている。

中国経済は低成長期へ
―― 世界経済への意味合い

2022年6月号

ダニエル・H・ローゼン ロジウム・グループ パートナー

企業投資、家計や政府の支出、貿易黒字からみても、中国の国内総生産(GDP)がこれまでのような成長を持続できるとは考えにくい。現実には、2022年に2%の成長を維持することさえ難しく、正確に計測すれば、2022年はゼロ成長、あるいは景気後退に陥る危険もある。基本的な財政・金融・その他の改革を遂行せずに、政治的に決定された高い成長目標を永続的に達成できると信じる理由はどこにもない。ワシントンは「中国経済が問題に直面している」という現実への関心を責任ある形で喚起すべきだろう。中国の経済成長の鈍化は、14億の中国人だけでなく、世界の多くの人の経済的繁栄を損なうことになるのだから。・・・

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