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論文データベース(最新論文順)

ヘイトというアメリカの病
―― 銃乱射とオンライン過激主義

2022年9月号

シンシア・ミラー=イドリス アメリカン大学公共政策大学院教授

全米各地で数多く起きている大量殺人事件の犯人には共通する有害な特性がある。それは、殺人願望や暴力的なニヒリズム、自傷行為、自殺願望を抱いてきた過去があること、引きこもりで友人や家族との交流が乏しいこと、動物をいたぶったり殺したりし、女性にストーカー行為や嫌がらせをし、レイプなど身体的危害を加える脅しをするなどの残虐性をもっていることだ。もう一つの共通点は暴力的なオンライン・コンテンツに関わっていたことだ、当局は危険人物の行動を阻止するだけでなく、彼らが入り浸るオンライン世界の対策に力を入れなければならない。過激化の終着地点である銃撃への対応にばかり集中するのではなく、そもそも個人がオンラインで憎悪や危害に関わっていくのを阻止することに力を入れる必要がある。

ロシアのヨーロッパ分断戦略
―― エネルギー危機が揺るがす欧州の連帯

2022年9月号

ナタリー・トッチ 伊国際問題研究所 ディレクター

ウクライナ戦争をめぐるヨーロッパの連帯はいつまで維持されるのか。それを崩壊させるのは何か。連帯を脅かす最大の脅威は、戦闘が比較的小康状態になることかもしれない。この状況でエネルギー危機がさらに深刻化すれば、モスクワが一部のEU諸国に働きかけてキーウに譲歩を迫らせることも不可能ではなくなるかもしれない。エネルギー危機は、欧州のポピュリストを台頭させる機会を提供しており、ヨーロッパの結束だけでなく、欧州連合(EU)の存続さえ危うくする恐れがある。すでに分裂は起き始めている。バルト諸国やポーランドなどウクライナと国境を接する諸国が、経済制裁と力強い軍事支援を通じて正義をもたらすことを求めているのに対して、イタリア、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国はロシアとの妥協に傾き始めている。・・・

プーチンの新警察国家
―― スターリン化するプーチン

2022年9月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査報道ジャーナリスト
イリーナ・ボロガン 調査報道ジャーナリスト

ウラジーミル・プーチンは、連邦保安局(FSB)を、ロシア内外における政治問題に解決策を提供する即応部隊にしたいと考えていた。だが、繰り返し失望させられて考えを改めた彼は、ソビエト期のKGB(国家保安委員会)に近い任務を与えた。つまり、エリートを含むロシア民衆を脅すことで、政治的安定をもたらすツールとして利用した。しかし、ウクライナ戦争開始以降の動きは、プーチンが再びFSBの任務を見直したことを示している。いまやFSBは、1970―1980年代のKGBではなく、市民の厳格な統制を目指したスターリンの諜報機関、内務人民委員部(NKVD)に似てきている。NKVDが強大で恐れられる存在だったのは、それが国や党ではなく、スターリンだけに従う組織だったからだ。ウクライナ戦争が始まって以降、プーチンの拡大する警察国家の管理組織は、どうみてもNKVDに近づいている。・・・

ウクライナ戦争はもはや制御不能か
―― レッドラインとエスカレーション

2022年9月号

リアナ・フィックス 独ケルバー財団 プログラム・ディレクター(国際関係)
マイケル・キマージュ 米カトリック大学教授(歴史学)

プーチンは傲慢さと怒りから、欧米を驚かせ、徹底的に脅かすには、戦争を劇的にエスカレートさせるしかないと判断する恐れがある。「現状がかつてないものであること」を認識する必要がある。何年も続く可能性のある大きな戦争が、無政府状態に近づきつつある国際システムの中枢で血を流している。リベラルな国際秩序のルールに従うように教育されてきた同盟国の政策立案者と外交官は、無秩序のなかを歩んでいくことを学んでいかなければならない。「戦場の霧」が、ソーシャルメディアのスピードと信頼性の低さによってさらに濃くなり、辺りを覆っている。この霧がもっともうまく考案された戦略さえも曖昧にしてしまうかもしれない。世界を震撼させたキューバ・ミサイル危機は13日間続いたが、ウクライナ戦争が引き起こす危機は今後長期的に続く。

マジックマネー時代の終焉
―― 大規模緩和策の未来

2022年9月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー (国際経済担当)

経済対策としての大規模緩和策(マジックマネー)は今後どうなるのか。当面、それは選択肢から外される。優先すべきはインフレの抑制であり、これはFRBの信頼性を維持するための必要条件だ。それなくして経済の安定はあり得ない。今回のインフレとの闘いには時間がかかるかもしれない。1992年から2022年までの30年間、低インフレ・低金利の時代が続いたのは、グローバリゼーションが物価を抑え込んだ結果だった。しかし、グローバル化は行き詰まり、戦略物資の備蓄やサプライチェーンの再編が進められているために、インフレはさらに加速するだろう。だがFRBはなぜ判断を間違えたのか、その本当の教訓とは何なのか。

次に何が起きるのか
―― ペロシ訪台と米中関係

2022年9月号

デービッド・サックス 外交問題評議会リサーチアソシエート

第4次台湾海峡危機を前にしているというには時期尚早だが、そこに向かいつつある。中国がこれまでにとった軍事的牽制策は、手始めにすぎず、今後数週間から数カ月の間に、中国は台湾に対する軍事的圧力をさらに高めてくると予想される。より多くの航空機を使った防空識別圏への侵入や中央線の越境がより頻繁に起きるかもしれない。また、台湾の領空や上空に軍用機を飛ばし、エスカレートさせることも考えられる。さらに台湾製品の輸入を禁止し、台湾企業の大陸での活動をより困難にしようとするかもしれない。ペロシ訪中の代償を台湾が支払う以上、アメリカは台湾の痛みを和らげるための努力をしなければならない。

経済秩序とヒエラルヒー
―― 経済主権という幻想

2022年8月号

ブランコ・ミラノビッチ ニューヨーク市立大学 大学院センター教授

いかなる国際経済秩序も「不平等で分裂した主権」で校正される不安定な基盤の上に成り立っている。表向きは対等な加盟国によって構成されていた国際連盟においても、フランス、イタリア、イギリスという戦勝国とその傍らにいたアメリカは、「自国に弱小の加盟国と同じルールが適用される」とは考えてもいなかった。アジアの国である日本には、そもそも大した影響力はなかった。アフリカ諸国や植民地は、このヒエラルヒーの最底辺に位置づけられた。同じような序列は今も続いている。IMFや世界銀行は、融資の見返りに改革を求めるなど、加盟国の主権を日常的に侵害してきた。パワフルな国内の社会集団が自らの求める政策を定着させるために国際条約を結んで、主権を削り取ることも多い。国際経済システムが主権そして主権の平等を尊重すると期待するのは、あまり現実的ではないだろう。

世界食糧危機をいかに緩和するか
―― 農業大国アメリカのポテンシャル

2022年8月号

カーライル・フォード・ランゲ ミネソタ大学 栄誉教授(応用経済学、法学)
ロビン・S・ジョンソン 元カーギル社 上席副会長(グローバル担当)

ロシアの黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が妨げられ、ロシアの輸出も経済制裁によって抑え込まれている。こうして、ボスポラス海峡を通過するウクライナやロシアの小麦やトウモロコシの輸出が大きく減少し、エジプトだけでなく、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、南スーダン、イエメンを含む中東や北アフリカの多くの国々が食糧危機(供給不足、価格高騰)に苦しんでいる。途上国への食糧支援を十分に提供できる立場にある農業大国のアメリカは、飢餓に苦しむ世界に援助を拡大すべきだし、その経験もノウハウももっている。第二次世界大戦期のレンドリースといえば、イギリスへの船舶や軍需品を供給したことが先ず想起されるが、実は食糧援助も含まれていた。・・・

経済制裁とインフレ
―― 経済制裁が引き起こす人道的ダメージ

2022年8月号

イスファンディヤール・ バトマンゲリジ ヨーロッパ外交評議会客員研究員 エリカ・モネット 国際・開発研究大学・グローバル・ ガバナンス・センター シニアリサーチャー

経済制裁対象国で何百万もの人々を悲惨な生活に追い込んでいる高インフレの多くは、まさしく欧米の制裁によって引き起こされている。実際、アメリカや欧州連合(EU)の主要な制裁下にあるすべての国で高インフレが認められる。(インフレによって)無差別に多くの人が経済的苦境に直面すれば、苛立ち、疲れた相手国の民衆は(政府に対応を求めて)街頭に繰り出すかもしれない。だが、問題国の政府がこれで行動を見直すことはない。ワシントンは制裁がどのように相手国のインフレに拍車をかけ、食糧や医薬品などの必需品の価格を上昇させるかを理解する必要がある。アメリカが外交利益のために制裁を実施していると考えても、世界の多くの人は、それを実質的な経済戦争として体験している。

ウクライナとEU
―― ヨーロッパへの第一歩

2022年8月号

マティアス・マタイス CFRシニアフェロー

プーチンはこれまで、ウクライナの欧州連合(EU)加盟よりも北大西洋条約機構(NATO)への加盟に強く反対していると明言してきた。同様に、フィンランドやスウェーデンのEU加盟は問題ないが、NATO加盟申請は挑発行為とみなすと発言している。だが、2014年のマイダン革命が、「ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)がEUとの関係よりもロシアとのより緊密な経済関係を選択したこと」に対する反動だったことを考えれば、ウクライナ市民の立場ははっきりしている。いまやウクライナはより明確に欧米へと舵をとり、すでにEUの加盟候補国の地位を手に入れた。もちろん、正式加盟には時間がかかるとしても、ウクライナ民衆はいまや「自分たちが何のために戦っているのか」を理解している。それは、「欧米とより完全に統合された、自由で民主的な未来」に他ならない。

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