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論文データベース(最新論文順)

スノーデン時代の国家機密 ―― 機密情報のリークは正当化されるか?

2014年4月

ジャック・シェーファー ロイター コラムニスト

E・スノーデンのリークが国家安全保障に与えたダメージを割り引いて捉えるのは依然として時期尚早かもしれない。だが、米下院議員のほぼ半数、そしてグーグルやマイクロソフトを含むトップインターネット企業がスノーデンファイルを紹介したメディアが暴き出した米政府のスパイ行為に対して団結して抗議する声明を出している。現実には「必要以上に多くの文書が機密扱いとされ」、そのなかには国家安全保障に関する情報だけでなく、「公開されれば政府が困惑する行動や案件も機密情報とされている」。スノーデンケースのような手続きを無視したアンオーソライズドリークの一方で、政策を説明し、政策を守って遂行するための政府高官によるオーソライズドリークはすでに日常化している。より全般的に言えば、秘密をつくり、それを管理していくことは、これまでも政治家の大きな権限の源だった。そして政治家が権力に近づくにつれて、その誘惑は大きくなる。これを監視できるのは、議会でも裁判所でもない。それはやはりジャーナリズムの役目だろう。

ウクライナ後の欧州連合

2014年4月号

キャサリン・マクナマラ ジョージタウン大学准教授(政治学)

そもそもウクライナで抗議運動が広がったのは、EUとのさらなる統合に人々が魅力を感じていたにも関わらず、ヤヌコビッチがヨーロッパとの関係を断ち切ったからだ。そのウクライナのために行動しないとすれば、EUは一体どこで積極策に出るのか。多くの人は現状を不可解に感じている。だがこれには訳がある。一つは、ヨーロッパが伝統的な地政学ではなく「人間の安全保障」を重視しているためだ。軍事的対応を重視していないし、しかもEUは内に分裂を抱えている。ポーランドとリトアニアがロシアに対する強硬策を求めているのに対して、ロシアからの天然ガスの最大の輸入国である独仏は慎重な態度を崩していない。EUがいかなる対応策をとるとしても、それは目につきにくく、アメリカやイギリスの専門家に冷笑されるような路線になるのは避けられない。しかし、対決しないことと影響力がないことを同列にみなすのは間違っている。・・・

プーチンの目的はロシア国内にある
―― クリミア侵略とロシアの国内政治

2014年4月号

ブライアン・D・テイラー シラキュース大学准教授(政治学)

プーチンは、(ヤヌコビッチ政権を倒した)ウクライナの革命を、「ロシアの地政学的な敗北」とみていただけでなく、「その背後には欧米がいる」と考えていた。プーチンにとってウクライナの革命が厄介だったのは、それが、ロシアの政治・経済システムの脆弱性への懸念が高まっていたタイミングで起きただけでなく、ウクライナ人が不満を感じ、立ち上がったのと同じ問題がロシアにも存在したからだ。支配エリートと経済オリガークたちのつながりを前提とする腐敗した略奪政治に対する不満はロシアにも存在する。しかも、今後の経済展望に明るい部分はなく、ロシア政治は対立で覆われている。プーチンはウクライナの革命がロシアへと飛び火することを警戒している。だが、そうだとすれば、出口戦略を描くのは不可能ではないだろう。・・・

中国は欧米秩序を拒絶する ―― 米中衝突が避けられない理由

2014年4月号

ミンシン・ペイ クレアモント・マッケンナ大学教授(政治学)

中国による防空識別圏の設定は「それなりの力を獲得すれば、北京は欧米の秩序に挑戦することを躊躇しない」とみるリアリストの警告が正しかったことを意味する。「開放性やルールに基づく行動」を基盤とする現在の国際システムと、「閉鎖的な政治と権力の恣意的行使」を特徴とする中国の国内体制とのギャップからみても、中国のエリート層が欧米秩序に正統性を見いだす日がやってくるはずはない。中国は今後さらに力をつけるにつれて、既存秩序の変更を求めるか、中国にとって好ましい秩序を構築しようとするはずだ。それは、独自のルールで動き、欧米を排除し、中国が支配的役割を果たす秩序になるだろう。もはやアメリカは「同盟国やパートナーとの関係を強化し、地域国家が中国に翻弄されないようにする」リアリスト路線をとるしかない。

ユーラシア主義か、栄誉ある小さな戦争か
―― 三つのシナリオとプーチンの選択

2014年4月号

アレクサンダー・モティル ラトガース大学教授

プーチンがユーラシア主義のイデオロギーや権力志向に取り憑かれ、合理的な思考を失い、ウクライナ侵略のコストと利益を判断できなくなっているとすれば、彼は今後も現在の路線を突き進むと考えるのが無難だろう。ウクライナに対する大規模な地上戦の開始を阻むものは何もない。一方、プーチンが合理的な考えを取り戻し、コストと利益のバランス、ユーラシア主義路線の余波を見極めることができれば、ウクライナと世界秩序を破壊する前に、侵略を止めるだろう。プーチンは、(ユーラシア主義の)イデオロギー、地政学的利益、そして自己利益から、今回の行動に出ている。だが指導者を突き動かすのはイデオロギーだけではない。欧米が厳格な対抗策をとれば、プーチンにもロシアにもほとんど利益をもたらさないコストのかさむ戦争への代替策、それも面目を失わずに済む代替策を模索するように促すことができるだろう。

モバイルファイナンス革命 ―― 携帯電話と経済開発

2014年4月号

ジェイク・ケンドール  ビル&メリンダ・ゲイツ財団 貧困層金融サービスプログラム 上級プログラムオフィサー 、 ロジャー・ブーリーズ  ビル&メリンダ・ゲイツ財団 貧困層金融サービスプログラム ディレクター

モバイルファイナンスは、従来の金融サービスモデルに対して少なくとも三つの優位を備えている。第1は、デジタル取引が本質的に無料であること。第2は、モバイルコミュニケーションが膨大なデータを生み出し、銀行などのサービス提供者はデータを利用して収益性の大きいサービスを開発できるだけでなく、従来の信用評価に代えてデータを利用できること。そして第3は、モバイルプラットフォームが、銀行と顧客をリアルタイムでつなげることだ。このモバイルファイナンスが途上国の経済開発を大きく変化させている。世界銀行によれば、モバイルネットワークは世界の貧困地域の約90%をカバーしており、平均すれば途上国で暮らす100人のうち89人が携帯電話を利用している。これは非常に大きな機会がそこに存在することを意味する。モバイルテクノロジーを利用する金融ツールは、貧困層に金融サービスを提供するコストを大きく低下させるだけでなく、経済開発を加速する大きなポテンシャルを秘めている。

クリミアは手始めにすぎない
――プーチンが欧米世界に突きつけた
果たし状

2014年4月号

アイバン・クラステフ
(ブルガリア)リベラル戦略センター 理事長

プーチンが軍事力に訴えたのは、他に選択肢がなかったからではなく、欧米のゲームルールを変えたいと考えたからだ。実際、キエフに圧力をかけることが目的なら、他にも多くのやり方が存在した。最近の行動からみれば、プーチンの戦略目的は、クリミアを他のウクライナ地域から切り離すことではない。ロシアとの統合を高めたウクライナ東部を内包する連合国家へとウクライナを変貌させることが狙いだ。クリミアでの行動を通じて、彼は法的な規範と冷戦後のヨーロッパ秩序構造を疑問に感じていることをはっきりと示した。プーチンは今回の行動を通じて欧米世界に果たし状を突きつけたことになる。彼は欧米の近代的価値を拒絶し、ロシアとヨーロッパ世界との間に明確な境界線を引こうとしている。プーチンにとって、クリミアはその手始めにすぎない。

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

シェール革命の地政学的衝撃

2014年4月号

ロバート・ブラックウィル 米外交問題評議会シニアフェロー
ミーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール教授

シェール革命によって、世界のエネルギー生産の中枢はユーラシア(ロシア)や中東から他の地域へとシフトし始めている。このグローバル規模での生産と供給のシフトは何を引き起こすか。おそらくエネルギー価格を大きく引き下げる。エネルギー輸出に歳入の多くを依存するロシアと中東産油国は、エネルギー価格の低下によって苦しい財政状況に追い込まれ、政治的安定が揺るがされるかもしれない。一方、供給の拡大と多角化によって世界のエネルギー輸入国は大きな恩恵を手にする。日本や韓国のような東アジアの同盟諸国は、北米からより多くのエネルギー資源を直接輸入し、安定した供給を確保し、エネルギー安全保障を確立するだろう。アメリカの新たなエネルギー資源を、非友好的なエネルギー供給国によって同盟国やパートナーがいたぶられるのを阻止するために用いることもできる。今後、グローバルなエネルギーの流れは大きく変化し、経済関係だけでなく、地政学環境も変化していく。・・・

ヨーロッパかロシアか、それが問題だ
―― ウクライナのナショナリズム

2014年4月号

オーランド・フィゲス
ロンドン大学バークベックカレッジ教授(歴史学)

ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。ロシアはウクライナのエネルギー供給を支配している上に、債務の大半を所有している。両国は産業面でも深く結びついている。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。街頭で抗議を行っている人々が求めた改革を実現するにはヨーロッパに目を向けるしかない。ただし、ウクライナのナショナリストたちは、ヨーロッパへの期待も幻想に過ぎないかもしれないことを忘れてはならない。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。

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