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変化した日本の政治とナショナリズム

マルガリータ・エステベズ・アベ
シラキュース大学政治学部准教授

Feeling Triumphalist in Tokyo

2014年5月号掲載論文

安倍首相の人気の高さと政治的影響力のどの程度が、ナショナリスティックな外交政策を求めるようになった日本の大衆の立場の変化を映し出しているのかは分からない。たしかに、尖閣問題もあって、2012年には、日本人の81%が中国には親近感がないか、どちらかといえばそうした感情を覚えないと答えている。安倍首相がこれまでの政治キャリアを保守主義や国家主義に即して積み上げてきたのも事実だ。だが、ナショナリスト路線を検証するには選挙制度改革が作り出した政治環境、普通の国への道筋をめぐる論争、そして中国の台頭が与えている影響も考える必要がある。選挙制度改革の結果、野心的な政治家が重要な国家アジェンダに特化できる環境が作り出され、国家安全保障とそれに付随するナショナリズムが有権者への訴求力を持っていることにいち早く気づいたのが自民党の政治家たちだった。・・・・

  • ナショナリズム台頭の背景 <一部公開>
  • 日本はアジア国家なのか
  • 普通の国への二つのアプローチ
  • 選挙制度改革
  • 選挙と尖閣とナショナリズム
  • 安倍政権の復活

<ナショナリズム台頭の背景>

ここにきて再び日本がニュースで取り上げられるようになったが、最近のテーマは日本経済のリセッションや原発危機ではない。この1年というもの、日本に関するニュース報道の多くは、5年前に首相に就任しつつも1年で辞任し、2012年に首相に返り咲いた安倍晋三率いる現在の日本の新たな積極路線をテーマに取り上げている。アベノミクスとして知られる量的緩和、財政出動、構造改革を組み合わせた安倍政権の経済政策は株価を引き上げ、日本経済の今後への楽観論を高めることに成功している。

一方で安倍は、過去の忌まわしいエピソードに汚されていない「美しい国」という概念を促進することで、愛国心を高めようと試みた。これまでの日本は、第二次世界大戦の歴史に配慮し、慎重さを心がけ、何事も控えめに徹してきた。だが、安倍と彼の同僚政治家たちは、これまでの路線と明確に決別し、日本の国家的な強さへの自信とプライドを表明し、20世紀における日本の行動は他の植民地支配国のそれと変わらなかったと主張している。

安倍晋三は、政治キャリアをこうした国家主義的テーマに即して積み上げてきた。2006―07年に最初に首相を務めたときも、保守的な教育政策を重視し、日本の防衛庁を防衛省に格上げした。だが当時の彼は中国を挑発することを避け、とかく論争を巻き起こす靖国神社参拝を見合わせた。靖国神社は戦没者を慰霊する神社だが、先の大戦をめぐって戦犯とされた数多くの政治・軍事指導者たちも合祀されている。

今回彼は、前回とは異なる路線をとっている。ここにきて、日本の中国や韓国との関係はとみに悪化している。それでも安倍は2013年?月に靖国参拝を決断し、予想された通り、北京とソウルはこれに強い反発を示した。靖国参拝は、安倍首相が内外の問題を問わず非常に大胆になっていることを印象づけた。彼の人気の高さと政治的影響力のどの程度が、より積極的でナショナリスティックな外交政策を求めるようになった日本社会の変化を映し出しているのかは分からない。だがいまやこの数十年という時間枠でみても、アジアにおける緊張がもっとも高まっているだけに、この変化が厄介な問題を作り出すことになるかもしれない。

デヴィッド・ピリングの新著「Bending Adversity(災い転じて福となす)」は、こうした疑問を考える上で有益な洞察を示している。ピリングはフィナンシャルタイムズ紙のアジアエディターで、2002―2008年には同紙の東京支局長を務めている。数多くの文書とインタビューを用いて、彼は安倍と彼の同僚政治家たちの「保守的ナショナリズムブランド」の解明を試みている。

ピリングは、安倍首相の世界観の歴史的ルーツを明らかにし、彼のビジョンが日本社会と近隣諸国との関係に与える影響についても比較的前向きの予想をしている。だが、最近の歴史、特に一連の選挙改革が、安倍首相がより攻撃的なナショナリズムを標榜してもおかしくない政治環境を作り出していることを理解すれば、楽観を許すような結論は出てこないだろう。

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