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論文データベース(最新論文順)

流れは独ロが規定する新ヨーロッパへ
―― ウクライナ危機と独ロの特別な関係

2014年4月号

ミッチェル・A・オレンシュタイン
ノースイースタン大学教授(政治学)

ヨーロッパでの紛争を回避するために戦後ドイツがフランスとともに西側の枠組みに参加したように、冷戦後のドイツは東ヨーロッパにおける平和的な秩序を支えようと、クレムリンとの強固なパートナーシップの構築を試みた。そしてウクライナ危機が起きた。ヨーロッパとの明確な境界線を引きたいロシアにとっては、クリミアの支配という現状を維持し、ウクライナを不安定化させようと試みるのが合理的なのかもしれない。一方、ドイツは、ロシアとウクライナを直接交渉させる道筋へと向かわせたいと考えている。ロシアに対する制裁には及び腰で、むしろ緊張緩和に努めているとしても、ドイツはウクライナをヨーロッパの経済的軌道に組み込むことを決意しているようだ。クリミアの混迷は膠着状態から抜け出せないかもしれないが、いずれドイツとロシアは協調し、いまはまだ共有していない新しいヨーロッパのビジョンに向けて動き出すかもしれない。

シェール革命の地政学的衝撃

2014年4月号

ロバート・ブラックウィル 米外交問題評議会シニアフェロー
ミーガン・L・オサリバン ハーバード大学ケネディスクール教授

シェール革命によって、世界のエネルギー生産の中枢はユーラシア(ロシア)や中東から他の地域へとシフトし始めている。このグローバル規模での生産と供給のシフトは何を引き起こすか。おそらくエネルギー価格を大きく引き下げる。エネルギー輸出に歳入の多くを依存するロシアと中東産油国は、エネルギー価格の低下によって苦しい財政状況に追い込まれ、政治的安定が揺るがされるかもしれない。一方、供給の拡大と多角化によって世界のエネルギー輸入国は大きな恩恵を手にする。日本や韓国のような東アジアの同盟諸国は、北米からより多くのエネルギー資源を直接輸入し、安定した供給を確保し、エネルギー安全保障を確立するだろう。アメリカの新たなエネルギー資源を、非友好的なエネルギー供給国によって同盟国やパートナーがいたぶられるのを阻止するために用いることもできる。今後、グローバルなエネルギーの流れは大きく変化し、経済関係だけでなく、地政学環境も変化していく。・・・

ヨーロッパかロシアか、それが問題だ
―― ウクライナのナショナリズム

2014年4月号

オーランド・フィゲス
ロンドン大学バークベックカレッジ教授(歴史学)

ウクライナが現在直面している苦悩の中枢には、ロシアとの「戦略的パートナーシップ」に対する抵抗感と、「腐敗した政府からウクライナを政治的・経済的に救えるのはヨーロッパだ」という認識の間の葛藤がある。短期的には、ウクライナはロシアと仲違いするわけにはいかない。ロシアはウクライナのエネルギー供給を支配している上に、債務の大半を所有している。両国は産業面でも深く結びついている。だが長期的には、ウクライナにとって最大の期待はヨーロッパだ。街頭で抗議を行っている人々が求めた改革を実現するにはヨーロッパに目を向けるしかない。ただし、ウクライナのナショナリストたちは、ヨーロッパへの期待も幻想に過ぎないかもしれないことを忘れてはならない。「ヨーロッパかロシアか」という選択をめぐってウクライナ人が深く分裂していること、そしてウクライナを手放したくないロシアの思いが、ウクライナを受け入れたいというEUの思いよりずっと強いことを考えると、ウクライナは東欧諸国の先例にならって国の運命を国民投票で決めるべきなのかもしれない。

自然をテクノロジーでネットワークする
―― テクノロジーが変えた自然保護アプローチ

2014年4月号

ジョン・フークストラ
世界自然保護基金(WWF)主任サイエンティスト

技術革新が自然保護の手段を革命的に変化させている。テクノロジーの進化によって自然環境の実態をこれまでになく詳細に把握できるようになり、より多くの場所で、より多くの人に、より多くのデータがもたらされるようになった。ゾウの移動をGPSで把握し、熱帯雨林の状態をレーザーで測定することも、合成生物学で絶滅危惧種を救える可能性も出てきている。リモートセンサーで森林の立体構造を描き出し、アマゾンの熱帯雨林を含む、特定地域の生態系管理をほぼリアルタイムで監視できるようになった。もちろん、これを悪用することもできるが、これらのデータは、動物の生息地喪失や絶滅の危険を低下させ、気候変動を緩和させる手がかりになる。

クリミアとロシアのアイデンティティ
―― ロシアはクリミアを手放さない

2014年4月号

スーザン・リチャーズ
「オープンデモクラシーロシア」エディター

モスクワやサンクトペテルブルグとともに、クリミアはロシアの文化的遺産の重要なバックボーンを提供している。実際、冷戦終結以降、モスクワはクリミアのことを「まだ決着していないアジェンダ」とみなしてきた。やっと取り戻したクリミアをプーチンが手放す可能性はほとんどない。宗教、戦争、芸術を基盤とするロシアの国家アイデンティティにとって、クリミアはきわめて重要な場所だからだ。クリミアにはロシア正教の歴史的遺産が存在し、セバストポリは今も語り継がれる歴史的戦闘が何度も繰り広げられた場所だ。さらにロシアの文化的遺産である数多くの文学作品、芸術作品の多くがクリミアを舞台としている。ロシアはクリミアを手放さない。一方、ウクライナはクリミアの喪失には耐えられるかもしれないが、さらなる分裂を受け止める余力はない。

ウクライナ危機とロシアの立場

2014年4月号

ジェフリー・サックス
コロンビア大学教授(経済学)

欧米はウクライナの領土保全回復を目的に掲げるだけでなく、ロシアの利益と懸念にも応分の正当性があることを認める必要がある。ウクライナの安定は、ロシアの協力なしでは達成できないし、そうした協力が実現するとすれば、欧米がロシアに対して和解的な危機管理策をとった場合だけだ。ウクライナはヨーロッパとロシアの双方と分かちがたく結びついている。巨大なコスト負担を覚悟しない限り、どちらか一つとの関係を遮断できない場所に位置している。欧米は、ウクライナをロシアの軌道から引き離そうとするのではなく、むしろ、ロシアとウクライナが、先を見据えて、互恵的関係を模索するように働きかけ、EU、ロシア双方との経済的つながりを拡大することを目的に据えるべきだ。

ウクライナ危機とパイプライン
―― ヨーロッパの本当のエネルギーリスクとは  

2014年4月号

ブレンダ・シャッファー
ジョージタウン大学客員研究員

ウクライナ危機を前にしたヨーロッパ人の脳裏をよぎったのは、2009年の天然ガス供給の混乱だった。この年、ロシアがウクライナへの天然ガスの供給を停止したために、ヨーロッパ諸国への供給も混乱し、真冬に暖をとれない事態に陥った。すでにウクライナ危機からヨーロッパを守るために、アメリカからの液化天然ガス(LNG)輸出を急ぐべきだという声も耳にする。たしかに、短期的に供給が混乱する危険もあるが、長期的にみてより厄介なのは、ハブプライシングシステムの導入など、ヨーロッパのエネルギー政策が方向を違えており、しかも(天然ガス価格が高いために)石炭の消費が拡大していることだ。仮にアメリカからLNGを輸出しても、その価格は、ロシアの天然ガス価格の少なくとも2倍になる。ワシントンは、ヨーロッパへLNGを供給することの利益が明確になるまで、拙速にエネルギー輸出の決定を下すのは自重すべきだろう。

パンドラの箱を開けたプーチン
―― 大ロシア主義とロシアの崩壊リスク

2014年4月号

ストローブ・タルボット
ブルッキングス研究所会長

「自分はロシアの子供たちを守る母なるロシアに仕える役目を負っており、国境の外側にいる子供たちも、守らなければならない」。こうした思想に基づく今回のプーチンの行動を、モルドバやカザフスタンのようなロシアの近隣諸国、それもまだNATOに加盟していない諸国は深刻に受け止めている。もう一つの危険は、ロシアナショナリズムを前提とする領土回復主義・民族統一主義が連邦内のロシア系民族が主流でない地域での分離独立運動をさらに高めることになるかもしれないことだ。この場合、ロシア連邦が崩壊する危険が生じる。・・・チュルク語系民族、イスラム文化系の民族など、スラブとは異なる文化圏の中央アジア圏の人々は、ロシアナショナリズムが高揚すれば、疎外感を覚えるだろうし、すでに彼らの多くが政治的イスラムの影響下にある。・・・・

ミャンマーの少数民族問題と国際投資
―― 政治的和解に向けた国際企業の役割

2014年3月

スタンレー・A・ワイス 「ビジネスエグゼクティブのための国家安全保障」 創設者、 ティム・ハイネマン 元米特殊部隊将校

(日本や)欧米では、木材、ヒスイ、石油、天然ガスなど、ほぼ手つかずの膨大な天然資源を持つ、新生ミャンマーはアジアにおける次の成長国になると考えられている。問題は、有望視されるミャンマーの天然資源の多くが、この国の国境地帯沿いの少数民族地域に存在することだ。2011年以降、ミャンマー政府は12の主要民族グループのうちの11グループとの停戦交渉を試みているが、少数民族はほとんど権利を持たない二級市民とみなされていることもあって、交渉で紛争を完全に終結に持ち込めるとは考えにくい。ミャンマーに投資する日本を含む欧米諸国は、いまも続く残虐行為と差別に象徴される民族対立に直接的に関わっていくことになる。・・・外国からの投資に促され、政府と少数民族が公平な連邦制を採用したときこそ、ミャンマーと世界は、民主的で自由なミャンマーで正当な利益を確保できるようになる。そこには、国際企業が果たせる重要な役割がある。・・・

中国発、環境汚染の衝撃

2014年3月号

ベイナ・シュウ  米外交問題評議会オンライン・ライター・エディター

中国の環境危機は、この国の急速な工業化が引き起こした切実な問題の一つだ。中国経済はこの10年というもの、年平均で約10%のGDP成長を遂げたが、一方で環境と公衆衛生を犠牲にしてしまった。いまや世界の温室効果ガス排出量の3分の1は中国によるものだし、世界でもっとも汚染された都市トップ20の16は中国に存在する。中国の大都市500市のなかで、WHO(世界保健機構)の大気基準を満たしている都市は1%に満たないと言われる。大気汚染のせいで、北部に暮らす人々の平均余命は5・5年短くなり、深刻な水質汚染と水不足によって人々の健康が蝕まれ、土壌の劣化、砂漠化も進んでいる。しかも、世界銀行によると、中国の環境汚染は、国民総所得(GNI)の約9%に相当するコストを経済に強いている。汚染は経済成長を脅かしているだけではない。市民たちは、環境政策の改善に向けた政府の対応が緩慢なために不満を募らせ、社会は不安定化しつつある。環境汚染は、中国の国際的地位を傷つけ、社会の安定、政治的安定さえも脅かしつつある。

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