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シリア紛争を外交的に決着させるには
―― 誰を暫定政府に参加させるのか

ケネス・ロス ヒューマン・ライツ・ウォッチ エグゼクティブ・ディレクター

The Right Path to a Syrian Accord ―― End Atrocities to Build Trust

Kenneth Roth アメリカの法律家で、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクター。

2016年2月号掲載論文

2015年10月のウィーン会議でシリア紛争を政治的解決に導くためにアウトラインが示されたが、合意には「それに必要な信頼感を紛争勢力間にどのように育んでいくか」という視点が欠けていた。必要なのは、シリア人を分裂させている民間人への攻撃の停止を求め、その責任を負うべき人物を協議の場から外すことで、信頼醸成に取り組むことだ。そのためにも最終的にはアサドを退陣させ、大量殺戮に関する真相究明委員会を立ち上げ、「重大な人権の乱用への責任を負っている」と判断された者は、公職から追放すべきだ。もちろん、イスラム国とヌスラ戦線を粉砕する必要もある。そして、少なくとも当初は強固な中央集権国家ではなく、一連の地方政府に多くの権限を与えるべきだろう。とにかく、民間人の殺戮を止めさせることが外交的解決に向けた最優先課題だろう。

  • いかに信頼を形作るか
  • アサドを退陣させよ
  • アサドにどう責任をとらせるか
  • 暫定政権をいかに組織するか
  • 合意の前提とは

<いかに信頼を形作るか>

シリアの民間人に対する無差別攻撃が続き、数百万人のシリア人が家を追われ、自称「イスラム国(ISIS)」がシリアとイラクで勢力を拡大している。唯一の救いは、中東でもっとも悲惨な状況にあるシリア内戦の終結に向けた外交交渉の道筋が見えてきたことかもしれない。

2015年10月下旬、シリア情勢に関する外相会議がウィーンで開催され、その最終声明において、紛争の当事者を政治的解決に導くための原則、アウトラインが示された。

この声明では、世俗的な統治、イスラム国その他のテロリスト集団の粉砕、内戦前の国境線の維持、マイノリティ集団の保護や国家制度の維持などが示されたが、「政治的解決に必要な信頼感を紛争勢力間にどのように育んでいくか」という核心部分への視点が欠けていた。今後の協議で、シリアを分断へと向かわせている民間人に対する攻撃の停止を求め、その責任を負うべき人物を協議から外すことで、政治的決着に向けた信頼醸成に取り組む必要がある。

<アサドを退陣させよ>

すでに、いかなる紛争勢力も、シリアで軍事的優位を確立できないことは明らかだろう。ロシアが軍事介入に踏み切り、ヒズボラやイラン軍もシリア政府を支援しているにもかかわらず、バッシャール・アサドは反政府勢力をうまく抑え込めずにいる。一方、反政府勢力もアサド政権が掌握するダマスカスと地中海沿岸を結ぶ回廊を攻略できずにいる。このような膠着状態にある以上、紛争のプレイヤーたちも政治的譲歩の必要性を認識する必要がある。

そして政治的譲歩を紛争の終結へとつなげていくには、それを希望や期待の上に組み立てるのではなく、各プレイヤーがこれ以上譲れない一線を定義し、これを前提に合意をまとめていくべきだ。

反政府勢力とその支援国(スンニ派アラブ諸国)は、アサドと彼の側近たちが明日にでも政権を去ることを望んでいる。だがシリア政府は、今も反政府勢力の支配地域を無差別攻撃するという残虐な戦略をとっている。その目的は、こうした地域の人口を減らし、反政府勢力の支配地域にいれば、どのような目に遭うかを民衆に思い知らせることにある。とはいえ、政権移行計画もなくアサド大統領が突然退陣すれば、シリアはより大きな暴力に包み込まれ、国は内側から崩壊するかもしれない。シリアを分断しようとする過激派集団を別にすれば、この事態から利益を引き出せるプレイヤーは誰もいない。それだけに、治安部隊と司法制度を維持することは極めて重要だ。この二つを失えば、社会秩序はさらに崩壊し、マイノリティの多くが危機にさらされる。この意味で、「アサド体制からの管理された体制移行」がもっとも望ましいということになる。

もちろん、アサドと彼の側近は永久に権力の座に留まることを望んでいる。しかし、化学兵器の使用、民間人や民間組織へのたる爆弾の度重なる使用、政権が反政府派とみなす人物の大量拘束・拷問・処刑など、アサドは多くの残虐行為に手を染めている。

当然、反政府勢力は「アサド政権による長期支配など到底受け容れられない」と明言している。(シリア政府を擁護する)ロシアでさえ、「民衆蜂起ではなく、政治的合意の結果を受けて退陣するのなら、アサドにはこだわらない」と示唆しており、イランも似たような立場をとっている。

結局のところロシアもイランも、シリア政府のトップに誰が君臨するかよりも、それが自国に友好的な政権であることが重要だと考えている。アサドが依然としてパワフルな軍事力をもっているだけに、彼を「交渉テーブル」から外すわけにはいかないが、アサド政権の継続では筋が通らない。ロシアとイランはアサドの退陣を求めて、影響力を行使すべきだろう。

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