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テーマに関する論文

ロシアはいまだに敵なのか

1998年1月号

リチャード・パイプス  ハーバード大学名誉教授

なんじの友人をいつの日にかなんじの敵になる者として、またなんじの敵をいつの日にかなんじの友人となる者の如く扱え。
デキムス・ラベリウス 紀元前一世紀

ロシアはいまだにわれわれの敵だろうか。目下のところそうではないし、そうであるべきでもない。だがモスクワの指導者たち、それも権力と影響力ばかりを気にかける古いタイプの指導者が、国民の政治的経験のなさと偏見を利用して、それ自体は何の意味もない広大な領土や、自分たちでは開発できない莫大な鉱物資源、そして使うこともできない巨大な核の兵器庫といったもの以外には、およそ手に入れることのできない幻の栄光を再び求めるとすれば、ロシアが敵となる可能性は十分にある。ロシアの指導者たちが再び孤立とスタンドプレーによって直面している困難から逃れようとするなら、ロシアはまたわれわれの敵となりうる。

市民的自由なき民主主義の台頭

1998年1月号

ファリード・ザカリア/フォーリン・アフェアーズ誌副編集長

いまや尊重に値するような民主主義に代わる選択肢は存在しない。民主主義は近代性の流行りの装いであり、二十一世紀における統治上の問題は民主主義内部の問題になる公算が高い。目下、台頭しつつある市民的な自由、つまり人権や法治主義を尊重しない非自由主義的な民主主義が勢いをもつようになれば、自由主義的民主主義の信頼性を淘汰し、民主的な統治の将来に暗雲をなげかけることになるだろう。選挙を実施すること自体が重要なのではない。選挙を経て選出された政府が法を守り、市民的自由を尊重するかどうか、市民が幸福に暮らせるかどうかが重要なのだ。行く手には、立憲自由主義を復活させるという知的作業が待ちかまえていることを忘れてはならない。もし民主主義が自由と法律を保護できないのであれば、民主主義自体はほんの慰めにすぎないのだから。

地球温暖化対策の盲点

1998年1月号

トマス・シェリング メリーランド大学経済学教授

途上国だけでなく、先進国も温暖化に派生するさまざまな問題を抱え込む。気候の変動が急激に進めば、(それによって引き起こされる)もっとも劇的な問題は、寄生虫性、熱帯性の病気の蔓延だろう。気温と湿度の上昇はマラリア蚊の生息や河川に影響を与え、住血吸虫病、デング熱、幼児性下痢を流行させ、これらは、先進諸国の人々が懸念している放射性物質、化学的有毒物質を上回る脅威になるだろう。

外交官なき外交の時代

1997年12月

ジョージ・ケナン

政治権力の分散化、利益の多様化は、外交組織にも大きな衝撃を与えている。いまや、国務省を迂回して国際交渉がなされることも珍しくなく、かつては国務省の人間とわずかばかりの武官だけがいた海外の大使館でも、国務省の職員や外交官はむしろ少数派である。さらに、州や利益団体までもが海外にオフィスをもち、多国間交渉の場には、相手国の立場や意向すらわきまえていない国務省とは無関係の代理人が送り込まれることも多い。だが、これは急速に変貌する社会や経済の反映であり、むしろ問題は、国家を代弁するのとは異なる次元で活動する多種多様な単位が登場したり、本来国家とは呼びえない資質しかもたない政治単位が国家として対外的に活動していることだ。この外交の混乱をうまく整理し、それぞれに適切な役回りを与えるルールを確立させることこそ急務であろう。

ユーラシアの地政学と日米中を考える

1997年11月号

ズビグニュー・ブレジンスキー 戦略問題国際研究所(CSIS)顧問

世界の人口の75パーセント、GNPの60パーセント、エネルギー資源の75パーセントが存在するユーラシア大陸は21世紀の安定の鍵を握る「スーパー・コンチネント」だ。ユーラシアにおけるアメリカの差し迫った課題は、「いかなる単独の国家、あるいは国家連合も、アメリカを放逐したり、その役割を周辺化させたりするような力をもてないようにすることだ。この点でとりわけ重要なのが、NATO、そして、アメリカと中国の関係であり、これを軸に、ロシア、中央アジア、日本との安定的共存を図っていかなければならない。NATO拡大とロシアの関係同様に、アメリカ、日本、中国の戦略関係にも細心の配慮が必要になる。肝に銘じておくべきは「再軍備路線への傾斜であれ、単独での対中共存路線であれ、日本が方向性を誤った場合には、安定した米日中の3国間アレンジメント形成の可能性はついえ去り、アジア・太平洋地域でのアメリカの役割は終わる」ということだ。

インドはいま何をなすべきか

1997年9月号

ラメッシュ・タクール オーストラリア国立大学平和研究所所長

独立から五〇年を経たインドは、自らの立場を貫くためにふんだんに資金を使えるほど豊かでも、圧力をかけるほど強大でも、相手を感化するほどに規律立ってもいない。インドは何をどう読み間違えたのだろうか。冷戦後のいま、非同盟国が力を失い、核保有が必ずしも大国の代名詞ではなく、経済力こそが大きなパワーの源泉となっていることを忘れてはならない。宗教的対立を克服し、「繁栄とパワーと原則を相互補完的に一つへと導く」将来の見取り図を描き出すには「自国への自信を十分にもち、パワーを構成する新要素がなんであるかを理解し、近隣の小国と大きな配慮をもって交渉する巧みさ」が必要である。

年金は義務的個人積立制度で

1997年9月号

マーティン・フェルドシュタイン ハーバード大学経済学教授

単年度賦課方式の公的年金制度を維持すれば、二〇三〇年には、経済成長も雇用創出も期待できないほどに税率を引き上げなければならない。一方、公的年金システムから義務的な個人年金積立方式へと制度を移行させれば、はるかに軽い税負担で、公的年金と同じレベルの給付を確保できるし、年金積立貯蓄の増大による投資ストックの増加は経済の活性化を生み、「国民所得、実質賃金、全体的な生活レベルの上昇も十分期待できる」。制度移行に批判的な人々の指摘、つまり、制度移行期の第一世代が、二重負担を強いられるという批判は、冷静に計算をすれば、ひどく誇張され、間違ったものである。義務的個人積立制度への移行は、「社会保障制度の将来のコストを劇的に削減するだけでなく、低所得と中間所得層の人たちの生活水準を劇的に向上させる可能性を秘めており、これ以外に社会のほとんどの人々の生活水準を永続的に大きく高める政策は考えられない」。

イラン・イラク「二重封じ込め」を見直せ

1997年8月号

スビグニュー・ブレジンスキー カーター政権・国家安全保障担当大統領補佐官  ブレント・スコウクロフト ブッシュ政権・国家安全保障担当大統領補佐官 リチャード・マーフィー 外交問題評議会・中東担当上席研究員

アメリカの湾岸政策の目的は、「同盟諸国の安全を守り、石油の流れを間違いなく保障すること」であり、この点をイラン、イラクを含むすべての関係諸国は理解しなくてはならないし、アメリカ政府もこれを再確認する必要がある。経済政策と軍事監視からなるクリントン政権のあまりに厳格な「二重封じ込め」政策は、同盟諸国間の亀裂を広げる危険を伴うため、すでに政策目的からのずれが生じ始めている。サダム・フセイン政権には厳格な姿勢を崩すべきではないが、経済制裁によって派生するイラク市民の人道上の問題に十分に配慮し、ポスト・サダム・フセイン政権との交渉の可能性も視野に入れておくべきだし、イランに対しては、封じ込めから、条件を課した上での関係改善策へと路線の修正を図るべきだろう。アメリカの利益だけでなく、同盟諸国との協調路線を回復するためにも、また対イラン・イラク政策の費用対効果を高めるためにも、新政策は同盟諸国との協議や合意を踏まえたものでなければならない。

景気循環の波は消滅した?

1997年8月号

ポール・クルーグマン マサチューセッツ工科大学経済学教授

六年間にわたって成長が安定的に続き、インフレも驚くほどおとなしく推移してきた事実、さらには、歴史的文脈から今後の景気循環の安定的推移を予測するフッシャーの今回の著作に勇気づけられたのか、米国の新聞・雑誌はあっさりと「景気循環のサイクルは消滅し、一九九〇~九一年のリセッションを最後にこの先当面の間不況はやってこないだろう」と指摘し、ビジネスマンも、われわれはすでに安定を常態とする「約束の地」にたどり着いた、と考えはじめている。だがこうした考えは歴史の教訓をまったく無視している。かつて多くのリセッションを引き起こした諸力が弱まってきているのは事実だが、今後私たちがこれまでに出会ったことのない新たな問題や力学に遭遇するのは自明だからだ。「問題が新しい性格のものである以上、これをうまくいなすことはできず、かくして、景気循環は続く」のである。「遠大な過去の歴史パターンの解釈を、最近の歴史的教訓を無視するための口実として利用する」のは明らかに間違ってる。

それでも北朝鮮は生き残る

1997年8月号

マーカス・ノーランド 国際経済研究所上席研究員

現在の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の食糧危機を過大視すべきではない。「飢餓状態は地域的なもの」だし、少しばかりの援助があれば、あるいは援助なしでも、北朝鮮はなんとかやっていけるだろう。広範な飢餓状態がおきるとすれば、それは、「国内政治エリートの意図的な政治決断の結果」であろう。むしろ注目すべきは、いま北朝鮮にどのような選択肢があり、関係諸国がそれに対してどんな考えをもっているかだ。少なくとも、関係諸国が拙速な統一を望んでいないのは明らかで、「中国、日本、ロシア、そしておそらくは韓国でさえも、資本主義体制をとり、おそらくは核武装した統一国家が半島に出現するよりも、なりを潜めた北朝鮮が何とか生き延びていくことを望んでいる」。北の国内状況が改革を求めるか、あるいは混沌に陥っていくまでは、北朝鮮は当面の間生きながらえると考えたほうが無難であり、今後の対朝政策は、東アジアのパワー・バランスを念頭においた、中・長期的なものでなければならない。

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