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経済・金融に関する論文

米経済の復活とコロナショック
―― 経済覇権の米中逆転はあり得ない

2020年6月号

ルチール・シャルマ  モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 主席投資ストラテジスト

多くの人は、米経済が2010年に復活を遂げ、この10年にわたって黄金時代を謳歌していたことを見落とし、アメリカ衰退論に囚われている。パンデミックショックが本格的な金融危機を引き起こせば、問題を抱える企業が世界中で債務不履行に陥り、最終的にはアメリカ金融帝国にとっても脅威となるだろう。しかし、巨大な公的債務だけでなく、ゾンビ企業が企業債務の10%を占める現在の中国は、そうした危機に対してアメリカ以上に大きな脆弱性をもっている。結局、経済成長にとってもっとも重要なのは生産年齢人口であり、アメリカではこれが依然として増大しているのに対して、中国では5年前から減少に転じている。アメリカが世界最大の経済大国の地位を失うことも、米中逆転も当面あり得ない。

パンデミックと保護主義の台頭
―― 輸入からの保護と輸出保護主義

2020年6月号

チャッド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー

「グローバルパンデミック」がどの段階にあるかは地域差がある。自国よりも早く経済を再開できる地域や国があるかもしれない。経済再建の試みが始まった段階で、港が輸入品で埋め尽くされているようなら、国内産業から保護主義を求める圧力は大きくなる。一方、輸出制限策が、ナショナリズムとともに高まっていくことはすでに実証済みだ。実際、仏独だけでなく、イギリス、韓国などの他の数十カ国も医療品や医薬品の輸出を制限している。もっとも深刻な余波が生じるのはパンデミックが収束し、経済生産が再開されたときかもしれない。貿易保護主義を求める社会圧力の高まりを予測もせず、備えることを怠れば、世界は壊滅的な事態に直面することになる。

迫り来るアナーキー
―― 米中対立と国際社会

2020年6月号

ケビン・ラッド  アジア・ソサエティ政策研究所・会長 元オーストラリア首相

パンデミックの残骸のなかから、パックス・シニカが生まれたり、パックス・アメリカーナが再出現したりすることはあり得ない。むしろ、米中のパワーは国内においても対外的にも衰退していく。その結果、国際的アナーキーに向けた着実な漂流が続くだろう。秩序と協調の代わりに、様々な形態のナショナリズムが噴出する。米中対立が拡大するにつれて、多国間システムとそれを支えてきた規範や制度はすでに崩れ始めている。多くの多国間機関は、むしろ、米中のライバル関係の舞台と化しつつある。アメリカも中国もダメージを受け、しかもそこには、ジョセフ・ナイが言う、「国際システムを機能させるシステムマネージャー」はいない。間違った決断をし、配慮を怠れば、2020年代は1930年代へ回帰していく。

脱パンデミックの経済学
―― 命を救うことで、生活とビジネスを救え

2020年6月号

ラジーブ・チェルクパリ  ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院 エコノミスト  トム・フリーデン  米外交問題評議会 シニアフェローグローバルヘルス担当) 前米疾病対策センター所長(2009―2017)

感染率の一貫した減少を待たずに経済活動を再開した国や州は、新たなアウトブレイク、死亡率の上昇だけでなく、長期的な経済的混乱というリスクを冒すことになる。ウイルスを恐れる人々は買い物、旅行、外食をしようとはしない。この状況であれば、都市が封鎖されていようが、それが解除されようが、景気回復は期待できない。一方、市民の健康を守る戦略に投資し、人々の安心感を高めれば、経済はリバウンドする。経済活動の再開を焦るあまり、「経済活動を迅速に再開するためなら、救える命が少なくなっても仕方がない」という考えは間違っているし、脱パンデミックの経済学がそのように機能することはない。人々の健康を最優先に据えて重視する行動が経済再生への道を切り開くだろう。

各国は、あたかも2020年夏まで経済生産がゼロの状態が続くかのような財政支出を約束している。ニューディールを含めて、このレベルの政府支出には歴史的先例がない。つまり、これは「ハイパーケインズ主義」の実験のようなものだ。有事であると平時であると、先例はない。このような試みがアメリカ経済、ヨーロッパ経済、世界経済を救えるかどうかは誰にもわからない。希望をもてるとすれば、パンデミック前の段階で対GDP比債務がすでに230%近くに達していたにもかかわらず、日本の金利とインフレ率が引き続き安定していたことだ。多額の借入と財政出動がジンバブエよりも日本のような状況を作り出すのなら、楽観的になれる根拠はある。しかし、政府支出で永遠に現実世界の経済活動を代替することはできない。

エコノミストの節度と本懐
―― 判断領域を広げすぎていないか

2020年5月号

ポール・ローマー 元世界銀行主席エコノミスト

20世紀のエコノミストたちは公共政策を方向づける洗練されたモデルを考案し続けた。その過程において多くの経済研究者は傲慢さを身につけてしまったかもしれない。有権者からの明確な意向がわからない議員、規制当局が「目の前にある規範的設問への経験的な答えをみつけた」と主張して不確実性を取り払ってくれるエコノミストに依存するようになったからだ。市民の信頼を再び勝ち取るには、自らの知識の限界を認識し、そのギャップを埋めるために他の領域の専門家、政治指導者、有権者の意見を尊重した19世紀のエコノミストの謙遜さを取り戻さなければならない。

石油の崩壊
―― パンデミックと価格戦争が招いた悪夢

2020年5月号

ダニエル・ヤーギン IHSマークイット副会長

パンデミックで世界経済のかなりの部分が停止状態に追い込まれている。石油(価格と需要の)危機は当面悪化し続け、その余波は石油産業を大きく超えた領域にも波及するだろう。需要減で原油価格が下がり、しかも各国の戦略備蓄が満杯になれば、世界の石油生産量はさらに激減する。備蓄と市場が飽和状態になれば、1バレル当たりの価格はゼロになる。これは、新型コロナがさまざまな国の経済を混乱に陥れた結果でもあるし、一部の国がとった地政学的決断の結果でもあるかもしれない。多くの産業と同じように、石油市場を極端に悪化させているのは、新型コロナのパンデミックだが、石油の場合、その悪化には地政学的な要素も作用している。サウジとロシアの協調で市場の安定を維持しようとしたOPECプラス崩壊のインパクトはかなり大きい。

コロナウイルス恐慌を回避せよ
―― 求められる戦時経済的精神

2020年5月号

マシュー・スローター ダートマス大学 ビジネススクール学院長 マット・リース ダートマス大学 ビジネススクール シニアフェロー

積極果敢な手を打たない限り、コロナウイルス危機は、グローバル金融危機(2008―09年)後の「グレートリセッション」以上に深刻な余波、つまり、1929―33年の「大恐慌」に匹敵する混乱を引き起こす恐れがある。集会の制限から都市の閉鎖まで、公衆衛生上は不可欠な「ソーシャル・ディスタンシング」を実施する政府の社会介入によって、財やサービスを求めるいつもの流れは阻害され、消費者需要が激減して総需要が抑え込まれれば、経済はカオスへ向かいかねない。需要が低下すると、工場の稼働率は低下し、労働者は失業し、個人、家族、コミュニティが圧力にさらされる。このショックに対処していくには(1)新型コロナウイルスの拡散阻止に投資し、(2)需要崩壊によってダメージを受けたビジネスや企業を支え、(3)金融危機を回避するために手を尽くさなければならない。周到な計画なしでは、コロナウイルス・リセッションは簡単に恐慌と化す。

ビッグテックを分割すべき理由
―― 分割で米国家安全保障は強化される

2020年4月号

ガネシュ・シタラマン  ヴァンダービルト法科大学院 教授

大きな利益を計上し、成長し、強大化している巨大テクノロジー企業が、政府から分割される脅威から逃れようと「自分たちを分割すれば、中国が利益を手にする」と国家安全保障問題を引き合いに出していることに不思議はない。しかし、国家安全保障の観点からも、ビッグテックを競争から保護する理由はない。アメリカのビッグテックは中国と競争しているというより、むしろ中国と統合しようとしており、この状況の方がアメリカにとってより大きな脅威だ。アメリカにとって、イノベーションを生み出す最善の道筋は、統合されたテクノロジー産業ではなく、競争と研究開発への公的支出によって切り開かれるはずだ。現在のような大国間競争の時代にあって、競争力とイノベーションを維持する最善の方法は市場競争、適切な規制、そして研究開発への公的支出に他ならない。ビッグテックの分割は国家安全保障を脅かすのではなく、むしろ強化するだろう。

ウイルスが暴いたシステムの脆弱性
―― われわれが知るグローバル化の終わり

2020年4月号

ヘンリー・ファレル  ジョージ・ワシントン大学 教授(政治学、国際関係論) アブラハム・ニューマン ジョージタウン大学外交大学院 教授(政治学)

コロナウイルスの経済的余波への対処を試みるにつれて、各国の指導者たちはグローバル経済がかつてのように機能していないという事実に向き合うことになるはずだ。パンデミックは、グローバル化が非常に高い効率だけでなく、異常なまでに大きな脆弱性を内包していたことを暴き出した。特定のプロバイダーや地域が専門化された製品を生産するモデルでは、サプライチェーンがブレイクダウンすれば、予期せぬ脆弱性が露わになる。今後、数カ月で、こうした脆弱性が次々と明らかになっていくはずだ。その結果、グローバル政治も変化するかもしれない。これまでのところ、アメリカは、コロナウイルスのグローバルな対応におけるリーダーとはみなされていない。そうした役割の一部を中国に譲っている。・・・

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