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経済・金融に関する論文

大国間競争とドルの命運
―― 制裁と地政学とドル秩序の未来

2023年4月号

カーラ・ノーロフ トロント大学教授(政治学)

中ロは、アメリカによる経済制裁の痛みから逃れようと、自国通貨での決済を増やして、ドルシステムへの対抗バランスを形成しようと試みている。一方、安全保障の視点からドル支配体制の強化を望む国もある。不安定な国際環境のなか、各国は「友好国との地政学的経済関係」を重視しており、これが、世界最大の安全保障ネットワークの中枢に位置するアメリカとその通貨であるドルに新たな優位をもたらしている。もちろん、ワシントンが経済制裁を乱用すれば、ドルに代わる通貨を模索する各国の動機が強化される。アメリカはリベラルな国際秩序の公共財を強化する形で経済外交を展開しなければならない。主要な同盟国や国際社会の多くを離反させれば、アメリカはドル支配体制を維持できなくなる。

ロボットか労働者か
―― 少子高齢化時代の労働力

2023年4月号

ラント・プリチェット 前世界銀行エコノミスト

先進諸国では出生率の低下と教育水準の向上によって、単純労働を担う労働力がひどく不足している。企業は負担できる人件費で労働者をみつけるのに苦労し、この人材不足が、不必要なオートメーションやその他の技術による解決策を求めるように企業を駆り立てている。だが、ヒトが簡単にこなせる労働タスクを代替する機械(技術)を作ろうとするのは、資本の浪費にすぎない。要するに、労働者の国境を越えた移動を阻む移民規制が、資源を間違った技術開発へ向かわせていることになる。先進国は、少子化が作り出す労働力不足を認識し、より多くの外国人労働者が国内で働けるようにしなければならない。外国人労働者が必要とされる場所に移動できるようにすることで得られる経済的・人道的利益に目を向けるべきだろう。

欧米の対ロシア制裁を検証する

2023年4月号

ノア・バーマン アシスタントライター@www.cfr.org
アンシュ・シリプラプ ライター@www.cfr.org

欧米の対ロシア制裁は、金融からエネルギー、軍事技術までの広範な経済部門をターゲットにしている。しかし、中国やインドはロシアの石油や天然ガスの輸入を逆に増やし、ロシアの近隣諸国の一部は、中継貿易国の役割を担い、欧米の製品を輸入してはロシアに再輸出している。一方で、石油、肥料、小麦、貴金属など多くの重要なコモディティの輸出国として極めて重要なロシアは、制裁を課すのが難しいターゲットだと指摘するアナリストもいる。実際、国際通貨基金(IMF)は最近、ロシアの国内総生産(GDP)は2023年に0.3%成長するとの予測を示した。・・・

インド太平洋経済枠組みの試金石
―― いかに同盟国の同意をとりつけるか

2023年3月号

メアリー・E・ラブリー ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー

アメリカが自由貿易合意への抵抗感をもっているために、インド太平洋経済枠組み(IPEF)は一般的な貿易協定とは違って、参加国に米市場への特恵的アクセスをオファーしていない。もちろん、米市場の開放という具体的な見返りがない限り、交渉参加国が、IPEFが求める労働政策や環境政策の見直しへの国内の反発を克服するのは難しくなる。「中国抜き」という条件を満たした国に米市場への特恵的アクセスを認めれば、生産コストを上昇させるような新たな義務を負うとしても、経済的には合理的かもしれない。だが、そうしない限り、ワシントンは急成長するインド太平洋地域の発展に影響を与えるチャンスを再び潰してしまう恐れがある。・・・

いつものリセッションではない
―― 世界経済は質的に変化している

2023年1月号

モハメド・A・エラリアン ケンブリッジ大学 クイーンズ・カレッジ学長

なぜ世界のほとんどの地域で経済成長率が鈍化しているのか。インフレが高止まりし、金融市場が不安定化しているのはなぜか。ドル高や高金利がなぜ多くの国で頭痛の種となっているか。大きな構造的変化が、これらの理由を説明する助けになる。世界はリセッションの瀬戸際に立たされているだけではない。経済・金融の奥深い転換期を迎えている。成長を抑え込む主要な要因が需要不足から供給不足へシフトし、中央銀行による量的緩和の時代が終わり、金融市場の脆弱性が高まっている。これらの変化が、個人、企業、政府に経済的、社会的、政治的影響を与えることになる。世界をより良い方向に向かわせるには、この変化を認識し、適切な舵取りを学んでいかなければならない。・・・

インフレの時代へ
―― 金融緩和策と供給ショック

2023年1月号

ケネス・S・ロゴフ ハーバード大学教授(経済学)

脱グローバル化、(貿易や経済への)政治圧力の高まり、(重要鉱物を必要とする)グリーンエネルギーへの移行などが引き起こす供給ショックを含む、数多くの要因によって、世界は、2桁代ではなくても、(かつての目標値である)2%を大きく超えてインフレが持続する時代に突入する危険がきわめて高い。2021―22年の異常な物価上昇の直接的要因の多くはいずれ解消するだろうが、低インフレの時代がすぐに戻ってくることはおそらくない。大恐慌以降、最悪の二つのリセッション(2008年と2020年)を経て、中央銀行が引き起こす深刻な経済停滞の社会的・政治的影響は非常に大きなものになるだろう。

ドル高の悪夢から逃れるには
―― 準備通貨を多様化すべき理由

2022年12月号

バリー・アイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 特別教授(経済学・政治学)

ドル高が進むと、中・低所得国のドル建て債務の重荷が増し、持続可能性が脅かされる。原材料価格もドル建てであるため、対ドルで通貨安になると資源輸入国のコストや物価が上昇し、この流れがインフレを誘発する。こうして、ドル高になると多くの国の中央銀行は為替市場に介入し、外貨準備を用いて自国通貨を買い支えようとする。だが売却された米国債の多くは、米金融市場に流れ込み、結局はドル高になる。長期的には、各国の中央銀行が外貨準備を多様化し、ドルからユーロ圏や中国あるいはより小規模な国の通貨へと取引を多様化することが解決策になる。そうすれば、各国は連邦準備制度理事会(FRB)という一国の中央銀行の決定に左右されにくくなる。

追い込まれた中国経済
―― もはや低成長を受け入れるしかない

2022年11月号

マイケル・ペティス 北京大学 光華管理学院 教授

中国にとって、投資率が高いことは悪いことではなかった。かつて必要とされていたのはまさしく投資主導型の経済開発モデルだった。問題は不動産とインフラ部門での非生産的投資の時代があまりに長く続いたことだ。15年ほど前から、債務が国内総生産(GDP)成長率を上回るペースで増加し始め、肥大化していった。しかもいまや不動産バブルははじけ、新しい経済モデルへ移行するしかない状況にある。中国が消費(内需)主導型の成長へシフトできるとは考えにくい。投資を急速に減らして成長率の大幅な低下を受け入れるか、問題を先送りし、債務の急増によって路線維持が困難になるまで、現在の投資主導型路線を続けるしかないだろう。だが最終的には、経済成長は急激に減速し、その減速の仕方は、中国、中国共産党、そして世界経済に深刻な影響を与えることになるはずだ。・・・

迫り来るグローバル・リセッション?
―― インフレ、為替、中央銀行のジレンマ

2022年11月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済政策担当)

いまや、中国、アメリカ、ヨーロッパという世界経済の主要エンジンのすべてが減速しつつある。中国経済は実質的にリセッションに陥り、ヨーロッパ経済もエネルギー不足によって冬にはリセションに入ると考えられる。アメリカ経済も停滞に向かいつつある。グローバルな経済停滞が主要国におけるインフレ圧力をどの程度迅速に低下させるかが、今後考えるべき大きなテーマになるだろう。長期的なインフレの定着リスクよりも、インフレ抑制のために採用した措置がうまく機能しすぎて、現在の世界的な引き締め策が中国の不動産不況、エネルギー市場の混乱と重なり合って深刻な景気後退をもたらすリスクが警戒されている。円安ドル高、イギリス経済の混乱という問題もある。金融市場は明らかに神経質になっている。・・・

ロシア経済の行方
―― 戦争、経済制裁、インフレ

2022年10月号

クリス・ミラー タフツ大学フレッチャースクール 准教授(国際史)

戦争と経済制裁のコストは、当初のインパクトが、欧米が期待したほど、そしてロシアが懸念したほど劇的でなかったとしても、今後、大きくなっていく一方だろう。今のところ、ロシアの指導者たちは、半年以上にわたって欧米の制裁を乗り切ったことに満足している。しかし、今後ロシアの産業は、欧米から輸入パーツを調達できない状況にいかに適応していくかに苦しむことになる。原油価格が上昇しない限り、モスクワは社会(財政)支出を続ける一方で、財政赤字や高インフレを受け入れるという、厳しいトレードオフに直面することになるはずだ。モスクワの戦争遂行を停止させるような形でロシア経済が崩壊することはないとしても、急激なリセッションや生活レベルの低下が続き、今後も短期的には経済がリバウンドするとは期待できないだろう。

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