本誌一覧

2018年1月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2018年1月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2018年1月号 目次

Agenda 2018 中国、ロシア、北朝鮮

  • 中国は北朝鮮を見限っている
    ―― 半島有事における米中協調を

    オリアナ・スカイラー・マストロ

    雑誌掲載論文

    この20年間で、中国と北朝鮮の関係は大きく悪化し、かつての朝鮮半島有事をめぐるシナリオはもはや時代遅れになっている。米軍の大規模な作戦行動を伴う戦争が差し迫った事態になれば、恐らく、米軍よりもはるかに早いタイミングで、中国軍が半島に介入して北朝鮮の核サイトを管理下におくだろう。認識すべきは、(中国軍が核サイトを確保すれば)崩壊途上の平壌がアメリカやその同盟国に対して核攻撃を試みるリスクを低下させることだ。いまや北京と北朝鮮とのつながりは弱く、中国の介入目的が「自国の利益を確保すること」にあるとしても、米中は共有基盤を見いだせるかもしれない。前向きに考えれば、アメリカは中国の介入を利用して、第二次朝鮮戦争のコストと期間をむしろ低下させられるかもしれない。

  • 民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか
    ―― モスクワの策略に立ち向かうには

    ジョセフ・R・バイデン、マイケル・カーペンター

    雑誌掲載論文

    ロシア政府は政治腐敗まみれの泥棒政治システムを守ろうと、その生存を外から脅かす最大の脅威と彼らがみなす「欧米の民主主義」に対する国境を越えた闘いを挑んでいる。欧米を攻撃することで国内の政治腐敗や経済的停滞に人々が目を向けないようにし、ナショナリズム感情を煽り立てて国内の反体制派を抑え込み、民主主義国家を守勢に立たせることで欧米諸国が国内の分断線対策に専念せざるを得ない状況を作り出そうとしている。この環境なら、モスクワは国内の権力基盤を固めることに専念し、「近い外国」に対して思うままに影響力を行使できる。だが、プーチンとその取り巻きたちは、アメリカの民主主義の最大の強さは市民の政治参加にあることを理解していない。米大統領が対策を拒んでも、われわれが行動を起こす。

  • 核武装国北朝鮮にどう向き合うか
    ―― 核不拡散の脅威から核抑止の対象へ

    スコット・D・サガン

    Subscribers Only 公開論文

    北朝鮮、そして米韓は、いずれも相手が先制攻撃を試みるのではないかと疑心暗鬼になっている。このような不安定な環境では、偶発事故、間違った警告、あるいは軍事演習の誤認が戦争へつながっていく。しかも、金正恩とドナルド・トランプはともに自分の考える敵に衝動的に向かっていく傾向がある。ペンタゴンとホワイトハウスの高官たちは、北朝鮮の指導者・金正恩の行動を抑止する一方で、トランプ大統領が無為に戦争への道を突き進んでいくことも諫めなければならない。北朝鮮にとって核兵器は取引材料ではない。自国に対する攻撃を阻止するための力強い抑止力であり、あらゆる策が失敗した時に、敵対する諸国の都市を攻撃して復讐するための手段なのだ。しかし、危機に対するアメリカの軍事的オプションは実質的に存在しない。金正恩体制が自らの経済的、政治的弱さによって自壊するまで、忍耐強く、警戒を怠らずにその時を待つ封じ込めと抑止政策をとるしかない。

  • トランプと戦争
    ――イラン、中国、北朝鮮との戦争シナリオを考える

    フィリップ・ゴードン

    Subscribers Only 公開論文

    歴史を顧みれば、トランプのような指導者が市民の不満を追い風に権力を握り、敵を屈服させると約束しつつも、軍事、外交、経済上の紛争の泥沼にはまり込み、結局は後悔することになったケースは数多くある。もっとも、トランプの主張が正しい可能性もある。大規模な軍部増強、予想できない行動をとる指導者のイメージ、一か八かの交渉スタイル、そして妥協を拒む姿勢を前に、他の諸国が立場を譲り、アメリカを再び安全で繁栄する偉大な国にするかもしれない。だが、彼が間違っている可能性もある。核合意を解体し、中国との貿易戦争を始め、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル実験を力尽くで阻止すれば、そのすべてが紛争へとエスカレートしていく恐れがある。トランプの常軌を逸したスタイルと対決的な政策が、すでに不安定化している世界秩序を崩壊させ、アメリカがイラン、中国、北朝鮮との紛争へと向かっていく恐れもある。

  • 民主国家に浸透する権威主義
    ――蝕まれるリベラルな民主主義

    トルステン・ベナー

    Subscribers Only 公開論文

    欧米諸国による批判や敵意を前にすると国内が不安定化する傾向があるロシアなどの権威主義国家は、民主国家による民主化促進策、反体制派支援、経済制裁などを阻止するための盾を持ちたいと考えてきた。こうして、欧米の政治に介入したり、プロパガンダ戦略をとったりするだけでなく、資金援助をしている欧米の政党や非政府組織、ビジネス関係にある企業との関係を通じて、民主社会への影響力を行使するようになった。権威主義国家の最終的な目的は、自分たちの影響力を阻止できないほどに欧米の政府を弱体化させることにある。問題は、民主社会が外国の資金や思想の受け入れに開放的で、欧米のビジネスエリートが権威主義国のクライエントたちからも利益を上げようとしていること、しかも民主体制が弱体化しているために、彼らがつけ込みやすい政治環境にあることだ。

  • 民主国家を脅かす 権威主義国家のシャープパワー
    ―― 中ロによる情報操作の目的は何か

    クリストファー・ウォーカー、ジェシカ・ルドウィッグ

    Subscribers Only 公開論文

    民主国家をターゲットにするロシアの情報操作の目的は、アメリカやヨーロッパの主要国を中心とする民主国家の名声そして民主的システムの根底にある思想を多面的にかつ容赦なく攻撃することで、自国をまともにみせることにある。一方、中国の情報操作は、問題のある国内政策や抑圧を覆い隠し、外国における中国共産党に批判的な声を可能な限り抑え込むことを目的にしている。権威主義国家の対外的世論操作プロジェクトは、ソフトパワー強化を目指した広報外交ではない。これをシャープパワーと呼べば、それが悪意に満ちた、攻撃的な試みであることを直感できるだろう。その目的は民主国家の報道機関に(自国に不都合な情報の)自己規制(検閲)を強制し、情報を操作することにある。

  • 資本主義と縁故主義
    ――縁故主義が先進国の制度を脅かす

    サミ・J・カラム

    Subscribers Only 公開論文

    資本主義と社会主義の間で変性したシステムと定義できる縁故主義が世界に蔓延している。冷戦後に勝利を収めた経済システムがあるとすれば、それは欧米が世界へと広げようとした資本主義ではない。縁故主義だ。世界的な広がりをみせた縁故主義は、途上国、新興国だけでなく、アメリカやヨーロッパにも根を下ろした。(1)政治家への政治献金、(2)議会や規制を設定する当局へのロビイング、そして(3)政府でのポジションと民間での仕事を何度も繰り返すリボルビングドアシステムという、縁故主義を助長するメカニズムによってアメリカの民主的制度が損なわれている。一見すると開放的なアメリカの経済システムも、長期にわたって維持されてきたレッセフェールの原則からますます離れ、純然たる縁故主義へと近づきつつある。

  • 経済戦争時代と制裁
    ―― 抑止力としての経済制裁に目を向けよ

    エドワード・フィッシュマン

    雑誌掲載論文

    一部の諸国は、大国間戦争を引き起こさないように配慮しつつも、リベラルな世界秩序への挑戦を試みるようになり、もはや経済領域での抗争は避けられなくなっている。ワシントンがより多くの制裁措置を発動する政治的動機も高まっている。制裁措置は、イランの核開発など、「すでに存在する問題行動」を見直させる上で一定の成功を収めているが、いまや制裁を通じて「未来の問題行動」を抑止することを考えるべきだ。ここにおける課題は、危機が起きる前に、ワシントンの官僚たちが制裁システムを設計したことはなく、同盟諸国と制裁について事前に交渉したこともないことだ。しかし、いまや国際的軋轢の多くが生じているのは「戦争と平和の間のグレイゾーン」であり、この領域におけるもっともパワフルな「抑止力としての制裁システム」を確立する必要がある。

  • 消し去られた中国共産党の歴史
    ―― 共産党は歴史をいかに抹殺したか

    オービル・シェル

    雑誌掲載論文

    毛沢東時代の中国共産党はさまざまな社会層を対立させただけでなく、残忍な大衆運動が作り出す波状的なうねりのなかで、考えられぬ規模の人々が殺されるか、破滅へと追い込まれた。民衆に想像を絶する苦しみと死をもたらしたにもかかわらず、党がその過ちを公的に認めたことはない。現在の中国は、比較的安定した時代にある。中国は過去を清算して、その傷を癒やし、次の段階に進む道を見つけたと考える人もいるかもしれない。だが、実態はそのイメージからはかけ離れている。共産党は「過去をなかったことにしよう」と試みている。少しでも過去の不徳を認めるのは、党の正統性と一党独裁の権限を傷つける恐れがあるからだ。中国共産党が権力の座にあるかぎり、過去への反省が表明されることは決してないだろう。だが、その帰結を考える必要がある。

北朝鮮の核ミサイル戦力を検証する

  • 金正恩とICBM
    ―― なぜ必要なのか、完成のタイミングはいつか

    ジェフリー・ルイス

    雑誌掲載論文

    日韓の駐留米軍に対して核兵器を使用するという恫喝は、北朝鮮に対米直接攻撃能力がなければ信頼できるものにはならない。北朝鮮の核戦略にとって、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が不可欠なのはこのためだ。すでに北朝鮮はICBMに搭載できる核弾頭の小型化には成功していると考えられ、むしろ、残された課題は宇宙空間に打ち上げられた後に地球の大気圏に再突入する軌道で核弾頭が遭遇する衝撃や振動、極度の高温に耐えられるようにできるかどうかだ。大気圏再突入の際に発生する極度の高温から弾頭を保護する「再突入体」の耐久性が必要になる。この意味では、北朝鮮は依然としてICBMを完成させてはいない。しかし、そう遠くない将来に、北朝鮮がICBMの開発に成功する可能性は高い。

  • 北朝鮮の核戦力の現状
    ―― ICBMによる核ミサイル能力は完成していない

    ジークフリード・S・ヘッカー

    雑誌掲載論文

    核分裂性物質の生産、核爆発装置の製造、そしてさまざまなタイプのミサイル開発をめぐって大きな進展を遂げている以上、北朝鮮はこれらを一つにまとめて核戦力を完成させ、ワシントンに対する抑止力を形成したのだろうかと懸念しても不思議はない。北朝鮮が、韓国や日本に到達可能なミサイルに核弾頭を搭載できることはほぼ間違いない。しかし、ICBMを用いた攻撃に必要とされる核・ミサイル能力をマスターするには、少なくとも後2年間の実験が必要だと私は考えている。一方で、このタイミングで外交交渉の機会が生まれていることを見落としてならない。

  • なぜTHAADが必要なのか

    アズリエル・ベルマント、イゴル・スチャーギン

    Subscribers Only 公開論文

    THAAD防衛システムは、アジアに展開する米軍と同盟国である韓国と日本を防衛することを意図している。しかし、韓国民衆は防衛システムの配備に反対してきたし、中国もTHAADのレーダーシステムは中国の領土を監視できるために、軍事的な脅威になると強く反発している。とはいえ、THAADミサイル防衛システムは、抑止状況が崩れた場合の保険として捉えるべきだろう。ミサイル防衛は、北朝鮮のようなリビジョニスト国家による攻撃を抑止する効果がある。平壌は、防衛システムの存在によって韓国の反撃能力が温存されるシナリオを検討せざるを得なくなるからだ。これが「拒否的抑止」として知られる機能だ。THAADが完璧な防衛を提供できるわけではないが、平壌に対して、韓国の都市部に対するミサイル攻撃の成功は保証されないというメッセージを送ることができる。

  • ミサイル防衛の可能性と限界

    マイケル・オハンロン

    Subscribers Only 公開論文

    二十一世紀の安全保障戦略のカギは、ミサイル防衛システムである。ミサイル防衛システムとは、基本的に、相手のミサイル発射を探知・追跡する衛星の赤外線センサー、飛来するミサイルを捕捉し迎撃ミサイルを誘導するレーダー、そして迎撃ミサイル本体によって構成される。短距離・中距離ミサイルを迎撃する防衛システムを戦域ミサイル防衛(TMD)と呼び、大陸間弾道弾などによる攻撃からアメリカ本土を防衛するのが米本土ミサイル防衛(NMD)である。TMDシステムの信頼性はすでに確立されており、実際、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)という脅威を近くに抱えるアジアの同盟諸国がTMD導入をとりやめるとはもはや考えにくい。一方、NMDの場合、まだ技術的な課題を伴うために、明確な結論は出ていない。とくにNMD論争に顕著なのは、技術的に可能なことは現実にも可能であるととらえる短絡論に終始する賛成派と、冷戦期の戦略や思考から抜けだせない反対派との議論がかみ合わず、本来の安全保障概念が無視されていることだ。NMDの技術高度化を図っても、それによって米ロ関係などの重要な外交関係が緊張するようでは意味がない。進歩した技術も万能ではなく、高度の防衛システムの配備には外交的悪影響も伴うことを踏まえた冷静な安全保障論争が必要である。

  • 核兵器と核戦略を問い直す
    ―― 何のための核兵器なのか

    フレッド・カプラン

    Subscribers Only 公開論文

    進行しつつある世界政治の変化を十分に考慮できぬまま、われわれは依然として核兵器に固執している。抑止に大量の核兵器は必要ない。オバマ大統領が本気で核戦力の近代化計画を見直すつもりなら、「抑止に本当に必要なものは何か」を再検証しなければならない。核兵器がない状態を想定して、核戦争プランを根底から見直し、何のためにどれだけの核兵器が必要なのかを白紙から合理的に再分析すべきだ。こうした見直しが行われてこなかったのには単純な理由がある。米軍が核戦力を戦略上の前提として重視する派閥を内に抱え、議会も核兵器関連産業や研究所を選挙区にもつ有力メンバーを抱えているからだ。オバマが残された任期中に核の近代化計画の見直しに向けた基盤を作るのは難しいとしても、これは、彼の後継者、そして世界の指導者たちが取り組むべき重要な任務だろう。

  • 日韓の核開発をアメリカは容認すべきか
    ―― 核の傘から「フレンドリーな拡散」へ

    ダグ・バンドウ

    Subscribers Only 公開論文

    日本や韓国が核武装を考えているとすれば、なぜワシントンが彼らの防衛と安全を保証しなければならないのかという考えが浮上してもおかしくない。一方で、ワシントンが日韓への防衛コミットメントを続けるかどうか迷い始めれば、両国を核武装へと向かわせるかもしれない。日本と韓国が中国や北朝鮮に対抗していくために、(核開発を通じて)独自の抑止力を構築することを望むのなら、ワシントンはそれを許容することも考えるべきだろう。日韓が核抑止力を手に入れれば、仮に紛争が起きても、アメリカが自動的に戦争に巻き込まれることもなくなり、ワシントンは自国の防衛に向けて戦力を再編できる。アメリカのグローバルな防衛上のコミットメントに必要とされるコストは、コミットメントから得られる利益を上回っている。ソウルと東京が北朝鮮に対抗する兵器を開発するのを決意するのであれば、それを許容することをワシントンが検討しないのは愚かだろう。

  • ドイツにおける核武装論争
    ―― なぜ核武装は危険思想なのか

    ウルリッヒ・クーン、トリスタン・ボルペ

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアによるウクライナ侵略、アメリカの対ロ政策の迷走、そして、欧州安全保障へのコミットメントに懐疑的なトランプ政権の誕生を前に、ベルリンの困惑とヨーロッパ安全保障への不安は高まった。「アメリカの核の傘による安全保障(の今後)に対する懸念を取り払う、独自の核抑止力の形成を検討すべきだ」と提案する者もいる。たしかに、ヨーロッパが「敵対的なロシア」と「無関心なアメリカ」の板挟みになれば、ベルリンはヨーロッパを政治的に守るだけでなく、軍事的に防衛することを求める大きな圧力にさらされる。だが、この国の核武装には「ドイツ問題」という歴史問題が関わってくるだけでなく、EUを中核に据えてきた戦後ドイツの国家アイデンティティそのものが揺るがされる。しかも、ドイツが核戦力をもてば、EUとロシアの関係が不安定化するだけでなく、他の諸国が核開発を試みる核拡散の連鎖が生じる。

  • なぜイランは核兵器を保有すべきか
    ―― 核の均衡と戦略環境の安定

    ケネス・N・ウォルツ

    Subscribers Only 公開論文

    現在のイラン危機の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生している。イスラエルの核保有のケースがきわめて特有なのは、核武装から長い時間が経過しているにも関わらず、依然として中東で戦略的な対抗バランスが形成されていないことだ。イスラエルは核開発を試みて戦略バランスを形成しようとするイラクやシリアを空爆し、これらの行動ゆえに、長期的には持続不可能な戦略的不均衡が維持されている。現在の緊張の高まりは、イランの核危機の初期段階というよりは、軍事バランスが回復されることによってのみ決着する、数十年におよぶ中東における核危機の最終段階とみなすことができる。現実には、イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオだ。この場合、中東の軍事バランスが回復され、戦略的均衡を実現できる見込みが最大限に高まる。

  • アメリカはグローバルな軍事関与を控えよ
    ―― オフショアバランシングで米軍の撤退を

    ジョン・ミアシャイマー、スティーブン・ウォルト

    Subscribers Only 公開論文

    イラク、アフガニスタン戦争など、冷戦後のグローバルエンゲージメント戦略が米外交を破綻させたことが誰の目にも明らかである以上、いまやアメリカは「リベラルな覇権」戦略から、オフショアバランシング戦略へのシフトを試みるべきだろう。オフショアバランシング戦略では、アメリカの血と財産を投入しても守る価値のある地域はヨーロッパ、北東アジア、そしてペルシャ湾岸地域に限定され、その戦略目的はこれらの地域で地域覇権国が出現するのを阻止することにある。さらに、その試みの矢面にアメリカが立つのではなく、覇権国の出現を阻止することに大きなインセンティブをもつ地域諸国に防衛上の重責を担わせることを特徴とする。ヨーロッパにも、ペルシャ湾岸地域にも潜在的覇権国が登場するとは考えにくく、米軍を駐留させ続ける合理性はない。一方、北東アジアについては、地域諸国の試みをうまく調整し、背後から支える必要がある。

  • 人工知能と中国の軍事パワー
    ―― 戦場の「技術的特異点」とは

    エルサ・B・カニア

    雑誌掲載論文

    今後数十年もすれば、人工知能(AI)が戦争の概念を変化させるかもしれない。2017年6月に中国電子科技集団は119台のドローンによる編隊飛行を成功させ、世界記録を更新した。紛争になれば、中国軍が安価なドローン編隊で、空母のように高価なアメリカの兵器プラットフォームをターゲットにするかもしれない。AIとロボティクスが戦争で広く応用されるようになれば、AIの急激な技術成長が刺激され、人間の文明に計り知れない変化をもたらす「シンギュラリティ=技術的特異点」が現実になると予測する専門家もいる。この段階になると、AIを導入した戦闘が必要とするスピーディな決断に人間はついていけなくなるかもしれない。軍は人間を戦場から引き揚げ始め、むしろ監視役に据え、無人システムに戦闘の大半を遂行させるようになるかもしれない。

瀬戸際のサウジアラビア

  • イエメン紛争の本質
    ―― サウジが軍事介入した本当の理由

    アシャー・オーカビー

    雑誌掲載論文

    イランがフーシ派に武器を提供し、軍事アドバイザーを送りこんでいるために、イエメン内戦は(シーア派の)イランと(スンニ派の)サウジの覇権争いの延長線上にあると説明されることも多い。しかしこの見方は、戦争の原因とサウジが介入した理由を誤解している。イエメン内戦は、イエメン政府の正統性と統治能力が低下した結果、中央政府と長年虐げられてきた北部部族の対立がエスカレーションしたことで引き起こされた。そして、サウジが介入したのは、イランの拡張主義に対抗するためではなく、フーシ派の脅威から自国の南部国境線を守るためだった。

  • サウジのイラン戦略とレバノン
    ―― レバノンを代理戦争の舞台にしてはならない

    ビラル・サーブ

    雑誌掲載論文

    2016年に政治的な生き残りのために、ヒズボラからの支持を取り付けようとしたレバノンのハリリ首相は、もはや対ヒズボラ強硬路線をとる意思も能力ももっていないとサウジは考えるようになった。これが、サウジがハリリに辞任を強要した理由だ。今後、サウジは、ヒズボラを弱体化させようと、レバノンの銀行にある預金を全額引き出し、サウジ領内で暮らすレバノン人を国外に追放してレバノン財政の安定を脅かすことで、ヒズボラに対する圧力を強化しようとするかもしれない。レバノンの政治・経済を壊滅的な状況に追い込むことは誰の利益にもならないにも関わらず、サウジはそうすることを決意しているようにみえる。レバノン全体を苦しめることなくヒズボラを弱体化させるには、別のより優れた方法がある。

  • サウジアラビアとイラン
    ―― ビン・サルマンへの権力集中の意味合い

    トビー・マティーセン

    Subscribers Only 公開論文

    最近の政治的パージによって、ビン・サルマン皇太子は政治的ライバルを追い落としただけでなく、これまでアブドラ一族が支配してきた国家警備隊を含む、サウジの軍事組織の全てをいまや直接・間接に支配している。彼は、周辺地域が抱える問題の多くはテヘランが背後で操っているとみなし、イランに対してより強硬な路線をとっている。この現状は危険に満ちている。イラン脅威論を利用して国内のナショナリズムを煽りたてるビン・サルマンが、いまやサウジの権力を一手に担おうとしているからだ。テヘランに対する強硬路線をとるビン・サルマンをイスラエルが支持し、彼がサウジにおける自らの権力基盤を固めるなか、ワシントンからテルアビブ、リヤド、そしてアブダビをつなぐ、対イランの新たな枢軸が形成されつつある。

  • 関係修復へと動いたロシアとサウジの思惑
    ―― 中東の影響力をめぐる攻防

    アンナ・ボーシェフスカヤ

    Subscribers Only 公開論文

    1932年の王国誕生以降、サウジアラビアとソビエト・ロシアは、中東におけるほぼすべての戦争や対立をめぐってことごとく別の立場をとってきた。しかし、2000年5月にロシアの権力者となったプーチンは、米サウジ関係の緊張をうまく利用しようと、2007年にリヤドを訪問した。プーチンはリヤドとの経済関係を強化し、アメリカと中東同盟国の関係に楔を打ち込みたいと考えている。停滞するロシア経済が外国投資を必要としていることも理解している。一方サウジは、「経済的インセンティブを与えることで、ロシアがイランに距離を置くように仕向けられる」と考え、シリア問題をめぐっても、ロシアとの関係を通じて一定の機会を確保したいと考えている。今後の展開は予断を許さないが、少なくとも、プーチンはサウジの国王や皇太子以上に多くのカードをもっている。

  • サウジはなぜカタールに強硬策をとったか
    ―― カタールの独自外交とアルジャジーラ

    デビッド・B・ロバーツ

    Subscribers Only 公開論文

    国営のカタール・ニュースエージェンシー(QNA)は、タミル首長の一連の挑発的な発言を紹介した後、「カタールを陥れるバーレーン、エジプト、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦による陰謀を突き止めた」とするツイートを流している。その後ドーハは「カタールのニュースエージェンシーは、周到に計画されたハッキング被害に遭った」と主張し、米FBIもこの事実を事後的に確認したが、断交という抜いた刀をサウジが鞘に収める気配はない。サウジを含む湾岸の君主諸国が今回なぜカタールに圧力をかけているのか、その理由ははっきりしない。だが、アルジャジーラでアラブの独裁体制を揺るがし、ムスリム同胞団を支援してエジプト政府と敵対し、イランとも接触してきたカタールにサウジがこれまで同様に手を焼いているのは事実だろう。米軍基地を受け入れ、天然ガス資源を世界に供給しているとしても、時間が経過するにつれてカタールはさらに追い込まれていく。

  • サウジの歴史的選択
    ―― 王国は社会・経済改革という嵐に耐えられるか

    ニコラス・クローリー、ルーク・ベンシー

    Subscribers Only 公開論文

    リヤドを経済・社会変革に駆り立てているのは、原油安ではなく、むしろ、ユースバルジに象徴される人口増大問題だ。たとえ原油価格が上昇しても、今後の人口増を考慮すれば、家計収入の80%が公的部門の給与とさまざまな補助金に依存している現在の経済モデルは維持できなくなる。だからこそ、リヤドは行動計画「ビジョン2030」を実行しようと試みている。これは、改革が引き起こす政治・経済・社会的大混乱のなかで、かつてない規模の若者たちが成人していくことを意味する。経済改革の設計者(政府)と社会的安定の擁護者(治安当局)は、緊密に連携しながら、この国の文化的アイデンティティの中核部分を慎重に再調整していかなければならない。激しい抵抗に直面するのは避けられないが、改革に失敗すれば、サウジは、現在のいかなる脅威よりもはるかに危険な、国内の全面的な不安定化という事態に直面することになる。

  • トランプとサウジアラビア
    ―― リヤドとの関係を見直すには

    マダウィ・アル=ラシード

    Subscribers Only 公開論文

    イランに対してどのような路線をとるにせよ、トランプ米大統領は、「サウジとの特別な関係」の重要な側面の一部を見直す必要がある。依然としてサウジは国内で抑圧を続け、女性の権利も十分に認めていない。イエメン、シリアその他への対外軍事介入は、すべてライバルであるイランを意識したものだ。実際、ワシントンはサウジへの無条件の支援は控えるべきだろう。そうした路線は、リヤドの行き過ぎた行動の正当化に力を貸し、「ワシントンは独裁体制を支援している」という批判を招き入れることになる。無論、リヤドとの関係を断ち切るべきではない。それでも、アメリカの利益を守る形で関係の再定義を試みる必要がある。

Current Issues

  • 難民危機と非感染性疾患
    ―― 受入国が難民の健康管理を助けるべき理由

    ジュード・アラワ

    雑誌掲載論文

    シリア難民を含む中東難民の多くは、食糧やシェルター、そして雇用の確保などの切実な必要性を優先し、緊急に対処が必要ではないように思える非感染性疾患のケアを後回しにする傾向がある。だが疾患が悪化すれば、そうした必要性の高い優先事項の実現に向けて積極的に取り組むのさえ難しくなる。難民は健康なら、現地で労働者が不足しているセクターで仕事に就き、消費にまわせる十分な収入を得て、新しいコミュニティに貢献できる。しかも、貧困と病気に陥るのを避けられれば、過激思想に被られたり、暴力路線をとるようになったりする危険も低下する。

  • 中国型シェアリングエコノミーの落とし穴
    ―― バブルの崩壊は近い

    ジェームズ・ヤン

    雑誌掲載論文

    他国では考えられないことだが、中国には、企業価値が10億ドルを超える未上場のユニコーン企業が、シェアリングエコノミー部門だけで12社も存在する。伝統的なシェアリングエコノミーの最大の特徴は、既存資産の利用効率を向上させることにある。しかし、何百万もの新型の自転車や傘を大量に貸し出す中国企業は、過剰供給を作り出しているだけだ。要するに、欧米経済においてシェアリングエコノミーをイノベーティブでディスラプティブにした要因の多くが中国では欠落している。さらに、(携帯電話充電器や傘のような)安価な製品を相対的に高い利用料で貸し出すビジネスモデルは本質的な欠陥を抱えている。これが魅力的であり続けるはずはない。今後、持続不可能なモデルを採用したスタートアップ企業の破綻と統廃合が進むだろう。

  • ドイツ政治の漂流
    ―― 既成政党に挽回のチャンスはあるのか

    スーダ・デビッド=ウィルプ

    雑誌掲載論文

    中道政党が長く統治を担ってきたドイツの政治構造に変化が生じている。右派・ポピュリスト政党の「ドイツのための選択肢」は9月の選挙の結果、連邦議会で94議席を手に入れた。連立協議が崩壊した後、メルケルは社会民主党との大連立に向けた協議を模索しているが、解散総選挙というシナリオも依然として取り沙汰されている。ヨーロッパが、欧州の防衛、ユーロゾーンの改革、ブレグジットのような困難な問題へドイツがどのような対応を示すかを心待ちにしているタイミングにあるというのに、ヨーロッパ最大の経済国家として大陸の安定した中核を狙うべき国が地図のない海域で漂流している。

  • 台頭するドイツの右派運動
    ――「西洋のイスラム化に反対する愛国的ヨーロッパ人」

    ポール・ホケノス

    Subscribers Only 公開論文

    ドイツの極右運動ペギーダが動員するデモ隊は「重税、犯罪、治安問題という社会的病巣を作り出しているのはイスラム教徒やその他の外国人移民だ」と批判している。「ドイツはいまやイスラム教徒たちに乗っ取られつつある」と言う彼らは、「2035年までには、生粋のドイツ人よりもイスラム教徒の数の方が多くなる」と主張している。実際には、この主張は現実とはほど遠い。それでもドイツ人の57%が「イスラム教徒を脅威とみなしている」と答え、24%が「イスラム系移民を禁止すべきだ」と考えている。「ドイツのための選択肢」を例外とするあらゆるドイツの政党は、ペギーダを批判し、彼らの要求を検討することさえ拒絶している。だが今後、右派政党「ドイツのための選択肢」の支持が高まっていけば、ペギーダ運動が政治に影響を与えるようになる危険もある。

  • ヨーロッパにおけるポピュリズムの台頭
    ―― 主流派政党はなぜ力を失ったか

    マイケル・ブローニング

    Subscribers Only 公開論文

    ヨーロッパでなぜポピュリズムが台頭しているのか。既存政党が政策面で明らかに失敗していることに対する有権者の幻滅もあるし、「自分たちの立場が無視されていると感じていること」への反動もある。難民危機といまも続くユーロ危機がポピュリズムを台頭させる上で大きな役割を果たしたのも事実だ。いまやフィンランド、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スイスを含む、多くのヨーロッパ諸国で右派政党がすでに政権をとっている。「イギリス独立党」、フランスの「国民戦線」、「ドイツのための選択肢」など、まだ政権を手に入れていない右派政党もかなりの躍進を遂げている。中道右派と中道左派がともにより中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。厄介なのは、ヨーロッパが直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちがこれ以上ブリュッセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。

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