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政治・文化・社会に関する論文

アジア主義からナショナリズムへ
―― アジアにおける革命運動の変遷

2021年9月号

アドム・ゲタチュー シカゴ大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)

第一次世界大戦期、アジアでは別の戦争が起きていた。ジャワ島では、中心部でもプランテーションでも労働者のストライキが起き、マレー半島のクランタン州では新税に対する反乱が発生した。サイゴンからスマトラ、シンガポールからラホールまで、抵抗思想が野火のような広がりをみせていた。反乱にはそれぞれの火種があり、抵抗運動の政治的イデオロギーは様々だったが、アジア主義という共通するグローバルなビジョンがあった。こうして「帝国主義の絶頂期にあった欧州列強に対抗するラディカル勢力「アジアン・アンダーグラウンド」が形成された。「欧米の主人たちと、支配されている自分たちの立場は逆転する」と確信するアジア主義思想は、最初に日本に拠点を見出すが、その後、共産主義の国際主義と重なりあい、最終的にはナショナリズムへ向かっていった。・・・。

再生可能エネルギーの新地政学
―― シーレーンから多国籍グリッドへ

2021年8月号

エイミー・マイヤーズ・ジャッフェ   タフツ大学 フレッチャー・スクール 研究教授

ランサムウェア攻撃でアメリカ最大のパイプラインの一つが2021年5月に閉鎖に追い込まれる事件が起きた。遠く離れた場所の得体のしれぬ勢力が遂行した(重要な国内インフラを対象とする)複雑なデジタル攻撃は今後の脅威を予兆している。(再生可能エネルギーによる)電力が世界のエネルギーシステムでのプレゼンスを拡大していくにつれて、より多くのインフラがサイバー攻撃にさらされるようになるだろう。グリッドが大きくなると、保護を必要とするインフラが巨大になり、ハッカーが侵入する機会が増えるからだ。例えば、(電力インフラをターゲットにする)サイバー空間での活動を規制する国際ルールの確立を主導するのは、冷戦期における核軍備管理合意と同じくらい重要な試みになる。「デジタル化された世界の地政学」に向けて、ワシントンは現状を大きく見直す必要がある。

マジックマネーの時代は続く
―― われわれが信頼するFRB

2021年8月号

セバスチャン・マラビー  米外交問題評議会 シニアフェロー(国際経済担当)

アメリカ市場における「復活した需要と限られた供給」は予想可能な結果をもたらした。連邦準備制度理事会のPCEコアデフレーターは、3・4%と、1990年代初頭以来の高水準で推移している。マジックマネーの時代におけるこのようなインフレは何を意味するのか。インフレの時代が本当に戻ってきたのか。エコノミストや金融アナリストの答えは、現在のインフレがどうなるかについての三つの予測として大別できる。但し、マジックマネーの時代が色あせていくと示唆するのはこのうちの一つの予測、それも、もっとも現実性に乏しい予測だ。連邦準備制度理事会が40年にわたって信頼を築いてきたからこそ、マジックマネーの時代は私たちの目の前にある。世界の人々は、自国の中央銀行が極端な規模の紙幣を刷り増しても、インフレによって自国通貨の価値が破壊されることはないと信頼している。うまくいくとは信じがたいかもしれないが、それでもうまくいっている。・・・

半導体は何処へいった
―― グローバルサプライチェーンをいかに守るか

2021年8月号

チャド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所  シニアフェロー

なぜ半導体チップは不足しているのか。コロナ危機のなかで、リモートワークシステムの投資が進み、多くの人がホームオフィスディバイスを新たにアップグレードしたことで、チップ需要が急増したのは事実だ。しかし、最大の問題は、トランプ政権が国家安全保障上の懸念を理由に2018年に中国との貿易・技術戦争に入り、これによって、グローバルな半導体のサプライチェーンと市場が揺るがされたことだ。特にファーウェイへの制裁措置へのパートナー国の同調を求めたことで、市場の歪みは大きくなった。すでにバイデン新政権は、日本、韓国、欧州連合(EU)との首脳会談で新たな半導体戦略に向けた基本合意をまとめている。必要なのは多国間協調の詳細を詰めて、それを具体化し、履行していくことだ。

こう着状態が長期化するにつれて、ミャンマー経済は崩壊へ向かい、貧困化する人が急増している。医療システムはすでに破綻し、武力衝突が激化するなか、大規模な難民が中国、インド、タイなどの近隣諸国へ流出することになるだろう。破綻国家への道をたどるミャンマーの混乱につけ込もうとする勢力が台頭するかもしれない。課題は国家的破綻の期間を短くし、弱者を守り、新しい国家を作り、より自由・公平で豊かな社会の建設を始めることだ。今後、平和なミャンマーが出現するとすれば、民族ナショナリズムのストーリーに支配されない、新しい国家アイデンティティが共有され、改革を経た政治経済体制が根付いた場合だけだろう。2月のクーデターだけでは危機を説明できない。現状は数十年にわたって国家破綻プロセスが続き、国家建設に失敗し、あまりに長期にわたってあまりに多くの人にとって社会と経済が不公正だったことによって引き起こされている。

「帰ってきたアメリカ」は本物か
―― クレディビリティを粉砕した政治分裂

2021年7月号

レイチェル・マイリック   デューク大学研究助教授(政治学)

「本当にアメリカは帰ってきたのか」。トランプだけではない。同盟国はアメリカの国内政治、特に今後の外交政策に大きな不確実性をもたらしかねない党派対立を気にしている。これまでは、外交が政治的二極化の余波にさらされることは多くなかったが、もはやそうではなくなっている。議会での政治対立ゆえに条約の批准が期待できないため、米大統領は議会の承認を必要としない行政協定の締結を多用している。だがこのやり方は、次の政権に合意を簡単に覆されるリスクとコストを伴う。国内の政治的二極化が続き、ワシントンが複雑な交渉に見切りをつけ、新政権が誕生するたびに既存のコミットメントが放棄されるようなら、「敵にとっては侮れない大国、友人にとっては信頼できる同盟相手としてのワシントンの評判」は深刻な危機にさらされることになる。

パンデミックによる「学校閉鎖」と格差拡大
―― 途上国の学校再開への投資を

2021年7月号

エミリアナ・ベガス  ブルッキングス研究所 シニアフェロー

富裕国に比べて低所得国や中所得国でより長期にわたって学校が閉鎖され、そもそも恵まれない生活環境にあるか、クラスについていけずにいた子供たちがリモートによる学習でさらに取り残されている。こうした学習機会の損失が世界の貧困国で集中的に起きている。質の高い学校教育を受けた子供たちは、そうできなかった子供よりも将来多くの所得を得るようになり、国レベルでみても質の高い教育を与える国は、より高い経済成長率を達成する傾向がある。このトレンドからみれば、現状は今後問題がさらに深刻化していくことを示唆している。低所得国と中所得国の学校をこのままの状態で放置すれば、貧困と格差はますます深刻になる。コミュニティ、政府、国際機関は公立学校、特に貧しく、疎外された地域で暮らす子供たちが通う学校の再開と改善に投資する必要がある。

米経済とインフレ論争
―― インフレは本格化するか、収束するか

2021年7月号

ロジャー・W・ファーガソンJr 米外交問題評議会特別フェロー(国際経済担当)

連邦準備制度理事会(FRB)の政策決定者が、2021年の平均インフレ率を約2・5%と予測し、その後、低下していくと考えているのに対して、他のエコノミストは、インフレ率は4%にまで上昇し、今後数年でさらに上昇するとみている。FRBの意思決定者は、「金利の引き上げに踏み切る段階になるまで、今後も忍耐強く状況を見守る」とコメントしており、受け入れ可能な範囲を超えた、突出した物価上昇があっても、それは、パンデミックによる経済シャットダウン後の経済再開に派生する一時的なボトルネック現象だとみている。だが、現在のインフレ率の上昇は一時的なものだとみなす、FRBの分析が間違っていれば、そして、FRBは認識面で後れをとっているという批判派の見方が正しければ、アメリカ経済だけでなく、世界の他の地域の経済も無傷では済まなくなる。

チベットという名の監獄
―― 第2の新疆ウイグルか

2021年6月号

ハワード・W・フレンチ  コロンビア大学 ジャーナリズム大学院教授

2008年、ダライ・ラマの亡命50年の節目を前に、一連の大規模な抗議デモが起きた。このデモの背景には、北京がチベット文化を弱め、チベット仏教の力を弱めようとすることに対する怒りだけでなく、尊敬されているダライ・ラマが亡命先で死去して、北京がその後継者を指名してチベット仏教を乗っ取るのではないかという不安があった。チベットの緊張が近く再び山場を迎える恐れがある。85歳のダライ・ラマが命の終わりに近づいているかもしれないからだ。すでに北京は、中国共産党が次のダライ・ラマ指名プロセスを管理すると発表している。このような異例の措置をとれば、新たなチベット騒乱をもたらす導火線に間違いなく火をつけることになる。

データ量が経済とイノベーションを左右する
―― データアクセスとプライバシーの間

2021年6月号

マシュー・スローター  ダートマス・カレッジ ビジネススクール 教授(国際ビジネス) デビッド・マコーミック   ブリッジウォーター・アソシエーツ 最高経営責任者

持続的な生産性の優位は国がアクセスできるデータの量に左右され始めている。自律走行車であれ、人工知能であれ、膨大な量のデータがイノベーションを左右するからだ。専門家が言うように「大量のデータにアクセスできる優秀な科学者は、一定量のデータにしかアクセスできないスーパーサイエンティストに勝る」。一方、データを管理する国際的な枠組みがなければ、市民のプライバシーが脅かされる。データが国境を越えて移動することを認めるのなら、政府は、どうやって自国民のプライバシーを保護できるのか。データはイノベーションを推進し、経済パワーを生み出し、国家安全保障にも関わってくる。アメリカを含む民主諸国は、テクノ権威主義モデルに対抗するためにも、データの潜在能力を引き出せる新しい国際枠組みを構築する必要がある。

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