中東地政学とイスラムのソフトパワー
―― 「政治・外交」に取り込まれた宗教
2019年2月号

社会主義と汎アラブ主義はすでに思想的に淘汰されているために、イスラム主義と競合できるのはナショナリズムだけだ。しかし、ナショナリズムには国外への訴求力がない。このために、中東各国政府は、国の威信を高め、地域的な国益を促進しようと、外交にイスラム的色彩をまとわせることで「イスラムのソフトパワー」を行使しようとしている。穏健派イスラム、反シーア、反ムスリム同胞団とそれが何であれ、各国は、これらの宗教的スローガンを、国内的な統制のためだけでなく、地域的な影響力拡大のためのツールとして利用している。イスラムを定義して擁護し、自国の目的のための動員手段とするという、イスラムのソフトパワーをめぐる中東での競争は今後ますます熾烈になっていくだろう。