1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

論文データベース(最新論文順)

プーチンを育んだロシア的価値
―― ロシア文化に配慮した外交アプローチを

2018年9月号

マイケル・キメージ アメリカ・カトリック大学教授(歴史学)

プーチンがロシア社会を自分のおもう方向へ強制しているのか、それとも、社会がプーチンを育んでいるのか。ロシアは実態のない国、つまり、古代の神話を基礎に(実態を隠そうとする)見せかけの村(ポチョムキン村)であり、民衆とは国家によって意思を授けられるポストモダンの意伝子(ミーム)にすぎないとみなされることも多い。だが現実には、プーチンがロシア社会に価値を押しつけたのではなく、ロシア社会の価値がプーチンの対外行動を支えている。多くのロシア人は、欧米はロシアに対して攻撃的かつ偽善的で自分たちを見下すような態度をとっているとみている。当然、ロシアの政治家たちにとって、欧米の要求に屈すれば、国内で重大な代償を支払わされる。欧米を公然と無視するプーチンを支えているのは、実際には、ロシア社会の価値に他ならない。

色あせた対米投資の魅力
―― 流れはポストアメリカのグローバル経済へ

2018年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

対米投資が大きく減少している。米企業を含む多国籍企業による2018年の対米純投資はほぼゼロに落ち込んでいる。これは、長期におよぶビジネスコミットメントをする対象としてのアメリカの魅力が全般的に低下していること、つまり、すでに流れがポストアメリカのグローバル経済へ向かっていることを意味する。さらに、法人減税、他の地域よりも力強い経済成長という投資を促す環境が存在し、しかもワシントンが、米企業が外国へ投資するのを抑える公式・非公式のハードルを作り出しているにもかかわらず、今後、米多国籍企業による外国への投資が増えていくとすれば、これも世界がアメリカ抜きのグローバルシステムに向かいつつあることを示す明確なシグナルとみなせるはずだ。グローバル化を嫌悪するトランプのアプローチによって、多くの人々が考える以上の早いペースで世界経済はポストアメリカの時代に向かいつつある。

社会民主主義は死滅していない
―― 「小さな政府」と福祉国家の間

2018年9月号

レーン・ケンワーシー カリフォルニア大学サンディエゴ校 教授(社会学)

アメリカの社会民主的な制度は、デンマークやスウェーデンと同レベルには達していないが、ゆっくりとだが着実に進化して、福祉国家への道を歩んできた。(小さな政府を標榜する)共和党がホワイトハウスと議会をともに制した結果、その歩みが停止に追い込まれているとしても、アメリカにおける社会民主主義の未来が閉ざされたわけではない。米政府の構造と、社会保障制度への世論の支持が、現在および未来の共和党多数派が唱える「小さな政府」のビジョンに大きく立ちはだかることになるだろう。いずれ、現在の試練も社会民主主義への道のりにおける行き止まりではなく、一時的な遠回りだったことが理解されるはずだ。

カーボンプライシングという幻想
―― より直接的な二酸化炭素削減策との組み合わせを

2018年9月号

ジェフリー・ボール スタンフォード大学 レジデントスカラー

炭素税や二酸化炭素排出権取引の前提として二酸化炭素排出に価格をつけるカーボンプライシングを導入することで、政策決定者や市民が、自分たちは地球温暖化対策に有意義な貢献をしていると幻想を抱いている限り、このシステムは無力なだけでなく、非生産的だ。このソリューションだけでは問題解決には至らないという現実を認識する必要がある。地球が摂氏2度の気温上昇という臨界点を超えるのはもはや避けられないが、それでも温暖化を最小限に食い止める方法はある。石炭の段階的利用停止、二酸化炭素回収貯留(CCS)技術開発のスピードアップ、原子力発電の継続、再生可能エネルギーコストの削減、化石燃料価格の値上げは効果がある。「カーボンプライシングは地球温暖化防止のために社会が用いる主要ツールであるべきだ」という考えには、ほとんど根拠がないことをまず認識する必要がある。

サイバー攻撃から米インフラを守るには
―― ロシアのサイバー攻撃に備えよ

2018年9月号

ロバート・ネイク 米外交問題評議会 シニアフェロー(サイバー政策担当)

情報機関やセキュリティ企業は、ドイツの製鋼所のネットワークシステムへの侵入、90万人のドイツ人が影響を受けた電話回線とインターネットサービスの切断だけでなく、ウクライナで発生した2度の停電にも、ロシアのハッカーが関与していたとみている。2016年大統領選挙へのロシアの介入からワシントンが学ぶべき教訓は、アメリカの(中間)選挙を守ることだけではないだろう。ロシアがサイバースペースを使って旧ソ連諸国に仕掛けている攻撃を、ワシントンはアメリカを待ち受けている未来への警鐘と捉えるべきだ。実際、ウクライナに対するロシアのサイバー攻撃は単なる実験で、相手国の電力網の遮断でロシアが戦略的あるいは戦術的優位を得ることに備えた演習にすぎなかった可能性がある。・・・

気候変動対策の不都合な真実
―― 破綻したアプローチを繰り返すな

2018年9月号

テッド・ノードハウス ブレイクスルー研究所 エグゼクティブ・ディレクター

世界の気温上昇を摂氏2度以内に抑えるという目標にこだわるのは間違っている。ほとんどの国は2年前にパリで掲げた二酸化炭素排出量の削減目標を実現できる軌道にはないし、仮にこれらの目標が達成されても、21世紀末までに世界の気温は3度以上上昇しているはずだ。多くの環境保護派は完全に失敗した過去のやり方で現在の問題に対処しようとしている。うまくアプローチできていない目標にこだわるのではなく、再生可能エネルギー、原子力、そして有望な新しい二酸化炭素回収テクノロジーを導入し、二酸化炭素排出量の削減努力をさらに強化すれば、たとえ気温上昇を2度以下に抑えられなくても、気候変動リスクは大幅に緩和できる。特に、二酸化炭素除去テクノロジーや原子力発電をもっと重視し、ジオエンジニアリングの研究も推進する必要がある。

外国人労働者政策と日本の信頼性
―― 労働力確保と移民国家の間

2018年9月号

ユンチェン・ティアン ジョンズ・ホプキンス大学  博士候補生(政治学)
エリン・アイラン・チャング ジョンズ・ホプキンス大学  准教授(東アジア政治)

人口の高齢化ゆえに日本社会は外国人労働力を必要としている。いまや有効求人倍率は1・6と非常に高く、建設、鉱業、介護、外食、サービス、小売などの部門における人材が特に不足している。こうして、政府は閉鎖的な移民政策を見直すことなく、外国人労働力受け入れのために二つの法的な抜け穴を作った。第1の抜け穴は日系人向けの「定住者」在留資格、もう一つは技能実習制度(TITP)だった。問題は、労働者不足が深刻化しているために、外国人労働者割当を増やさざるを得ないが、彼らに対する法的制約が見直されていないことだ。この状況が続けば、外国人労働者に社会や法律へのアクセスを閉ざした湾岸諸国のような状況に陥り、世界のリベラルな民主国家の一つとしての日本の名声が脅かされることになる。

米中貿易戦争の安全保障リスク
―― 対立は中国をどこへ向かわせるか

2018年9月号

アリ・ワイン ランド・コーポレション  政策アナリスト

ごく最近まで米中の経済的つながりは、戦略的な不信感がエスカレートしていくのを抑える効果的なブレーキの役目を果たしてきたが、いまや専門家の多くが、世界経済を不安定化させるような全面的な貿易戦争になるリスクを警戒するほどに状況は悪化している。経済・貿易領域の対立が、安全保障領域に与える長期的な意味合いも考える必要がある。北京がアメリカとの経済関係に見切りをつければ、国際システムに背を向け、明確にイラン、ロシア、北朝鮮との関係を強化し、アメリカと同盟諸国の関係に楔を打ち込もうとすると考えられるからだ。相互依存関係の管理にトランプ政権が苛立ち、(現在の路線を続けて)経済・貿易領域で中国を遠ざけていけば、安全保障領域でより厄介な問題を抱え込む恐れがあることを認識する必要がある。

中台関係の新たな緊張
―― 北京が強硬策をとる理由

2018年9月号

マイケル・マッザ アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート 客員フェロー(外交・国防政策)

この20年間の中台関係の歴史からみても、「交渉による統一」が実質的なカードではないことは明らかだ。それでも、習近平は、台湾に焦点を合わせる路線から遠ざかるのではなく、「中国の夢」の重要な一部に統一を据え、「中華民族の偉大なる復興」のためには、あらゆる中国人に繁栄をもたらすだけでなく、台湾の公的な統一が必要になると主張している。しかし、「偉大なる復興」に必要とされる経済成長は停滞期に入りつつあるのかもしれない。実際「力強い市場志向の改革なしでは、中国の経済成長は2010年代末までに終わる」と予測する専門家もいる。あらゆる中国人に繁栄をもたらせないとすれば、習近平は海峡間関係の緊張をむしろ歓迎するかもしれない。台湾海峡の風は強く、波は高い。

日本の新しい防衛戦略
―― 前方防衛から「積極的拒否戦略」へのシフトを

2018年9月号

エリック・ヘジンボサム
マサチューセッツ工科大学国際研究センター 首席リサーチサイエンティスト
リチャード・サミュエルズ マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

日本本土が攻撃されても、日米の部隊は中国の攻撃を間違いなく押し返すことができる。しかし、中国軍が(尖閣諸島を含む東シナ海の)沖合の島に深刻な軍事問題を作り出す能力をもっているだけに、東京は事態を警戒している。実際、中国軍との東シナ海における衝突は瞬く間にエスカレートしていく危険がある。最大のリスクは、尖閣諸島や琉球諸島南部で日本が迅速な反撃策をとれば、壊滅的な敗北を喫し、政府が中国との戦闘を続ける意思と能力を失う恐れがあることだ。日本は東シナ海における戦力と戦略を見直す必要がある。紛争初期段階の急変する戦況での戦闘に集中するのではなく、最初の攻撃を生き残り、敵の部隊を悩ませ、抵抗することで、最終的に敵の軍事攻撃のリスクとコストを高めるような「積極的拒否戦略」をとるべきだろう。ポイントはこの戦略で抑止力を高めることにある。

Page Top