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論文データベース(最新論文順)

アフリカの農業革命が世界の食糧危機を救う

2010年12月号

ロジャー・サロー シカゴ国際問題評議会シニアフェロー

現在、地球上のすべての人に提供できるだけの食糧が生産されているが、それでも10億人が飢えている。世界の食糧流通システムに欠陥があるからだ。しかも、需要は増大し続けている。現状で、人口増大分の需要を満たすとともに、食糧を手にできず、空腹に苦しむ人々に食糧を行き渡らせるには、世界の食糧生産を70~100%増やす必要がある。果たして食糧生産の拡大、流通の改善は世界のどこで可能なのか。その答えは、これまで世界からの食糧支援に依存してきたアフリカだ。事実、農業生産に残された最後のフロンティアとして、アフリカに大きな注目が集まっている。これからの数十年間に世界の食糧生産を大幅に増やし、貧困国の飢えを削減しつつ、新興国の需要の高まりを満たしていくための鍵を握るのが、アフリカでの緑の革命だ。

金融危機後の「ヨーロッパ」は分裂し、 内向きになっていく

2010年11月号

スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニア・フェロー

ユーロ圏の金融危機によって、ヨーロッパの統合プロジェクトは大きな試練にさらされている。(ギリシャを含む)一部のヨーロッパ経済がグローバル化、福祉国家の重荷に関連して経済的に困難な状況に直面するようになるにつれて、欧州統合という概念への人々の思いは複雑なものへと変化しつつある。ヨーロッパは内向きになっている。加盟各国は国内問題に専念するようになり、今後、EUが世界レベルでハードパワーとソフトパワーを行使する能力も制約されてくる。CFRのスチュアート・パトリックは、今後のヨーロッパでは、「国家間関係が重視されるようになり、大きな外交問題に遭遇した場合でも、欧州委員会や欧州議会よりも、ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領が各国の指導者たちと協議する形でリーダーシップを発揮することになる」と予測する。EUが解体することはないとしても、「ユーロを導入してユーロ圏を形成し、分かちがたく結びついている諸国」、そしてイギリスその他のように「ユーロには参加せずに、自国のペースで懸案に取り組んでいる諸国」の二つの集団へとヨーロッパは次第に分かれていくだろうと同氏はコメントした。聞き手はRoya Wolverson, Staff Writer, cfr.org

中東の新しい地図に応じた路線を
―― 激変した中東秩序を和平への追い風にするには

2010年11月号

ロバート・マレー 国際危機グループ(ICG) 北アフリカプログラム・ディレクター
ピーター・ハーリング ICGイラク・レバノン・ シリアプロジェクト責任者

中東情勢は急速に進化している。各プレイヤーの思惑も変わり、複雑な絡み合いをみせている。サウジがハマスとの対話を再開し、シリアとの関係を改善させ、一方のシリアはテヘランとの安全保障関係を強化しつつも、テヘランのイラクに対する干渉路線には反対している。アメリカは、この複雑な地域環境の変化を認識すべきだ。これまでのパターンを踏襲するのではなく、さまざまな諸国の取り組みを調整するコーディネーターの役割を果たすべきではないか。アメリカが主導する中東和平交渉と一体性のある形で、エジプトとサウジが、カタールやトルコとともにパレスチナの和解を促進することもできるし、トルコが和平プロセスにおけるハマス、シリアとの折衝にあたることも、核問題をめぐってイランとの折衝にあたることもできる。もっとも重要なのは、ワシントンが、穏健派VS・過激派という不毛なパラダイムで中東をとらえ続けるのをやめることだ。

メディアの新しいビジネスモデルは 存在するのか

2010年11月号

スピーカー
トマス・H・グローサー  トムソン・ロイター 最高経営責任者
司会
マイク・ホワイテカー  NBCニュースワシントン支局長兼上席副社長

多くの人々は、依然として印刷された紙とジャーナリズムを分かちがたく感じている。だが、これは(何がジャーナリズムなのかに関する)アイデンティティを間違って捉えていると思う。・・・紙は情報を伝えるためのディバイスにすぎない。・・・(最終的に)新聞がどのようにウェブに参入するかを決めざるを得なくなったとき、各紙はウェブサイトのニュースに特定のデッドラインを設けるのではなく、24時間体制にした。ここが大きな分かれ目だった。24時間体制を作るために投資しなければならなくなったからだ。いかに24時間体制のスタッフを編成するか。ニュースを24時間アップデートするのに誰を頼りにするか。これが人材とコストの問題を作り出した。こうして、国際ニュース部門が問題とみなされだした。アメリカの日刊紙は大規模な国際報道部門、コストのかかる国際支局をもっていたからだ。結局、ゆっくりとだが、この部門を閉鎖せざるを得なくなった。・・・(T・グローサー)

中国が重視する 国内技術革新路線と保護主義
――メードインチャイナからイノベーティドインチャイナへ

2010年11月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会対テロ・国家安全保障担当シニア・フェロー

中国政府は、アメリカと日本への技術依存は国家安全保障、経済安全保障上の脅威であると考え、「国の経済と安全保障の生命線に影響を与えるような主要な領域の中核技術」、つまり、次世代のインターネット、高度な工作機械、高解像度の地球監視システムなどを「外国から輸入しないように」と中国企業に求めている。中国の技術革新促進策の最終的な目的は、はっきりしている。それは、今後15年間で中国を技術革新型国家へと変貌させ、21世紀半ばまでに科学技術大国になることだ。問題はいかに、貿易を締め付けず、外国企業を差別せずに、国内の技術革新を刺激するかだ。現在のように、技術開発促進策の一環として保護主義路線、重商主義路線をとれば、中国はアメリカその他に諸国との間で大きな国際的火種を新たに抱え込むことになる。

ポスト鄧小平改革が促す中国の新対外戦略
―― 中国は新たな国際ルールの確立を目指す

2010年11月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会アジア担当ディレクター

経済成長と政治的安定を重視するという点では、中国政府はこの30年にわたって驚くほど一貫した立場を貫いてきた。変化したのは、その目的を実現するために何が必要かという認識のほうだ。この観点から、今や中国は自国に有利なように、グローバルな規範を作り替えたいと考えている。鄧小平の改革路線を経た次なる改革に向けた国内の必要性を満たしてくには、外部環境を作り替えるための対外路線が不可欠だと判断している。責任ある利害共有者という概念はもう忘れたほうがよい。国際社会のゲームルールそのものを書き換えたいと望む中国は、国際機関でのより大きな影響力を確保することを模索し、軍事力を増強し、国内での技術革新を排他的に試みている。この目的からグローバルな広報戦略も開始している。世界各国は、ポスト鄧小平革命がどのようなものであるかを理解し、その世界的な衝撃を想定し、備える必要がある。

先進国だけではない、新興国の少子化で世界経済の成長は減速する

2010年11月号

ニコラス・エバースタット アメリカン・エンタープライズ研究所政治経済学者

20世紀の人口増大が公衆衛生の拡大・向上によってもたらされたとすれば、21世紀を特徴付けるトレンドは出生率の劇的な低下になるだろう。先進国社会が高齢化し、高齢社会の重荷が、縮小する一方の現役労働世代にのしかかっていくことは大きな問題として認識されている。だが、あまり認識されていないのが、今後の世界経済の成長を担っていくと考えられる新興経済諸国の人口問題、特に若年労働力人口の減少だ。バラ色の未来を手にしているかにみえる中国も、今後20年間で若年労働力人口は30%、数で言えば1億人減少すると予測されている。これは少子化に苦しむ日本の若年労働力人口の減少率さえも上回っている。一方、若い労働力人口が目にみえて増えるのはサハラ砂漠以南のアフリカだけだ。今後、世界経済が危機を完全に脱したとしても、今後の成長を担うと考えられている新興国も労働力人口の高齢化問題に足をとられるとすれば、世界は生活レベル向上への期待全般を引き下げざるを得なくなるかもしれない。問題を解く鍵は、教育と公衆衛生を通じて、いかに人的資源の質を高め、知識生産と技術革新を実現していけるかにある。

赤字と債務がアメリカのソフトパワーを脅かす
―― アメリカがギリシャ化するのを避けるには

2010年11月号

ロジャー・アルトマン
元米財務副長官
リチャード・ハース
米外交問題評議会会長

アメリカの対GDP比債務残高は2015年には100%に達する恐れがある。これは、アメリカの債務が現在のギリシャやイタリアと同じ債務レベルになることを意味する。政府が赤字・債務削減プログラムを導入しない限り、金融市場にペナルティを課されるのは避けられなくなる。現状を放置すれば、緊縮財政を余儀なくされ、国防予算も削減対象にされる。アメリカの市場経済資本主義モデルの魅力も廃れ、中国流の権威主義経済モデルがますます大きな注目を集め、世界はますます無極化していく。アメリカ人の生活レベルだけでなく、アメリカの外交、対外路線、今後の国際関係にも非常に深刻な悪影響が出る。こうした甚大な帰結を回避するには、まず、財政上の歳入と支出のバランスをとってプライマリーバランスを図る必要がある。アメリカ市民と人々が選んだ議員たちが、この国の借り入れ中毒問題の解決を先送りし続ければ、アメリカは非常に大きな危険にさらされることになる。

CFRミーティング
短期的回復と持続的成長のバランスをどこに求めるか
 ――景気刺激策と財政赤字の間

2010年11月号

スピーカー
ヤコブ・A・フレンケル JPモルガン・チェース・インターナショナル会長
ステフェン・S・ローチ モルガン・スタンレー・アジア会長
司会
セバスチャン・マラビー CFR地政経済学研究センター所長

いま景気刺激策をやめてしまえば景気はますます悪くなるが、さらに刺激策を実施すれば政府債務の問題はさらに悪化してしまう。この問題を扱うには2つの側面での精密さが要求される。バランス(構成)とタイミングだ。・・・景気対策が期待していたほど効果を発揮しないのは、対策が終了した後の経済成長を支えるような環境整備が(政治的に)放置されることが多いからだ。(Y・フレンケル)<br>

「さらに数千億ドルの財政出動をします。出口戦略については後から考えます」では、あまりにも分別がなさすぎる。日本のように低成長が続き、現在すでに積み上がっている財政赤字を均衡へと向かわせるような税収増を期待できなくなれば、どうしようもなくなる。(S・ローチ)

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