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論文データベース(最新論文順)

中国の台頭はたしかに危険をはらんでいるが、それが伴うパワーバランスの変化によって覇権競争が起きて米中の重要な国益が衝突することはおそらくない。核兵器、太平洋による隔絶、そして現在比較的良好な政治関係という三つの要因のおかげで、現在のアメリカと中国はともに高度な安全保障を手にしており、あえて関係を緊張させるような路線をとることはないだろう。米中間の緊張の高まりを抑えつつ、地域バランスを維持するには、事態をやや複雑にするとはいえ、ワシントンはアジアでもっとも重要なパートナーである日本と韓国に信頼できる拡大抑止を提供し、一方で、台湾防衛のような最重要とは言えないコミットメントについては従来の政策を見直し、アメリカは台湾から手を引くことも考えるべきだろう。何よりも、アメリカは中国の影響力と軍備増強によって生じるリスクを過大視し、過剰反応しないようにする必要がある。

米連邦準備制度理事会のベン・バーナンキ議長は、(米議会が債務上限の引き上げに応じず)アメリカ政府がディフォルトを宣言せざるを得なくなれば、「景気回復の道は断たれ、再度、金融危機を誘発する恐れがある」とコメントしている。仮にディフォルトに陥らなくても、議会が債務上限の引き上げ承認に手間取れば、アメリカ経済、そして世界経済に大きなダメージが出る。・・・・JPモルガン・チェースのジャミー・ダイモンCEOは、債務上限問題を軽くみることに警告を発し、上限引き上げに向けた行動を明確にとらなければ、近い将来に本当にディフォルトに陥る危険があると指摘し、同氏は、「今後に備えて、きわめて慎重な措置をとる」と表明している。米政府がディフォルトを宣言せざるを得なくなるリスクはどの程度あるのか、ドルは準備通貨の地位を維持できるのか。

CFRインタビュー
中東の構造的変化に目を向けよ
――自由と権利を求め始めた民衆

2011年5月号

エドワード・デレジアン 元駐シリア、駐イスラエル米大使

チュニジアやエジプトの民衆が「もうたくさんだ」というスローガンを掲げたことが中東の現状をうまく現している。政治的権利、社会経済的権利を奪われ、雇用も創出されない状況に人々は「もうたくさんだ」と変化を求めた。さらに、政府の腐敗、富裕層と貧困層の間の巨大な富の格差にも人々は激しい憤りを感じていた。民主主義の価値からみても、われわれは民衆が作り出している歴史的潮流の側につく必要がある。だが、中東は多様であり、相手国の特性を考えた上でアプローチを区別する必要もある。チュニジアとエジプトはバーレーンとは違うし、バーレーンはシリアとも違っている。そして、これらの諸国とリビアに共通点はない。中東へのアプローチを一つの枠組みでとらえることはできない。例えば、ホルムズ海峡に近いバーレーンに対しては経済安全保障の視点も必要になるし、リビアについても、われわれはまず反体制派の実体を見極める必要がある。

 「カダフィを権力ポストから追放するというアメリカの政策目的」と「それを実現するために進んで何をするか」の間に大きなギャップが存在し、その結果、アメリカ政府は大きな混乱に直面している。短期的には目的を引き下げて、状況を安定化させるしかない。停戦を強く求めるべきだし、これ以上多くの人命が失われないように手をつくす必要がある。このためなら、当面、カダフィが権力ポストに居座り続けるのを認め、この間、国が短期的に二つに分断されることになっても仕方がないだろう。

トルコはイスラム、欧米のどちらを選ぶのか
―― 誤解されるトルコの新外交路線

2011年4月号

ヒュー・ポープ 国際危機グループ プロジェクト・ディレクター

フローティラ事件をめぐるイスラエルとの対立、そしてイランとの核燃料スワップ合意をめぐる欧米との確執によって、いまやトルコは西洋の一部ではなく、イスラム世界を志向し始めたのではないかと考えられている。たしかに、トルコは中東各国と緊密に接触し、中東版の超国家共同体をまとめあげる構想にさえ意欲をみせている。だが、アンカラは依然として欧米とのつながりを重視している。他の中東諸国とは違って、EUとアメリカの尊重されるパートナーであり続けていることが、トルコの繁栄と正統性を支えており、他の中東諸国はこれをうらやましく思っている。これがトルコの強みだ。中東問題の経済、安全保障面での余波を受けているのは、欧米諸国よりも、むしろ、トルコのほうが当事国だ。だからこそ、トルコは欧米とは異なる手段で問題を解決しようとしている。トルコが有する異なる手段とアプローチは、むしろ欧米に機会をもたらすことを認識すべきだ。

CFRインタビュー
原油価格ショックとグローバル経済の回復
―― 先進国の産業構造の転換が伴う問題とは

2011年4月号

マイケル・スペンス ノーベル経済学賞受賞エコノミスト

現在の原油価格高騰がいわゆる「ノーマルな状態」へ戻っていくと考えるのは正確ではない。「現在は一時的なショック状態にあるだけで、かつての状況に戻っていく」と考えるのは間違っている。危機前の状況へと戻っていくことはあり得ない。・・・さらに、マクロ経済の分析ではとかく景気循環が前提にされる傾向があるが、世界経済の構造と性格が着実に変化していることに目を向けるべきだ。・・・(今後、先進国は)貿易財部門、雇用に関して長期的に大がかりな変化を経験していく。いずれ経済成長路線に立ち返るだろうが、雇用(失業)問題が残存する。教育、・・・税制度、投資インセンティブ、公的資源を用いた投資と技術開発を見直していく必要があるし、所得再分配モデルも見直していくべきだ。

災害と政治

2011年4月号

アラステイアー・スミス ニューヨーク大学教授
アレジャンドロ・クイロズ・フローレス ニューヨーク大学政治学助教授

40年前、マグニチュード7・9の地震によってペルーでは6万6000人が犠牲になった。2001年にペルーはさらに大きな地震に見舞われたが、このときの犠牲者は150人未満だった。最初の地震の震源地の人口密度が2度目に地震が起きたときのそれの半分程度だったのは事実だが、それだけでは、これほど大きな犠牲者の違いを説明できない。・・・大きく違っていたのは政治の質だ。2001年のペルーは民主国家だったが、1970年当時は、そうではなかった。・・・民主国家の政治指導者が権力を維持していくには、市民の大多数の信任を得なければならない。そのためには、建築基準を徹底し、官僚制度を有能な行政官に指揮させることで、天災の被害から市民を守らなければならない。政府がこの点での備えを怠り、多くの人が犠牲になれば、政治家は職を失う。

大戦略を模索する中国

2011年4月号

王緝思 北京大学国際関係学院院長

中国の指導者たちの歴史認識の特徴は、外国の脅威によって国内の争乱が作り出されること、より具体的には、内なる脅威と外からの脅威が一体化するのを常に警戒している点にある。この点での際だったケースが、1989年の天安門事件という内的混乱の余波が残るなか、欧米諸国が中国に対する制裁措置を発動したことだった。その後、10年にわたって中国が強硬な対外路線をとったのは、内なる脅威と外からの脅威が一体化するのを恐れたからだった。だが、中国の優先課題はあくまで国内にある。北京は今後も、経済・社会領域での発展と開発に努め、外交政策もこの枠組み内でとらえていくだろう。「国際的な課題に対応していくプロセスにおいて国内改革を犠牲にしてはならない」と肝に銘じているからだ。中国がより大きな国際的責任を引き受けるように期待されているのは当然だが、国際コミュニティは、中国の願い、不安、国内の要望を満たして近代化を試みていくことの難しさに配慮し、中国が自らを支えるのを助ける責任がある。

いかに先進国は知識労働者を移民として魅了できるか
―― ドイツのジレンマ

2011年4月号

タマール・ジャコビー イミグレーションワークスUSA代表

19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合ったように、現代の大国はブレインパワー、つまり国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている。先進国は高度な知識とスキルを持つ外国の人材を必要としているが、各国の市民は外国人が持ち込む異質な文化を受け止められるかどうかを確信できずにいる。ドイツは、今後先鋭化してくる労働力不足問題を認識していながらも、変化を受け入れる準備ができていない。移民の社会的同化を促進する制度もうまく整備されているとはいえない。それでも、ドイツが他の国々よりも早く問題に気づいて対策を検討していることは事実だし、この点を、外国の有能な人材も考慮することになるだろう。

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