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論文データベース(最新論文順)

イスラム国の次なるターゲット?
―― 破綻国家リビアにおける抗争

2014年10月号

ジェフリー・ハワード
コントロール・リスク リードアナリスト (リビア担当)

深刻な政治危機と国家制度の崩壊によって権力の空白が生じているリビアは、テロ集団が活動しやすい環境にある。イスラム国の指導者アブマクル・バグダディは、東部のバルカ(ベンガジ州)、西部のトリポリ、南部のフェザーンがすでにイスラム国の支配下にあると表明し、最近もイスラム国の関連組織が21人のエジプト人コプト教徒を斬首・殺害する事件が起きている。とはいえ、リビアにおけるイスラム国の影響力は過大評価されている。人口の95%がスンニ派であるリビアにおける宗派対立のリスクは、イラクやシリアのそれほど深刻ではない。リビアが近く破綻国家と化すというシナリオも取りざたされているのは事実だが、イスラム国がリビアをカリフ国家の一部とするのは容易ではないだろう。・・・

香港と中国民主化の行方

2014年10月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

香港の活動家たちの要求を前に、北京が取り得る選択肢は数多くある。「デモを手荒く粉砕すれば、デモ参加者たちがさらなる改革を求めて運動するのを抑え込める」と北京は期待するかもしれない。あるいは、「香港の小さな地域にデモを封じ込めて、運動が次第に下火になっていくこと」を期待することもできる。現在の行政長官を当座の措置として解任するか、香港のさまざまな政治アクターを参加させる委員会を作り、2017年以降の行政官選挙のあり方を検討させることもできるだろう。問題は、北京の指導層にとってこれらの選択肢のすべては、いずれもかなりの政治・経済コストを伴うために、いずれも魅力的なものではないことだ。・・・

天高く、皇帝は遠し
―― 北京は地方政府を制御できるか

2014年9月号

デボラ・M・レール  ポールソン研究所 シニアフェロー、  レイ・ウェデル  ポールソン研究所 チーフオフィサー

中国のこれまでの経済成長モデルはすでに淘汰されている。経済成長を最優先課題に据えた結果、大気や土壌そして水の質がひどく汚染され、いまや中国政府も持続可能な成長への路線転換を試みている。習近平自身、「長期的な発展や質の高い投資を犠牲にして短期的な急成長を求めるべきではない」と発言している。問題は、「天高く皇帝は遠し」という中国のことわざにある通り、中央は遠く、地方はやりたい放題の状況にあることだ。その結果、北京の意向に関わらず、環境問題や政治腐敗は悪化の一途をたどっている。中国の今後は、中央の意向に即した政策が地方で遂行されるような統治構造改革に、習近平が自らの政治資産をどの程度投入するかに左右されるだろう。

中国を揺るがす水資源危機

2014年9月号

サルマーン・カーン  タフト大学フレッチャースクール助教

1950年代以降、中国では2万7000の河川が枯渇し、消滅している。世界の人口の約5分の1の水資源需要を満たさなければならないのに、世界の水資源の7%しか中国には存在しない。しかも主要産業が集中し、南部よりもはるかに多くの水を使う中国北部には、国内の水資源の23%が存在するだけだ。その上、供給される水資源の多くが汚染されている。安価で潤沢な労働力に依存している中国の成長モデルは、一方で中国大陸の水資源を左右する生態系さえも大きな圧力にさらしている。もはや経済モデルを見直し、エコロジーバランスの回復を優先課題に据えるしかない。必要とされる遠大な環境改革を実行するのは、政治的に不可能に思えるかもしれない。だが、現在の政策を見直さない限り、中国社会はいずれ深刻な社会不安に陥り、水資源を軸に南部と北部が対立し、下手をすると内戦へと向かう恐れさえある。

物質主義と社会的価値の崩壊
―― なぜ中国で宗教が急速に台頭しているか

2014年9月号

ジョン・オズバーグ  ロチェスター大学助教

1976年に毛沢東が死亡し、文化大革命が終わると、共産党は階級闘争と集団主義のイデオロギーを放棄し、その結果、中国社会に巨大なイデオロギー的空白が出現した。政府が反体制派を弾圧し、宗教団体を抑圧したこともあって、その後の急速な経済成長という環境のなかで、人々は信仰やイデオロギーよりも、現実主義、そして物質主義に浸りきった。だが豊かにはなったが、人々はどこか薄っぺらな時代のなかで絶え間ない不安にさらされている。いまや中国人の多くは自らの人生に意義や価値を見いだそうとし、キリスト教やチベット仏教に帰依する人も多い。問題は、共産党が物質的に快適な生活だけでなく意義のある生活を求める声に対応する準備ができていないことだ。環境危機や経済危機によって安定と成長を維持できなくなれば、共産党は、民衆を管理するのはもちろん、民衆にアピールする手段がほとんどないことに気付くことになる。

「イスラム国」の衝撃
―― 包括的空爆作戦の実施を

2014年9月号

バラク・マンデルソーン  ハーバーフォード大学准教授(国際政治)

「イスラム国」はイラクでの最近の軍事的成功を追い風に、シリアでも支配地域の拡大を試み、数日間だったとはいえ、レバノンの国境地帯の町アルサルさえも攻略した。自信を深めた彼らは、いまやイラク、シリア、レバノンの軍隊を相手に戦闘を繰り広げている。その目的は、支配地域を拡大し、戦費を調達するのに有用な石油施設やダムを押さえ、厳格なイスラム主義を制圧地域住民に強要し、ジハード主義集団内で自分たちの優位を確立することにある。すでにアルカイダ系のジハード組織のメンバーが「イスラム国」に参加しつつあることを米情報機関は確認しており、今後、その流れはますます大きくなっていくと考えられる。「イスラム国」の拡大をこのまま放置すべきではない。「イスラム国」と正面から対峙するタイミングを先送りすればするほど、その対応コストは大きくなる。

需要を喚起する新しい金融政策
―― キャッシュトランスファーの導入を

2014年9月号

マーク・ブリス  ブラウン大学教授 、エリック・ロナーガン  M&Gインベストメンツ マネジャー

中央銀行は21世紀の経済を1世紀前に考案された政策で管理しようと試み、思うように変化しない現実に直面している。リセッションは経済の健全性を取り戻すための必要悪であるとか、あるいは、それなりの価値があると考えるのでない限り、政府は一刻も早くリセッションを終わらせるために手を尽くすべきだし、ここで提言する中央銀行によるキャッシュトランスファーはそれを実現する非常に効果的なやり方だ。市民にキャッシュを提供すれば消費を直ちに喚起できる。しかもインフラプロジェクトや法制化を必要とする税法の改正や税率の見直しなどとは違って、中央銀行の決断だけでキャッシュトランスファーは実施できる。金利の引き下げとは違って、需要を直ちに喚起できるし、金融市場や資産価格を歪めることもない。コースを変化させる上で必要なのは、新しいものを試みる勇気、知力、そしてリーダーシップだ。

政治的期待と市場の熱狂
―― なぜ政治家への期待が市場に反映されるのか

2014年9月号

ルチル・シャルマ  モルガンスタンレー グローバル・マクロ分析統括者

これまで長く、GDP成長率、雇用、貿易などの経済統計数値を基に判断を下してきた市場プレイヤーたちも、各国の政治家のリーダーシップに目を向け、世論データと選挙動向に注目するようになった。新しいアイデアをもつ指導者、特に経済改革を推進するポテンシャルを秘めた新しい指導者が登場すれば、投資家や市場の期待は大きくなる。実際、近年の日本やメキシコ等の株式相場は、新しい政治家の登場に派生する変化への期待だけで上昇している。こうした政治指導者への期待に派生する一連の市場的熱狂のなかのどれが長期的な経済成長へとつながっていくかを予測するのは時期尚早だが、株式市場の動向が実体経済の行方を予測していることが多いのは歴史が示すとおりだ。

対ロ経済制裁と日本のジレンマ
――制裁で変化するアジアのパワーバランス

2014年9月号

イーライ・ラトナー /ニューアメリカンセキュリティ研究所シニアフェロー
エリザベス・ローゼンバーグ/ニューアメリカンセキュリティ研究所シニアフェロー

ウクライナ危機がさらに深刻化すれば、ワシントンはモスクワに対する制裁措置をさらに強化するかもしれない。しかし、ロシアを孤立させるための経済制裁は、必要以上に大きなコストをヨーロッパだけでなく、アジアの同盟国にも強いることになる。そうした対ロシア関係のバランスの崩壊にもっとも苦しんでいるのが日本だ。ワシントンは、ウクライナ危機をきっかけにロシアと中国が関係を深めていくことを懸念している。しかし、そのような事態を避けたいのなら、インド、日本、ベトナムなどの中国を潜在的敵対国とみなしている諸国が、ロシアと良好な関係を育んでいけるように配慮すべきだ。いかなる尺度でみても、「弱体化した日本」と「強固な中ロ関係」という組み合わせが、アメリカにとって好ましいものになることはあり得ないのだから。

レバノン化する中東
―― 重なり合う宗派主義と地政学の脅威

2014年9月号

バッサル・F・サルーク レバノン・アメリカ大学准教授(政治学)

2014年は中東におけるリアリストの地政学抗争に感情的な宗派対立が重なり合う新しい地域秩序が誕生した時代としていずれ記憶されることになるかもしれない。宗派対立へと中東の流れを変化させるきっかけを作り出したのは、2003年のアメリカのイラク戦争だった。その後、地政学抗争と宗派アイデンティティの重なり合いはシリア内戦によってさらに固定化され、これが紛争の破壊性と衝撃を高めている。最近のイラクにおける「イスラム国」(ISIS)の軍事攻勢と勝利も、「排他的で視野の狭い宗派、民族、宗教、部族主義の政治化」という2003年以降のトレンドを映し出している。いまや中東全域がレバノン化しつつある。

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