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論文データベース(最新論文順)

イスラム国の戦略
―― ハイジャックされたアルカイダの
イスラム国家構想

2014年10月号

ウィリアム・マッカンツ ブルッキングス研究所フェロー

イスラム国家の樹立構想を考案したのは、現実にイラク・イスラム国の樹立を表明した「イラクのアルカイダ(AQI)」ではなく、アルカイダのアイマン・ザワヒリだった。ザルカウィが死亡した後にAQIの指導者となったアブ・アイユーブ・マスリはAQIを解体し、現在のイスラム国の指導者とされるアブ・オマル・バグダディを「信仰指導者(アミール・ウル・モミニン)」として仰ぎ、その忠誠を誓った。・・・2013年、イスラム国はシリアとイラクの双方で権力を確立したと表明する。ザワヒリはイスラム国に対して、「主張を取り下げて、シリアを去り、イラクに帰るように」と求めたが、イスラム国の指導者はこれを相手にしなかった。・・・イスラム国家を樹立するというザワヒリの強烈なアイディアは彼の手を離れて自律的な流れを作り出し、アルカイダを解体へと向かわせ、いまやイスラム国がグローバルなジハード主義の指導組織の地位を奪いつつある。

欧米の政治危機とポピュリズムの台頭
―― 生活レベルの停滞と国家アンデンティティ危機

2014年10月号

ヤシャ・モンク ニューアメリカン財団フェロー

多くの人は最近の欧米におけるポピュリスト政党の台頭は「2008年の金融危機とそれに続くリセッションの余波」として説明できると考えている。だが現実には、この現象は、市民の要請に応える政府の対応能力が低下していることに派生している。右派ポピュリストは移民問題と国家アイデンティティの危機を問題にし、左派ポピュリストは「政府と企業の腐敗、拡大する経済格差、低下する社会的流動性、停滞する生活レベル」を問題にしている。右派が脅威を誇張しているのに対して、左派の現状認識は間違っていない。問題は右派も左派もその解決策を間違っていることだ。民主政治体制の相対的安定を願うのなら、ポピュリストの不満に対処しつつも、彼らの処方箋では何も解決できないことを認識させる必要がある。

問われるヨーロッパの自画像
―― ユダヤ人とイスラム教徒

2014年10月号

ヤシャ・モンク ニューアメリカン財団フェロー

「私は移民に開放的だ」と自負しているヨーロッパ人でさえ、「イスラム系移民はそのアイデンティティを捨てて、ヨーロッパの習慣を身につけるべきだ」と考えている。右派のポピュリストはこうした市民感情を利用して、「(移民に寛容な)リベラルで多様な社会という概念」とそれを支えるリベラル派をこれまで攻撃してきた。だがいまや、極右勢力は「言論の自由を否定し、シャリア(イスラム法)の導入を求め、ユダヤ人、女性、同性愛者に不寛容な国からの移民たちが、ヨーロッパの秩序そのものを脅かしている」と主張し始め、リベラルな秩序の擁護者として自らを位置づけ、これまで攻撃してきたユダヤ人を連帯に組み込むようになった。問題は、ユダヤ人とイスラム教徒を交互に攻撃して秩序を維持しようとするやり方が単なる政治戦術にすぎず、このやり方では未来を切り開けないことだ。むしろ、ヨーロッパ人が自画像を変化させ、自分たちの社会が移民社会であることを認識するかどうかが、ヨーロッパの未来を大きく左右することになる。

イスラム国の次なるターゲット?
―― 破綻国家リビアにおける抗争

2014年10月号

ジェフリー・ハワード
コントロール・リスク リードアナリスト (リビア担当)

深刻な政治危機と国家制度の崩壊によって権力の空白が生じているリビアは、テロ集団が活動しやすい環境にある。イスラム国の指導者アブマクル・バグダディは、東部のバルカ(ベンガジ州)、西部のトリポリ、南部のフェザーンがすでにイスラム国の支配下にあると表明し、最近もイスラム国の関連組織が21人のエジプト人コプト教徒を斬首・殺害する事件が起きている。とはいえ、リビアにおけるイスラム国の影響力は過大評価されている。人口の95%がスンニ派であるリビアにおける宗派対立のリスクは、イラクやシリアのそれほど深刻ではない。リビアが近く破綻国家と化すというシナリオも取りざたされているのは事実だが、イスラム国がリビアをカリフ国家の一部とするのは容易ではないだろう。・・・

香港と中国民主化の行方

2014年10月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会シニアフェロー(中国担当)

香港の活動家たちの要求を前に、北京が取り得る選択肢は数多くある。「デモを手荒く粉砕すれば、デモ参加者たちがさらなる改革を求めて運動するのを抑え込める」と北京は期待するかもしれない。あるいは、「香港の小さな地域にデモを封じ込めて、運動が次第に下火になっていくこと」を期待することもできる。現在の行政長官を当座の措置として解任するか、香港のさまざまな政治アクターを参加させる委員会を作り、2017年以降の行政官選挙のあり方を検討させることもできるだろう。問題は、北京の指導層にとってこれらの選択肢のすべては、いずれもかなりの政治・経済コストを伴うために、いずれも魅力的なものではないことだ。・・・

天高く、皇帝は遠し
―― 北京は地方政府を制御できるか

2014年9月号

デボラ・M・レール  ポールソン研究所 シニアフェロー、  レイ・ウェデル  ポールソン研究所 チーフオフィサー

中国のこれまでの経済成長モデルはすでに淘汰されている。経済成長を最優先課題に据えた結果、大気や土壌そして水の質がひどく汚染され、いまや中国政府も持続可能な成長への路線転換を試みている。習近平自身、「長期的な発展や質の高い投資を犠牲にして短期的な急成長を求めるべきではない」と発言している。問題は、「天高く皇帝は遠し」という中国のことわざにある通り、中央は遠く、地方はやりたい放題の状況にあることだ。その結果、北京の意向に関わらず、環境問題や政治腐敗は悪化の一途をたどっている。中国の今後は、中央の意向に即した政策が地方で遂行されるような統治構造改革に、習近平が自らの政治資産をどの程度投入するかに左右されるだろう。

中国を揺るがす水資源危機

2014年9月号

サルマーン・カーン  タフト大学フレッチャースクール助教

1950年代以降、中国では2万7000の河川が枯渇し、消滅している。世界の人口の約5分の1の水資源需要を満たさなければならないのに、世界の水資源の7%しか中国には存在しない。しかも主要産業が集中し、南部よりもはるかに多くの水を使う中国北部には、国内の水資源の23%が存在するだけだ。その上、供給される水資源の多くが汚染されている。安価で潤沢な労働力に依存している中国の成長モデルは、一方で中国大陸の水資源を左右する生態系さえも大きな圧力にさらしている。もはや経済モデルを見直し、エコロジーバランスの回復を優先課題に据えるしかない。必要とされる遠大な環境改革を実行するのは、政治的に不可能に思えるかもしれない。だが、現在の政策を見直さない限り、中国社会はいずれ深刻な社会不安に陥り、水資源を軸に南部と北部が対立し、下手をすると内戦へと向かう恐れさえある。

物質主義と社会的価値の崩壊
―― なぜ中国で宗教が急速に台頭しているか

2014年9月号

ジョン・オズバーグ  ロチェスター大学助教

1976年に毛沢東が死亡し、文化大革命が終わると、共産党は階級闘争と集団主義のイデオロギーを放棄し、その結果、中国社会に巨大なイデオロギー的空白が出現した。政府が反体制派を弾圧し、宗教団体を抑圧したこともあって、その後の急速な経済成長という環境のなかで、人々は信仰やイデオロギーよりも、現実主義、そして物質主義に浸りきった。だが豊かにはなったが、人々はどこか薄っぺらな時代のなかで絶え間ない不安にさらされている。いまや中国人の多くは自らの人生に意義や価値を見いだそうとし、キリスト教やチベット仏教に帰依する人も多い。問題は、共産党が物質的に快適な生活だけでなく意義のある生活を求める声に対応する準備ができていないことだ。環境危機や経済危機によって安定と成長を維持できなくなれば、共産党は、民衆を管理するのはもちろん、民衆にアピールする手段がほとんどないことに気付くことになる。

「イスラム国」の衝撃
―― 包括的空爆作戦の実施を

2014年9月号

バラク・マンデルソーン  ハーバーフォード大学准教授(国際政治)

「イスラム国」はイラクでの最近の軍事的成功を追い風に、シリアでも支配地域の拡大を試み、数日間だったとはいえ、レバノンの国境地帯の町アルサルさえも攻略した。自信を深めた彼らは、いまやイラク、シリア、レバノンの軍隊を相手に戦闘を繰り広げている。その目的は、支配地域を拡大し、戦費を調達するのに有用な石油施設やダムを押さえ、厳格なイスラム主義を制圧地域住民に強要し、ジハード主義集団内で自分たちの優位を確立することにある。すでにアルカイダ系のジハード組織のメンバーが「イスラム国」に参加しつつあることを米情報機関は確認しており、今後、その流れはますます大きくなっていくと考えられる。「イスラム国」の拡大をこのまま放置すべきではない。「イスラム国」と正面から対峙するタイミングを先送りすればするほど、その対応コストは大きくなる。

需要を喚起する新しい金融政策
―― キャッシュトランスファーの導入を

2014年9月号

マーク・ブリス  ブラウン大学教授 、エリック・ロナーガン  M&Gインベストメンツ マネジャー

中央銀行は21世紀の経済を1世紀前に考案された政策で管理しようと試み、思うように変化しない現実に直面している。リセッションは経済の健全性を取り戻すための必要悪であるとか、あるいは、それなりの価値があると考えるのでない限り、政府は一刻も早くリセッションを終わらせるために手を尽くすべきだし、ここで提言する中央銀行によるキャッシュトランスファーはそれを実現する非常に効果的なやり方だ。市民にキャッシュを提供すれば消費を直ちに喚起できる。しかもインフラプロジェクトや法制化を必要とする税法の改正や税率の見直しなどとは違って、中央銀行の決断だけでキャッシュトランスファーは実施できる。金利の引き下げとは違って、需要を直ちに喚起できるし、金融市場や資産価格を歪めることもない。コースを変化させる上で必要なのは、新しいものを試みる勇気、知力、そしてリーダーシップだ。

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