シリア紛争と米ロ関係
―― 米ロ協調を左右するアサドファクター
2015年11月号
ロシアが唐突にシリアに軍事介入した理由はいくつかある。一つはイスラム過激主義がロシアの南部国境地帯に広がっていくことを懸念したからだ。プーチンはシリアがロシアのイスラム過激主義拡大の拠点になることを警戒している。さらにモスクワはシリアのタルタスにある海軍施設、つまり、ロシアが確保している地中海に面した唯一の不凍港へのアクセスを何としても維持したいと考えている。ここは、ロシア海軍が領海を越えてパワーを展開するための重要な港だ。もっとも、ロシアのシリアへの介入によって、イスラム過激派がロシアを主要な敵に据え、報復のターゲットにする可能性もある。・・・一方、シリア紛争をめぐる米ロ関係の最大の試金石は、バッシャール・アサドの処遇だ。これまでワシントンは、「アサドは解決策ではなく、問題の一部であり、彼が退陣することが前提だ」という立場をとってきた。だが、アサドの退陣を交渉の前提に据えてきたアメリカの態度も次第に軟化してきている。政治体制移行期の「初期段階にはアサドが権力者だとしても、いずれ退陣する」という妥協案が出てくるかもしれない。この意味で、シリア紛争をめぐる地域諸国、イラン、ロシアを含む大国間の外交交渉に向けた国際環境が生まれつつある。