
フォーリン・アフェアーズ・リポート2025年6月号 目次
大国間共謀か アメリカなき国際システムか
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新勢力圏の形成へ
大国間競争から大国間共謀へ雑誌掲載論文
中国やロシアと競争するのではなく、トランプ政権は中ロと協力することを望んでいる。トランプの世界観が大国間競争ではなく、「大国間共謀(great power collusion) 」、つまり、19世紀の「ヨーロッパ協調」に似ていることは、いまや明らかだろう。こうして、アメリカの外交路線は、ライバルとの競争から、温厚な同盟諸国をいたぶる路線へ変化した。他の大国から有利な譲歩を引き出すために、トランプがビスマルクのような外交の名手になる可能性もある。しかし、ナポレオン3世のように、よりしたたかなライバルに出し抜かれてしまうかもしれない。
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アメリカなき世界システム
新しい国際統治の形雑誌掲載論文
トランプ政権は、アメリカがその形成に深く関わってきた条約や国際機関、経済システムに背を向けつつある。この状況がカオスや紛争につながっていくかは、これまで秩序を支えてきた、欧州や日本を含む、多くの国の行動次第だろう。世界が米主導の制度、条約、同盟から離れて他国が主導するシステムへ移行していく道筋はいくつか存在する。世界銀行などの既存の国際機関でアメリカの役割を代替することもできる。既存の国際機関と同じ機能の一部を果たせる代替システムをみつけることも、協力関係を維持してG9やG12のようなものを形作ることもできる。だが、何もしなければ、これまで以上に危険に満ちた世界で、手段も影響力もなく、狭義の短期的な利益を守るために奔走することになる。
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ドナルド・トランプと権力政治の時代
同盟諸国はどう動くべきかSubscribers Only 公開論文
トランプは19世紀のパワーポリティックが規定する国際関係への回帰を明らかに思い描いている。同盟関係のことを、アメリカから雇用を奪う国々を保護するコストをアメリカに負わせる悪い投資だと考えている。関税引き上げなどの、経済的威嚇をパワーツールとして利用する彼のやり方は、強圧的秩序の幕開けを意味する。アメリカに譲歩しても、トランプがそれを評価することはない。アメリカの同盟国は強さを示さなければならない。トランプが理解するのは力であり、米同盟諸国が協力すれば、十分な力で立ち向かい、トランプ外交の最悪の衝動をけん制できるかもしれない。
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新しい勢力圏と大国間競争
同盟関係の再編と中ロとの関係Subscribers Only 公開論文
中国とロシアは自国の利益や価値のために、欧米の利益を無視して、公然とパワーを行使するようになり、ワシントンも、地政学が「大国間競争」によって規定されていることを認識している。今後、アメリカの役割は変化するだけでなく、小さくなっていく。同盟関係へのコミットメントそして同盟関係そのものを大きく下方修正しなければならない。すでに世界には複数の勢力圏が存在することをリアリティとして受け入れ、「実現不可能な野望」は放棄し、勢力圏が地政学を規定する中核要因であり続けると言う事実を受け入れる必要がある。
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勢力圏の復活
停戦交渉は第2のヤルタなのかSubscribers Only 公開論文
パワーポリティクスの復活をけん引する米中ロが、いずれも「わが国を再び偉大な国に」というストーリーを掲げる指導者に率いられているのは偶然ではないだろう。かつての偉大さを取り戻すには、中国にとっては、台湾だけでは十分ではなく、ロシアにとっても、ウクライナだけでは、プーチンのビジョンを満たすことはできない。アメリカもカナダ併合を視野に入れ始めている。現在の諸大国は、1945年のヤルタ会談で連合国首脳が世界地図を書き換えたように、新しい世界秩序を形作ろうとしている。中ロが手を組むのか、米ロが手を組んで中国と対抗する一方で、ヨーロッパ、日本、韓国は自立路線を強めていくのか。
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危険な10年をいかに乗り切るか
地政学、グローバルな課題、アメリカの弱体化Subscribers Only 公開論文
地政学的競争の激化が、温暖化に象徴されるグローバルな課題をめぐる国際協調をさらに難しくし、一方で国際環境の悪化が地政学的緊張をさらに高めている。しかも、アメリカはさらに弱体化し、世界への関心を失っている。グローバルな課題と世界の(細々とした)対応間の恐ろしいほどのギャップ、ヨーロッパとインド太平洋における大国間戦争リスクの上昇、イランが中東を不安定化させるリスクの拡大、これらが渾然一体となって、第二次世界大戦以降、もっとも危険な瞬間が作り出されつつある。現在と同様に困難で危険な10年、つまり、伝統的な地政学リスクと増大する一方のグローバルな課題が共存する時代を乗り切っていくには、何が必要なのか。
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グローバルな大国間協調の組織化を
多極世界を安定させるためにSubscribers Only 公開論文
アメリカやヨーロッパにおけるポピュリズムや非自由主義への誘惑がそう簡単に下火になることはない。かりに欧米の民主主義が政治対立を克服し、非自由主義を打倒して、経済をリバウンドに向かわせても「多様なイデオロギーをもつ多極化した世界」の到来を阻止することはできない。歴史は、このような激動の変化を伴う時代が大きな危険に満ちていることをわれわれに教えている。だが、第二次世界大戦後に形作られた欧米主導のリベラルな秩序では、もはや世界の安定を支える役目は果たせないことを冷静に認めなければならない。21世紀の安定を実現するための最良の手段は「19世紀ヨーロッパにおける大国間協調」を世界に広げた、中国、欧州連合(EU)、インド、日本、ロシア、アメリカをメンバーとし、国連の上に位置する「グローバルな大国間協調体制」を立ち上げ、大国の運営委員会を組織することだ。
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帝国の衰退と歴史の教訓
米中ロの衰退と混乱に備えよSubscribers Only 公開論文
米中ロという大国は、一般に考えられる以上に脆弱な存在なのかもしれない。政策破綻を回避するために必要な「悪いシナリオに備える姿勢」、つまり、悲劇を回避するために未来を悲観的に考える能力が北京、モスクワ、ワシントンでは不十分などころか、どこにもみあたらない。実際、帝国や大国はこうして自滅的な戦争を決断し、それによって歴史を左右する大きな節目が作り出されてきた。帝国や大国が突然終わりの時を迎えると、混乱と不安定化が続く。ロシアがこの運命を避けるのは、おそらくもう手遅れだろう。中国はその運命を切り抜けられるかもしれないが、容易ではないはずだ。アメリカも、先行きを悲観して現実的なアプローチに転換する時期が遅れれば、状況はさらに悪化していく。
エネルギー転換は実現しない?
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エネルギー転換の幻
現状認識と現実的アプローチ雑誌掲載論文
再生可能エネルギーによる電力生産は増えているが、化石燃料による電力生産も史上最高レベルに達している。しかも、世界人口の8割が暮らすグローバル・サウスでは、「脱炭素化」の前にまず「炭素化」が進むと考えられる。つまり、現在進行しているのは、「エネルギー転換」というよりも、むしろ「エネルギーの追加」に他ならない。実際には、エネルギー転換は、エネルギーだけの問題にとどまらない。それは、世界経済全体を再構築するに等しい。経済成長、エネルギー安全保障、エネルギー・アクセスが関わってくる以上、われわれはより現実的なエネルギー転換の道筋を模索する必要がある。
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エネルギーの新地政学
エネルギー転換プロセスが引き起こす混乱Subscribers Only 公開論文
クリーンエネルギーへの転換がスムーズなものになると考えるのは幻想に過ぎない。グローバル経済と地政学秩序を支えるエネルギーシステム全体を再構築するプロセスが世界的に大きな混乱を伴うものになるのは避けられないからだ。予想外の展開も起きる。例えば、産油国は、転換プロセスの初期段階ではかなりのブームを経験するはずで、クリーンエネルギーの新しい地政学が石油やガスの古い地政学と絡み合いをみせるようになる。クリーンエネルギーは国力の新たな源泉となるが、それ自体が新たなリスクと不確実性をもたらす。途上国と先進国だけでなく、ロシアと欧米の対立も先鋭化する。クリーンエネルギーへの移行が引き起こす地政学リスクを軽減する措置を講じないかぎり、世界は今後数年のうちに、グローバル政治を再編へ向かわせるような新たな経済・安全保障上の脅威を含む、衝撃的な一連のショック(非継続性)に直面するだろう。
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気候変動とポピュリスト
温暖化対策と文化戦争Subscribers Only 公開論文
ポピュリストの指導者たちは、とにかく地球温暖化対策を目の敵にし、将来の利益よりも現在の満足を優先する人間の本質を利用して、政治的に成功を収めている。米民主党議員の59%が気候変動問題への対応を最優先課題にすべきだと考えているのに対し、共和党議員でそう考えているのは12%にすぎない。政治的主流派のリーダーは、より魅力的な政治戦略、もっと感情的なストーリー、よりボトムアップの参加型政策アプローチを通じて、市民をもっと温暖化対策へ動員し、気候変動に懐疑的な人々が温暖化対策のメリットを受け入れるように、貿易と技術革新を通じて、グリーンテクノロジーのコストを、化石燃料コスト以下に抑え込む必要がある。
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異常気象への適応戦略を
もはや排出量削減だけでは対処できないSubscribers Only 公開論文
ハリケーンから洪水、干ばつ、山火事、そして土砂崩れに至るまで、気候変動が誘発する異常気象が世界各地で大きな破壊を引き起こしている。温室効果ガスの排出を削減するだけでは、もはや気候変動の悪影響を食い止めることはできない。異常気象が引き起こす災害に備える適応戦略が必要だ。気候変動が人命、家、雇用を奪う段階にすでに入っているし、異常気象災害からの復旧が強いる財政負担の肥大化を抑えるためにも、気候変動適応戦略を策定する必要がある。ワシントンは気候変動に対する国の脆弱性や共有する優先課題を特定し、政府のあらゆるレベルでの意思決定に気候変動リスクを組み込む必要がある。
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重要鉱物とサプライチェーン
クリーンエネルギーと大国間競争Subscribers Only 公開論文
再生可能エネルギーへのシフトには、リチウム、コバルト、ニッケル、銅などの重要鉱物を確保することが不可欠だ。しかし、重要鉱物の生産はほんの一握りの国に集中している。インドネシアが世界のニッケルの30パーセントを、コンゴ民主共和国が世界のコバルトの70パーセントを生産している。しかも、重要鉱物の加工と最終製品の製造は中国に集中している。世界のリチウムの59%、その他の重要鉱物の80%近くを精製し、電気自動車用電池の先端製造能力の4分の3以上を中国が独占している。これら重要鉱物の調達がうまくいかなくなればエネルギー転換は立ちゆかなくなる。多様かつ強靭で安全なサプライチェーンを構築し、国内外の重要鉱物へのアクセスを高めるには何が必要なのか。
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エネルギー不安の時代
移行期におけるリスクにいかに備えるかSubscribers Only 公開論文
「エネルギー安全保障に対する過度な懸念が、気候変動との闘いを妨げるかもしれない」。専門家がこう考えていたのはそう昔の話ではない。だが、いまやその逆が真実だ。ネット・ゼロへの移行が進むにつれて、エネルギー安全保障への配慮が不十分であることが、気候変動対策により大きな脅威を突きつけることになるかもしれない。移行期におけるリスクを抑えながら、クリーンエネルギーへのシフトを試みるには、一方で、石油の戦略備蓄の強化、重要鉱物の戦略備蓄、供給混乱への保険策としての火力発電所の温存なども必要になるだろう。政策立案者はいまや、エネルギーと気候の安全保障を適切なバランスで考え、ともに成立させる必要があることを理解しなければならない。
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中国のエネルギー地政学
クリーンエネルギーへの戦略的投資Subscribers Only 公開論文
トランプ政権が石油・天然ガスを重視し、パリ協定に背を向けるなか、すでに中国は戦略的にクリーンエネルギー大国の道を歩みつつある。新エネルギー戦略が成功すれば、世界の気候変動との闘い、さらには地域的同盟関係や貿易関係の双方において、中国はアメリカに代わる最重要国に浮上する。クリーンエネルギーテクノロジーの輸出国として中国は、各国に石油・天然ガスの輸入量さらには二酸化炭素排出量を減らす機会を提供できるし、相手国政府との関係も強化できる。冷戦期のアメリカが、ソビエトとの宇宙開発競争に敗れた場合の経済的・軍事的余波を認識して、対抗策をとったように、ワシントンは中国の再生可能エネルギーへの移行にも、同様の対策をとるべきだろう。アメリカは、世界のエネルギー市場における優位を手放すリスクを冒している。
米中に揺れるアジア
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トランプの強硬路線とアジア
アジアを強制するか、見捨てるか雑誌掲載論文
アジア諸国が「中国かアメリカか」の二者択一を迫られれば、どう対応するだろうか。中国が常に利益を得るとは限らないが、地理的に近く、この地域と広範な経済的つながりをもち、経済的関与を戦略的優位に転化させるスキルをもつ中国は、もっとも利益を確保しやすい環境にある。アジアに選択を迫っても、その答えはワシントンの気に入るものにはならないかもしれない。一方でトランプ政権が、選択を迫るのではなく、同盟国やパートナーを見捨てることで、習近平と世界を勢力圏に切り分ける「グランド・バーゲン」をまとめようとする恐れもある。ワシントンが今後も圧力と無視という路線を組み合わせれば、北京を警戒する政府を中国の懐に送り込んでしまう危険がある。
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ミャンマーを操る中国の二重戦略
地域覇権を狙う北京の分断戦略雑誌掲載論文
ミャンマーの安定回復と中国との友好関係の促進を強調しつつも、北京は、崩壊寸前の軍事政権を支えつつ、少数民族武装勢力を自国の影響下に取り込む一方で、欧米との結びつきが強いとみている民主派勢力を排除している。現実には、中国はミャンマーのカオスのなかにチャンスを見いだしている。崩れかけた軍事政権を支えることで影響力を強化し、武装抵抗勢力の連帯を切り崩して、その一部への影響力を拡大して欧米の影響力を抑え込んでいる。軍事政権による統治が続き、国内が分断されたままであれば、中国にとって、ミャンマーをより管理しやすい状態に保てるからだ。実際、ミャンマーを弱体化した状態にとどめることが、中国が絶対的な地域覇権を確立する前提条件なのだ。
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ミャンマーは崩壊するのか
反体制派と連邦制の夢Subscribers Only 公開論文
軍事政権は国内のほとんどの地域で追い込まれている。「国家分裂の危険にある」ミャンマーが複数の民族小国家に分裂していく可能性は、すでに現実問題として捉えられている。実際、軍事政権が敗北し、追放される可能性も否定できず、ミャンマーは連邦制に即して社会契約を書き変えるべきタイミングにあるのかもしれない。ミャンマー軍に対する攻撃には数カ月に及ぶ計画や異質なグループ間の連携が必要なわけで、これが実現されていることからみれば、この国が連邦制に基づく民族間統合モデルを実践できるのではないかという希望も浮上してくる。
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アメリカ・ファーストを恐れるな
アジアとトランプSubscribers Only 公開論文
グローバルな関与の条件を再定義し、国際問題にいつ、どのように関与するかについてより慎重になることで、トランプ政権は、リチャード・ニクソン大統領が冷戦期に東アジアで初めて導入した(介入を控え、同盟国の役割分担を求め、地域バランスを重視する)アプローチを地理的に拡大して適用している。ほぼ半世紀にわたって、そのようなアメリカの政策に対処してきたアジアが、第二次トランプ政権の誕生に必要以上に動揺していないのは、このためだ。アジアは、長く、アメリカのことを、安全保障を提供することに前向きな超大国としてではなく、自国の国益を第1に考え、軍事力を選択的に行使する、オフショアバランサーとみなしてきた。
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東アジアと台湾を捉え直す
中国のアジア覇権を阻むにはSubscribers Only 公開論文
台湾はアメリカにとって重要だが、中国との戦争を正当化するほどの価値はない。政治家は中国と戦争になればどのようなコストが生じるかを米市民に伝え、アメリカの生存と繁栄が台湾の政治的地位に左右されるという誤った考えを退けなければならない。米兵を戦闘に参加させずに、台湾の防衛を支援する新しい戦略を考案する必要があるし、アジアにおけるアメリカの利益を台湾の運命と切り離し、台湾が北京に支配されないようにすることの重要性を引き下げるべきだ。重要なのは、アジアの同盟国やパートナー諸国の自衛と防衛力強化を促し、中国が台湾侵攻を地域的覇権獲得につなげるのを阻むことだ。
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韓国の核武装を認めよ
北朝鮮の脅威とアメリカの干渉Subscribers Only 公開論文
大陸間弾道ミサイルを開発した平壌は、いまや核兵器でアメリカの都市を攻撃する能力をもっている。このために、アメリカが(自国が反撃されるリスクを冒しても)韓国への安全保障コミットメントを果たすかどうかがいまや問われている。しかも、米韓同盟を批判してきたドナルド・トランプが大統領としての2期目を迎える。北朝鮮の核の兵器庫が拡大し、トランプ政権下のアメリカが後ろ盾としての信頼を失うにつれて、韓国の市民やエリートの核武装オプションへの支持は高まる一方だ。問題は、ワシントンが韓国の核武装路線に否定的なことだ。同盟国が危険にさらされたままの状態にあることを求めるのではなく、ワシントンは、ソウルが安全保障への道を自ら見つけることへの障害を取り払うべきだろう。
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アメリカは東南アジアを失うのか
中国へなびくアセアン諸国Subscribers Only 公開論文
東南アジアを対象とする2024年の調査で、この地域の連携パートナーとして中国がアメリカよりも支持されるという初めての結果がでた。アメリカがイスラエルを強く支持していることが、中国に有利な方向に流れを変えた大きな要因と考えられる。イスラム教徒が多数派を占める東南アジアの3カ国すべてで、台湾ではなく、イスラエルとハマスの紛争が地政学上の最大の懸案に選ばれている。米外交にはダブルスタンダードがあり、中国に関する利己的な目標をもっているというイメージも、アメリカの立場への支持拡大を妨げている。失った地域的支持をワシントンが取り戻していくのは容易ではない。
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ザ・アリーナ
米中対立と東南アジアSubscribers Only 公開論文
中国の国家規模と経済の重みが東南アジア諸国の不安を高め、習近平国家主席の強引な外交路線がそうした感情をさらにかき立てている。しかし、こうした不安もアジア最大のパワーとの政治的、経済的つながりを維持していく必要性とともに、バランスよくとらえなければならない。「中国かアメリカか」、いずれか一つとの排他的な関係を選べる国は東南アジアには存在しない。アメリカが中国に対してあまりにも強引なスタンスをとれば、事態が紛糾するのではないかという地域的懸念を高め、あまりにも控えめな態度をとれば、見捨てられるのではないかと不安になる。だが「国家は競争する一方で、協力することもできる」。これこそ基本的に東南アジアがアメリカと中国の関係に期待していることだ。
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プーチンのロシアと欧米
永遠の戦争メカニズムを断ち切るには雑誌掲載論文
プーチンは「欧米との対立」をロシアの生活を規定する基本原理に据え、すでに「反欧米」はロシアの生活の一部として定着している。いかなる停戦も、この基本原理、国内メカニズムを覆すことはない。それでも、ロシアエリートの多くは、ウクライナでの戦争が戦略的な過ちであることを理解している。彼らが、欧米との関係改善をイメージしやすい環境を今から準備しておけば、プーチン後の権力抗争で、彼ら、プラグマティストが勝利する可能性を高め、欧米とロシアが熱い戦争と冷たい戦争を永遠に繰り返す事態を避けられるかもしれない。実際、そうしない限り、欧米との永遠の対立を政治遺産にしようとするプーチンの試みに手を貸すことになる。
Current Issues
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イエメン危機の国際的衝撃
米軍の空爆停止の意味合い雑誌掲載論文
5月上旬、ワシントンとフーシ派の停戦を仲介したオマーンは、双方ともお互いを標的にしないことに合意したと明らかにした。だが、フーシ派は停戦合意を「勝利」と呼んでいる。実際、米軍による空爆の停止だけでなく、米軍特殊部隊の撤退を前にイエメン政府軍は意気消沈し、経済問題も政治的内紛も深刻化しており、政府は崩壊しかねない状況に追い込まれている。現実にそうなれば、ほぼ確実にフーシ派の支配領域が拡大し、南部ではアルカイダが勢いを増すだろう。「イエメン国内で起きていること」と「紅海あるいはペルシャ湾を中心とする中東全域で起きていること」は区別できないことを、ワシントンは認識する必要がある。
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ボスニアの不安定化と欧州
徘徊しだしたセルビアナショナリズム雑誌掲載論文
ボスニア・ヘルツェゴビナ(ボスニア)のスルプスカ共和国は、ボスニアからの分離・独立を画策している。共和国を率いる親ロシア派のセルビア人ナショナリスト、ミロラド・ドディックは、国と並立する政治構造を共和国内に組織し、民族間の緊張をあおり、ボスニアから分離・独立しなければならないと主張している。セルビア人の分離主義者たちは、ますます大胆になりつつあるし、彼らを支えるセルビア、ハンガリー、ロシアの指導者たちも同様だ。こうしてボスニアは、その短い歴史のなかでもっとも深刻な崩壊の危機に直面している。スターマー英首相、マクロン仏大統領、メルツ独首相など、「ワシントンが作り出した空白を埋める」と約束しているヨーロッパの指導者たちにとって、この問題にどう対応するかは、重要な試金石になるだろう。
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欧州におけるロシアの第二戦線
セルビアとプーチンの思惑Subscribers Only 公開論文
ロシアは、バルカン半島をヨーロッパの弱点とみなし、なかでもセルビアをもっとも脆弱なポイントと捉えている。モスクワをバルカンにおける唯一の信頼される紛争調停者にして、欧米に対して影響力をもてるようにすることがプーチンの狙いだ。すでに、コソボのセルビア系住民が警察部隊を襲撃し、その後、セルビア軍がコソボとの国境地帯に動員されるという事態も起きている。実際、セルビアの指導者は、コソボで作戦を展開する機会がすぐにでも訪れるだろうと考えている。セルビアとコソボの紛争は、バルカンの他の地域に簡単に飛び火しかねず、これこそ、欧米がウクライナから他の場所へ関心を移すことを望んでいるプーチンが期待する展開かもしれない。
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バルカンに対するロシアの野望
クロアチアはロシアの攻勢を阻めるかSubscribers Only 公開論文
プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。すでにボスニアでは、プーチンの財政支援によって勢いづいたスルプスカ共和国のミロラド・ドディク大統領が分離独立を強く求めている。これが実現すれば、1990年代のバルカン紛争のような事態が再現されかねない。救いは、クロアチアがハンガリーやポーランドで勢力を拡大しつつあるナショナリズムを寄せ付けていないことだ。クロアチアは今やヨーロッパ南東部のリーダーであり、この国の政治状況が地域のダイナミクスに大きな影響を与えている。欧米はクロアチアの穏健派政府が、ロシアの影響力拡大に対抗していく上でのもっとも力強い(防波堤、そして)同盟相手であることを認識する必要がある。
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ユーゴスラビア崩壊の記録
Subscribers Only 公開論文
民族的な融合を繰り返してきたユーゴ市民にとって、「民族を意識せずに生活するのはきわめて自然」なことだったし、彼らが民族的な敵意を抱いていたわけでもない。つまり、ユーゴを崩壊へと導いた主要なアクターはとは、「純粋な民族国家」の形成という自らの政治的野望のためにナショナリズムを演出したミロセビッチ、そして、ツジマン、カラジッチなど、一握りの極端なナショナリストたちなのである。彼らは、自らのプロパガンダを、単一民族による純粋な民族国家という粗野な概念と結びつけることで、意図的に上からのナショナリズムをあおり立て、止めどない抗争の温床を作り出したのである。「人間性の節度の象徴だったサラエボの町」がなぜ、かつての「ベルリンの壁」のような存在へと回帰しようとしているのか。時代錯誤というほかはない。「最後の」アメリカ大使が当時の日記をもとに振り返るユーゴ崩壊の全記録。
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破綻国家へと向かうイエメン
イエメンにおけるサウジの挫折Subscribers Only 公開論文
空爆では何も解決しない。国際コミュニティと地域諸国がイエメンを救うためのコミットメントを示さない限り、この国はシリア、リビア、イラクのような混乱、あるいはそれ以上のカオスに陥り、これら3カ国の問題が重なり合う無残な空間と化すかもしれない。イエメンに介入せざるを得なくなったこと自体、・・・サウジの失敗を物語っている。アラブ世界でもっとも豊かな国がアラブ世界の最貧国の政治ダイナミクスを変えるために空爆を実施せざるを得なくなった。現在の危機は、この数年にわたって地域諸国がイエメンの混乱に傍観を決め込んだことによって直接的に引き起こされている。仮にフーシ派を抑え込めたとしても、劣悪な生活レベル、少数派の政治的周辺化、弱体な政府といった紛争の根本要因は残存する。すでに1000人のイエメン人が空爆の犠牲になり、数千人が負傷し、数十万人が難民化している。
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CFR Interview
内戦への道を歩むイエメン
シーア派系フーシ派の目的は何かSubscribers Only 公開論文
2015年1月、イエメンでイスラム教シーア派系武装勢力「フーシ派」が権力を掌握し、議会を解散して暫定政府の樹立を宣言した。しかし、政治的経験のないフーシ派には、政府を運営し、経済を管理していく力はない。これまでの問題を批判するだけで、統治上の責任はほとんど果たせずにいる。一方でイエメンのスンニ派系テロ集団・アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、紛争を宗派抗争へ持ち込もうと策謀している。実際、フーシ派を侵略者とみなしているイエメン中央部のバイダー県を含む地域では、いまやAQAPに多くの若者が参加しつつある。地方の部族がAQAPと手を組む可能性もある。サウジは、外交的にフーシ派を孤立させ、彼らと軍事的に対立している集団を支援し、フーシ派に明確に敵対する路線をとっている。一方で、危機を緩和させるためにシーア派のイランが前向きな行動をみせるとも考えにくい。いまや宗派を軸とするイエメン内戦のリスクが高まっている。・・・
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イエメン紛争の本質
サウジが軍事介入した本当の理由Subscribers Only 公開論文
イランがフーシ派に武器を提供し、軍事アドバイザーを送りこんでいるために、イエメン内戦は(シーア派の)イランと(スンニ派の)サウジの覇権争いの延長線上にあると説明されることも多い。しかしこの見方は、戦争の原因とサウジが介入した理由を誤解している。イエメン内戦は、イエメン政府の正統性と統治能力が低下した結果、中央政府と長年虐げられてきた北部部族の対立がエスカレーションしたことで引き起こされた。そして、サウジが介入したのは、イランの拡張主義に対抗するためではなく、フーシ派の脅威から自国の南部国境線を守るためだった。・・・