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2022年4月10日発売

フォーリン・アフェアーズ・リポート
2022年4月号

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フォーリン・アフェアーズ・リポート2022年4月号 目次

孤独な独裁者たち

  • 迷走する習近平外交
    ―― プーチン支持と強権支配の危うさ

    ジュード・ブランシェット

    雑誌掲載論文

    ウクライナに対するプーチンの無謀な行動が立証したように、お世辞を並べるイエスマンに囲まれ、歴史的不満と領土的野心に煽られた独裁的指導者は他を脅かす存在になる。もちろん、習近平はプーチンではないし、中国はロシアではない。それでも、類似点が増えていることを無視するのは賢明ではない。粛清と昇進が何度も繰り返されることで官僚制の体質が形作られ、指導者の壮大なビジョンと同じ方向へ流されていく。官僚たちが反対意見を述べることの無意味さを理解するようになり、暗黙のうちに指導者が期待する路線に追随して調子を合わせるようになるからだ。リーダーは孤立し、意思決定を信頼できるますます少数の顧問に依存するようになる。台湾からウクライナ問題に至るまで、中国の政治体制全体が習近平の指示を仰ぐようになったのは、こうした理由からだ。

  • パラノイア思考に陥ったプーチン
    ―― 孤立と妄想とエスカレーションリスク

    ドミトリー・アルペロビッチ

    雑誌掲載論文

    ロシアのウクライナ戦争がかくも失態続きである最大の理由は、ロシアのプーチン大統領が、軍事計画を親しいアドバイザーにさえぎりぎりの段階まで話さなかったことにあるようだ。すでにひどくパラノイア(偏執・妄想症)化していた彼は、自分の意図を悟られぬようにすることに執着し、侵攻のタイミングと規模を軍と国家安全保障会議の高官たちにさえ知らせなかった。しかも、思い通りに進まぬ作戦を前に、いらだち紛れにさらにエスカレーション策をとる恐れがある。一方、欧米も未知の領域に足を踏み入れている。ロシアがアメリカの重要なインフラを標的にサイバー攻撃を試みれば、さらなる経済制裁やサイバー空間での反撃が必要になるかもしれない。しかし、それが何を意味するかを考えるべきだ。ロシアを支配しているのが、孤立したパラノイアの指導者で、すでに大きな誤算を繰り返している人物であることを忘れてはならない。

  • 権力と精神病理
    ――政治権力と自信過剰症候群

    シャーウィン・B・ヌーランド

    Subscribers Only 公開論文

    政治指導者を苦しめるのはいわゆる病気だけではない。権力の座にあるがゆえに国の最高指導者が精神的な変調をきたし、誇大妄想やナルシシズムに陥り、無責任な行動をとるようになることも少なくない。こうした「政治的自信過剰症候群」を患うリーダーは、自分が偉業を成し遂げる能力を持つとともに、それを期待されていると考え、自分にはあらゆる状況下で何が最善かを見抜く力があり、通常の道徳の範囲を超えて行動できると思い込んでいる。毛沢東やフィデル・カストロ、ロバート・ムガベなどの例からも明らかなように、政権の座にある期間が長ければ長いほど、こうした傾向は強くなり、その結果、「政策遂行能力の完全な欠落」という事態に陥る。

  • 新しい独裁者たち
    ―― なぜ個人独裁国家が増えているのか

    アンドレア・ケンドール=テイラー、エリカ・フランツ、ジョセフ・ライト

    Subscribers Only 公開論文

    極端に私物化された政治体制が世界各地に出現している。(プーチンのロシアや習近平の中国など)広く知られているケースを別にしても、バングラデシュからエクアドル、ハンガリーからポーランドまでの多くの諸国で権力者が自身に権力を集中させようと試みている。権力者個人に権力を集中させる政治システムは、冷戦終結以降、顕著に増加しており、この現象は大きな危険をはらんでいる。世界が不安定化するなかで、多くの人が、強権者の方が激しい変動と極度の混乱に対するより優れた選択肢をもっていると考えるようになれば、民主主義の基層的価値に対する反動が起きかねないからだ。実際、社会の変化と外からの脅威に対する人々の懸念が大きくなるとともに、秩序を維持するためなら、武力行使を躊躇しない強権的で強い意志をもつ指導者への支持が高まっていく恐れがある。

  • プーチンとロシア帝国
    ―― なぜ帝国的独裁者を目指すのか

    スーザン・B・グラッサー

    Subscribers Only 公開論文

    青年期のプーチンが信じたのは、学校で強制されるマルクス・レーニンのイデオロギーではなかった。それは、英雄的な超大国のイメージ、廃れてはいても依然として野心を捨てていないホームタウン、サンクトペテルブルクの帝国的な壮大さだった。力こそが彼の信じるドグマであり、幼少期に暗記させられた「労働者の英雄主義」よりも、皇帝たちのモットーだったロシアの「正統性、独裁制、民族性」の方が、プーチンにはなじみがよかった。若手のKGBエージェントだった当時から、そうした帝国思考をもっていたとすれば、その多くが「永続的な不安」によって規定されている長期支配のパラドックスに直面しているいまや、彼の帝国への思いと志向はますます大きくなっているはずだ。

  • 偽情報戦略の本当の目的
    ―― 独裁者の真意は国内にある

    ダレン・リンヴィル 、パトリック・ウォーレン

    Subscribers Only 公開論文

    国家機関が関与するソーシャルメディア空間での偽情報キャンペーンの多くが、現実には、外国ではなく国内の民衆をターゲットにしていることはほとんど認識されていない。「ソーシャルメディアでの偽情報キャンペーンというグローバルトレンドは、現実には(国家間の影響力を競い合う)地政学ではなく、むしろ国内政治に根ざしている。結局のところ、ロシアの対米攻撃キャンペーンが実際には国内向けであるとすれば、ワシントンはロシアの有権者を念頭に置いて冷静な対応をしなければならない。そうしない限り、モスクワの偽情報を抑え込むのではなく、むしろ、増幅してしまう恐れがある。

  • レーニン主義と習近平の中国モデル
    ―― 北京のボリシェビキ

    ニック・フリック

    Subscribers Only 公開論文

    ボリシェビキそして彼らが形作ったソビエトという国家は、中国共産党にとってモデルであり、反面教師でもあった。ソビエト崩壊の記憶ゆえに(その二の舞になるのを避けようと)中国共産党指導部は権力維持に向けた決意を固め、党が軍部を支配することの重要性を肝に銘じた。なぜ習近平が個人への権力集中や民衆の生活のより多くの側面への党の介入路線の強化へと動いているかも、これである程度説明できる。だが目的は変化した。習の「中国の夢」が約束するのは、ボーダーレスなプロレタリアの楽園ではなく、党の支配の下で、中華文明の栄光を取り戻すことだ。こうした固有のナショナリズムとレーニン主義の鉄の規律の組み合わせは、トルコからフィリピンにいたるまでの権威主義の指導者たちにとって、代表制民主主義に代わる魅力的な選択肢なのかもしれない。

  • すべての道は北京に通ず
    ―― 習近平の遠大なビジョンのリスクと機会

    エリザベス・C・エコノミー

    Subscribers Only 公開論文

    経済的な成功にもかかわらず、中国が政治的に漂流しているタイミングで習近平は国家主席に就任した。政治腐敗問題とイデオロギーの形骸化に苦しむ中国共産党は大衆の信任を失い、社会騒乱も深刻化している。依然として見事な成長軌道にあるものの、中国経済は柔軟性を失い、先行き不透明感が高まっている。グローバルな経済大国としての地位を確立しながらも、その実力に見合うような影響力を行使できていない。こうした停滞を前に習近平は、彼のため、共産党のため、そして中国のために権力の強化を模索するようになった。共産党の伝統的な集団指導体制を拒絶し、厳格な中央集権型政治システムにおけるより大きな権限を持つ指導者として自らを位置づけた。だが彼の政策はすでに国内の不満を増大させ、国際的な批判と反動を呼び込んでいる。・・・・

  • スターリンとヒトラー
    ――二十世紀を分けた独裁者の思想と地政学戦略

    スティーブン・コトキン

    Subscribers Only 公開論文

    人種偏見をもち、ソーシャル・ダーウィニズムを信じ、地政学をゼロサムで捉えていたヒトラーが、ドイツの民族的優位を立証するには、(ヨーロッパ支配に加えて)ソビエトとイギリスの双方を粉砕する必要があった。スターリンとの不可侵条約をさらに深化させて、大英帝国のすべてを手に入れる作戦に乗り出すべきか、それとも、ターゲットをソビエトに据え、大英帝国の攻略を後回しにすべきか。一方、スターリンは、大規模な軍備増強路線で戦争に備えつつも、ドイツとの戦争を避け、ドイツがイギリスとの対決へと向かうような環境を作り出そうとしていた。彼はドイツ軍が物資不足に苦しんでいることを理解していた。ソビエトからのさらなる物資供給を必要としているドイツが、その供給を途絶えさせるソビエトとの戦争を開始するのは自滅的だと読んでいた。・・・

ロシアの侵攻が変えた世界

  • ウクライナ・ジレンマ
    ―― いかにウクライナを守り、対ロ戦争を回避するか

    ジャニス・グロス・スタイン

    雑誌掲載論文

    欧米の政策立案者たちは二つの競合する目的を模索している。ロシアの残忍で正当化できない攻撃からウクライナを救うために、軍事力の行使を例外とするあらゆる手を尽くしたいと考える一方で、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)の全面戦争を回避することを望んでいる。この課題を難しくしているのは、一方の目的を達成しようとすれば、他方の目的を達成できる見込みが低下することだ。NATO加盟国はエスカレーションを避けようと必死だが、抑止力を倍加させる戦略は、追い込まれたと怒り狂うプーチンがエスカレーション策をとるリスクを高めかねない。逆説的に言えば、自制を促すための戦略が逆にエスカレーションを誘発する恐れがある。欧米は「ウクライナを守り、ロシアの侵略を押し返しつつ、世界最大の核の兵器庫をもつロシアとの戦争をいかに回避するか」という非常に難しいジレンマに直面している。

  • 経済制裁と反ドル枢軸の形成
    ―― 反ドル体制と中ロの連帯

    ゾンユアン・ゾー・リュー、ミハエラ・パパ

    雑誌掲載論文

    中国とロシアは、アメリカの経済制裁の縛りから逃れようと、国際通貨としての米ドルの地位を脅かす代替的な金融制度や構造の構築を試みている。ロシアの主要エネルギー企業はすでに米ドルの使用を中止し、中ロ貿易の主要な決済通貨としてはすでにユーロがドルに取って代わっている。ロシアはドルを迂回する手段として、国が支援する暗号通貨を立ち上げる準備も進めている。バイデン政権は経済制裁をデザインする上で、制裁がウクライナにおける戦争にどういう影響を与えるかだけでなく、国際金融システムにどういう変化をもたらすかを考慮に入れる必要がある。制裁の予期せぬ結果を認識し、ロシアと中国による脱ドル化に向けた連携を抑え込む方法をみいださない限り、アメリカは世界の指導者としての責任を放棄することになりかねない。

  • 中国のロシア危機
    ―― 対ロ協調のバランスシート

    ジュード・ブランシェット、ボニー・リン

    雑誌掲載論文

    北京は、欧米の政策は冷戦メンタリティによって導かれていると嘆くが、欧米の専門家は、北京とモスクワの接近を前に1950年代初頭の中ソ同盟を思い出している。ロシアによるウクライナ攻撃は、ロシアとヨーロッパの対立を固定化し、重要なパワーを「ロシアと中国」、「アメリカとヨーロッパ」という二つのブロックに区分することで、結局は、中国が激しく反対している冷戦期の安全保障構造が再現されることになる。問題は、中国が(米欧ロという)三つのプレイヤーのなかでもっとも弱い国と同盟を結ぶことになることだ。実際、ウクライナに関する危険なゲームをいずれ中国は後悔することになるかもしれない。

  • 経済制裁対ロシアの資源ツール
    ―― 変貌する欧州とロシアの経済関係

    ニクラス・ポワチエ 、シモン・タリアピエトラ、 グントラム・B・ウルフ、 ゲオルグ・ザックマン

    雑誌掲載論文

    EU加盟国間でロシア天然ガスに対するニーズに開きがあることが、モスクワがヨーロッパにつけ込む余地を高める恐れがある。ベルギー、フランス、オランダの天然ガス輸入に占めるロシアの割合は10%未満で、スペインとポルトガルは全く輸入していない。これに対してドイツは天然ガス輸入の約半分を、イタリアは約40%をロシアに依存している。しかも、ロシア軍のウクライナ侵攻後に、ヨーロッパの天然ガス価格は60%も跳ね上がっている。今後検討される制裁の範囲がさらに拡大し、長期化するにつれて、ヨーロッパが受けるダメージも大きくなり、モスクワの分割統治戦略が成功する見込みは高まっていくかもしれない。プーチンに対して有効な対抗策を打ち出すには、ロシアの恫喝にもっとも弱いEU加盟国を支援し、ヨーロッパのエネルギー市場構造を見直す必要がある。

ウクライナ侵攻とロシアの未来

  • このままではロシアは北朝鮮化していく
    ―― 欧米は民衆への経済制裁を見直せ

    マキシム・ミロノフ

    雑誌掲載論文

    最近プーチンは「フェイクニュースを流せば15年の禁固刑に処す」という新法に署名した。これで、ウクライナ戦争に関するモスクワに都合の悪い報道はすべてフェイクニュースとみなされる。一方で、欧米の厳格な経済制裁によって、ロシアで基本物資の不足や大量の失業が起き、人的資本流出を食い止めるための渡航制限も導入されるだろう。欧米がロシア経済全体への締め付けを続ければロシアをより大きく、より不安定で、より危険な北朝鮮に変えてしまう危険がある。しかも、モスクワはユーチューブさえも閉鎖すると脅しており、ウィキペディアのような情報サイトもブロックするかもしれない。要するに、ロシアは近く地球上でもっとも孤立した国の一つになる。このままロシア人全員を対象に徹底的な制裁を続ければ、欧米はロシアを貧窮化・没落させ、プーチンを増長させる危険がある。制裁はロシア政府高官とオリガルヒおよびその資産をターゲットにすべきだ。

  • プーチンは「ロシアを失う」のか
    ―― 幻想と恐怖の政治の終焉?

    アンドレイ・コレスニコフ

    雑誌掲載論文

    2021年秋に反ウクライナキャンペーンを開始し、2月にウクライナに侵攻するまで、ロシア市民のプーチン支持率はゆっくりとだが着実に上昇し、11月に63%だった支持率は2月には71%へと、ここ数年のピークに達した。だが、ルーブルが暴落し、ロシアの国際的な孤立が深まるなかで、政府がこのまま幻想を主張し続けるのは難しくなる。プーチンはすでにウクライナを失っている。しかも、ロシアとロシア市民を彼と同じように孤立させてしまったこの戦争の結果、プーチンはロシアも失うのか、それともロシアを自分とともに自滅させるのだろうか。賃金や雇用、必需品や医薬品へのアクセスが失われるとともに、ロシア社会のムードは変化し、状況は一変していくかもしれない。

  • パンドラの箱を開けたプーチン
    ―― 大ロシア主義とロシアの崩壊リスク

    ストローブ・タルボット

    Subscribers Only 公開論文

    「自分はロシアの子供たちを守る母なるロシアに仕える役目を負っており、国境の外側にいる子供たちも、守らなければならない」。こうした思想に基づく今回のプーチンの行動を、モルドバやカザフスタンのようなロシアの近隣諸国、それもまだNATOに加盟していない諸国は深刻に受け止めている。もう一つの危険は、ロシアナショナリズムを前提とする領土回復主義・民族統一主義が連邦内のロシア系民族が主流でない地域での分離独立運動をさらに高めることになるかもしれないことだ。この場合、ロシア連邦が崩壊する危険が生じる。・・・チュルク語系民族、イスラム文化系の民族など、スラブとは異なる文化圏の中央アジア圏の人々は、ロシアナショナリズムが高揚すれば、疎外感を覚えるだろうし、すでに彼らの多くが政治的イスラムの影響下にある。・・・・

  • プーチン主義というシステム
    ―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

    ジョシュア・ヨッファ

    Subscribers Only 公開論文

    現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

  • 破綻したプーチンの統治モデル
    ―― 情報機関の没落と恐怖政治の復活

    アンドレイ・ソルダトフ

    Subscribers Only 公開論文

    ごく最近まで、ロシアの情報機関は「新しい貴族」としてのステータスを手にしてきた。潤沢な活動予算を与えられ、監督対象にされることもなく、クレムリンの敵に対して自由に行動を起こす権限をもっていた。高官たちには、国有企業、政府系企業の重要ポストも用意されていた。しかし、情報機関の多くは、本来なら監視の対象とすべきオリガークの傭兵と化し、ライバル抗争を繰り広げるばかりで、機能不全に陥ってしまった。いまやプーチンは、これまでのやり方を見直し、情報機関の権限と自主裁定権を縮小し始め、むしろ、大統領府に権限を集中させている。プーチンのロシアは急速にソビエトモデルへ回帰しつつある。但し、その帰結が何であるかを、プーチンはおそらく正確に理解していない。・・・

  • プーチンの目的はロシア国内にある
    ―― クリミア侵略とロシアの国内政治

    ブライアン・D・テイラー

    Subscribers Only 公開論文

    プーチンは、(ヤヌコビッチ政権を倒した)ウクライナの革命を、「ロシアの地政学的な敗北」とみていただけでなく、「その背後には欧米がいる」と考えていた。プーチンにとってウクライナの革命が厄介だったのは、それが、ロシアの政治・経済システムの脆弱性への懸念が高まっていたタイミングで起きただけでなく、ウクライナ人が不満を感じ、立ち上がったのと同じ問題がロシアにも存在したからだ。支配エリートと経済オリガークたちのつながりを前提とする腐敗した略奪政治に対する不満はロシアにも存在する。しかも、今後の経済展望に明るい部分はなく、ロシア政治は対立で覆われている。プーチンはウクライナの革命がロシアへと飛び火することを警戒している。だが、そうだとすれば、出口戦略を描くのは不可能ではないだろう。・・・

ロシアがウクライナを支配すれば

  • 激変する欧州安全保障構造
    ―― ロシアのウクライナ支配がヨーロッパを変える

    リアナ・フィックス 、マイケル・キメージ

    雑誌掲載論文

    ロシアがウクライナを支配するか、広く不安定化させれば、米欧にとって困難な新時代が始まる。ヨーロッパにおけるアメリカの優位は制約され、ヨーロッパは、EUやNATOの中核メンバーしか守れなくなり、加盟国以外の国は孤立する。米欧の指導者たちは、欧州安全保障構造の見直しとロシアとの大規模な紛争を回避するという二つの課題に直面し、いずれにおいても、核武装した敵と直接対決するリスクを考慮しなければならなくなる。アメリカと同盟国は、ウクライナでのロシアの軍事行動の結果、新たな欧州安全保障秩序を構築するという課題に十分な準備ができていないことを認識することになるだろう。欧米はロシアを過小評価してはならない。希望的観測に基づくストーリーに依存すべきではない。

  • ウクライナの武装抵抗運動
    ―― 占領と抵抗、紛争拡大リスク

    ダグラス・ロンドン

    雑誌掲載論文

    プーチンが国境線の見直しや、ウクライナ政府の打倒などの大きな目的をもっているとすれば、軍事的にウクライナを支配しても武装抵抗運動が起きるのは避けられない。モスクワはすでにウクライナを占領した後に逮捕するか、暗殺する政治、治安関係者のリストを作成し、一方で傀儡政権を任せる候補となる親ロシア派のリストを作っていると言われる。攻略した地域における武装抵抗運動のリーダーや支援者を排除するために迅速に動くことで、ロシアは運動を抑え込もうと試みるだろう。だが、抵抗運動の活動が拡大すれば、ベラルーシやカザフスタンなどロシアの軌道内にある諸国も不安定化させ、最終的にそれはロシア国内にも波及するかもしれない。プーチンは、最初の戦闘目的が達成された後に、ロシアの予備役部隊に「平和維持軍」として占領の任務にあたらせることを示唆しているが、それでどうにかなるはずはない。

  • プーチンの思想的メンター
    ―― A・ドゥーギンとロシアの新ユーラシア主義

    アントン・バーバシン、ハンナ・ソバーン

    Subscribers Only 公開論文

    2000年代初頭以降、ロシアではアレクサンドル・ドゥーギンのユーラシア主義思想が注目されるようになり、2011年にプーチン大統領が「ユーラシア連合構想」を表明したことで、ドゥーギンの思想と発言はますます多くの関心を集めるようになった。プーチンの思想的保守化は、ドゥーギンが「政府の政策を歴史的、地政学的、そして文化的に説明する理論」を提供する完璧なチャンスを作りだした。ドゥーギンはリベラルな秩序や商業文化の破壊を唱え、むしろ、国家統制型経済や宗教を基盤とする世界観を前提とする伝統的な価値を標榜している。ユーラシア国家(ロシア)は、すべての旧ソビエト諸国、社会主義圏を統合するだけでなく、EU加盟国のすべてを保護国にする必要があると彼は考えている。プーチンの保守路線を社会的に擁護し、政策を理論的に支えるドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、いまやロシアの主要なイデオロギーとして位置づけられつつある。・・・・

  • プーチンを支えるイワン・イリインの思想
    ―― 反西洋の立場とロシア的価値の再生

    アントン・バーバシン、ハンナ・ソバーン

    Subscribers Only 公開論文

    イワン・イリインは歴史上の偉大な人物ではない。彼は古典的な意味での研究者や哲学者ではなく、扇動主義と陰謀理論を振りかざし、ファシズム志向をもつ国家主義者にすぎなかった。「ロシアのような巨大な国では民主主義ではなく、(権威主義的な)『国家独裁』だけが唯一可能な権力の在り方だ。地理的・民族的・文化的多様性を抱えるロシアは、強力な中央集権体制でなければ一つにまとめられない」。かつて、このような見方を示したイリインの著作が近年クレムリン内部で広く読まれている。2006年以降、プーチン自ら、国民向け演説でイリインの考えについて言及するようになった。その目的は明らかだ。権威主義的統治を正当化し、外からの脅威を煽り、ロシア正教の伝統的価値を重視することで、ロシア社会をまとめ、ロシアの精神の再生を試みることにある。・・・

  • プーチン・ドクトリンの目的
    ―― 勢力圏の確立とポスト冷戦秩序の解体

    アンジェラ・ステント

    Subscribers Only 公開論文

    「欧米は30年にわたってロシアの正統な利益を無視してきた」。この確信がプーチンの行動を規定している。近隣諸国、旧ワルシャワ条約機構加盟国の主権上の選択を制限するロシアの権利を再び主張し、そうした制約を課すロシアの権利を欧米に認めさせることを彼は決意している。要するに、ロシアのことを、近隣地域に特別な権利をもち、あらゆる重大な国際問題について発言権をもつ、尊敬し、畏怖すべき大国として接するようにさせることが大きな狙いだ。プーチン・ドクトリンは、世界の権威主義政権を擁護し、民主主義国家を弱体化させることも意図している。ソビエト崩壊という結末を覆し、大西洋同盟を分裂させ、冷戦を終結させた地理的解決策を再交渉すること。これがプーチンの包括的な目的だ。

  • プーチン主義というイデオロギー
    ―― 侮れない思想の力と米ロ関係の未来

    マイケル・マクフォール

    Subscribers Only 公開論文

    ロシアに関するアメリカの考えはミスパーセプションによって歪んでいる。専門家の多くは、例えば、ロシアは衰退途上国家だと誤解している。現実には、ほとんどの米市民が考えるよりもはるかに強大な軍事、サイバー、経済、イデオロギー領域のパワーをもつ、世界有数の強国の一つとしてロシアは再浮上している。事実、プーチン主義はヨーロッパだけでなく、アメリカでも新たな支持者を獲得しつつある。ワシントンは、あまりにも長い間、米ロ間競争のこのようなイデオロギー的側面を軽視してきた。ワシントンは、ロシア社会全体との結びつきを深めながらも、プーチンのイデオロギー・プロジェクトに対抗していく必要がある。

  • 民主体制を権威主義国家の攻撃からいかに守るか
    ―― モスクワの策略に立ち向かうには

    ジョセフ・R・バイデン、マイケル・カーペンター

    Subscribers Only 公開論文

    ロシア政府は政治腐敗まみれの泥棒政治システムを守ろうと、その生存を外から脅かす最大の脅威と彼らがみなす「欧米の民主主義」に対する国境を越えた闘いを挑んでいる。欧米を攻撃することで国内の政治腐敗や経済的停滞に人々が目を向けないようにし、ナショナリズム感情を煽り立てて国内の反体制派を抑え込み、民主主義国家を守勢に立たせることで欧米諸国が国内の分断線対策に専念せざるを得ない状況を作り出そうとしている。この環境なら、モスクワは国内の権力基盤を固めることに専念し、「近い外国」に対して思うままに影響力を行使できる。だが、プーチンとその取り巻きたちは、アメリカの民主主義の最大の強さは市民の政治参加にあることを理解していない。米大統領が対策を拒んでも、われわれが行動を起こす。

  • ロシアの軍事的復活と地政学的野望
    ―― 偶発戦争を回避するには

    アイボ・H・ダールダー

    Subscribers Only 公開論文

    軍備を増強し、軍事態勢を刷新したモスクワは「ロシアは再び重要な国となり、国際社会が無視できない存在になった」と、新たに自信をもち始めている。プーチンは「今後もロシア人と、外国で暮らすロシア系住民の権利を積極的に守り続ける」と主張し、「私が対象としているのは、自分を幅広いロシア・コミュニティーの一員と考えている人々だ」とさえ語っている。この発言を前に、1930年代のドイツの声明を想起した人は多いはずだ。プーチンは、近隣諸国を脅かし、北大西洋条約機構(NATO)を弱体化させようと、ロシア軍の近代化を大がかりに実施し、公然と軍事力を使って既成事実を作り上げつつある。しかも、この行動はヨーロッパとの境界線に留まるものではない。北は北極海から、南は地中海までの広い地域へロシアは軍事的影響力を拡大している。

  • 米同盟ネットワークの本質
    ―― 独仏日韓と同盟関係の未来

    ロバート・E・ケリー、 ポール・ポースト

    雑誌掲載論文

    傷ついた同盟関係を慎重に修復することをバイデンに求める人々は、トランプ政権期に実際に起きたことを誤解している。アメリカの同盟システムは、上下関係と依存そしてアメリカパワーの永続性の上に築かれている。このシステムは、世界的影響力を獲得・維持しようとするワシントンの努力を支えることでアメリカに利益をもたらし、同盟国には防衛費削減の道を開くだけでなく、貿易利益を拡大することで恩恵をもたらしてきた。これが同盟関係に奥行きと打たれ強さを与えてきた。トランプによる権限の乱用やバイデンによるアフガニスタンからの一方的撤退を同盟国が許容したのも、こうした奥行きをもっていたからだ。外交的伝統からの逸脱という空騒ぎがあったとしても、アメリカの同盟関係は極めて堅牢であり、いかに同盟国を安心させるかに思い悩む必要はない。

  • 兵器としての移民
    ―― その長い歴史と憂慮すべき未来

    ケリー・M・グリーンヒル

    雑誌掲載論文

    最近のベラルーシやトルコに始まり、古くはキューバにいたるまで、人為的な移民の流れを作り出して殺到させると相手国を脅し、実際にそうした手段をとってきた国は数多くある。しかも、移民を兵器として利用するこのやり方は、これまで長く成果を上げてきた。当然、すぐになくなることはないだろう。それどころか、移民の流れを兵器にしている国に立ち向かわない限り、これを好ましい政策とみなすトレンドゆえに、その利用は抑えられるどころか、ますます増加していくだろう。実際、経済制裁などの強制外交の成功率が全体のせいぜい40%程度なのに対して、兵器化された移民を使った戦術は、ほとんど成功する。

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